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それでMFA(美大修士)ってビジネスにどう活かせるの?〈後編〉その1:Output編

アートをビジネスに活かそう、これがなんとなく腑に落ちないなと思っている多くの方に、自身が美大修士を通じて腑に落ちたことを言語化してお伝えしたいと思っています。MFA(美大修士)がビジネスにどう活かせるのかをお伝えしていきます。

はじめに

前編・後編に渡って、4つのポイントにお応えしています。前編は、〈When〉どの局面でMFAが活かせるのかを中心に、〈Why〉なぜMFAが行かせると言えるのか〈What〉MFAの何が活かせるのか、の触りをご紹介しました。

前編にてご紹介したように、これからの経営環境において、「魅力的か魅力的でないか」という問いに対する解を提案することが求められています。つまり、人々を魅了するものを仮説として提案することが求められる時代です。その局面においてMFAを用います。

人々を魅了するものを提案するメカニズムとして前回ご紹介した、3つのプロセス Input → Synthesis → Output をベースに、今回は〈What〉MFAの何が活かせるのかをより具体的に、そして適宜〈How〉MFAがどのように作用するのか、についてご紹介します。

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仮説を立てるOutputというプロセスからまずご説明し、順に遡るかたちで各プロセスの具体的なポイントをご説明します。

1. Output

人々を魅了する提案という仮説を継続的に出し続けるにあたってのポイントは、法則に基づいていることと、それが最大限伝わる表現に仕立て上げられていることです。

Outputにおけるポイント
① 法則:人々を魅了する法則に基づいていること
② 表現:それが最大限伝わる表現に仕立てあげられていること
OutputにおけるMFA活用ポイント
① 法則:法則に基づいた提案をする力《アート実習》《デザイン実習》
② 表現:情報言語のみに依存しない表現する力、造形言語(ここは一般的なアートのイメージの部分であり、技術にも分類されるものです)《デザイン実習》

それぞれのポイントに対して、より具体的に考えをお伝えします。

1-1. ポイント①人々を魅了する法則に基づいていること

人々を魅了する法則とは一体なんでしょう。そんな画一的な法則なんてないだろう、魅了できるかどうかはその受け取り手の個性に基づくものだから、一部の人は魅了できても万人に通用するわけではないだろう、そういう声をビジネスの世界で受けることが多いように思います。

しかしながら、ビジネスで多くの消費者の心を鷲掴みにする提案もいくつか出ているうえ、美大でポンと出された作品に対してみんながいいと思うものがやはり意見が合うことから、万人に共通して備わっている一種の感覚があり、そこに法則があるに違いないとそう考えました。

そこで、いくつかのアプローチで法則を導出しました。導出アプローチは、アート実習・デザイン実習を通してあらゆるプロや教授らが、提示された作品に対して講評するポイントからの構造化です。また、同大学のTomatoさんの研究で、人間が美しい!と思うものが何か、科学、文学、哲学、スポーツ、心理学等のさまざまな分野における専門家等に100人インタビューして明らかにした、魅了されるポイントを参考に、構造化しました。
さらに、心理学者デービス・アイゼンクと数学者バーコフが唱えている、美度に対する数式も参考にしました。

以上のアプローチから総合的に、人々を魅了するものを提案する法則として、持つべき必要な要素3つを導きました。

人々を魅了するために必要な要素
① 秩序:複雑なものや相反するものを一つへと帰結させたもの
② 調和:今あるものに対して快感を感じるほどピッタリくるもの
③ 生気:それ自体にそこはかとないエネルギーを感じるもの

①は「すごい、こんなシンプルに整うのか」という感情に近いもの。相対性理論E=mc2のように多くの物理学者に愛される法則等がわかりやすいと思います。複雑な事象と思われるものを一つのシンプルな数式で表現した法則、こういったものが人々を魅了し永続的に活用され続けます。

②は「すごい、こんなにピッタリとハマるのか」という感情に近いもの。建築における構造美や、緻密に計算された結果としてうまくハマることに魅了されます。そうそう、このピースが足りなくて生活が不便だったんだと、提示されてから気づくと快感につながります。

③は「すごい、なんだかわからないけど感情が揺さぶられるなあ」という感情に近いもの。やはり人間という感情を持つ生き物であり、生命体である。生命力を感じるもの、そのものに強い気持ちを乗せられているものに、人は魅了されるということです。頭では理解できない領域ですが、人間は必然的にこの生気を感じるかによって、魅了されるかどうかが変わってくるようなのです。
学生たちが出した作品に対して講評していく中で、作品が持つエネルギー、つまり作者の想いがどれほど作品に込められているのか、について講評にて語られることが多くありました。これは、不思議かもしれませんが、アートの未経験者であっても作品を見ればそこにエネルギーが宿っているのかがわかるのです。

この3つの要素を兼ね備えたものに、人々は魅了されます。

  - MFA活用ポイント

ここにおいて、どのようにMFAを活用し作用させるのか。アート実習、デザイン実習では、人々を魅了する提案をする機会を何度も与えられます。提案する機会だけではなく、講評も必ず受けます。

アート実習・デザイン実習 授業例
・土曜朝10時に抽象的なお題を与えられます。11時ごろから製作開始し当日15時にそれにこたえる作品を提出。そこから全学生の作品を並べて、講師からの講評を順次受けます
・木曜夕方、友人に喜ばれる10個のプロダクトプロトタイプを製作せよ、というお題が与えられます。翌週木曜に製作した作品を並べて、学生・講師全員で良いと思う提案に票を入れ定量的に評価を行います。講師陣からの講評を順次受けます

提案と講評を繰り返すうちに、自身でも作っている最中に3つの要素が満たせているな、満たせていないな、と気づけるようになります。その鍛錬を続けることにより、人々を魅了する法則の3つ要素を持つ提案を出し続ける態度を身につけます。

具体的なエピソード
毎週10個のプロダクトプロトタイプの提案を行い講評を受けるというデザイン実習で、実際に私が提示して講評を受けた実体験でのエピソードです。プロダクト製作や立体のプロトタイプ製作をやったことのない私としては、作り方もわからないし、素材の概念もないので、戸惑いながらも、誰の何の悩みに応えるプロダクトにするかを悩みながら、仕事終わりに材料を買って毎晩製作をします。

初めの方では、ベランダに出したままにしても雨で汚れないスリッパや、裏返しに服を着てていても問題なく着れるTシャツ等々を、思いついて製作して提出しました。

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振り返ってみての3つの要素に対する評価は上記の通り。表現力や製作力はもちろんイマイチであるし評価されたもんじゃないですが、提案した作品に対して、③の要素である生気・エネルギーに関しては、めちゃくちゃ絶賛されます。

なぜだか一つ一つのプロトタイプに気持ちが乗っている、それが全てにおいてエネルギーとして伝わってくるから非常に面白い、感じるものがある、という講評でした。

そして最終週は、プロトタイプを一つに絞って提案しましょう、というものでした。また辛い1週間。悩みに悩んだ上でこれだ!と思うものを製作し始めます。それは黄金比レベルの癒される目鼻だけが描かれた透明シールです。これを癒したいと思う同僚や後輩のために作りました。お菓子やカイロなどに貼ってプレゼントすると、普通にお菓子を渡されるより癒されるというものです。

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実際にお菓子に貼って渡した後輩から喜んでもらえて、手応えも感じて持っていきました。振り返って評価したのが上記の通りです。3つの要素のうち①や②は圧倒的に成長、一方で、③の生気・エネルギーが減衰という評価です。当日の講評でも比較的良い評価をいただきました。

無印良品の部長さんからは、全作品の中で一番好きでした。あとは悲しい顔や怒った顔等シリーズ化したら商品化できるよ、と。
一方で、先生からは当初のプロトタイプに感じていたエネルギーと違ったテイストの作品に仕上がっていて、まじかあ、、と、ちょっと残念だなあ、という講評でした。

特にお伝えしたいこと
そうなのです。先程の法則①や②を満たすための要諦は、前段のSynthesisプロセスが肝なのでそこでまた説明しますが、取り立ててMFA活用ポイントをお伝えするのであれば、やはり③エネルギーを満たす提案をする態度だと思います。

実は、ビジネスの世界で仮説提案するときと、このMFAでの実習で提案する時の感覚は完全に違います。ビジネスの中では、「正しいか正しくないか」の問いにこたえる解を出すことが歴史的にも長く続いてきた結果、気づかぬうちに客観的根拠に基づいた提案が主な活動となってしまっています。つまり、エネルギーをのせた提案機会は限定的であるということです。

ちなみに、提案する仮説にエネルギーをのせるというのは、とても講評を怖く感じます。作品には自分の考えと思いを丸裸で乗せているからです。講評されること=自身の考えや想いを否定されている感覚にすらなるからです。いかにビジネスの世界は、客観性という武器に身を纏って、自身の考えを表現することを避けてきていたのか、と、そう感じた次第でした。

そういった感覚を持って仮説を提案するということの重要性と鍛錬をMFAを通じて得ることができました。ビジネスの世界でその提案する姿勢を体得することができないなか、MFAではそこを体得する機会が与えられ続けるということが大きな違いだと思います。

1-2. ポイント②それが最大限伝わる表現に仕立てあげられていること

先程説明した3つの構成要素を保持していたとしても、それが伝わらないことが往々にしてあります。よって、それを100%で他の人々に感じてもらえるための上手な表現も極めて重要となります。

人々に考えを伝えるための表現の方法は、情報言語と造形言語の2つあります。情報言語とは、言葉を使った表現方法です。造形言語とは、絵やオブジェクト、色や形を用いた表現方法です。ビジネスの世界で、ビジネスパーソンが扱う言語は、情報言語に非常に偏っています。そのような中で、最大限伝わる表現に仕立てるために2つのポイントが重要となります。

最大限伝わる表現に仕立てるために必要な要素
① 情報言語と造形言語を行き来して、自身の伝えたい表現を磨くこと
② 造形言語での表現に対しても判断できるようになること

①は、情報言語はメリットもありますが、言葉として伝えられる範囲には限界があります。自身が伝えたいと思って採用している言葉は、相手が想像して聞いている言葉と異なることが多くあります。そのような中で、造形言語を扱って、自身の言葉を造形言語で表現をする、そこで気づいた、相手とのずれを元に自身の言葉を磨き直す、ということが、行き来することで可能となります。何度か行き来して、自身の伝えたい表現を磨くことが重要です。

②は、造形言語で表現する力を持つことも今後重要となります。ビジネスパーソンがクリエイティブを作れるようになる必要はないですが、作られたものをみて、それが良い表現かどうかを判断できるようになることは重要です。Power pointツールを多用される方はそれでも良いと思います。そのスライドの中での最も伝わる魅せ方が何なのかを瞬時に判断する力を持つだけでも十分だと思います。

  - MFA活用ポイント

ここは、皆さんのイメージする、アート、デザインの領域そのもので、一番わかりやすい領域だと思います。授業はもちろんのこと、日々の研究発表や展示等でも学びがあります。

アート実習・デザイン実習 授業例
・月曜夕方、定められた文章や図の題材だけを使って誌面上での構成を考え、Illustratorで表現しファイルを提出し翌週月曜に講師陣から講評を受ける〈エディトリアルデザイン〉
・自身の伝えたいテーマ・研究を、観てくれる人にとって最も伝わるように展示し、講師陣から講評を受ける〈インスタレーション〉

造形言語の技術を身につける実習を通じて、情報言語と造形言語で行き来することの訓練はもちろんのこと、そして造形言語で表現する力を一定程度身につけることができます。

具体的なエピソード
エディトリアルデザインに分類される、Illustratorを用いたデザイン実習の授業においての実体験です。これまでビジネスの世界で、考えを表現するというと、Power pointがほとんど。それ以外のツールは一切触れたことがありませんでした。そのようななか、どのようにしたら人々にとって最も伝わりやすく、見ていて気持ちの良い表現を身につけられるか、造形言語リテラシーという授業を通じて、少しずつその感覚を身につけていきます。

この感覚は、修士1年目の講義だけでは、腑に落ちるまで身につけることができませんでした。何をどう見せたら表現として魅力的なのか、ダメなことはわかるが、何が良い魅せ方かはわかりませんでした。修士2年目は、1年生に混ざってもう一度授業を受けました。

ある一つのテーマで、美大卒制パネルを作りましょう、というテーマが与えられます。その際、使っていい文章、図柄三つ(蚊取り線香の火、蝋燭の火、タバコの火の絵)が素材として与えられ、それ以外は使ってはいけない、フォントも規定があり、あとはどう配置するかを考えよという課題でした。

左側が1年目に出したもので、右側が2年目に作ったものです。

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皆様はどう感じますか?パッと見てどちらが魅力的でしょうか。左は文章が横に長く読みにくいし、白黒の縞々も見にくいし、そしてダサい。右側はもちろん100点ではないですが、雰囲気的に良い表現ができています。講師の方からも明らかな反応の違いがありました。

今年のもの(右側)は、格段に去年のレベルと違いますよ。違いがわかるようになりましたか、と講評でコメントされました

この造形言語リテラシーという授業によって、造形言語のノウハウを学ぶことができます。人々を魅了する造形言語の表現というものは実はルールがあります。こちらも人それぞれでもありません。万人の人々を魅了させる表現というものが共通項としてあります。

何をどこに配置し、どのような色合いで、どの程度の大きさで表現するか、等、人々を魅了することのできる表現ルールを学びそれを体内に植え付けていくことで、人々を魅了するための表現力を身につけることができます。

まとめ

本投稿では、Outputのプロセスについて重要となるポイントとMFAの活用ポイントを具体的なエピソードを交えてご紹介しました。もともとは本投稿で、Synthesis、Inputまで一気に記述しようとしていましたが、ちゃんと伝わるようにと文章を重ねていくと、ボリュームが多くなってしまいましたので、後編を分けさせて頂くことにしました。

次は、人々を魅了する提案を生み出すための肝となるSynthesisのプロセスをご紹介します。続きに興味を持っていただいた方、しばらくのちに投稿いたしますので、フォローしておいていただけるとありがたいです。最後まで読んでいただきありがとうございました。


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