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【Dresstrip in Bangkok】 Chapter 11 魂の片割れは存在するのか?

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わたしの送別会ということで、ダイアンがバンコクの中洲にある話題のホテル Bangkok Tree House を予約してくれた。

当日の朝、待ち合わせをした プロンポンの駅にダイアンは現れない。

LINEをしても、電話をしても返事がない。こんなことは初めてだ。とりあえずアンとプロイとダイアンの暮らす Asok の高級レシデンスに向かった。

プロイがしつこくも50回目のチャイムを鳴らして、ようやく姿を表したダイアンは顔にみたことのないようなクマをつくり、顔は青ざめ、目は充血し、涙で潤んでいた。

3人はまだ一度も招かれたことのない部屋をずんずん進んでいくと、寝室に刃物を見つけ息を飲んだ。

アン「一体何があったの?」

プロイ「やだ、どうしたの?ダイアン!」

ダイアンは床にへたりこみ、声をあげて泣きはじめた。

ダイアン「ケンがね、君との約束は守れないって。僕はもうタイには帰らないって。わたしとの約束と未来を清算しに帰ってきたんだって。もう戻れないって」

泣き崩れるダイアンの声は一人の男を真剣に愛した女の悲痛な叫びでもあり、その声はやはり男から発せられる野太いものでもあった。

ダイアン「僕たちは違う道をいくんだよって、優しくいうの。わたしの意見も聞かないで。わたしはケンが帰ってくる日のためにすべてを用意していたのに。どんなに寂しくても笑顔を崩さなかったのにね。なんのために生きていいか分からなくなっちゃった」

ジュリア「今は辛くても絶対に時が癒してくれるから。人の人生1度や2度は魂が壊れるような失恋はあるものよ」

ダイアン「失恋じゃないわ。わたしの人生彼が希望で、彼がすべてだったんだから。こんなの酷すぎる」

その日は宿泊をキャンセルして、3人で一晩中ダイアンに付き添った。ダイアンの好きなピザを注文して、ダイアンの好きなワインを買ってきた。

流れる涙を何度も3人でティッシュで抑え、同じ話を繰り返すダイアンを咎めず付き合った。

3人が寝静まった頃、満月だったのを思い出してプールサイドへと出た。

いつも笑顔で、誰よりもエネルギー強く、明るく、前向きに生きていた彼女を思い出した。

その裏には遠くに暮らす男との生活を夢見て成り立っていた彼女の現実があったとは思いもよらなかった。

なぜ人は運命の人に出会うともう1人では生きられなくなるのであろうか。どんなに孤高を突き通した者も、その暖かさ、喜び、安心に触れたとたんにもう元には戻れなくなる。

もとに戻るには、かつて一体だった男女が神に切り離された時のような、血が吹き出るような解体手術が必要でそこには大きな傷跡を残す。

今回の旅でわたしにはそんなことは起こらなかった。ただ、こんなわたしの人生にも同じ経験がある。

きっと誰の人生にも。だからこそわたしたちは寄り添い、彼女の涙がとまるまで眠りにつくまで灯りを絶やさないのであろう。

文 ジュリア
イラスト あやまど

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