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いつかの私とすれ違う

「仕事で必要だったから免許は取ったけど、運転だけはどうしても苦手で」
「え、私もだよ」
「距離感覚が掴めないんだと思う」
「……もしかして、球技も苦手?」
「うん。え、ここまでくるとさすがに怖いね」

七月末、instagramにとんでもなく長文の通知が届いた。なんだなんだ、と思って開いてみたら、学生時代にfacebookでつながった女の人が、たまたま私のinstagramにたどり着き、「あの時の子だ!」と思って投稿を見てくれていたらしい。

「一方的に長文を送りつけて、こわいよな、、と思います。本当にすみません。証拠写真(?)を一応送ります」というメッセージに、私が彼女のfacebookの投稿にコメントをしているスクショが添えられていた。さすがにまっっったく覚えていない。でも、内容を見ると学生時代に私が参加していたインターンシップに、私の次の年に参加していた人らしい。

いつか長野に行きたいと思っている。会いに行ってもいいか、と続けて連絡がきて、「タイミング合えばお話しましょう〜」と返す。それからしばらくして、8月末にくると連絡があった。そして今日、会いに行ってみた。

待ち合わせ場所のバーバラに行くと、女性が一人座っていた。DMをくれた人は、顔がわかる投稿をしていなかったのでその人なのかわからない。私に気づいて、「あっ」という顔をしたので、この人なのか、と思って向かいの席に座る。顔を見ても何も思い出せないので、「あの、私たち、実際にお会いしたことって」と聞く。「ない、と思います。facebookのコメント上でやり取りをしたことはあるけど……」と返される。

私が参加していたのは、飛騨高山の酒蔵が募集していたプログラムで、彼女が参加してしていたのは飛騨古川のゲストハウスのプログラムだった。そういえば、「私の参加した年にここの募集があればこっちに参加したな〜」と思ったことを思い出す。(もちろん、酒蔵のインターンも楽しかった)それで気になってfacebookにコメントしたのか。

今は地元の福岡で働いているという彼女は、私が以前働いていた長野のゲストハウスの投稿をたまたま見かけ、そこから私の投稿を追ってくれていたらしい。

会うまでお互いの年齢も知らなかったけれど、同い歳だとわかった。インターンの話から、お互いのこれまでの話をぽつぽつと話していく。

子供のころから母親の影響で国際交流に関心があり、高校生のころに海外でホームステイを経験。息苦しい中高の学生生活の中で、英語を勉強することが救いで、外国語の勉強ができる大学に進学する。学生時代にゲストハウスが好きになり、国内を旅する。その流れで高山・古川のインターンに参加。就活に疲れ、最初に内定が出た地方のメーカーに就職する。「営業職」の募集で入社したはずが、実際は日々の受発注をこなす事務作業。部署の人数は数人のみで、上司が合わずに病む。でも、会社がきっかけで出会えた大切な友人がおり、入社したことは後悔していない、というよりそう自分に言い聞かせないとやっていられない……。

お互いの話を聞いては、「え、私も」「待って、その話、私も一緒」というリアクションが続く。あまりにも。もちろん、まったく同じ経験なんてありえないわけだけど、それにしても枠組みがあまりに似通っている。雑談中の、「運転が苦手、運動も苦手、特に球技」という話まで一緒で、「ここまでくるとさすがに怖いね」と苦笑いする。

転職を考えていた時期まで一緒で、彼女が今働いている会社の名前を聞いた転職活動中に応募を考えていたところだった。そちらへ応募する前に、長野のゲストハウスでの仕事が決まり、私は長野にやってきた。

なんで福岡から長野まで会いに来ようと思ってくれたのか不思議だったけれど、共鳴する部分がこんなにもあったのか。でもこれは、会って話さないとわからなかった。

帰り際、道が別れるまで少しだけ並んで歩いた。「もっと話を聞いてみたいけど、なんだか怖い気がするし、もっと話したいくらいでちょうどいいのかも」と言われて、たしかになと思う。「またね!」と手を振って交差点で別れる。私が彼女のfacebookにコメントしたのは、2016年の9月。6年も前だ。もう会わないかもしれないし、また何かがつながって会うかもしれない。でも、会いにきてくれた人には会いに行きたいな。好きなまちで暮らして、好きな仕事をしている彼女に。




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