見出し画像

我が旗に集え

我軍は窮地きゅうちおちいった。
 
敵国とその隣国との連合軍が、
国境の峠に張った防衛戦を、
ことごと突破し、
城まで半里約2キロというところまでせまっていた。
 
「殿。
 峠に配備した我軍、総勢5千。
 敵軍の勢い止めることができず、
 全ての砦は破壊され我が領土深くまで、
 侵入を許してしまったとのことです」
「ここまでの手練てだれとは…。
 敵総大将は尾張一の剛腕。
 猛将の異名を持つ武羅悪三太ぶらあくさんだ
 その力…見誤みあやまった…
 いや、さすがとめるべきか…」
 
「殿、お気を落とさず。
 見誤ったのは殿だけではござりませぬ。
 このじいも敵の戦力をあなどっておりました。
 まさかここまでの圧倒的な武力とは…。
 今入った報告では、
 どうやら敵は向かいの山の中腹ちゅうふくに、
 陣をかまえたようです。

 このまま一気に城へと、
 攻め込んでくるかと思ってましたが、
 わずかですが猶予ゆうよができましたな」
 
「殿!」
「お~軍師
 やっときたか」
 
「頼んだ城固めの状況は?」
「急ではございましたが、
 出来得できうる限りの防衛策をほどこしました」
 
「ご苦労じゃった。
 砦が破られたとあれば、
 一刻を争うと思うてな」
「賢明なご判断です。
 しかし此度こたびの策にて、
 配置した砦の兵が足止めもできぬとは…。
 誠に申し訳ございませぬ。
 私の力不足です
 
「軍師よ。
 それは皆同じじゃ。
 それに今はそんなことを、
 言うとる時ではあるまい」
「はっ!
 殿、我軍は国境では敗れましたが、
 もしかしたら敵側にも、
 甚大じんだいな被害を与えたのではないかと、
 推測すいそくされます」
 
「なるほど。
 だから近くまで進軍したにも関わらず、
 城攻めはせずあの山で、
 体制を整えてるということか…」
「あくまで推測ですが」
 
「殿、新たな伝令が届きましたぞ!」
「お~爺。申せ」
 
「我が砦の兵士、負傷者多数。
 しかし死者はおらず
 砦の被害、極僅ごくわずかなり。
 敵国兵士にも同等の負傷者あり」
「なに?誰も死んでおらんのか?」
 
「はい。
 どうやら奴らは強引に砦を破壊し、
 ただ一直線に走り去ったとも、
 報告がございます」
「まさに猪突猛進ちょとつもうしんだな。
 ん?待て!
 ということは奴らは今、
 城と砦の間にて…
 挟み撃ちの状態ではないのか?」
 
「そうなのです。
 それが私も不思議で…。
 こんな戦術は聞いたことがありません。
 もしくは奴らがおとりで、
 どこからか伏兵が現れるのではないかと、
 目下もっか、調査中でございます」
「う~む。
 ちょっと敵の様子が見たい。
 誰か遠眼鏡とおめがねをこれに」
 
「はっ!」
 
家臣が殿に遠眼鏡望遠鏡を持ってくる。
 
「あの山の中腹と言ったなあ…
 お~よく見える見える。
 何とも勇ましい連中ばかりじゃ。
 面構つらがまえがすでに猛者もさの風格じゃな。
 おや?あれは?
 あ~なるほど。
 これは…そういうことであったか。
 おい、爺も軍師もこっちへ来て、
 敵陣をよく見てみろ。
 あの強さの秘密、わかったぞ
 
家臣が二人にも遠眼鏡を手渡す。
 
「見えるか?」
「はい、殿。
 よく見えます」
「私も」
 
「ちょっと東の方を見てみろ」
「東でございますか…
 あ~何やらが見えますなあ」
 
「軍師、読めるか?」
「はい、まずは…ん?
 あれは何と読むのでしょう?
 殿愛羅…?
 
「軍師よ。
 あれは殿愛羅武勇アイ・ラブ・ユーじゃ」
「殿アイ・ラブ・ユーとは、
 何でございますか?」
 
「あれは、
 殿、私はあなたを愛してるという意味じゃ。
 わしも都へ参った時に知りおうた、
 異国の修道者に聞いたのだ」
異国の言葉ですか?
 私は殿を愛していますではなく、
 なぜ殿、私はあなたを…という、
 不可解な文章を…
 殿!その隣は何でしょう?
 一寸…
 
「あれは恐らく猪突猛進と書こうとして、
 一寸妄信ちょっともうしんになったんじゃな」
「殿、意味がわかりませぬ。
 では、あの俺最高…
 あれは何でございますか?」
 
「あれは俺最高醤おれ、最高じゃん!だな。
 自分の気持ちを書き記したのであろう。
 醤の字に武将の将の字が入っているのが、
 こだわりかもしれぬな」
「なぜ殿は奴らのことに、
 精通せいつうしておられるのですか?」
 
「以前、西国の軍と合戦になった際、
 同じような旗を掲げる珍走軍ちんそうぐんなる、
 とても強い騎馬隊と戦こうたことがあった」
「奴らはその部隊のもの?」
 
「それはわからぬが、
 考えてることは恐らく同じじゃ。
 奴らは強い!!
 だが……思考が独特!!

 見てみい。中央の旗を」
「中央?どこですか…あっ!ありました!
 上様3?
 殿、あれにも意味が?」
 
「あれは上様3乗上様参上!じゃ。
 自分の殿がとても強いことを、
 表現したかったのかのう…。
 あの文字をひらめいて、
 上手いと思ったんじゃろう…。
 大事なことを完全に忘れておる…。
 皆の者!!
 あの旗に狙いを定め、
 今から北と南から全軍総攻撃じゃ!!
 あそこに総大将 武羅悪三太が、
 間違いなくおる!!

「おお~!!」 「おお~!!」
「おお~!!」 「おお~!!」
 
……。
 
圧勝。


 このお話はフィクションです。
実在の人物・団体・商品とは一切関係ありません。

この記事が参加している募集

この経験に学べ

お疲れ様でした。