見出し画像

社会と思考を激変させた「文字」

 農耕の始まりが作物の管理と防衛のための都市と支配者をつくり、支配者が作物を再配分するための伝達・記録の必要から「記号」としての「文字」を編み出した。

●伝達と記憶をアウトソースする「文字」

 狩猟採集民の社会では、日常生活に関するノウハウは口伝で継承され、狩猟採集にかかわる技術は初期の徒弟制度により継承され「文字」は発達しなかった。小規模な部族を越える交流が少なく、採った食料は部族内で分配するという生活では、記録に残す必要性がなかったからだ。

 肥沃な三日月地帯、メキシコ、中国といった大河の周辺で定住して農耕を営むものたちの集落が巨大化し部族となり、首長が調停者となり作物を集め再配分するための「記号」として粘土製のトークンを利用し、やがて品物の絵を刻むだけとなり最初の「絵文字」が生まれた。紀元前4000年のメソポタミアではシュメールの「絵文字」が、ついで紀元前3000年には「楔形文字」が粘土板に筆記され、紀元前3300年のエジプトでは神との対話のためのヒエログリフ(神聖文字)が神殿の壁面に、王国運営のためのヒエラティック(神官文字)がパピルスに筆記された。

 食料の蓄積と略奪と防衛の歴史をへて部族が統合し軍隊をもつ王国へと巨大化していく過程において、「文字」を媒介とする統治機構が整えられ共進化を繰り返しながら、王国運営のためのコミュニケーション手段としての形を整える。「文字」は、都市という新しい構造のなかで、交換、統治、管理といった抽象的な概念を表現する「情報」の「伝搬」と「保存」の必要から編み出され、「語彙」と「文法」を複雑化してゆく

【文字の機能】
 1)時を越えて伝達する
 2)距離を超えて伝達する
 3)「保存」して再利用する

 【文字の機能】の有用性・応用性から幅広い用途に伝搬し、王国運営に欠かすことのできない「道具」として浸透する。始めは、王の命令を伝え、儀式を行い、神の言葉を唱え、税収支の年度計画を行うために、そして建築、軍隊、行政官の管理・監督・運営・計算、さらには調査記録、レシート、遺言書、薬のレシピ、教科書、宗教文学、手紙など様々な用途に広がってゆく。

参考文献:
[1] - ジャレド・ダイアモンド(2000), "銃・病原菌・鉄",倉骨彰訳 , 草思社
- Jared Diamond(1997), "GUNS, GERMS, AND STEEL: The Fates of Human Societies", W.W.Norton & Company.
[2] ペネロペ・ウィルソン(2004), "聖なる文字ヒエログリフ", 森夏樹訳, 青土社



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?