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「君はずっと僕に興味がなかったよね」-聞くことと書くことの話

2019年の11月、2年付き合った恋人と別れた。最後に言われた一言が、「風音ちゃんはずっと僕に興味がなかったよね」だった。

別れに至ったきっかけの一つは彼の二股だったので、ひでぇ捨て台詞だな、と大して真に受けなかった。それから数ヶ月後、親しくなり始めた人に、また「風音ちゃんって僕に興味ない?」と言われた。

私の家で、夕飯を食べたあとだった。私がなにか話し終わって、彼が話し始めたタイミングで、私は「うんうん」と相づちを打ちながら皿を重ねてシンクに持っていった。彼がついてきて、「風音ちゃん」と両肩に手を置かれた。「気を悪くしないでほしいんだけど、僕の話そんな興味ない?お皿を片付けるの、今じゃなきゃだめかな」

親友に、軽い気持ちでその話をした。彼女のリアクションは「え、自覚ないの?」だった。

「風音ちゃん、人の話聞いてないこと多いじゃん。携帯いじるか生返事するか、「え、今何の話してた?」とか平気で言うでしょ。それでも友だちが多いから、短所として開き直って、人の話を聞かないところを含めて好きになってくれる人間を選んでるんだと思ってたよ」

それから程なくして2020年の1月1日。親しくなり始めた人に、LINEで「僕はとってもいい人だからね」と言われ、「そうだね」と答えたら、「そうじゃないかもしれないよ」と返された。「なんで?」と聞くと、「君は僕のことをよく知らないでしょう」と言われた。

「君みたいな、すごく興味深くて、でも全く僕に興味ない人に初めて会った。時々すごく困惑する」

「好意がありそうな振る舞いはするけど、関心が伴ってないように感じてちょっと怖い」

「ふと、僕について君が知っていることのほとんどは、君が尋ねたことじゃなくて僕が話したことだって感じたんだ。だから、君って僕のこれまでの話とか、考えに興味があるのか不安になって。きっとあるはずだとは思うんだけれど」

私は彼のことが好きだった。ここでようやく、元彼が言っていた「僕に興味がなかったよね」は本当のことだったのか? と気づく。好意と関心って、普通はイコールのはずなのに、関心が欠けてる?

とりあえず質問するクセをつけたらいいのか、と思い、テプラで"How about you?"と書いたシールを作って携帯に貼ってみた。

3月。「質問ってね、携帯にシールが貼ってあるからってすることじゃないんだよ。もっと根本的な関心から起こるはずで」と、言われて、最終的には「君にとって、僕に感情があったり問題を抱えていることって煩わしい?」とまで言わせてしまった。

また親友と話した。わたしの部屋だったか、彼女の部屋だったのかもう覚えていない。彼女の大きい両目が私を見ていたことだけを覚えている。

彼女は「本当に興味があって知りたいと思えば自然とすると思うんだよ。だから興味のないことに興味を持つとか知ろうとするって相当労力使うと思うのよね」

「ふねちゃんは、人への興味の示し方がわからないだけなのか、そもそも関心がないのか、どっち?」

「そもそもないなら、どうにも出来ないよ。でも、やり方がわからないなら付き合う。変わる意思があるなら。どうする?」と聞かれた。

「やり方がわからない」

と答えた。嘘だった。3月のライオンで、「将棋は好きかい?」と聞かれた零くんが、「はい」と嘘をついたシーンを思い出した。

正直、わからなかった。全然わからなかった。自分はそもそも人に関心が無いのか。無いんじゃないか。でも、25年気づけなかった私の欠陥に、これだけ向き合ってくれる人はこの先現れないかもしれない。私は、嘘をついて、彼女に甘えた。

「直したいから、手伝ってほしい」

親友は、「いいよ」と言ってくれた。そして本当に付き合ってくれた。私が携帯を触りだしたら止めて、話の途中で「今何の話してたか言ってみて?」と聞いて、生返事をしたりオウム返しをはじめたら、「ほら、またやってるよ」と教えてくれた。彼女は「なんでなんで星人」を自称していて、質問がうまかった。彼女の質問の仕方を真似して覚えた。

相手の目をなるべく見て話を聞く。名前を会話の端々で呼ぶ。身体を向ける。話を遮らない。形だけでも関心を示そうと思って色々調べては試した。だんだん自然にできるようになった、と思う。

この人は話を聞くのがうまいな、と感じる人に会うと、悔しいなぁと感じた。この人は元からこうなんだろうか。努力したんだろうか。自然に見える。私に関心を持っているみたいに見える。私もこれがやりたい。こうなりたい。できる限り、技を盗もうと思って相槌の仕方や質問のし方をメモしておいて真似してみたりした。

それが回り回って、今ではライターとして仕事を貰うようになり、人の話を聞いて、文字にして、お金をもらっている。人の話が聞けなくて、あだ名が「ザル」だった私が。

ライターの仕事が決まったとき、親友に感謝の連絡をしたら、「ふねちゃんのもともとの優しさに、対話能力が加わって最強じゃない? 誇らしいよ」と言ってくれた。変わろうとしたのはあなたの意志だから、私何もしてないよ、と言われる。そんなことはない。一生かけて恩を返したい。

今でも正直、人に興味関心があるのかわからない。スキルはなんとか身についたと思う。たまに、相手の口から出た言葉が宝石みたいに感じることがある。あ、これきっと本心から出たのかも。そういうとき、うれしく感じる。でもそれは、引き出せたことがうれしいのか、その人のことを知れてうれしいのかわからない。たぶんずっとわからないんだと思う。


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