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「言葉」が変わると考え方も変わるということ:「コミュニケーション」とともに進化する「言葉」

 ヒトは、脳内の「イメージ」「感情」「意識」「経験」を「声の言葉」に乗せて相手とコミュニケーションをとりながら、「分業」とそれをつなぐ「言葉」を共進化させてゆく。

●「言葉」を相手に伝えるということ

 「言葉」は「思考」の「道具」であるとともに、他者・集団との「コミュニケーション」の「道具」でもある。

 「言葉」は、「音声」に翻訳することにより脳内にある「イメージ」「感情」「意識」「経験」を外在化し、ヒトからヒトに伝えることができる。最初の「声の言葉」は「感情」の認識(意識)を外在化し、危険を知らせ、所有を主張し、愛情を伝えるものであった。「声の言葉」を発し、自分の発した「声の言葉」を聞き、相手の「声の言葉」を聞く。「脳内の言葉」と「音声の言葉」を関係づけるフィードバックループが外界と脳内との間で共鳴し、脳内の「意識」を再構築し続ける

 話者は脳内の「イメージ」「感情」「意識」を「言葉」に翻訳し、「音声」に変換して発声する。聞き手は「音声」を受け取り、「言葉」に翻訳して、自分の脳内に話者の「イメージ」「感情」「意識」の近似品を再構築する。例えば、話者の頭の中に「棚の上のリンゴ」「相手」「自分のところに持ってくる」という「イメージ」があり、“棚の上のリンゴをとってくれ”という「言葉」に翻訳し、それを「音声」にのせて相手に伝える。それを聞いた聞き手は、「音声」から「言葉」に、「言葉」から自分の脳内の「イメージ」に翻訳する。そして、「棚」「リンゴ」を眼で認識し、「相手に渡す」ことを「イメージ」し、次に手を伸ばして「リンゴ」をとる動作に「意識」をうつす。

●「言葉」と「分業」の共進化

 一人で考えているだけならば「言葉」使いが曖昧でも問題ないが、相手に自分の考えていることを正確に伝えるためには困難な作業をともなう。「言葉」で表現できることの限界が、共同作業=分業の限界となる。「言葉」を覚えたばかりのヒトにとっては、「いっしょに狩りに行こう」と誘うだけでも難しい。身体的な能力や技能は個体の生死により進化するが、「言葉」は集団で世代を超えて伝えられ、人為的に改良され続ける。最初は家族内で、そして集団で狩りをする際の連携のため、そして火を囲み仲間と語らうため、徐々に複雑な内容を相手に伝えられるよう、話者は今使える「言葉」を組み合わせてなんとか伝えようと努力し、聞き手はその意図を理解するよう推論する。その繰り返しが、「言葉」と「分業」の進化を促す。

 ヒトは、「分業」を円滑に行うために「言葉」の「語彙」を増やし、新たな「文法」を構築し、「言葉」の進化がより多人数での細分化された高度な「分業」を促し、さらなる「言葉」の進化を進めるというサイクルを回す。そして、近代の複雑な役割と階層構造をもった「言葉」とともに、より高度に専門分化した「分業」が国家の文明・文化の発展を進めてゆく

参考書籍:
[1]ガイ・ドイッチャー(2012), "言語が違えば、世界も違って見えるわけ", 椋田直子訳, インターシフト
[2]マイケル・トマセロ(2013), "コミュニケーションの起源を探る", 松井智子, 岩田彩志訳, 勁草書房


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