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宙づりのまま

 曖昧な状態を保ち続ける能力。

 なにかを解決したり成し遂げたりするのではなく、これまで「能力」とすら認められることのなかったネガティブな能力……
このことを「ネガティブ・ケイパビリティ」というらしい。

・どうにも答えの出ない、対処しようのない事態に耐える能力
・性急に証明や理由を求めずに、不確実さや不思議さ、懐疑の中にいることができる能力

 作家で精神科医でもある帚木蓬生氏が、このことを本に書かれていて、興味深かったので少し紹介したいと思います。

 わたしたちはつい性急に、白黒はっきりした答えや結果が欲しくなりますが、現実は曖昧で矛盾に満ちており、それらを簡単に手に入れることはできません。特に今は疫病や多くの社会問題等、将来への不安とともに、その傾向が増しています。この能力を強く意識して生きていくことが、もしかしたら将来ひとつのスタンダードになっているかもしれません。なにかを成し遂げたり解決したりする能力を主軸にしすぎないことが、今後求められていくのではないでしょうか。

 また、この能力は創作する上でもとても重要なことだと思います。まさにはっきりした答えがないのが創作です。矛盾して混沌とした感情や、自分であって自分でないような感覚、先がどうなるのか分からない状態で、ひたすら作品として沈殿するのを待つこと。そしてようやくできた作品の評価の基準は、自他ともにどこか曖昧さは拭えない。これは「ネガティブ・ケイパビリティ」そのものではないでしょうか。
 本の中で書かれていますが、この言葉を最初に用いたのは200年前、英国のキーツという詩人だったというのも大いにうなずけます。創造性と密接に関わっている能力でもあるのです。

.....私たちの人生や社会は、どうにも変えられない、とりつくすべもない事柄に満ち満ちています。むしろそのほうが、分かりやすかったり処理しやすい事象よりも多いのではないでしょうか。
だからこそ、ネガティブ・ケイパビリティが重要になってくるのです。私自身、この能力を知って以来、生きるすべも、精神科医という職業生活も、作家としての創作行為も、随分楽になりました。いわば、ふんばる力がついたのです。それほどこの能力は底力を持っています。

『ネガティブ・ケイパビリティ  答えの出ない事態に耐える力』(朝日選書)   帚木蓬生 著


 この本は、奈良・大和郡山の書店「とほん」さんで、偶然出会い、購入しました。私事ですが、八月末にわたしは自分の詩集を出し、その原画展の打ち合わせで立ち寄った時のことです。そこに書かれていたことは、詩集のあとがきに苦心して書こうとしたことの核心を突かれたように思いました。勝手に運命めいたものを感じて、鳥肌が立ったのをおぼえています。興味を持たれた方はぜひ、読んでみてください。


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・詩集 原画展



・詩集『静けさを水に、かきまわす』


古井フラ WEBサイト https://furufura.com

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