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わっち「AI翻訳はすごい。でも競技スマブラの通訳は楽しく、需要も多い。」 | スマブラで作るヒト ver 2.2.0

どうも、fun2smashです。
「クリエイティブでスマブラ観戦を楽しく」をモットーに活動しているスマブラ観戦大好き人間です。

現在任天堂のゲーム「大乱闘スマッシュブラザーズ(通称スマブラ)」を使って、いわゆるesports的な競技として大会が開催される「競技スマブラ」が注目を集めています。

競技スマブラ(esports)は選手・プレイヤーの活躍あってのものなので、基本彼らが主役です。
しかし大会は彼らだけでは成立しません。大会運営・配信の技術スタッフ・映像エディター・撮影スタッフ・デザイナーなど様々なクリエイターが最高の舞台を作るからこそ、プレイヤーもそこで輝きたいと思うのではないでしょうか。

そんなクリエイターの方々にスポットを当て、fun2smash(私)が様々な質問をさせていただき、その内容をまとめたものが「スマブラで作るヒト」です。
アーカイブはマガジンにして随時追加していきますので、よろしければフォローをお願いします。↓


第2回は主に競技スマブラにおいて通訳や、大会主催など多岐にわたって活躍されているわっちさんにインタビューをしており、これは後編になります。前編ではわっちさんのキャリアや活動・海外選手などを伺いました。まだお読みでない方は、ぜひ下の記事をお読みください。


後編では海外と日本の競技スマブラの違い通訳・翻訳のことなどについて伺いました。

(写真:うってぃー


海外と日本の競技スマブラについて

- 海外と日本の競技スマブラで活動している方々を比較した時に、何か違いがあったりしますか?

わっち :
海外も日本もそこまで大きな違いはないと思います。
もちろん国ごとの文化や法律でできる事に違いはありますが、みんな本当にスマブラとコミュニティが好きでそれぞれ自分の出来ることをそれぞれやって結果としてより良いものが作れる環境と流れを作れていると思います。

観戦している方も、なんとなく海外のほうがリアクションと物理的な声がデカいくらいでほとんど同じだと思います。こっちのほうが良いとかこっちほうがより酷いみたいなのは無いと思います。

日本と海外の選手が、ともに競技スマブラの大会を観て熱狂する様子。
(写真:さきょう


大会を運営している方々も、みんなスマブラが好きでコミュニティに居心地の良さを感じてるのは同じだと思います。

ただ賞金とスポンサーの有無で責任と目的が違うと思います。
細かいところで国土面積の違いによる大会会場の大きさ、交通機関の発達の方向性から移動や運搬ハードルの高さ専業スタッフやボランティアスタッフの数の違い大会の開催頻度からリソースをどこにかけているかが違うと思います。

海外は1運営の開催回数が少ない代わりにスポンサーと賞金があり、大規模。
そちらの事情について詳しく説明をしている動画はこちら


海外(特に北米)は大会会場が大きいことで、一般的な1on1で行われるシングルストーナメント以外のイベントも多いです。
ダブルスなどの別種目、多岐にわたるブースの有無(イラスト、グッズ、コントローラーの販売やスポンサーの出展)が雰囲気の違いを生み出していると思います。

アメリカのカルフォルニア州のスマブラ大会「Genesis 9」の様子。
(写真:ふく


ですが最近の日本の壇上や配信での演出も、各大会スタッフの創意工夫や努力によって、ほぼボランティアに関わらず、ほとんど同じくらいになっています。これはめちゃくちゃすごいです。

日本最大規模大会の「ウメブラ(上)」と「篝火(下)」の大会の様子。
(写真:うってぃー


- なるほど。では逆に日本のスマブラについて、海外の方々はどんな印象を持っているのでしょうか。

わっち:
大会運営に参加者が協力的で、対戦前と後に丁寧に挨拶をし賞金ではなくプライドのために戦い、ありとあらゆるファイターが大会で活躍しており、週大会はメジャー大会のように層が厚く、すべての飲食物がおいしく、全人類が東京と大阪に住んでおり、実はその正体が忍者か侍だと思ってます。


嘘です。言語障壁もあって謎に包まれているのでよくわからないが所感として多い気がしますが、それぞれ違った印象を持っている気がします。

ただ参加した選手たちからは、大きな大会が年一回ではなく、年複数回に少数の団体が大会をボランティアで開催しているのはとんでもないねとは言われました。また全体のマナーも評価されていました。
早めに大会の参加申請をし、時間通りに参加し、選手レベルが高く、試合前と後の挨拶が丁寧で、大会の進行に協力的で、ゴミとかハラスメント的なところもしっかりしているそうです。

スマブラ大会「Gen」では、選手が運営といっしょに撤収作業を行っている。
(写真:さきょう


- もし仮にですが日本人スマブラ選手やプロゲーマーが海外に滞在するとなった時、メリットはありますか?(手続きが大変なのは置いておくとして)

スマブラDX選手のaMSa選手(写真左)は、2022年9月からカナダに拠点を移している。
(写真:ふく

わっち:
語学習得のチャンスが広がると思います。

当たり前かもしれませんが、日本でも特に優秀な人でなおかつ語学能力が高いと日本よりもあらゆる面で可能性が広がります。

逆に語学能力がないと語学習得のチャンス以外の可能性はそこまでないです。能力があっても通常のコミュニケーションがままならないってデメリットが大きすぎて足を引っ張ってしまうので。

スマブラSPにおける日本人選手は強いですが、環境の違いはありますので強くなるために行く価値はあると思います。むしろ世界大会で活躍したいなら環境適用のために行く方がいいと思います。

日本の実力や大会のレベルはあがっているものの、世界大会には未だ大きな価値がある。
(写真:ふく


- ちなみに日本人選手が海外大会に出ると考えた時に、英語はどこまで重要度が高いでしょうか。

無くても何とかなりますがあった方が多くの場面で便利ですし、有利に働くことが多いです。

交通機関ルートやいつ試合があるのか、飲食やホテルなどの情報収集がしやすくなり不安感が薄れるなど、結果として大会の質を上げやすいです。

競技以外の不安要素を減らすという意味で、英語の重要度は高い。
(写真:ふく



スマブラで通訳・翻訳することについて

- 最近個人的に印象に残ったことが、先日開催された「Super Smash Con 2023(SSC2023)」のトークイベントで通訳されている姿でした。会話をスマホのメモか何かでとっているのでしょうか?

がくと選手がホストをつとめ、選手にインタビューする「Gackt`s Talk」。
SSC2023の会場で開催されたこのイベントでは、わっちさんが通訳をつとめた。

わっち :
そうです。メモの内容としては固有名詞(選手の名前、キャラ名、誰が言ったか)・時間関連(何時、何年、何日目など)・伝えたい要点(冗談とかキーワードとか)を書いてました。

英語に変換する技術も大事ですが、どちらかというと記憶ゲーでどれだけ早く要点を書きながらしゃべってることを聞けるかが個人的には大変でした。

当日のメモの感じを再現していただきました(一部)。


- 普通の通訳と競技スマブラでの通訳での違いはありますか?

わっち:
スマブラと通常の通訳はどちらも双方が喋った事を翻訳して伝えるという点は変わらないです。 スマブラの通訳はその内容が当たり前ですがスマブラについてが殆どです。特に試合/ファイター/大会についての表現を英語に出来ればほぼ勝ったも同然です。 実質出題が範囲がはっきりとわかってる期末テストなので少ない勉強量で平均点がめちゃくちゃ取りやすいです!スマブラ学さえ履修していれば合格可能!

しかも話し相手は取引先のお偉い様ではなく友達くらいの距離感のゲーム仲間です。配信のインタビュー中はあまり適切ではないですが分からない部分があれば『それって…○○ってコト?!』って確認すれば問題ありません。そうする事でどんどん知識量も増えるのでスマブラ学の得点が伸びます。ちょっと工夫して難しい点を把握していればなんとかなります。

そもそも自分は英語は苦手で勉強も真面目に行ってこなかったので、毎日必死にごまかしています。むしろ普通の翻訳は出来ないです。

さらに自分は知ってる人にこんにちは!の挨拶するのにもめちゃめちゃエネルギーを消費するくらいにはコミュニケーションが苦手でして…どちらかというと海外の人たちは親しくなるテクニックが凄くて仲良くしてもらってるみたいな感じです。

ただ、8年間自分が主催してる大会に来た海外選手とのやり取りの蓄積多少スマブラ用語を英語でなんて言うのか知ってるからの二刀流で何とかなってます。

大会運営で高頻度に英語に触れるが工夫。
スマブラオタクは早口な方が多いですし、専門用語が多く、世界で流行ってるのでいろんな訛り英語が存在してるのが難しい点だと思います。

わっちさんが主催の「Battle Gateway」では、多くの在日外国人が参加している。
(写真:さきょう


- 「スマブラ用語を英語でなんて言うのか知ってるから」ということですが、スマブラ用語の英語について、少し例をあげていただけますか?

わっち:
例えばスマブラにおいて台を経由するコンボのことを、台がプラットフォーム(Platform)なのでシンプルにプラットフォームコンボ(Platform Combo)と表現するんですけど…。
そこから更に受け身を経由した読み合いが挟まる連携のことを、プラットフォームテックチェイス(Platform Tech Chase)という形で言葉が変わります。

海外の用語として結果として一連の動作や読み合いなどを包括した用語が多いと勝手に思っていて、日本語はテクニック自体やその時点で発生する現象を用語に指していることが多いと思ってます。

あと固有名詞が難しいです。選手名・俗称・見つけた人の名前がついてるテクニックの内容とかも難易度が高い専門的な用語になります。

競技スマブラを知らないと認識が難しい単語群。上の共通項は「スマブラ大会の名前」。


- 現在、AIなどによる自動翻訳技術が向上しているように感じますが、そういったスマブラ用語の部分は人力でないと難しい部分になる感じでしょうか。

わっち:
そうですね。スマブラは日々新しい用語が生まれたり、各種テクニックや固有名詞は地域で言い方や表現方法が違うので難しそうだとは思います。他にも日本語とかいう言語が異質すぎてなんとなーくAIで翻訳したときに違和感が残るのでバチバチのビジネスだと最終チェックする人が必要な感じはします。

ただ、正直最近の自動翻訳は優秀なので選手が大会に参加したときのやり取りの自由度は格段に上がりました。正直現時点でも数万円で売ってる翻訳機器の正確さもかなり高いので、近い未来にはポケットWiFiくらいの感覚で持参するアイテムの登場はしそうです。

2024年、AIによる自動翻訳吹き替え機能がYouTubeに搭載されるという発表も。


- では、通訳として競技スマブラや他のゲームコミュニティに関わって、楽しい瞬間ってどういうところがありますか?

わっち:
通訳を通じて橋渡しした選手と仲良くなって人となりを見れた時が楽しいですね。
基本的にスマブラの選手はみんないい人たちなので更に手伝いたくなることが多いです。

日本のプロゲーミングチーム「ZETA DIVISON」と
海外のプロゲーミングチーム「Team Liquid」に所属する選手が出演するバラエティ番組。
わっちさんが通訳として活動したことで選手たちが和やかなムードに。


その上で手伝った選手が勝ってると非常にうれしいですね。細かいニュアンスを上手く翻訳できた時やシンプルに通訳お願いされた側に喜んでもらえると嬉しいです。

SSC2023のインタビューで優勝したあcola選手の通訳をつとめるわっちさん。
(YouTubeの動画はインタビューから始まります。)


- 今後通訳として競技スマブラや他のゲームコミュニティなどに関わって行きたいと思っている方がでてきた時にアドバイスはありますか?またこれらの需要はまだまだありますか?

わっち:
国際色豊かな大会では常に需要があると思います!

個人的に日本語をしゃべれて海外の大会にいる人がほとんどいないのでそこでの需要が高そうだと思います。

Dabuz選手(写真中央)に通訳として応対するかさうぃさん(写真右)
(写真:うってぃー


Sparg0選手(写真左)に優勝者インタビューをするショーンさん(写真右)
(写真:さきょう


あとシンプルに運営とか選手に認知されてることが大事な気がするのであったらとりあえず『困ったら気軽に声かけてねー』ってアピールするのは大事だと思います。
配信やメディアに乗る活動なのである程度の信頼関係があることが大切で、まず知ってもらうことが大事だと思います。

得体のしれない人はシンプルに怖いのでただのスマブラが好きな奴って知ってもらえると良いです。自分は馬鹿みたいに大会を開いてたのと海外に昔色々教えを乞うた経験がここでめちゃくちゃ効いてると思ってます。

自分は通訳の技術もスマブラの知識量も全然高くないですが、シンプルにコミュニティに昔からいて、それなりにいろんな人と仲がよく、友人が友人に紹介する連鎖の結果として最近目立つ場に立っています。それと声をかけると高確率で動けるくらいには時間を割いてるのが大きいです。

とにかくできる範囲で自分の好きなことをやって精力的に活動してると同じ熱意を持った人と仲良くなりやすいです。これに関してはスマブラだけでなく全てにつながることだと思っています。

(写真:うってぃー




以上でわっちさんのインタビューを終わります。
近年社会全体で自動化の流れは加速しています。その中でも通訳や翻訳家は、自動化・AIによってなくなるのでは?ということが言われがちな職業です。実際、全体を考えると需要は減っていくのかもしれません。

ただ常に精力的に活動しているわっちさんを見ていると、少なくとも競技スマブラにおいては需要はまだまだあるように感じており、「実際のところどうなんだろう」というのが、わっちさんにインタビューをしたいと思った理由の1つです。

そしてインタビューをして感じたのは、通訳・翻訳家という仕事は、ただ単に英語を日本語に変換する要素よりも、コミュニケーションが大事なんだと思いました。

同じ「スキ」を共有する者同士、会話したいと思うのは当然です。特に競技スマブラはコミュニティ意識が強く、スマブラを通じた仲間と繋がりたい、コミュニケーションをとりたいと思う方が多いと思います。
だからこそ、競技スマブラにわっちさんは必要とされているのだと思いました。

言い過ぎかもしれませんが、自動化・AI社会に対しての向き合い方が、わっちさんを通して、少しだけ見えたような気がしました。



私は普段スマブラ観戦にまつわることで、Twitterに画像を投稿したり、noteに記事を書いたりしております。自己紹介記事を投稿しているので興味がある方はこちらも是非ご覧ください。



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