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偏愛日記【銀座と銀鮭】


2019年師走。

社会人一年目、初めての連続休暇。
卒業旅行で貯めたJALマイルで熊本−羽田の往復航空券を手に入れた私は、休暇初日午前の便で羽田へ飛んだ。


いつもはLCCを利用するので必然的に成田着が多いのだが、改めて羽田の便利さを痛感する。京急で東銀座まで乗り換えなしは有難い。

東銀座駅を降りると、歌舞伎座のお土産屋がお出迎え。十二月大歌舞伎のポスターを横目にエスカレーターを登ってゆくと地上へでる。
この時は市川中車(香川照之)も出演するとあって、観に行くか悩んだのだが結局辞めている。

東銀座には随分お世話になった。

2018年、就活生の私は歌舞伎座裏の某出版社を第一志望としていた。残念な結果に終わったのだが、未練がましい私は、それから幾度か東京へ行く際には必ず東銀座を訪れていたのだ。

面接前は万年橋横の『喫茶室ルノアール』に
筆記試験前は目の前の『ドトール・コーヒー』。
旅行で訪れた際には『喫茶YOU』のオムライス、『パリのワイン食堂』に至っては真横である。

成田へ戻る際にも『アメリカン』の卵サンドをだけを買いにわざわざ寄り道をしたくらいだ。
手を汚さずして食べられない愛すべき代物である。

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そんな東銀座にまたしてもやってきた。
いつも通り某出版社の周りをグルりと一周。
時刻は午前10時半。11時開店の『魚竹』を待つ。

『魚竹』を知るきっかけとなったのは、私の目標としている編集者・岡本仁さんのインスタグラムだ。岡本さんの店選びはどれも私の好みにド直球にハマる。『魚竹』も例外では無く、何度も登場しているとあって今回の東京旅行の1番の目的となっていた。

開店まで30分。長い。店の周りブロックを何周しただろうか。メガバンク支店内の待合室で同業者として眺めたり。

5分前、ようやく店の看板の準備がされ、二、三人が並び出す。店に急ぐ。

趣のある外観、好きだ。

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開店。

ガラリと戸を開けると奥に続く細長いカウンター。手前の席に腰掛け、オーダーを待つ。
年季が入っているが綺麗に手入れされた店内は心地良い。


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メニューは心の中で決まっていた。
『銀鮭定食 鮪の中落ちセット』¥1,400。

スムーズに注文を終えると、手際良く準備がされていく。11時10分頃には徐々に席も埋まってきた。大将が常連と挨拶を交わす。こういう店の常連になりたいものだ。

目の前で炭火に炙られる銀鮭を眺めていると、あっという間に用意が整った。

ご対面。

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瑞々しく、でっぷりとした身。
たまに定食屋で干物並みに細くカチカチの鮭が出てくることがある。あれには怒りを覚えるがここのは大違いだ。
こんもり盛られた中落ちにワカメの酢の物。寒空の下、冷えた身体を白葱の味噌汁で温める。

箸を入れると見た目通り、良い塩梅に乗った脂でほぐれる身。炭火の力は偉大だ。良質な鮭の脂と炭の香ばしさ、カリッとした皮までもが一体となり完成される。

とても白飯が足りない。鮭の身だけで2杯平らげてしまった。
残る中落ち。これも罪深い。
さらに白飯小盛りを頼んで、胃に葬り去った。

ここまで15分。あっという間の15分。
演劇を見終わったかの様な充実感。
店の外には行列。
長く居座るのも不躾なのでそそくさと会計を済ませて店を出る。

余韻に浸りながら次の目的地、中野へと向かった。

2019年12月3日 in Ginza.


p.s 後日、私は『魚竹』の後遺症に悩まされることになった。
アルバイト先の食堂で毎回鮭の切り身が出されるのだが、これまで普通に食べれていたものが、全く食べられなくなってしまった。

自宅でもあの手この手で『魚竹』に近づけようと試みたが、瑞々しさはあっても炭火の香りには到底及ばない。素材も然りだ。

止まるところを見せないコロナだが、またいつの日か『魚竹』に行かんことを。








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