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小説(過去作品)

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大学生の時に書いた小説をリメイクしてます
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2024年6月の記事一覧

ゆくすえ(小説)最終

ゆくすえ(小説)最終

ていねいに磨き上げられた食器を、陽の光に透かした。海の底のような深い色をしたそれは、以前から気に入っていたものだった。恩田と暮らし始めたばかりのころ、工房を何軒もまわったのちに買ったものだ。秋の光が穏やかに射して、めるろのこめかみを照らした。窓の外に視線を向ける。きらきらと輝く河川が、遠くまでいちめんに広がっているのが見える。
 新しい部屋には、何もなかった。たいていのものは以前の家で処分を

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ゆくすえ(小説)4

ゆくすえ(小説)4

「殺してやりたい」
 と思った。思ったけれども、この思いをどこに向ければ良いのか、わからなかった。手がかりがなかった。相手に心当たりはない、と言い切られてしまったので、それ以上を聞き出すことができなかったのだ。鬱屈とした黒い塊が喉元まで迫ってくるように感じた。研究をしていても、アルバイトをしていても、その塊は離れない。怒りとよく似ているが、等しくはない。言葉として当てはめるならば、失望や徒労の感覚

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ゆくすえ(小説)3

ゆくすえ(小説)3

(強姦の描写があるため最終段落のみ有料にしています)

恩田の身体に触れているとき、陽を注がれた植物のように、自らの身体がしなやかに伸びていくのを、めるろは感じる。この身体は正直で、それでいてどこまでも続いていく。とどまることを知らない。すみずみまで広がってゆく。もちろんそれは比喩だけれども、恩田との生活が長いものになってくると、めるろはつくづくそう感じないわけにはいかなかった。この男の部屋中

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ゆくすえ(小説)2

ゆくすえ(小説)2

電気ケトルで尿を沸かす輩がいるらしいぜ。
 鍛えられた身体を姿見に写しながら、男が言った。ごうごうと回る換気扇。安っぽく繰り返されるピアノの旋律。めるろは黙って寝返りをうち、自身の性器に指をあてがう。分泌液はとうに乾いている。固まった陰毛を右手の親指と人差し指でほぐし、そっと鼻に持っていくと、蜜のような、甘やかな香りが広がった。きたない、と口に出す。男はそれがケトルの話だと思ったのか、とんでも

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