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ドラマ『うきわ ―友達以上、不倫未満―』初回感想/2人が見出す光と答えを知りたい

不倫ドラマといえば煽るような劇伴をバックにドロドロとした関係性がジェットコースターのように浮き沈みを持って展開されるのがお決まりだ。

そのてのドラマを最後に見たのはいつだろうと思い返すと、水野美紀や松本まりかの怪演が鮮明に蘇ってきた。男はいつだって優柔不断で自律性が乏しく、見ていてイライラするような役どころ。

8月9日にスタートしたテレビ東京の新ドラマ、『うきわ ―友達以上、不倫未満―』からはちょっと異色の雰囲気が漂う。原作を読んでいないので先入観もなければ先々のストーリーも知らない。

ただ初回を見た時点で、これまでの不倫ドラマとは色んな意味で様子の違う兆候が見られた。それは個人的には心地の良い違和だった。

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美しい映像と親和性の高い音楽

まずドラマにしては映像がとても美麗。色味も細やかながら、トーンは落ち着いていて見やすい。主演が邦画に引っ張りだこの門脇麦ちゃんというのもあって、いささか映画のようなクオリティ。大袈裟に煽るようなやかましい劇伴がBGMを占めることもない。オープニングに流れる安藤裕子の曲も世界観に合っていて、視聴者は演者のセリフや空気感にしっとりと没入できる。

ドラマの見どころは2人のリアクション

テーマは不倫や浮気といった男女関係ならではの微妙な線引きとそこからの逸脱を描き、秘密と詮索、葛藤と倒錯を予感させる。そのあたりは普遍的だが、本作の見どころは"浮気をされる"主人公の麻衣子(門脇麦)と隣人の二葉(森山直太朗)、この2人の立ち振る舞いにありそうなのだ。

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2人は社宅の隣人同士。この社宅という舞台設定が絶妙に生々しい。支社のある広島から上京してきた麻衣子たち夫婦の隣が二葉たち夫婦だった。玄関でのちょっとした挨拶やベランダの壁一枚を隔てた会話をしたことで、麻衣子と二葉は徐々に距離が縮まる。初回に早くも麻衣子が旦那の浮気に気付く瞬間が描かれ、二葉は二葉で妻の不倫現場を目撃するシーンが描かれた。

第1話を見る限り麻衣子は純粋で、ちょっと天然も入った鈍感な人柄。これまでも平々凡々に生きてきた、自称“可もなく不可もない”女性のようだ。そんな麻衣子が夫のスマホを偶然手に取り、浮気相手からのメッセージを見てしまって動揺する場面で第1話はエンディングとなった。

ちなみにメッセージ相手の名前は【車修理110番】と表示されていた。この大学生レベルの偽装工作を施す旦那の精神性が行為そのものよりも軽蔑に値するが、なかなか笑えるポイントではあったと思う。それは旦那役・大東駿介の「こいつならやりかねない」と思わせる説得力満点のお芝居による賜物だろう。

明らかに動揺する様子の麻衣子だったが、彼女のキャラクター的にヒステリックになることも強い怒気を旦那や浮気相手に向けることも想像できない。つまり真っ向から復讐やバトルを挑むタイプではなさそうなのが本作の主人公であり、彼女の今後のリアクションこそがドラマの見どころだと言えそうなのだ。

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それは二葉に関しても同様で、二葉は妻が通う陶芸教室にて妻(西田尚美)と先生(田中樹)の逢瀬を離れた車の中で目撃するが、その瞬間に怒り狂って問い詰めに出て行くようなことはしなかった。男なら怒りに任せてそんな行動に出てもおかしくないのに。なんなら以前から気付いていた様子だし、どこか諦めや淋しさすらこぼれる表情をしていた。

二葉はひとり帰宅後、妻の陶芸作品を床に叩き割ろうとするシーンもあったため、憤りや悔しい感情を持っているのは間違いないが、なにやらそこにも複雑な心境や事情が潜んでいそうだった。

この麻衣子と二葉、それぞれ不倫のいわば被害者である2人が、壁1枚隔てたベランダで心を通わせるとき、何が生まれるのだろうか。公式ホームページのイントロダクションにはこうある。

夫の浮気を見て見ぬふりしていた“私”にとってお隣に住むあなたが差し伸べてくれた手は浮き輪みたいだったー。

そしてこうも続く。

不倫―。それは決して許されない不貞行為。
しかし、信じていた人に裏切られた時、立ち上がれなくなった時、手を伸ばした先にある救いがそれだけだったらー。

誰かの手を浮き輪代わりにしなくてはどうしても這い上がることができないとき、心許せる誰かの声やぬくもりをシュノーケル代わりにすることでしか息もできないとき、それに頼ることは同罪にあたるのだろうか。あるいは2人が手を握り合って支え合うことは不文律になるのか。

不倫がかつてないほど糾弾されるこの時代において、麻衣子や二葉が見出す光や答えがなんなのかとても気になる。

門脇麦の魅力

僕は門脇麦の大ファンなので、最後に彼女についても言及しておくと、今回の役柄めちゃくちゃ好きです。めっちゃかわいい。なにあの広島弁。なにあのエプロン姿。おかずが買ってきた惣菜なのバレたくないからって慌てて隠したり。隣のベランダで通話してる二葉の会話に自分が話し掛けられてると勘違いして話し出したり。なにあの天然っぷり。パジャマでゴミ出しするし。二葉に鉢合わせたら動揺して背を向けるし。おまけにすっぴん見られたくないのか髪で顔隠して歩き出すし。

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初々しい新妻役がこれまで見たことありそうで見たことなかった麦ちゃんだった。彼女は雰囲気に生活感があるから、それがドラマに生っぽさを与えて世界観をナチュラルにさせる。どんな役でも身近にいそうだと説得力を持たせられる。作品そのものを地に足つけさせるというか、とにかく邪魔をしない。傷つく芝居とか本音を内に秘めた役柄とかも抜群にうまい。

ちょっと絶賛しきりなんだけど、好きな役者さん相手だとこうなるよね。

SixTONESのファンだって田中樹が出てきただけでギャーーって実況してたでしょ。気持ち分かるよ。でもさすがにドラマタイトルより陶芸教室をトレンドにしてしまうのはどうかと思うが笑

SixTONES田中樹、セリフなしでも存在感「色気ありすぎ」「見れば見るほど沼」と反響

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首すじと胸もとのエロさ、たゆんだエプロン、大きな口とニカっとした笑顔はたしかに色気あんね

麻衣子と二葉の2人以外にも、この田宮(田中樹)と二葉の妻・聖(西田尚美)の関係性や深入り具合も気になるし、大東駿輔と蓮佛美沙子が織りなす不倫の果ても見届けたくなる。麦ちゃんがパートを始めたクリーニング屋の男の子(高橋文哉)と、社内で二葉に小言を言いつつ慕ってる様子の部下(小西桜子)も癒しの存在で良い。

初っ端からテンポの良さも最高だったので第2話も期待したい。


最後の最後に、不倫をテーマと聞いて思い出した過去のドラマからの名言を2つほどご紹介。

あなたは大きな誤解をしている。相手が既婚者だった時点で、それは運命の人じゃないのよ
『若者たち』(2014)

悲しいとかじゃないの、苦しいとかじゃないの。だって、負けてるんだもん。「浮気はやめて」とか、「嘘はやめて」とか、負けてる方は正しいことばっかり言って責めちゃうんだよ。正しいことしか言えなくなるんだよ。正しいことしか言えなくなると、自分がバカみたいに思えるんだよ。
『最高の離婚』(2013)

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