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100%趣味で作ったアプリが200万DLされるまで(1)

アプリの個人開発をしながら考えたことを書きます。

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フツララといいます。
noteで記事を書くのは初めてなので初めまして<(_ _)>

サラリーマンをしながら深夜に開発したiOSアプリArtomatonが累計200万ダウンロードにたどりつきました。

2013年の10月にリリースしてから
・1ヶ月半で1万ダウンロード
・9ヶ月で10万ダウンロード
・4年で100万ダウンロード
・6年8ヶ月で200万ダウンロード
というペースで現在にいたります。

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最初の11ヶ月のダウンロード数はグラフにすると見えないくらい少ないですが、その間も楽しみながら開発を続けたことが、たくさんの人が使ってくれるアプリへの成長につながっていったと思います。

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アプリ開発もそうですが、止まらずに何かを作り続けるというのはシンプルなようで意外と難しい気がします。

人間は欲張りだったり怖がりだったりするので「あれもこれも」と要件を増やしていくうちに考えることが多くなりすぎて身動きが取れなくなってしまうのかもしれません。

Artomatonの開発で「ついていた」と思うのは完全に趣味として作り始めたことです。
趣味だから「結果は誰かが面白がってくれるだろう」くらいの気持ちで、実現したい仕組みや機能に意識を集中して作り続けることができました。

そんなArtomatonの開発とリリース後の経緯を振り返りたいと思います。

Artomatonについて

アルゴリズムが写真を解析して絵を描くアプリです。ピクセル毎にフィルター処理をするのではなく、筆や鉛筆のようにストロークを重ねて絵を描いていくのが特徴です。

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最近のアップデートで被写体と背景を識別して背景を省略したり、色を変えられるようになりました。

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真夜中の思いつき

2013年のゴールデンウィークに「そうだ、iPhoneに絵を描かせよう」と思いました。
写真を絵画風にするアプリは既に存在しましたが、描く過程を連続的に見られるアプリを作ったら面白そうな気がしたのです。

きっかけは趣味というか思いつきですが、言語や文化に依存しない視覚的な体験なので、実現できればいろいろな国の人に楽しんでもらえそうだと考えました。
*何を作るか迷ったら、自分が面白そうだと感じるものの中から、世の中に存在しないものを作ると、それを求めているユーザーが世界のどこかにいるのではないかと思います。

実際にできそうか検証するために2晩でコードを書いたらそれらしいものが動いたので「軽く作ってみよう」と開発をはじめました。

軽く作れなかった

開発を進めると時間と労力をかけてもやっておきたいことが出てきました。

まず当時のiPhone(iPhone5)だと描きはじめてから完成するまで1分以上かかっているのを、10秒前後に縮めないとアプリの用途や楽しみ方が限定されると感じました。

ループ内の処理の最適化、ボトルネックの解消(オーバーヘッドが大きいOpenGLのglReadPixelsで描画中の画像をチェックする代わりに、ピクセルバッファのアドレスを固定して直接メモリを読む等)、描画アルゴリズムの改良によって完成までにかかる時間を平均10秒くらいに短縮しました。

アルゴリズムの語源はالخوارزميという人の名前らしい

並行して「より絵画らしく描けるようにする」ために、人間が絵を描くときに自然に行っていることを再現できないか実験しました。

◇ 輪郭や線を識別する
現実の空間には幅がゼロの領域(=線)は存在しませんが、人間の視覚は輪郭や線を認識し、絵画にもそれが描かれます。
Artomatonは近似色が連続する長さや方向から面と線を区別し、面は反復するストロークで、輪郭や線(板張りの壁や木の枝のように幅が狭く一方向に長い領域)は連続するストロークで描こうとします。

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◇ コントラストの違いに適応する
撮影場所の光や露出によって写真のコントラストは大きく異なります。
人間の視覚はかなり明るい場所や暗い場所でも物体の輪郭や模様を識別できますが、プログラムもコントラストの違いに適応する仕組みを入れないと領域を上手く判別できず描線がはみ出したり細切れになってしまいます。

◇ 場所によって描画の精度を変える
多くの絵画には描写が細かい部分とラフな部分があり、その違いが描かれたものの印象をより鮮明にしています。
Artomatonは人間や動物のような周囲から独立した特徴を持つ領域は精度を高く、情報量の少ない場所や木の葉や波のように特徴が繰り返す領域は精度を低めに描こうとます。

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絵画用語でマチエールと呼ばれる画材の質感も入れたいと思いました。

油彩のように起伏と光沢がある素材は角度に対する反射率の分布が質感に影響するので、素材の反射特性と光の入射角度、紙の凹凸や絵の具の厚さからピクセル毎に何%の光がカメラの方向へ反射されるかを計算しています。

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試行錯誤の末に実現した仕組みがある一方で、上手く機能しなくてお蔵入りにしたアイデアもたくさんあります。
ほとんどのアイデアは試してみないと効果があるかわからないので、思いついた仕組みを実装し、いろいろな写真でテストしながら検証する作業を数ヶ月続けました。

アル=フワーリズミー(الخوارزمي al-Khuwārizmī)
9世紀前半にアッバース朝時代のバグダードで活躍したイスラム科学の学者。アルゴリズムの語源となった人物。
Wikipedia

趣味駆動開発

アプリの個人開発は冷静に考えるとけっこう面倒です。
義務や報酬で縛られているわけでもないのに開発を続けられたのは「趣味でやっている」という意識が強かったからだと思います。

「趣味」というと勉強や仕事に対して副次的なもの、暇つぶしと思われがちですが、自分にとっての趣味は損得と関係なく面白いとか意味があると感じられるもののことです。

「考えようとしなくても、自然に考えてしまうこと」と言い換えてもいいかもしれません。脳が自動的に作り方を考えてくれるので「趣味」は開発を駆動すると思います。

ざつねん【雑念】
気を散らすさまざまの思い。いろいろな、余計な考え。

アプリから得られる(かもしれない)収益や評価も開発の動機になるとは思いますが、最初からお金や評価を目的にすると、作ろうとしているものではなく報酬に意識を奪われてしまいます。

アプリ開発のブレイクスルーになるようなアイデアは純粋に興味の対象について考えている間に生まれることが多いので、報酬に気を取られるのは開発を前に進める上でマイナスです。

それに「報酬を得たい」という欲は「報酬を得られない」ことへの不安を生みます。

「アプリをヒットさせて稼ぎたい」という欲と「アプリをヒットさせて稼いでいる人は一部にすぎない」という不安が衝突すると

成功を確実にしようと欲張りすぎて完成しない
or
成功は無理とあきらめて作る気が起きない

という意識のデッドロックが起こります。
要件を整理して完成に漕ぎ着けたとしても確実性を重視するぶん、挑戦はしにくくなってしまいます。

個人で開発しているものが完成しない現象を(特にゲーム作者の間で)エターなると言いますが、開発を趣味と割り切ってしまえば余計な欲や不安がなくなって前に進みやすくなるし、いろいろなアイデアに挑戦しやすくなるのではないかと思います。

*ネコ科の動物が遊びから狩りを学ぶように、人間を創意工夫に向かわせるための本能として趣味が存在しているのではないかと思います。

Art + Automaton = Artomaton

4か月くらい開発を続けたところで無限に試行錯誤できることがわかったので(エターならないために)アプリ名やアイコンやUIのデザインを決めていったんリリースすることにしました。

自動的に絵を描くアプリなのでArtとAutomatonを組み合わせてArtomatonという名前にし、間にトマトが入っているので野菜室にあったトマトを撮影してアイコンや起動画面にしました。

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リリースの最終準備としてAppStoreの説明文やスクリーンショット、検索キーワードを一週間くらいかけて設定しました。

Artomatonの説明文やキーワードはAppStoreでの表示回数より、能動的に探している人に見つけてもらうことを優先して設定しています。

なぜかというと、無作為にダウンロード数を増やすより潜在的にArtomatonのようなアプリを求めている人に使ってもらう方が全体的な満足度も高くなるし、有益なレビューやフィードバックを得られると考えたからです。

リリース日

準備が整ったのでアプリをAppleの審査に出しました。
最近は審査が迅速化されてだいたい1日で終わりますが、当時は審査が始まるまで5日くらいかかっていました。

一区切りついたので箱根で観光したり温泉に入っていたら、夜中に審査が始まって朝にはAppStoreでArtomatonが公開されていました。
(箱根神社にお参りしておみくじを引いたら大吉でした)

同じ日の昼すぎに実家から連絡があって、祖母が老衰で亡くなったという報せを受けました。
東京に戻って喪服を作り、夕飯を食べながらAppStoreのレビューを確認すると、いくつかの国で「画像を保存しようとするとアプリがクラッシュする」という報告が書き込まれていました。
自分でダウンロードして確認したところ、やはりクラッシュしたのでアプリを一旦ストアから削除しました。

この時点で76ダウンロードされていました。

再リリース

2013年の10月9日に改めて修正版をリリースしました。

初日のダウンロード数は395、二日目は366、三日目は132ダウンロードでその後しばらく100ダウンロード台が続きました。
宣伝や告知をしなくてもダウンロードされているのは有望な情報ですが、そこから先のことはぜんぜん予想できませんでした。

この時点では
A. 終息する
B. 生き続ける

どちらの未来もありえたと思います。

とはいえ「使ってくれる人がいる」という重要なことが確認できたので、この先もしばらく開発を続けていくことにしました。

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思ったより長くなったので、この記事がエターならないようにリリース後の話は次回にします。

以下、いろいろな国の人が書いてくれたレビューからの引用

LOVE it!😊👍
It’s like the possibilities in creativity are endless!(フィリピン)

Fantastica
Esegue Egregiamente il Suo Lavoro, consigliatissima.(イタリア)

✨I N C R O Y A B L E ✨

JUSTE MAGNIFIQUE ( très artistique ) des réglage simple et des résulta incroyable bravo 👌(フランス)

Супер!!
Очень классно обрабатывает фото в живопись Другие приложения делают как будто мультяшно,а здесь то,что нужно!(ロシア)

KI Kunst!
Bin sehr begeistert was die App kann. So werden aus einfachen Fotos oder Videos wirklich kleine Kunstwerke. Werde sie jetzt noch weiter ausprobieren und mir auch die eigentlich günstigen Addons kaufen. Danke an den Entwickler!😍(ドイツ)

很特别
值得一试(香港)

Perfeito
O melhor app quem gosta de arte que já conheci. Parabéns aos desenvolvedores.(ブラジル)

ใช้ง่ายมาก และค่อนข้างเหมือน
ลองใช้ดูแล้ววาดภาพสัตว์ใช้ง่ายมากค่ะ เหมือนเลย(タイ)

Artomaton
Es un buen programa para artistas(チリ)

An app that fires the imagination!
A fabulous app that allows you a different way of looking at colours, intensities and focal points.(イギリス)

作り始めた時は評価を目的にしなくても、「作っているものが誰かにとって意味がある」というのを後から知ることは「趣味」と同じように開発を続ける動機になっているかもしれません。

(2)へ続く

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