【名作文学】トルストイ『戦争と平和』あらすじと解説

『戦争と平和』は、レフ・トルストイが1865年から1869年にかけて発表した長編小説です。

19世紀前半のナポレオン戦争時代を舞台に、ロシア貴族の3つの一族(ボルコンスキー家、ベズーホフ家、ロストフ家)の興亡を中心に描き、ピエール・ベズーホフとナターシャ・ロストフの恋と新しい時代への目覚めを点描しながら綴った群像小説です。

登場人物は559人に上り、歴史上の実在の人物とトルストイの創作による人物が入り混じっています。本文はロシア語とフランス語の両方で書かれており、フランス語はロシア社交界の雰囲気や反仏感情の変化を表しています。

本作は世界文学の最高傑作の一つとして広く評価されており、トルストイ自身も「自分の最高の作品」と語っています。

あらすじ

物語は1805年から1813年にかけての8年間を描いています。ナポレオン率いるフランス軍の脅威が高まり、ロシアには不安が渦巻いている。そんな中で物語が始まります。

優柔不断な億万長者ピエールは相続により大貴族べズーホフ家の当主となります。社交界の華で絶世の美女のエレナと結婚しますが、彼女の目的はピエールの財産。エレナはピエールには振り向かず、自由奔放に遊び歩き回ります。そんなエレナとドーロホフの不義の噂を耳にしたピエールは、銃の扱いも知らないくせにドーロホフに決闘を申し込む。ところがまぐれが起こり、なんとピエールは勝ってしまう。しかし妻エレナとの仲はますます冷え込むことになります。

軍人としての向上心の強いアンドレイは、アウステルリッツに参戦。しかし戦いは破れ、アンドレイはナポレオンの捕虜になり挫折します。妻リーザは息子を出産するのと同時に死亡。アンドレイは厭世的になりますが、ナターシャに出会うことで希望を取り戻します。二人は婚約しますが、アナトールにたぶらかされてナターシャはアンドレイを裏切ってしまいます。アンドレイは傷心のまま軍に戻り、ボロジノの会戦で瀕死の重傷を負います。

ナターシャは自分の過ちに深く悔い、アンドレイの看病に尽くしますが、アンドレイは死んでしまいます。その後、ピエールと再会することでナターシャは新たな愛を見つけます。ピエールはエレナの死後、フランス軍の捕虜となりますが、ドーロホフに救われます。ピエールは戦争の悲惨さと人間の尊厳を知り、ナターシャと結ばれます。

物語は1813年の春に終わります。ピエールとナターシャは結婚し、幸せな家庭を築きます。アンドレイの妹マリアはナターシャの兄ニコライと結婚し、アンドレイの息子を育てます。ロシアはナポレオンの侵略から解放され、新しい時代が始まります。

特徴

『戦争と平和』の特徴は、以下のように挙げられます。

  • 歴史的事実と創作の融合:トルストイは、当時の史料や証言をもとに、ナポレオン戦争の詳細な描写を行っています。しかし、彼は単に歴史を再現するのではなく、自分の哲学や思想を織り込んでいます。例えば、彼は戦争の原因や結果を個人の英雄的な行動や決断によるものではなく、無数の偶然や必然の積み重ねによるものとしています。また、彼は戦争の悲惨さや残酷さを隠さずに描き、戦争に対する批判的な姿勢を示しています。

  • 貴族社会と民衆の対比:トルストイは、貴族社会と民衆の生活や価値観の違いを対比させています。貴族社会はフランス文化に影響されており、華やかで洗練されていますが、同時に退廃的で虚飾的です。一方、民衆はロシアの伝統や宗教に根ざしており、質素で素朴ですが、同時に生命力や情熱に満ちています。トルストイは、貴族社会の崩壊と民衆の台頭を描き、ロシアの民族性を讃えています。

  • 人間の成長と変化:トルストイは、主人公たちの人間的な成長と変化を描いています。ピエールは、億万長者から捕虜になり、戦争の現実と向き合うことで、自分の人生の意味や目的を見つけます。アンドレイは、戦争の挫折や家族の死、恋の失敗を経験することで、自分の傲慢さや偏見を捨て、人間の本質や愛の価値を知ります。ナターシャは、若さや美しさに酔っていたことで、アンドレイを裏切る過ちを犯しますが、その後、自分の罪を悔い、アンドレイの看病に尽くすことで、自分の心の深さや強さを発見します。

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