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町人への情け深い計らい
老中の戸田忠昌が、御用部屋で執務をしていた時のお話です。
「大変です! 車力が制札を!」
忠昌の用人が息せき切って御用部屋に飛び込んで来ました。
聞くと、庭師に命じられて大石を運んでいた車力(運送業者)が、大手前で誤って石を車から落として制札を根元からボキッと折ってしまった、というのです。
その車力は、真面目一方でこれまで事故一つ起こしたことがなかったから、よりによってという感じでした。
制札といえば幕府からのお達しを、家臣たちに伝える厳粛な命令書です。
その制札を折ったとなると、これは御上に対する不埒な行為と見なされて、厳罰に処されることが予想されました。
番所役人に捕まった車力は、顔面蒼白になりました。
(下手をすれば、打ち首になる・・・・・・)
そんな思いで、押し込められた獄舎でブルブルと震えていました。
すべての事情を聞いた忠昌は、暫く考えたのち、御徒目付を呼んで言いました。
「いま、大手前で車力が石を落とし、制札を倒したとの話を聞いた。制札を倒す、ということは許しがたいことである。が、しかし・・・」
「・・・・・・」
「しかし、その制札の根元が腐っていた、となればどうなるであろうか。腐っていたとすれば、石どころか僅かな風でも折れていたであろう」
「・・・・・・」
「良いか、今すぐ出向いて制札の根元が腐っておるかどうか、良く見て参るのだ。良く見て参るのだぞ」
御徒目付は、重ねて「よく見て来い」と言われて全てを悟りました。
そして調査ののち、忠昌に報告しました。
「お察しの通りでございます。制札の根元のところは、確かに腐っておりました」
この話を聞いて、車力は涙を浮かべながら獄舎から出て行きました。
戦時の手紙を追い、歴史に光を当て、新たな発見を。 過去と現在を繋ぎ、皆さんと共に学び成長できたら幸いです。 ご支援は活動費に使わさせて頂きます。