女心と上の空
会社のオフィス。
男性社員二人。
「今日はどうだ?」
「わかりません」
「何で、分からないんだ」
「だっていつものサインが、
見つからないんですよ」
「そんなことあるか!
いつも胸元とかにあるだろ」
「今日はないんですって!
どうしましょう先輩」
「ヤバいな。
それを見つけられないと、
対処のしようがない」
「まさかですけど……
下着ってことはないですよね?」
「それはないだろ!
それじゃ俺等、
確認のしようがないじゃないか!」
「いやでも、
これだけ見ても見つからないんじゃ、
そうとしか考えられませんよ」
「じゃあ、どうすんだよ?
今日の下着の柄を聞くのか?
そんなことしたら、
命はないぞ!
ならお前、聞いてこいよ!」
「僕だって無理ですよ!
え~どうしましょう?」
「もう1回見てこよう。
きっと、見落としがあるんだよ」
「そうですね。
もう1回よく見てきましょう。
先輩は左から。
僕は右から行きますので」
二人は中央にいる女性部長を、
左右からさり気なく見つめる。
(どこだ~)
(いつもはわかりやすいのに~)
パソコンで資料作成中の部長。
(……!!!
あった!!
お~い!!ちょっと1回戻れ!!)
(?!
あっち?!戻るんですか?!)
二人は自分たちの席に戻ってくる。
「わかった!
あったよ!」
「よく見つけましたね先輩!
どこにあったんですか?」
「後頭部。
今日は部長、髪束ねてるだろ」
「はい」
「髪まとめてるシュシュにあった」
「そこか~!
それは見つかりませんって。
で、今日は何でした?」
「それが何だか分かんないんだよ」
「ええ~何すかそれ~」
「だってシュシュだから、
クシャクシャってなってるだろ?
色はわかっても柄は見えねえよ~」
「じゃあ、いつもみたいに、
スマホで調べるしかないですね」
「そうだな。
お前行ってきてくれ」
「何でですか~。
先輩見つけたんですから、
行ってきて下さいよ~」
「俺は昨日から、
スマホがAndroidになったんだ。
そしてやり方がよくわからない。
そういうことだ」
「ズルいっすよ~。
ええ~わかりましたよ~。
行ってきますよ~」
「気をつけろ!
距離を取れ!
シャッター音が聞こえない場所からだぞ」
「わかってますって~。
ああ~緊張する~」
後輩はゆっくりと目立たぬように、
部長へと近付いていく。
そして反対方向に曲がり距離を取る。
スマホの望遠で、
部長のシュシュをピンポイントで撮影。
「どうだ?!」
「撮れました!
え~と、グラジオラス?」
「グラジオラス?
で、花言葉は?」
「待って下さいね…
【密会】【用心】【思い出】
【忘却】【勝利】です」
「ん~~。
それは…どういう感情だ?」
「全然わかりません。
僕には推理サスペンスしか、
思い浮かびませんよ」
「何だよ!
こんなに苦労して、
分からず終いかよ!」
「これは今日は止めといた方が、
得策ですかね?」
「そうだな。
今日は部長への相談は止めとこう。
あ~面倒くさっ!
何で毎日の気分を、
花言葉で表してんだよ!
オシャレに感情を盛り込むなよ~!」
「ほんとそうっすよね。
身に付けてる花を調べるだけでも、
ひと苦労なのに…。
飲み会であんな話……」
「聞かなきゃ良かった~」
「聞かなきゃ良かった~」
お疲れ様でした。