「死ぬかもっ」ってホント怖い 後編
前を走るトラックのテイルランプを頼りに
高速道路からなんとか降りることが出来た。
しかし、周りがまったく見えない状況に変わりはなかった。
このまま前のトラックにビッタリ付いて行けば、道から外れることはないかもしれない。
そう思った矢先に、無情にもトラックは左折。
おれの行くべき方向は右だった筈だ。
「どうするおれ。トラックに付いて行くか」
付いて行ってどうするよ。どこに行くのかも分からないのに。右も左も見えないことに変わりはない。
でも、また一人になるのは怖い。怖すぎる。
だが、このトラックも、直ぐに目的地に到着するかもしれない。そうなれば、見知らぬ土地に目隠しで放り出される様なものだ。
「よし、行こう」
おれは思い切ってトラックとは別に右へハンドルを切った。
そのとたん、風雪の盾となっていたトラックが消えたため、真っ白な世界にまた投げ出されることとなった。
ここで路肩に落ちでもしたら、おれは死ぬな。
以前ニュースで観た光景が脳裏に蘇る。
ここ北海道では、吹雪のため過去にも何人となくお亡くなりになっている。
先ずは排気ガスが入り込まない事。そのことは絶対だ。ガソリンはほぼ半分残っている。
アイドリング状態で、どのくらい保つのか。
そんなことをあれこれと考えていると時、それは突然現れた。
「うわわゎーーー」
前方から対向車と思しき車両が、まるでチャンネルを変えたみたいにいきなり現れたのだ。
咄嗟にハンドルを左に切る。
黒いボディーが運転席の窓スレスレに通り過ぎる。
その瞬間「ボフッ!」「ガガガガッ!」
車ぎ雪山に突っ込んだ。
何が起きたんだ。
横を見ると、すれ違った車両も止まっている。
少し身体が震えている。
頭が真っ白だ。
コンコンコン。
誰かドアガラスを叩いている。
顔がグッと寄って来た。
どこかで見覚えのある出で立ち。
「あぁ…」警察だ。
震える指で数センチ窓を下げ、見上げる。
「旦那さん、大丈夫」
「はい、大丈夫です。なんとか」
「いや〜良かったですね。ホント、ギリギリでしたね。向こうで事故があって、今渋滞で車列が止まってるから」
「そうでしたか…」
「それじゃあ、気を付けてください。いや〜良かった」
おれは対向車にぶつかりそうになった訳じゃなかった。
停まっている車列に、突っ込みそうになったのだ。
対向車と思った車両は、最後尾に停まっていた車だった。
しばらく、車を戻す気にもなれず、雪山に突っ込んだまま呆然としていた。
幸い、思ったほど乗り上げてはいないようだ。
ほとんどスピードが出ていなかったのが良かった。
その後、少しずつ雪も収まって来た。
うっすらとではあるが、前方の視界がひらけてくる。
警察の誘導により、車列も少しずつ動きだす。
「もう帰ろう。札幌に」
何かをする気力は当たり前になかった。
まだ荒れてはいるものの、全く前が見えないということはなさそうだ。2、3台先の車の姿が見えるくらいには。
それでも40キロほどのスピードで、一般道を通りゆっくりと札幌へと向かった。
突然、雪が止んだ。
そのとたん、青空が広がったのだ。
見上げた標識には、札幌の文字。
おれは心底、青空が眩しかった。
そして、出発前の憂鬱は随分と軽くなっていた。
死ぬのは本当に恐ろしいものなのだ。
そして、死を身近に感じた時、素直に生きていて良かったと感じることを学んだ。
「生きてて良かった」
おれは、先ほどの嵐がまるで夢でも見ていたかのような青空を見上げ、心からそう呟いた。
なんだか神様から、「死ぬ死ぬと簡単に言うんじゃない」と叱られたのかもしれない。
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