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081 光を感じる青

自分の見たものや感じたことを絵にできたらどんなに素敵でしょう。
これは、私が常々思っていることです。

「写真」ではなく「絵」なので、完璧なリアルさがなくても、部分部分(例えば咲いている花の大きさなど)が現物と違っていても良くて、「絵」だからできる何か伝わるものが描けたらいいなと思います。

特に風景は常に変わり続けるものなので、心に残るものがあればそれを記憶のまま描けたらいいな、と思います。

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以前、ポーラ美術館に足を運んだときに、印象的な絵と出会いました。
ポーラ美術館は箱根にある自然豊かな美術館で、何度も行きたいと思うくらい素敵な美術館です。建物や所蔵作品はもちろんですが、入り口に入るまでに浴びるこもれびが素晴らしく、心ふるわせる美しさとは本当に身近なあちこちに落ちているんだということに気付かされます。

そんな場所で、私が出会った絵はこちら。

画像1

ウジェーヌ・ブーダン
トリスタン島の眺望、朝


この青色は見たことがある、と感じたのが最初の感想でした。海外の風景なのに。
実物は画像よりもずっと鮮やかな水色で、きらきらと輝く朝日が見えるような一枚です。
空の色と水の色は別のブルーなのですが、どこかでつながっている気がする色合いです。
雲はやわらかく流れていて、絵のサイズ以上に画面の広がりを感じます。

遠くに見える街は動き出したばかりで、たとえばパン屋さんは誰かの朝食時間が笑顔になりますようにと焼き立てのパンを並べているところ。たとえば家では、お母さんがたまごをフライパンに割り入れているところ。
そんな風にいくつもの朝が対岸で繰り広げられていることでしょう。

では、こちら側は?

ごつごつとした岩がころがっていて、足場は悪そうです。
でも、岩にも平等に光はあたっていて、どんなものにも明るい朝がくる喜びを感じます。
こちらの風景はそれだけ。ブーダンは移り変わる水辺の風景を主役に空と雲の表現を重視したのでしょう。

ブーダンは、自身の見た風景を即興的にスケッチし、アトリエで作品を完成させていたようです。そのスケッチたちには、それぞれ余白に日付と時刻、風向きが記録してあったそうです。時間によって変化する光と、風の流れに着目して描かれた作品。独特のタッチで表現された作品は、写真以上になにかを想起させるちからがあります。

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私は、小学生のころ晴れた日曜日の朝に母と散歩をする習慣がありました。
一時間くらい歩いて、帰りにパン屋さんで朝食を買ってもらっていました。
散歩コースは大きな公園に行くコース、川沿いの道を歩くコース、美術館まで行くコースなどさまざまでした。

大きな公園に行くコースは、芝生の緑色と空の水色が印象的でした。たまに白詰め草を摘んで帰ることもありました。
川沿いの道は、川の濃い青色と空の水色が印象的でした。川は水でできているのに、空の方が水色なのが印象的でした。川の反対側には木がたくさん植っているのですが、川側は草むらです。その中に一本だけ大きな木があって、私はその木がお気に入りでした。
美術館まで行くときは、街の中を抜けます。灰色のビルと、どこかくすんだ空の水色が印象的でした。このコースを選んだときは、美術館近くにあるパン屋さんが目的で、わたしはそのパン屋さんのじゃがいもチーズパンが大好きでした。

どのコースも、共通するのはお日さまをたっぷり含んだ空の明るさがあること。
そして、草にも木にも川が持っている水たちにもビルの窓にも降り注いで輝く光の美しさがあること。

そういった朝だけの素敵な時間を、「トリスタン島の眺望、朝」を見て思い出しました。
海外の風景だけど、朝は訪れます。
そして、水と空はこちら側ともつながっています。
思い出を想起させる風景は、きっと記憶とも結びついているのでしょう。
そんなことを感じて何度でも見に行きたくなる、素敵な絵です。

今回も最後まで読んでくださって、ありがとうございました。


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