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アブダクション・レトロダクション(逆行推論・遡及推論)【トリビア雑学・豆知識】

アブダクション(abduction/逆行推論)は、レトロダクション(retroduction/遡及推論)とも呼ばれ、結果から遡って原因を推測する論理。帰納法が観察可能な事象を一般化するロジックであるのに対し、アブダクションは(多くの場合)観察可能な事象から直接観察することが不可能な原因を推論する。
例えば、「地面が濡れている(結論)」という事実から、「雨が降った(前提)」と推測する方法。この方法は、他の論理的な考え方(演繹法や帰納法)とは異なり、何かを仮定して考えるときに役立つ。(仮説をたてる)


概要

アブダクションの考え方は、古代ギリシャの哲学者アリストテレスが話していた。アリストテレスは「アパゴーゲー」という言葉でこの考え方を表現した。その後、アブダクションという言葉は英語で「誘拐」を意味するため、混乱を避けるために「レトロダクション」とも呼ばれるようになった。

アブダクションは、結果や結論を説明するための仮説を作ることを指す。例えば、探偵が事件を解決するために、いろいろな証拠から犯人を推測するのがアブダクションだ。また、プログラムのバグを見つけるときや、推理小説の謎を解くときにも使われる。

論理的推論

演繹法(Deduction)
演繹法は、ある前提から結論を導く方法。例えば、「すべての人間は死ぬ(前提)」と「ソクラテスは人間だ(前提)」から「ソクラテスは死ぬ(結論)」というように、確実に正しい結論が出る。

帰納法(Induction)
帰納法は、たくさんの観察から一般的なルールを導く方法。例えば、「毎日太陽が東から昇る(観察)」という事実から「太陽はいつも東から昇る(ルール)」と考える。しかし、この方法は必ずしも正しいとは限らない。

逆行推論(Abduction)
逆行推論は、ある結論からその前提を推測する方法。例えば、「地面が濡れている(結論)」から「雨が降った(前提)」と推測する。ただし、この推測は間違っているかもしれない(誰かが水を撒いただけかもしれない)が、新しい考えを見つけるのに役立つ。

アブダクションの具体例

アブダクションは、ある観察結果を説明するための最も良い仮説を選ぶ方法。例えば、「テストの点数が低い(観察)」という結果から「勉強していなかった(仮説)」という推測をする。

アブダクションの論理的背景

アブダクションの論理的な説明方法は、ある領域を表現する論理的理論 (T) と観察の集合 (O) に基づく。アブダクションは、観察結果 (O) を説明するための仮説の集合 (E) を (T) に従って導き出し、その中から最も適切な説明を選ぶ過程である。

アブダクションが成立するための条件:

  1. (O) が (E) と (T) から導かれること。

  2. (E) が (T) と無矛盾であること。

形式論理学では、 (O) と (E) はリテラルの集合(具体的な命題の集まり)であると仮定される。つまり、アブダクションでは、仮説 (E) が理論 (T) に基づき、観察 (O) を説明するための条件を満たす必要がある。このプロセスでは、的外れな事実が仮説に含まれないようにするための最小限の条件も課せられる。

「最良の」説明を選ぶ基準:

  1. 単純性:仮説がシンプルであること。

  2. 蓋然性:仮説がより可能性が高いこと。

  3. 説明力:仮説が観察をよく説明できること。

アブダクションの実際の応用例

  1. デバッグ:プログラムにバグがあるとき、その原因を特定するためにアブダクションを用いる。例えば、「プログラムがクラッシュする(結論)」という事実から、「特定のコードに問題がある(前提)」と推測する。

  2. 推理小説やミステリー映画:探偵が事件の謎を解く際にアブダクションを使う。例えば、「現場に犯人の指紋がある(結論)」という事実から、「犯人は現場にいた(前提)」と推測する。

アブダクションの重要性

アブダクションは、科学の仮説形成や日常の問題解決において非常に重要な役割を果たす。なぜなら、観察された事実を最もよく説明する仮説を見つけ出すために使われるからである。この方法は、仮説検証の第一歩となるため、科学研究や実験の初期段階で頻繁に使用される。

アブダクションと他の推論方法との違い

演繹法とアブダクションの違い
演繹法は、既知の前提から必然的に結論を導く方法であり、前提が真であれば結論も必ず真となる。例えば、「すべての鳥は羽を持っている(前提)」と「ペンギンは鳥である(前提)」から「ペンギンは羽を持っている(結論)」と導く。

帰納法とアブダクションの違い
帰納法は、多くの観察結果から一般的なルールを導く方法であり、必ずしも結論が真であるとは限らない。例えば、「これまでに観察したすべての白鳥は白かった(観察結果)」から「すべての白鳥は白い(一般的なルール)」と導く。しかし、黒い白鳥も存在するため、この推論は必ずしも正しいとは限らない。

アブダクションの具体的なプロセス

アブダクションは、次のようなステップで行われる。

  1. 観察の収集:まず、観察された事実やデータを収集する。

  2. 仮説の生成:次に、その観察結果を説明するための仮説を複数生成する。

  3. 仮説の評価:生成された仮説の中から、最も尤もらしい仮説を選択する。この際、仮説の単純性、蓋然性、説明力などが評価基準となる。

  4. 仮説の検証:最後に、選択した仮説が正しいかどうかを検証するための追加の観察や実験を行う。

アブダクションの実生活での例

日常生活の問題解決
例えば、スマートフォンが突然動かなくなった場合を考えてみよう。このとき、以下のようなアブダクションのプロセスが行われる。

  1. 観察の収集:スマートフォンが動かない(観察結果)。

  2. 仮説の生成:「バッテリーが切れた」「アプリの不具合」「ハードウェアの故障」などの仮説を生成。

  3. 仮説の評価:最も可能性の高い「バッテリーが切れた」という仮説を選ぶ。

  4. 仮説の検証:スマートフォンを充電してみる。

健康問題の診断
医師が患者の症状から病気を診断する際にもアブダクションが使われる。

  1. 観察の収集:患者が咳をしている(観察結果)。

  2. 仮説の生成:「風邪」「肺炎」「アレルギー」などの仮説を生成。

  3. 仮説の評価:最も尤もらしい「風邪」という仮説を選ぶ。

  4. 仮説の検証:さらに検査を行い、風邪であることを確認する。

このように、アブダクションは科学や日常生活の様々な場面で重要な役割を果たしている。


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