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100%趣味で作ったアプリが200万DLされるまで(2)

アプリの個人開発をしながら考えたことを書きます。
前回の記事はこちら

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フツララと言います。

サラリーマンをしながら深夜に個人開発したアプリArtomatonが累計200万ダウンロードにたどり着いたので、それまでの経緯を振り返ります。

前回は2013年のGWにふとした思いつきから写真を解析して絵を描くアプリの開発を始め、5ヶ月後にリリースするまでを書きました。
今回はその続きです。

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お楽しみはこれからだ

何ヶ月もアプリを開発しているとリリースした時点でなんだかゴールした感じになってしまいますが、考えてみるとリリース後の方が行動の選択肢が広がってもっと楽しめるはずです。

リリース初日に発覚した痛恨もバグも直り、使ってくれた人の感想も概ね良さそうだったので、アプリ関係のWebサイトにプレスリリースを送ってみることにしました。

一人で粛々と開発を続けるのも良いですが作ったものを通じて他の人と繋がるのも趣味の楽しみだし、アプリをメディアに紹介する経験は後で開発の役に立ちそうな気がします。

*組織の中で開発をしていると一つの製品を異なる立場から見る機会はあまりありませんが、失敗しても迷惑がかからない環境でいろいろなことにチャレンジして、物ごとの見方や考え方を増やしていけるのも個人開発のメリットだと思います。

考えるより先に感じてもらいたい

百聞は一見に如かずという諺がありますが、見ればすぐに分かる内容でも言葉で説明されると頭に入ってこないことがあります。
一方、俳句のように5・7・5の短い言葉からその場で見ているかのように情景が頭に浮かぶ表現もあります。

心理学者でノーベル経済学賞受賞者のダニエル・カーネマンによると、人間の思考はファストな「直感」とスローな「論理」の二段階に分かれるそうです。

直感が素早く自動的に働くのに対し、論理的思考は(正確さと引き換えに)遅く、意識しないと働かない……と言うのは自分の経験と照らし合わせてもなるほどと思います。

最初に直感を通して物ごとを捉えるとしたら、アプリを紹介するときもまずイメージを伝えてから詳細を知ってもらう方が良さそうです。

プレスリリースにはもちろんアプリのダウンロード先や動画へのリンクを貼りますが、最初に目にするメッセージのタイトルや文章によって見る人の捉え方は少なからず変化すると思います。

Artomatonの場合は細かい機能や特徴よりも描く過程や動作を見てほしいので「写真を参考に絵を描くアプリ」という表現をします。

せっかく記事にしてもらえるのだったらプレスリリースの内容そのままよりも、記事を書く人が体験して感じたことを文章にしてくれた方が、読む人に伝わるしアプリにも興味を持ってもらえるのではないかなと思います。

メディアで紹介されるということ

Webサイトで紹介されるときは事前に連絡はなく記事になってから知ることが多いです。(テレビだと事前に連絡がくるので業界ごとに慣習が違うのかもしれません)

プレスリリースを送ってから10日くらいたった頃、アプリ情報サイトの中でも勢いがあったAppBankでArtomatonが紹介されました。(通勤途中に見たツイートからリンクをたどって知りました)

その日のダウンロード数を見ると……

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初日の395人を超える1120人がダウンロードしてくれました。(さらに、ダウンロード数が増えるとAppStoreでの表示順位が上がるため、記事を見た人以外からのダウンロードも増えると言うおまけもつきます)

こんな風に使ってくれる人が増えるとそれだけアプリを開発し続ける意味も増える……ということはユーザーやメディアといった環境がアプリを生かし続けると捉えることもできます。
まさにエコシステム(生態系)です。

リリースまではアプリの中身をひたすら作っていたわけですが、外側にある環境も意識すれば、アプリがもっと生物のように有機的な存在になっていきそうな感じがしました。

ずるくないマーケティングの話を聞きたい

Artomatonをリリースする少し前、Appleからその年の11月に開催されるアプリ開発者向けイベントの案内がきました。
*2013年の話なので下の画像をクリックしてもどこにも飛びません。

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無料だし抽選ということだったので「実績のない個人開発者は外れるかな?」と思いつつ応募したところ当たったので聴きに行きました。

日本語通訳つきでiOSの新機能や開発上のTipsを解説してくれるセッションが6〜7あったのですが、中でもマーケティングやプロモーションに関する話が個人開発の方向を決める上で参考になりました。

というのも、ネットでアプリのプロモーションについて検索すると業者が宣伝のためにSEOを駆使して書いたような記事がトップに並ぶので、正攻法のマーケティングの知識を見つけるのが難しかったからです。
*2013年頃はリワード広告を使ってストアのランキングを操作するような方法が横行していました。

「成功したい、失敗が怖い」という気持ちが強いとチートに頼りたくなるのかもしれませんが、グレーな方法を使ってダウンロード数を増やしても

・ユーザーはすぐに離れてしまう
・正しいルートで得られたはずの知識や経験を得られなくなる
・ストアやユーザーを騙すような方法は対策されていずれ使えなくなる
・チートを示すデータがWebやストアのサーバに残り続ける

など、長期的に見るとほとんど良いことはないと思います。

その点、Appleが公式のイベントで推奨する方法なら、正攻法のアプリマーケティングの考え方と捉えることができます。

いくつか例をあげると

・シンプルで記憶に残るアプリ名
・美しく記憶に残るアイコン

・継続的な価値の提供

・アプリの内容にマッチした収益化方法
・ユーザーの評価とレビューをモニターする
・消費者を保護して尊敬する

当たり前と言えば当たり前ですが、当たり前のことができていないとしたら、これらを突き詰めていけばアプリがもっと良くなるということでもあります。

アプリ道

趣味でアプリを開発するのはそういった「良さ」を積み重ねて「素晴らしさ」を目指す行為だと思います。

短期的な成功が目的ならチートやショートカットが使えるかもしれませんが、長いスパンで理想的なアプリ開発を目指すなら欲とか不安とか誘惑とか嫉妬とか嘘とか……諸々の感情に惑わされずに良いアプリを作れる技術と考えを持った自分になるのが一番確実性が高いルートのような気がします。

日本風に表現するなら、書道とか茶道とか柔道のようにアプリ道みたいなものがあるのかもしれません。

例えばコンプガチャとかブースト広告のようにユーザーの心理やストアの脆弱性を突く手法が禁止されてきたことを考えると、道から外れないと言うのは単なる精神論や理想論ではないと思います。

*前回に続いて今回も「欲とか不安が開発の邪魔になる」と書いて自分で仏教っぽいなと思ったのですが、東洋哲学と開発は通じるものがあるのかもしれません。(スティーブ・ジョブスも若い頃にインドを放浪したり禅宗に入門したそうですし)

自分のベクトルで進めばいい

アプリ開発もそうですが、物作りをしている人が陥りやすい罠は人と自分を比べることだと思います。

物作りには無限の方向性があるので、2つの創作物を比べてどちらが絶対的に優れているとかいうことには意味がありません。(時代なり社会なり集団なりの尺度を当てはめたときに、どちらが尺度に沿っているかという違いがあるだけです)

既に成功しているものと自分が作ったものを比べて自分が作ったものが劣っていると錯覚すると、絶望して作るのをやめてしまったり、人の真似をして自分から価値を捨ててしまうことになります。

アプリ開発も同じで、他のアプリとの比較ではなく、そのアプリ自体との比較で今日よりも明日の価値を高めていくことを考えれば迷わずに続けていける気がします。

「世界には10億ダウンロードされているアプリもあるから100万ダウンロードしかされていないの自分のアプリには価値がない」と悲嘆する開発者より、使う人が1人、2人、3人と増えていくことを喜べる開発者の方がずっと幸せだし揺るぎない心を持っていると思います。

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まだ6000ダウンロードくらいまでしか進んでいませんが、話がスピリチュアルな方向に飛んでいきそうなので今回はここで切ります。

ではまた。

(3)へ続く


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