猫の里親になった話①レオンとの出会い
私は猫を飼っている。名前はレオン。3歳と1ヶ月になるオスのペルシャだ。飼い始めたのは今から半年ほど前の2021年2月。念願の戸建てを購入し、夫と「そろそろ私たちも猫を飼いたいね。」と話しながら、ペットショップのサイトを眺めていた。
ある日、たまたま里親募集ページで夫がこの子を発見した。私は様々な経緯があって、長毛種の猫を特に好んでいる。大好きなペルシャ猫がなんと車で10分ほどの距離にあるペットショップで里親募集しているではないか。これを運命と言わず何にロマンティックを覚えようか。
「猫を飼うのは赤ちゃんを育てるのと同じ。責任がある。簡単な気持ちで飼うのは辞めなさい。」
そう母に何度もたしなめられた。東京で自分一人生きていくことが精一杯だった20代は、その言葉を飲み込むしかなかった。だけど私は心の底から猫が好きなので、諦める選択は到底できなかった。猫を飼う夢のために、この数十年間まさに死に物狂いで努力してきた。猫の母親になるために必要な要素、経済力、広い家、車を用意して、猫を飼育するための基礎知識をコツコツと培っていった。そして今は私個人でも4人家族くらい養える年収がある。しかもフルテレワークが許されている。念願の持ち家がある。猫好きの優しい夫と暮らしている。近くには夫の両親も住んでいる。実家の母は猫飼いのベテランだ。やっと両手を広げて猫を迎え入れられる。準備万端。もう躊躇う必要はない。居てもたってもいられずその日に店へ向かって猫に会いに行った。
たくさんの子犬がクリアケージの中で展示されてキャンキャン賑やかに鳴き声が響き渡る店内の片隅に、顔を汚して、虚ろな目をした猫がいた。それがレオンになる子だった。
30万〜40万円で販売される子猫や子犬の中で、レオンを含めた成猫が数匹、それぞれの事情で里親を募集していた。他の子達はみんな、どうしてここにいるんだろう?とキョトン顔で、それなりに今の生活を過ごしているようだったが、レオンは明らかに生気が抜けていた。
もういいんだ俺は・・・
そんなセリフが聞こえてきそうだった。ああ、やっぱりだ。長毛種の子は、少し他の猫と違う。良くも悪くも悲しくも、ペルシャは賢いのだ。やはりこの子も、自分の置かれた立場がそれなりに分かっているようだった。半ばニャン生を諦めかけていたに違いない。
憂いを帯びた表情からこの子はまあまあお年なのかな?と思ったら、まだ2歳らしい。ブリーダーから遺棄されたといういきさつでここにいた。私と夫はそっと話しかけた。「こんにちは。」「元気?」レオンになる子ははじめは反応を示さなかったが、私たちの指をくんくん嗅ぐと、突然、ケージに手をかけ、ガシャンガシャンと登り始めた。驚くほど力強いクライミングだった。私は安堵した。この子はまだ生きる気力がある。未来を諦めてない。会う前からほぼ決めていたけど、あらためて引き取る決意をした。その日は最後の健康診断の結果待ちということで、いったん家路に着いた。待つこと数日。もう大丈夫だと店員さんから連絡が来たその日にまた夫と二人で車をすっ飛ばし、手続きを済ませ、レオンになる子をさらうように連れて帰った。2月末なので凍えるような寒い夜だった。
ここはどこだにゃ?
キャリーケースから出てきたレオンになる子は大きな目を見開いて部屋を見渡していた。「いらっしゃ〜い。今日からここで一緒に暮らすんだよ。」猫撫で声を出して歓迎のあいさつをしたけど、見知らぬ場所に連れてこられた猫は、とにかく部屋中をウロウロと歩き回っていた。しかしさほと怯えた様子はなかったので、とりあえず水とエサとトイレの場所を伝えて、その日は早めに寝た。レオンになる子はおどおどしながら、私の近くのローテーブルの下で眠っていた。
レオンは体の小さい子だった。成猫だけど、引き取った当時は2.9kgほどしか体重がなかった。幼い顔つきをしているので、一見子猫のようだった。警戒心は強いけど、好奇心も同じくらい強く、ドキドキワクワクしながら家中を探検して、すぐに新しい環境に慣れてくれた。トイレもその日に覚えたし、手から餌も食べてくれた。ペットショップで見せてくれたクライミングから感じた通り、勇敢さを持ち合わせている子だった。テーブルの上に凛々しく立ってる姿は、百獣の王のミニチュアのようだった。
「僕は大きくなったらライオンになるんだ。」
そんな気概を感じたので、ライオン(LION)にちなんで、レオンと名付けた。白猫としてはオーソドックスな名前だけど、この子にピッタリだと思った。
そうして長年の心願成就となる飼い猫との共同生活が始まった。
②へつづく。
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