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夏の河 * チェンマイ俳句毎日

【チェンマイ俳句毎日】2024年6月24日

夏の河流るる手描きの象棋盤

※象棋盤 シャンチーばん


小さな雑貨商店を営んでいる中華系の友人に会いに行ったら、番台のモニターの前で彼女のお母さんが手を前後に振る健康運動(スワイショウ)をしながら、YouTubeの動画を見ていた。

友人のお母さんはバンコクのサームイェークで生まれ育ったという。
「あの辺は、昔は中国人しか住んでなかったからね。完全に中国語で育ったから、私のタイ語は未だに訛ってるのよ」と笑う。友人はそんな母親と二人だけの時は中国語で話している。

YouTubeには、外国のチェスの試合が流れていた。画面に映っているまだ10歳くらいの西洋人の女の子はチェスの天才らしい。
そんな番組をわざわざ見ている友人親子は、もちろんチェスができるのだろうと思いきや、ルールは知らないらしい。じゃあなんでこの番組を観てるのかと私が質問する前に、「日本にもチェスってある? 」と友人が聞いてきた。日本にもチェスのような将棋があると答え、ついでに、藤井聡太棋士の画像も見せてあげた。

中国にもあるのよ、と言いながら、友人は後ろの棚からビニール袋を取り出した。業務机の上に置くと、中から丸い駒がころころと転がり出た。黒い文字と赤い文字の駒があり、「象」と書かれたものもある。中国将棋を「象棋(シャンチー)」と呼ぶ由縁らしい。

大昔のタイの戦では、象が重要な役割を担っていたというが、中国でも戦に使われていたのだろうか。そういえば、タイ語で象を「チャーン」というが、中国語の「シャン」と音が似ている。

「昔、父に教えてもらって2人で遊んでいたけど、もうすっかり忘れちゃった」
  友人はこの春に亡くなったお父さんの手書きの紙の盤を広げて、その上に丸い駒を並べはじめた。盤の真ん中には、「楚河」と達筆で書かれている。この河を「兵」は渡れるが、「象」は渡れないらしい。よほどの大河なのだろう。お父さんの紙の将棋盤には、国境としての大河が轟轟と流れているのだった。
    友人がチェスの動画を見ていた理由を聞くのをすっかり忘れていたが、もしかしたらお父さんが好きだったのかもしれないと、後からふと思った。


手前、「車」の駒を無くしキャップで代用






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