風月堂@千鳥足亭

SSGで400文字のお話を書いています!他にも文芸フリマに参加し、同人活動を行なってい…

風月堂@千鳥足亭

SSGで400文字のお話を書いています!他にも文芸フリマに参加し、同人活動を行なっています。

最近の記事

秋田柴子さんの「雨を知るもの」の読書感想文という名のファンレター

「雨を知るもの」 秋田 柴子 ネタバレ含む感想なので、ネタバレ嫌な方は逃げてください! 下に続きます。  雨の匂いや音。湿り気を纏う風の感触。そういった雨の気配を感じさせる語りが全体にあって、とても好きな物語でした!  主人公が出会った友人との大切な時間と、親や周囲、自分に対する葛藤や後悔の対比が、まるで雨の光と陰のようなイメージです。  私も高校生の頃は桃子のように、将来のことは漠然としか思い描けない子だったので、なんだかとても感情移入してしまいました。さやかとの秘

    • 【毎週ショートショート】半笑いのポッキーゲーム

      11月11日はポッキーの日。 誰が言い出したか知らないが、同じような毎日を送る私たち学生からすれば、それは大切なイベントであった。 「ポッキーゲームしようぜ!」 仲良し三人組のA子が言い出した。イェイ。さっそくポッキーをスタンバイしてじゃんけんでデュエルする。勝者は恥じらう敗者のポッキーゲームを高みの見物だ。 「苦しゅうない。はようせい」 「ぐぬぬ」 私はB実と向かい合い、ポッキーのはじを喰んだ。この時点で既に半笑いだ。B実も半笑いで近づいてくる。よだれがでてる。汚い、汚い!

      • 『それで結構』

        親から受け継いだ喫茶店で、私は毎日ひっそりとらコーヒーを淹れている。そんな日々の中に、欠かさず通ってくれる常連のお客さんがついた。 口数の少なさが印象的で、無表情にいつもブラックを一杯頼んでいく。 初めての固定客に私は嬉しくなり、コーヒーのことをよく話した。おすすめの豆のこと。淹れ方のこと。お客さんの好みのこと。 でもいつも口数少なく、「それで結構」と返される他は特に何も語ってはくれない。 だから私もそういうものだと割り切った。私とお客さんとの時間で交わされる「それで結構

        • 『毎週ショートショート』ほんの一部スイカ

          「ほんの一部スイカになってますね」 妊婦健診でエコーを撮っていた医者が突然そんなことを言い出して、素直な気持ちで「はい?」と聞き返してしまった。しかし医者は至って真面目顔である。 「スイカの種を出さずに飲んだでしょ。いるんですよね。まあ気持ちはわかります。ほじったつもりでも種って潜んでますから」 見ると、確かに赤ちゃんの隣にまんまるのスイカができている。まるで双子だ。 「先生、問題ないんですか?」 「ん、まあ大丈夫です。よくあることです」 あってたまるかい。私は病院を出てすぐ

        秋田柴子さんの「雨を知るもの」の読書感想文という名のファンレター

          星洗いの歌

          銀河は誰かのドロップス あるいは誰かのおはじき もしくは誰かの物思い 遠く離れて忘れてしまった 子どもの頃の宝物 みんな攫って洗いましょ 銀河のほとりで星洗い 赤いドロップス 青いおはじき 白いため息 黄色の秘密 誰かの真心 私の悲しみ みんな攫ってざるの中 小さく小さく燃えている 諦めきれない夢のかけら 叶わなかった片想い 思い描いた未来の形 忘れられないわだかまり 綺麗に洗って見つけたのなら 今度こそさよならだ 本当のさよならだ

          毎週ショートショートNOTE『顔自動販売機』

          最近の自動販売機はすごい。 売れ残りのパン。 ラーメン。 餃子。 昆虫食を売ってる自動販売機も見たことあるが、これを見つけた時は流石に二度見した。 「か、顔自動販売機?」 ペットボトルの販売機の横に並んでいたそれはものすごく奇妙だった。ちょうどデスマスクのような顔が整然と並べられ、その顔の下には『あったか〜い』とか書いてあるのである。 ちなみに『あったか〜い』は見るからに優しそう。『つめた〜い』はクールな感じ。「あっつ〜い』は熱血!て感じだ。 「『ぬっる〜い』ってのはなんだ

          毎週ショートショートNOTE『顔自動販売機』

          ホラー日記「病因」

          左胸が苦しい。ここ数日それに悩まされている。心臓や肺に何かあったらどうしよう。早めに病院に行った。 循環器。 「CT、レントゲンに以上はありません。ストレスでしょう」 薬も何も処方されず、安心したがいまだに症状がある。薬をもらったほうが良かったかな?それとも違う病気かも…。違う病院にいった。 胃腸内科。 「大腸、胃カメラ異常ありませんでした。ストレスでしょう」 脳外科。 「何も異常なし。ストレスでしょう」 整形外科。 「何も無し。ストレスでしょう」 心療内科 「ストレスで

          ホラー日記「病因」

          ホラー日記『布団』

          僕のお兄ちゃんはここ数ヶ月寝袋で眠っている。どんなに寒くても布団で寝ない。着こんでで、パンパンになって寝袋で寝る。 「芋虫みたい」 揶揄って笑っても、お兄ちゃんは怒らない。なんで布団で寝ないんだろう。 「なんで?」 聞いたら、お兄ちゃんは話した。 「実は、布団に入ると夢を見るんだ。すごく綺麗な野原で、温かくて気持ちいい所なんだ。しばらくすると遠くからおーい、て声がして、誰かが俺を探してるんだ」 「そんな夢が続いてたんだけど、遠くに人影が見えて、それがおじいちゃんだったから返事

          ホラー日記『布団』

          ホラー日記『文通』

          昔、気まぐれで文通募集欄に載っていた誰かに手紙を書いたことがあった。初めは暇つぶし程度だったが、相手と妙に馬が合ったのもあって10年間途切れることなく続いている。 「他人と思えないんだよなー」 ふと思いついて、文通相手に地元で有名なお菓子を送ってやることにした。 「驚くぞー」 しかし、荷物はなぜか戻ってきてしまった。 「住所間違えた?」 それはなかった。いつもの住所に送ったのだから。 「なんで?」 郵便局に問い合わせて面食らった。存在しない住所だった。 「嘘だ」 ずっと文通し

          ホラー日記『文通』

          ホラー日記『電灯』

          残業が長引いて終電で帰ってきた。駅から出て住宅街に入ると、電灯の灯りが道を照らす以外は真っ暗だ。人の気配もなく、音もしない。 《変質者出ませんように》 そう願っていたのに、家の方角の電灯下に誰か立っている。気持ち悪い。 (道変えようかな) その時、ぱちぱち音が鳴ると共に光が明滅した。電灯が切れかかっているようだ。 (え?) 次々と道に並ぶ電灯が明滅していき、消えていく。ひとつ、ふたつと明かりが消え、そしてついに全てが消えて真っ暗になった。 「うっそ……」 ねっとりとした風が吹

          ホラー日記『電灯』

          ホラー日記『誤植』

          『本日も晴店化。富士山の不素譛ャ譌・縺ッ譎エ螟ゥ縺ェ繧翫ア縺ョ蜷代%縺?↓縺ッ譌・譛ャ闊』 『犯行現場に歯てがかりは人つも迥ッ陦檎樟蝣エ縺ォ謇九ゅ@縺九@螂?ヲ吶↑縺薙→縺ォ』 「これひどいな!」 これも、これも、これもだ。どの本も誤植や文字化けばかりだ。まともに読めるのはタイトルだけで、通りから覗いた時には分からなかった。 「これ、週刊雑誌だぞ……」 ここまで来るとわざと集めて展示したとしか思えない。驚きを通り越して感動すら覚えていた。記念に何冊か買ってしまった。 「見

          ホラー日記『誤植』

          ホラー日記『洗濯機』

           娘がひどく怯えている。洗濯機が怖いらしい。 「バタバタ暴れてるの、怖いの」  洗濯機はドラム式のもので、乾燥時は中で洗濯物が回るから機体は激しく揺れる。それも中古ショップで買った古いものだから、動作音は確かにうるさいし蓋の締まりもなんだか悪い。でも、それだけだった。 「お願いだからお風呂の時に回さないで」  娘に懇願されたが、それでは洗濯が間に合わない。だから私は娘の入浴中だけそばにいると約束して洗濯機を回した。 (大袈裟なんだから)  何気なく、黒い半透明の蓋から中を見つ

          ホラー日記『洗濯機』

          ホラー日記

          日記というより、急にホラーを書きたくなったので書くという抱負!

          短話連作『終末カフェ』7

          「CLOSED SUN」 目覚ましが鳴った。タイマー通りに炊飯器が作動し、録画予約の始まる音がする。 朝の訪れを知らせる音だ。 それなのに外は暗かった。待てども待てども明るくならない。窓を開け放しても一寸先は何も見えず、家の中まで忍び込んでくるような濃密な闇である。光の届く範囲までは確認できても、その先は真っ黒に塗りたくられているようで何も見えなかった。 ──この世界から、太陽が失われた。 朝はもう、永遠に訪れない。 どこか遠くで、誰かの泣く声がする。低く細い嗚咽が

          短話連作『終末カフェ』7

          短話連作『終末カフェ』6

          「CLOSED SATURN」 惑星が次々に消えていくらしい。初めは月。それから火星。金星の消滅が確認されて、近所のスーパーは大騒ぎだった。 「まさか」 いまだに信じていない人もいた。その人たちにして見ればこれはただの悪い冗談で、マスメディアに対して大いに憤った。 「ありえない」 頭を抱える人達もいた。天体が前触れもなく消えるなんてありえない。それでも実際に星は観測できなくなっていた。得体の知れない恐怖があった。 「どうしたらいいの?」 怯える人々は物資調達に走った。或いは

          短話連作『終末カフェ』6

          赤ちゃん同盟

          赤ちゃんはペロリストである。彼、彼女たちはまずはペロし、我々はペロされる。赤ちゃんの、赤ちゃんによる、赤ちゃんのための一方的なペロ行為だった。 「ペロリストが来たぞ!」 オムツで高速ハイハイをする赤ちゃん同盟軍に包囲された。その行動の早さ、読めなささ、大胆さに大人は舌を巻き、口をつぐむ。ありとあらゆる生活用品はペロされ、大事なものから口に入れられる。大人にできることは一刻も早く洗剤類、刃物類、アルコール類、電気器具類、火器類、紙類などを手の届かないところに隠すことだけである