「どうやって終電逃させようか迷ってる」−沼の話
【5人目】
Mさん(23)
沼と出会ったきっかけ:マッチングアプリ
沼期間:半年
あたし自分から踊れるようになった
沼、楽しかったよ。もう興味ないし縁切ってるけど。誰よりも心配してくれて、誰よりも早く帰るバンドマン。普段は呼んでも来てくれないのに、あたしがほんとにだめな時は絶対会いに来てくれた。
「手のひらで踊らされる」って言い方あるじゃん。沼のおかけで、あたし自分から踊れるようになった!沼がいなかったら、自分のことこんなに客観視できるようにならなかったと思う。
黒髪マッシュ!バンドマンだ!!
沼は、短大2年の秋にマッチングアプリで知り合った人。だぼだぼの白ティー、黒髪マッシュでギターしょってるプロフィール画像で、雰囲気しかわからなかったけど、バンドマンだ!わーい!ってアガった。バンドマン大好きだったんだぁ。歳はたしか3つ上だったかな。あたしそのときアカウント名、自分の名前から一文字取って「ま」にしてたんだけど、沼のアカウント名も「ま」だったな。てきとーだよね、どっちも。
マッチしてからは、メッセージのやりとりしばらくしてからLINE交換して電話とかしてた。一番最初に電話したときのこと覚えてる!バイト終わりの22時くらい、帰り道に電話したの。「はじめまして〜。Mちゃんは何してる人?」って聞かれて、「短大生で、今はバイト終わりです」って答えたら、「俺バンドやってるんだけどさ。ごめんね、夢見てる人で」って言われた。バンドマンってさ、スカしてる人多いじゃん?この人、自分でしっかり夢見てるって言っちゃうんだ!ってびっくりした。
待ち合わせはハチ公前。
ちょうど沼とマッチしたあたり、短大のプログラムでニューヨーク研修があったんだ。それが終わってから会おうって言ってたんだけど、沼が「どうしても会いたい、行く前に会おう」っていうから会うことにしたの。
待ち合わせは夜22時の渋谷ハチ公前。バンドマンみたいな人いっぱいいるし、わかるかなぁってちょっと不安だったんだけど、沼が目の前にすっと現れて、「Mちゃんだよね?行くよ」って勝手に歩き出した。もうほんとにザ・バンドマン!!想像してたよりイケメンではなかったし、背が高いんだろうなって期待してたら思ったより顔の位置があたしと一緒。シンプルに雰囲気イケメン。
「どうやって終電逃させようか迷ってる」
そこから居酒屋行って飲んで、だらだら渋谷を歩いて2周した。ホテル街も通ったけど、「いっぱいホテルあるね〜」って言い合っただけでそういう空気にはならなくて。歩き回るのも飽きて、そこら中に吸い殻が落ちてる汚ねぇ渋谷の駐車場の縁石の上に並んで座った。
あたしは絶対早く帰るって思ってた。もうそろそろいかないと終電間に合わないって時間に座りこんじゃったから、「どうする?」ってる聞いたら「うーん」って言われて。「なに、あたし帰るよ」って言ったら、沼がこっち見て、「どうやって終電逃させようか迷ってる」って笑ったの!あたしはもうそれ言われた瞬間に「いいよ、終電逃しても」って言っちゃった。
そこからコンビニ一緒に行った。「好きなお酒とかお菓子買っていいよ」って言ってくれて、ずっと優しかったな。それで結局1時くらいにホテル入ったんだけど、なかなか手を出してこなかったの。一緒にタバコ吸ったり、おやつ食べながらお酒飲んでゴロゴロ。今まで遊んだ人って、そもそもいきなりホテル直行が多かったんだよね。だから、全然こないじゃん……?と思い始めたあたりで急にガバって襲ってきて。うわぁ〜!もう沼の始まり。
最初は「こんなもんか」って思ってたのに、どんどんフィルターがかかっていってめちゃめちゃかっこよく見えてたな。もう途中からは「しゅきしゅきしゅき〜!」って。怖い怖い!
しんどい時は絶対会いに来てくれた
それから一年くらいずっと沼ってた。東京離れて、地元の東北戻ってからもしばらく連絡取ってて沼ってたなぁ。ほぼ毎日LINEしてたし、いっぱい電話もした。返事来ないなーって思い始めた頃に絶対連絡くるの。ニューヨーク研修中も、時差とか関係なく電話してたな。スーパーで、「今ハイネケン買ってる〜」とか言って。
自撮りもたまに送ってくれたし、弾き語りの動画も送ってくれた。電話中に弾き語りもしてくれたり。今思えば、自分大好きバンドマンの自己満を見せられてただけだよね。でもその時はしっかり沼ってたからたまらなかった。
沼から「会いたい」って連絡来たこともあったし、あたしから連絡するときもあった。普段は会ってくれなかったりもしたんだけど、あたしが気持ち的にしんどい時とかは絶対来てくれた。一回、アプリで会った男がくそすぎて泣きじゃくってた時、泣きながら呼んだら来てくれて、落ち着くまで一緒に飲んでくれたな。下北沢のいつもの居酒屋。そこからあたしの家に泊まった。
いつも始発で帰る沼
そうそう、沼、絶対始発で帰るの。朝5時の一番早い電車。会いに来てくれるの夜遅かったから、電車無いし致したいから泊まってはくれるんだけど絶対帰るんだよね。あたしがまだ寝てるうちに身支度して、「じゃ、いくね」って。始発以外で帰ったことないと思う。
「クリスマスに会おう」って言われたこともあったな。期待するやん、そんなの。でも、予定決めてたのに、だんだん返事遅くなって「どうするの?」って聞いたら「ごめん会えなくなった」って。ひどいよねぇ。
沼は新宿でホストのキャッチやってたから、何回か新宿にも会いに行ったの。仕事終わるまで待ってたら、「俺いつもここにいるんだ」って深夜までやってる喫茶店に連れてってくれたこともあった。それがすごい嬉しかったのは覚えてる。あたしここ入ってもいいんですか!?️って。
あたしが短大生の間は会うたびに致してたけど、卒業してフリーターになってからは飲みだけの時もあったな。飲みと致しが半々くらい。なんでだろ、わかんないや。友達みたいな感じだったのかなぁ。
ピンクの部屋で一人の自分
告白をね、したことがあるんだ。
短大卒業してフリーターになってからは、ちょっと会ってない期間があったんだけど、「久しぶりに会おうよ。Mちゃんに会いたいな」って連絡きて。
夜にあたしの家きて、宅飲みして、「まだお酒飲みたい!ポテチ買う!」って、手を繋いでコンビニ行った。あたし酔うとなんかポテチ食べたくなっちゃうんだよね。
久しぶりに会えたのも、手を繋いだのもうれしくてうれしくて、お家帰ってきてダラダラしてたときに「好き」っ言っちゃった。そしたら、「俺のこと好きなの?」って聞かれた。「うん、付き合いたい」って言ったら、「いいよ」って言ってくれたんだよ!その日はそのままいちゃいちゃして寝たんだけど、起きたらいなくなってた。また始発で帰ってたの。
あの朝のこと、すごく鮮明に覚えてる。そのときね、ラブホみたいな部屋を目指してお部屋全部ピンクにしてたんだ。やたらピンクの部屋で一人な自分。
あれって夢だったのかな?
それでもその日は、付き合えたと思ってテンション上がってたままバイト行ったんだけど、だんだん不安になってきた。
沼はお酒弱かったから、いつも飲んでるふりしてシラフだったの。あたしだけベロベロになるまで飲んでさ。
あれって酔っ払って見た幻想なのかな?って思っちゃって沼にLINEしたの。そしたら、「その話だけど、先延ばしにしよ?」って返事が来た。あ、おっけー、あたし振られた。ドキドキしてたのが、すーって冷めた。
先延ばしなんてする気ないよね。沼とは付き合えないんだってわかった。変に冷静になって、あたしめっちゃはまってんなーって自分のこと客観視したの。
一回振られてから、まだ沼ではあったけど、セフレとして割り切って見始めた。この頃から自主的に相手の手のひらで踊り始めたんだ。
「沼る」じゃなくて「踊る」ようになった
「沼」は、自分が必死なんだよね。好きで好きで会いたくて、どうやったら一緒にいられるか、一緒の時間を過ごせるか必死に考えて何でもしちゃう。
でも、「あ、だめなんだ」ってわかってからは好きな気持ちが残ってはいたけど、「この時間楽しい」に振り切ったの。沼、かっこいい!!好き!こんなにこの人にハマってる自分楽しい!!それが「踊る」ってこと。
踊るのに振り切る前まではその人だけに絞ってたけど、自分も他の人にも会い始めた。それまでは、ちょっとタイプだとすぐ沼りやすかったんだけど、バンドマン沼以降は会う人会う人みんなの手のひらで踊るつもりで会ってた。踊ろう!沼を楽しもう!ってメンタル。
ちょっとでも楽な世界にいたかった
沼ってもうまくいかないのは自分でもわかってたんだ。つらくなりたくなかった。沼だとつらいけど、「好きな男と一緒にいれる、この時間最高!!」って振り切れば楽しいもん。
結局、沼に「かわいいかわいい」って言われてる自分が好きだったのかも。甘めの沼が好きー。あたしね、自分自体がコンプレックスの塊だから。会うと「かわいい」とか、「Mちゃんここがいいよね」って褒めてくれる人が好きだった。
ただヤりたいだけの人とか自分本位の人は切ってたけど、ちょっとでも褒めてくれる人とは数回会ってたな。自分が生きてるのが苦しかったから、ちょっとでも楽に生きられる世界にいたかった、その世界にいる自分が好きだった。
いろんな人の沼の中で踊ってきたけど、もうほとんど記憶から薄れてきた。でも、バンドマン沼のことは今でも忘れられないな。自分の中で、その人の名前がめちゃめちゃ特別だった。
東北戻ってきてからも、ちょこちょこ連絡してた。ベロベロに酔って電話かけても出てくれてたし、「会いたい」って言ってくれた。でも、こっちで彼氏できたし、もう会わないよ。
あたしが踊った証
ちょっと前にね、東京一人で行ったんだ。インスタのストーリーに「東京」て載せたら、沼が「東京来てんの?久しぶりMちゃんに会いたいな」ってDMしてきた。最後の方はもう友達って感じだったから、脱沼してもちょこちょこ連絡は返してたし、あたしに彼氏ができたのも知ってる。会うのは難しいなって伝えた。「そっか。じゃあな!」「ありがと、じゃあね!」でおしまい。今後も連絡取ることはないよ。
初めて沼と行ったラブホのライター、今でも持ってるんだ。あたしが踊った証。……思い出なのかな、思い出じゃないのかもね。ただどっかの一人の女の過去の話。
いままでありがとう。まだまだ知らない世界もあるんだろうけど、自分の中では遊びきったいい経験だった。今は大切にしたい人がいるし。いい人生だなぁ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?