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ふたしき
2022年12月11日 17:04
私が異変に気付いたのは、夫の死体を運んでいるときだった。 月のない良い夜だった。 あたりは暗く、首から提げたペンダント式のライトが無ければ、まともに歩くこともできなかっただろう。十二月の夜気はどこまでも鋭く砥がれていて、夫の足首を掴む両手の感覚はとうに失われていた。 死体を引きずる私の進路上に現れたのは、青白く光る靄だった。ライトの光が届かない距離にもかかわらず、靄は神秘的な光を纏ってい
2022年9月11日 22:52
ある夏の昼下がりに、私は母の実家を訪れていた。一昨年に祖母が亡くなったことで無人となった家の、家財などの整理にやってきたのだった。 遺品の整理もひと段落ついたので、私は休憩をとることにした。縁側に座り、用意したコップ一杯のぬるい麦茶を一気に飲み干す。こめかみに浮かんだ汗が頬を伝い、顎先で止まって、音もなく私のもとを去っていく。紺のスカートが黒くにじんだ。 家は山奥にあるので、町中に比べれば暑