『車輪の下』少年らしさを奪われたヘルマン・ヘッセ【読書感想文】
こんにちは。
今回は、ヘルマン・ヘッセの『車輪の下』。
海外文学って、なんだか敷居が高いイメージがあって、敬遠していたんですが…以前『ザリガニの鳴くところ』という小説を読んでから、ハマってしまって…今は積極的に読んでいる気がします。
登場人物の名前が全てカタカナだし、同じような名前が出てくるし、覚えられないし…序盤が人物や住む場所やら風景の描写が細かくて長いってこともあって、なかなか入り込みづらいんですよね〜。
中盤くらいになると、「おぉ、おもしろい!」ってページを捲る手が止まらなくてなるんだけどね。
さ、前置きが長いので、このくらいにしていきます。
(以下、ネタバレが含まれていますので、ご注意を)
◇あらすじ
真面目で勤勉家な主人公ハンス・ギーベンラートは、小さな町で唯一、神学校に進むこととなる。
町の人々からの期待を背負い、将来を嘱望されるものの、未熟で多感な少年は、次第に外側からの重圧と内部との相違に悩まされていく。
神学校から逃げ出し、故郷へ戻り、青春を取り戻せたようにも思えたが、子ども時代に経験できなかったもの・傷ついてしまったものを再生させることは手遅れであった。
最終的にハンスは、崩れた精神のバランスをコントロールする術を身につけられずに、自ら生きる希望を捨て去ってしまうこととなる。
◇
「車輪の下」は若者の共感を呼び、古くから有名な小説である。
自分の思い通りのレールに乗せようとする大人たち。
理不尽で強制的な規則。
誰かを自由に愛することのできない社会。
ほとんどすべての若者が抱えている葛藤がここに描かれているように思う。
タイトルにもある『車輪』は所謂「世間」や「社会」のこと。
社会が理想とするルールに従い続けることにより、失くしてしまうものがある。
失って、また取り戻せるのかと言われるとそうでは無く、決して元に戻ることはできないのである。
ハンスは、無意識のうちに、無自覚な大人によって子ども時代の青春を奪われてしまった。
神学校時代に友人と心を通わせたいと思うものの、厳しい規則により、またしても子どもらしい成長を憚られてしまう。
子ども時代に経験すべきことを大人が奪ってしまうことは、あってはならない。
また、自分より下のものを「蔑む」という感情までも植え付けられたように思える。
ある一定の能力より下がってはならないというルールが、彼の中にはあって、一歩でも踏み外してしまった場合、何処まででも転がり落ちてしまうという恐怖があった。
大人が敷いてくれたレールを踏み外してしまったハンスもまた、次第に精神のバランスを崩して学校へ通うことが困難となるのであった。
◇
大人の期待に応えられず、惨めで情けない自分。
子ども時代を取り戻そうとするも、その時その時の宝物のような経験は決して戻ってこない。あの時のまま成長せずに腐ってしまったのである。
機械工として働くも、今までのように上手くはいかず、悪戦苦闘するハンス。
今まで自分が心の中で馬鹿にしてきた人の下で働く状況は、耐えがたいものであったように思えるが、真面目に働いていた。
最後の最後に、仲間と心を通わせることができたのかもしれないが、ハンスは夜の闇にのまれてしまう。
自ら選んだものなのか、ただの事故であったのかは彼の中でしかわからないが、救いようのないストーリーである。
右にも左にも行けず、結局自らの内に内に入っていった。結末までもひとりで決めてしまった、そんな感じだ。
◇
そのまま自然の中で暮らし、感性を磨き、子どもらしく暮らしていた場合、ハンスは一体どうなっていたのだろうか。
神学校に行っていなかったら?
友情をうまく育んでいたら?
最後まで勉学に取り組んでいたら?
そもそも、大人の期待に応えていなかったら…
もしかしたら、ここまで多く傷ついていなかったのかもしれない…。
けれども、生きていると必ず何処かの分岐点で、自分以外の誰かとを競ったり、比べる瞬間が出てくる。世の中ってそうゆう風にできている。
そこで、崩れてしまうのか、立て直すことができるのか…。
若いハンスは、周囲の大人や友人に支えてもらうことが叶わず、そのまま精神のバランスを崩していったという訳である。
知らない道に入っていく時には、必ず自らの世界が揺るがされる。
ハンスのように子どもと大人の境目にあたる年齢の場合、アイデンティティを確立していくためには、傷ついたり悩んだりしていく中で、どうにかして自分で自分を導いていくしかない。
周囲の助けも必要になるが、助けが多ければ良いという訳でもないのかな、と。
ハンスには、もう少し強い反抗心があっても良かったのかもしれない。
大人の過干渉に負けず、感覚を少し鈍らせておく。
繊細で優しい人ほど、ひとりで抱えて落ちていく。
若い時に、この作品を読んでいたのならば、もう少し自由に生きてみようと思っていたかもしれない。
親となった今、『車輪の下』を読んで思うことは、子に過剰な期待を寄せすぎないようにしないとな、ということ。
どこまで干渉していくのかを見極めるのって、すごく難しいなとも思うんだけれども。
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