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仕事と趣味の垣根なく、好きなモノを伝え続けて<キムラナオミ・後編>


凸凹はあってもずっとプラス思考!



“会社の花”扱いに違和感

――デザイナーになるというくらいなので、昔から絵が好きだったんですか?
絵は大好き。でも美大や芸大はデッサン力が必要で、少しハードルが高いと感じていました。そこで名古屋市内のデザイン専門学校へ。岐阜から上京した田舎者には、DCブランドで固めた周囲の学生はまぶしく、絵も上手な人ばかり。おまけに学校の指導は厳しく、ダメ出しで叩いて育てる方針だったので、在学中にすっかり自分のクリエイティビティに自信をなくしてしまいました。

それでグラフィックデザインでは、やっていけない…と思ってしまい、CM制作会社に就職したんです。数人の小さな会社で、プランニングをしたり、絵コンテを描いたり、スタジオ作業に立ち会うこともありました。待遇はとても良かったのですが、だんだん自分への扱いに違和感を抱くようになりました。周りの男性社員や年長の女性社員と比べて、若くて女性だから見逃されたり、逆に必要とされたりすることが多いな、と。“女の子”扱いとセクハラに辟易して、1年で退職しました。

やっぱりグラフィックデザインがやりたいと母校のデザイン専門学校に相談すると、いくつか求人を紹介してくれて、「今度は間違えないぞ」と給料の安い会社を選んだんです。

――おおお、あえてお給料の安い会社ですか?
そう。面接でもいろいろ聞いて、きちんとデザイナーを育てている感じだなと。そのデザイン事務所では、会社案内を作ったり、銀行をクライアントに持っていたりして、中規模ながらも安定した会社でした。私も順調に成長して、やりがいのある仕事を任されることも増え、5年ほどでチーフになりました。仕事の規模も大きくなり、30代を目前に充実していましたね。


「昼からお酒飲んで良いな、自由だな〜って」

――そのまま社員デザイナーとして出世する未来もありそうですが、どこから独立を考え始めたのですか。
デザイン学校の友人などから、小さなイラストの仕事を、会社を通さず依頼されることがありました。その頃、現在のパートナーとも出会い、彼からも仕事を依頼されることもあって。なんとなくつながっていったフリーランスのクリエイターの働き方が、みんな自由そうに見えたんです。昼からお酒とか飲んでたし(笑)。まぁ、お酒はともかく、ギャラリーでイラストの展示をやったり、ミニコミを作っていたり、作品づくりにも刺激を受けました

会社員の仕事は非常に充実している一方で、クライアント対応など責任も重くなり、自分がやりたいこと・できることとの方向性の違いも感じていました。大型クライアントとのトラブルもあって疲れてしまって…。「大きい仕事より、自分のやりたいことをやってみたい」と考え始めるようになりました。

――とはいえ、独立するとなると不安はあったのでは?
学生時代の後輩が独立したという話も聞いて、「あの子にできるなら、私にもできるのでは」と思ったんですよね。もうひとつのキーになったのは、Mac。当時デザインの世界でMacintoshが使われるようになったところで、私は比較的早くソフトウエアなどを習得しました。会社でも率先して講習会に出たり、自分でもMacを購入したり。これがあれば家でもデザインできるという心強さと、IllustratorやQuarkXpressといったデザイン・DTP系のソフトを私は使えるという強みを持てたので、比較的楽観的に独立してみようと思えたのかもしれません。


創作活動が仕事につながる好循環

――実際に独立して仕事は順調でしたか?
パートナーと結婚し共同で屋号を持って、広告代理店からの案件をコンスタントに受注するようになりました。仕事がなくて困る…という感じではなかったですね。むしろ、断るのが怖くてめちゃくちゃ仕事していました。一方で作りたいものを作る活動も、絶えずやってきました。

見入ってしまうフライヤーの数々

当時始まったばかりのクリエイターズマーケットに、デザインデータを入れたフロッピーを持っていって売ったこともありましたよ。フリーペーパーやリトルプレスを作って、大好きな雑貨屋さんやカフェなどに置いてもらって、そこから仕事をいただいたケースも少なくありません。出版社から依頼が来たのも、編集者さんがリトルプレスを見て、でした。子どもが生まれて育児漫画をブログに載せていたら、そのつながりでグループ展に呼んでいただいたことも。パートナーが撮影した子どもの写真を、大手通販会社のキッズモデルに応募したら当選して。その際にお会いした制作担当者にクリエイティブの仕事をしているとお話したら、制作物を気に入っていただき、カタログのお仕事を頂いたこともありました。

――営業らしからぬ営業で、仕事をゲットできてる…(羨望)。
モノを作ることが好きで、それを発信することを続けてきただけです。営業してる、という意識はないんですが、プレゼン気質ではあるので、ちょっとしたフライヤーとかも作品として次々見せちゃう(笑顔)。それが思わぬところで、お仕事として依頼をいただくきっかけになったりしてますね。


仕事が減ったらチャンス?!

――長く仕事をされてきて、仕事の波が落ち込んだことはなかったんですか。
もちろんありました。リーマンショック後は、本当に仕事が減って。代理店からの仕事が激減。でも時間ができたので、これを有効活用しようと切り替えて。

――え、今後が心配になったりしなかったんですか。
もちろん売上は心配でしたが、それまで忙しくて長期休むことが難しかったのもあり、ここぞとばかり「私イギリスに行きます」と子どもたちをパートナーに任せて旅立ちました。昔からジョン・レノンやシャーロック・ホームズが好きで、憧れていたんですよ。仕事に必要な資料を集めながら、あちこち本屋巡りをするうちに、チャリティを取り込んでいる英国スタイルのチャリティブックショップに興味を持ちました。


本場英国でティータイム!

その後も英国通いをしながら、仕入れた洋書をオンラインで売ってみたり、「ブックマーク名古屋」のイベントで本屋出店をしてみたり。デザイン業の傍らでやっていた本屋だったのですが、またまたコロナ禍で仕事が減ったことをきっかけに、リアル出店を考え始めました。

――ピンチはチャンス、を地で行ってますね!
コピーライターをしながら喫茶店をしている友人の話を聞いて、デザイン以外にも仕事をもっても良いのかも、と思ったんです。商店街が大好きなので、ロケーションにもこだわって探して、名古屋市主催の地域活性ワークショップを経て、地域のみなさんのサポートのもと、本屋「Reading Mug」の開業に至りました。

――好きな表現、好きなものに向かってまっすぐ進んで、自然体で切り開いてきたキャリア、本当に素敵です。私も仕事を離れて初心に戻ってやりたいこと…もうちょっと時間割きたいな。今日はありがとうございました。またReading Mugにもお邪魔します。


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