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洋上の青春を追う"海の甲子園" in 西宮

兵庫県西宮市で夏に開催される高校生の一大イベントといえば?

おそらく多くの方が阪神甲子園球場で開催されている夏の全国高校野球選手権を想像されると思います。
今年も連日続く熱い試合に感動する人も多かったのではないでしょうか?
しかし、西宮の海でも同様に高校生たちによる熱い試合が行われていました。
8月27日、28日。まだまだ残暑が続く8月の終わりに開催された"海の甲子園"、取材レポートです。

"海の甲子園"とは

"海の甲子園"、正式名称は「第12回"海の甲子園" ユースセーリングカップ2022 西宮セーリングカップ」。
少し長い名称ですが、沿革と歴史があります。
2003年に「西宮カップ」と称して始まった本大会。
2006年に第二回。その際は国体種目であるセーリングスピリット級、シーホッパーSR級に限定し、国体の練習を兼ねた全国規模の大会として開催されました。
その後も少しずつ地元の協力を得ながら規模拡大を続けている由緒ある大会です。

現在は国際420級、セーリングスピリッツ級、レーザーラジアル級の3種目で開催されている
参加は高校生が中心だが、中学生も一部参加、またオープン枠として大学生以上の参加枠も用意されている(少年=中高生・成年=オープンとしてクラス分け)。

"海の甲子園"という冠が付いたのが2009年、それまで神奈川県・葉山町にて開催されていた「海の甲子園」が終了する際に、引き継いでほしいという要望に応え、現在の名前となったそうです。
余談ですが、この年から古野電気も本大会に協賛を始めていて、現在のお付き合いとなっています。

参加艇のバウにはFURUNOのステッカー

3年ぶりに開催、大会を繋ぐ熱意

大会は兵庫県西宮市の新西宮ヨットハーバーにて開催されました。
新型コロナウィルスの影響で3年ぶりの開催。

開催前日には備品を届けに大会事務所へ伺いました。
事務所は新西宮ヨットハーバーのディンギーバース近くの建物の2F、
大きな窓からは潮風が吹き込んで気持ちいい。
「涼しくて良いでしょう」と、本大会の実行委員長でもある兵庫県セーリング連盟の山岡理事長に招き入れていただきました。

1Fはヨットなどの保管庫、海に面した開放的な事務所だ

山岡理事長「今回3年ぶりの開催ということなんですが、参加艇は例年の半分ほどになってしまいました。近頃の感染再拡大もあり、参加を見送られる学校もありましたが仕方ありません。
それでも三種目合わせて65艇、101名に参加いただきありがたいです。」

参加校は関西だけでなく、愛媛県(愛媛県セーリング連盟・愛媛県立新居浜東高等学校)や岐阜県(岐阜県立海津明誠高等学校)など遠方からも集まっており、前日からヨットハーバーに入り、練習のため海に出ている学校もおられた。

地域特有の風の傾向があるため、レース会場で練習することは重要なのだとか

大会運営側も3年ぶりということで色々と苦労もあったようです。

山岡理事長「この3年間、海の甲子園に限らず、日本中いろんな大会が開催中止になりました。そうなると大会運営側も経験が不足したり、ノウハウが継承されなくなるなど準備も大変でしたね。
例えばヨットレースは何もない海の上にブイを設置してコースを作ります。そのブイもGPSを使ったりして配置するわけですが、正確な位置に配置するのが意外と難しく結構手こずってしまっていますね(笑)」

たくさんのトランシーバーが充電され出番を待っている

大会運営も専従の方はおらず、基本的には本業の傍ら、ボランティアでやっているそう。近くの大学のヨット部員などにも協力してもらって大会準備が進められていました。

ヨットを速く走らせるために

大会2日目、観覧艇に乗船し、レースを見学。
レース会場となっているのは西宮浜沖、レース開始の30分ほど前にはすでに数えきれないほどのヨットが練習をしてました。

洋上に並ぶ選手たち

スタート5分前、4分前とホーンが鳴り、スタートライン付近に集まった選手たちが慌ただしくなります。
スタートのホーンが鳴り響くと一斉にボートが走り出す、その瞬間はなかなかの迫力があります。

スタート直後のセーリングスピリット級

なお大会2日目は非常に風が強く、スタート前後や方向転換時に沈(=横転)する艇もあった。
そんな中でもトップ艇団は器用にセールを操り、ヨットを前へ前へと進めていく。

ヨットは風を受けるとヒールと呼ばれる斜めに傾く状態となるが、基本的には左右に傾いていないフラットな状態が最も速い。
そのため選手はハイクアウト(=ヨットから身を乗り出して体重をかけヒールを戻すアクション)を行うが、その姿はなんだかとても美しくもあり、格好良さもある。これぞセーリングレースという瞬間だった。

一斉にハイクアウトするシーンはなんだか胸が熱くなる
風下方向に帆走するときはスピネーカーなど別のセールを使用することもある

山岡理事長曰く
「ヨットは風を読むスポーツ、時間帯によって変わるレース海域の風の傾向と当日の状況から、どのようにコースを取ると有利なのかを判断します。
また他の選手の動向も同時に掴む必要があります。
また突風にもうまく対応しないとコースを外れたり、沈することもあります。
セオリーの把握と現場判断、突発的な対応力が必要となるのがセーリングの醍醐味で、総合的にできる選手が好成績を残します。」
とのこと。
トップ艇がゴールラインを超えるとトップホーンと呼ばれる音響信号が鳴る。その瞬間はとても誇らしいだろうなぁ。

大会1日目は4レース、2日目は2レース開催され、レースは事故なく無事に終了。
陸に戻った後は表彰式が実施され、各種目の上位入賞者に表彰状やトロフィーが授与されました。

表彰式には石井西宮市長も出席され、選手を労う
レーザーラジアル級の中学生の優秀選手にはFURUNO賞をお渡ししています

だからセーリングは面白い

ここでも面白いと感じたのは1日目と2日目のレース結果の違いでした。
例えば一人乗りのレーザーラジアル級だと、1日目は上位に女性陣が多く名前を連ねたが、2日目は男性陣が上位入賞者が多い。
この違いは1日目は弱い風が続き、2日目は強く吹いたことも影響しているようで、風が弱い時は体重が軽い方が、逆に強い場合は重い方が有利と言われている。
おそらく強風時は体重や筋力がある方が、ハイクアウトでしっかりヨットをフラットに戻したりできるため有利なのだろう。
風を読み、戦術を駆使することで男女の差さえも埋めてしまうセーリング、
その奥深さを垣間見ました。

11月には全日本学生ヨット選手権(インカレ)が琵琶湖にて開催されることもあり、関西の学生セーリングは盛り上がりを見せている。
"海の甲子園"に出場した高校生たちも進学後はインカレに参加する選手、
そして近い将来のオリンピック代表選手になるかもしれません。
数年後また彼らに会える日が楽しみです。

執筆・撮影 高津こうづ みなと

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