マガジンのカバー画像

イラスト通信

49
テーマに沿ったイラストと文章コレクション
運営しているクリエイター

#フードイラスト

193 シンプルな魔法

私は、週に1〜2回ワーキングスペースで仕事をする。 その場所は公園を過ぎたところの川沿いにあり、季節ごとに変わる景色も楽しめる。 家よりも断然仕事に集中でき、気がつくと5時間一度も休まずにキーボードを打ち続けていたということもあるくらいだ。 先日、仕事が一区切りついたタイミングで、ワーキングスペースのお姉さんにコーヒーをお願いした。 お姉さんがコーヒー豆をひいている間、目を閉じて待っていた。 じんわりと全身に広がる疲労感が心地よい。 視界からの情報をシャットダウンすると

190 ささやかな喜びは心のサプリ

小さなしあわせは、心のサプリだと思う。 ただし、摂取するためにはお水の代わりに感覚を準備する必要がある。 視覚でも味覚でも触覚でも…もちろん嗅覚でも聴覚でも構わない。 ぜんぶでも良いし、どれかひとつでもいいので、いつもより少し感覚を研ぎ澄ましたら隠れていたサプリを見つけることができる。 生きていくことは、やっぱり大変。 思うようにいかないし、言いたいことを言えずに飲み込むときもあるし、うっかり同じ失敗をしてしまう日もあるし、理不尽なことだらけで息すらできないこともある。 そ

167 ももの香り、夏の音

雨を忘れてしまったような空。 きれいな青色はいつ見てもやさしい気持ちになる。 姪が遊びに来た。私が冷やしていた桃をむいている間、姪は椅子に座って床まで届かない小さな足をぱたぱた動かしている。 「このお家の近くにはセミがたくさん暮らしているのね」 姪がそう言い、私は驚いた。セミ? その瞬間、窓の外からセミの合唱が聞こえ始めた。 「ほんとうね。びっくりした」 私がそう言うと、姪はくすくす笑った。 7月の初めだろうか。 セミの声が聞こえはじめて、あぁ、今年も夏がきたなぁと

139 次につながる種

11月最初の朝。からりと冷たい空気が窓ガラスから伝わってきます。 きっとさむいよねと思い、カーディガンを羽織って、からからからと音を立てながら窓を開けたら新しい空気が入ってきました。 すっきりとしていて、透明で、やっぱり冷たくて。お水のような空気でした。 ほんの少しの間目を閉じて、飲みもののような空気を全身に行き渡らせます。体がしゃきっと目覚める、ささやかな魔法。 しばらく窓を開けたまま、朝食の支度をします。 お湯をわかして、昨日作ったスープを温めて。 そうそう、ぶどうが

106 朝食をともにするのは特別なひと

少しずつ、ほんの少しずつですが、朝の明るくなり始める時間は早くなってきています。 スーパーマーケットには、いちごが並んでいます。 つめたい空気の中に春のつぶがひとつ、ふたつと増えてきています。 今年は暖冬でしたが、それでもやっぱり春が近づいてくるとうれしい。 立春が過ぎて、春をひとつずつ見つけるのが今の楽しみです。 明るい春の朝に食べたくなるものはありますか。 私は…やっぱりパン!それも、さくさく系のパンを食べたくなります。 例えば、かりっと焼いたうすいトーストや、バタ

094 ヘゼリフハイト

Gezelligheid ということばを知っていますか。 私は知りませんでした。オランダ語で、「ヘゼリフハイト」と読むそうです。抽象名詞。 オランダの人々が根底にもつ思想、感覚で、日本語ではこれ!と当てはまる単語はないそうです。 説明すると、さまざまな場所で感じる心休まる状態。なごやかさ。空気であり雰囲気であり感情でもあります。なんだか、今の季節に合うことばだなぁと思いました。 冬、確実にさむさがきびしくなっていく日々。 美しい季節なので、楽しみはたくさんあると思います。

087 メロウな時間

「秋はメロウな時間」と言ったのは、アイルランドの詩人William Allinghamだったと思います。朝起きたときのやわらかな光、空は澄んでいながらどこかかすんだような風景。音楽は元気なものよりも、ゆったりとしたメロディを聴きたくなります。 すいすいとさむくなってきて、もう季節はすっかり冬。窓の外は、きっと冷たい風が闊歩していることでしょう。でも、このあたたかな日差しを感じるうちは、もう少しだけ秋だと思っていたい。そんなことを朝のベッドの中で思っていました。 あ、今日も

083  あったかおうどん

年中無休でうどんがすきです。 すこし透き通るような色の出汁はじんわりと体をあたためてくれます。 麺はつるりと口の中をすべって、あっという間に胃におさまります。 うどんは遠慮しません。初対面でも、いつも親しくしてくれます。 暑い季節でも、あたたかいうどんを好んで食べる私にとって、秋冬の空気が冷たくなる季節はうれしいものです。これで心おきなくあたたかいうどんを食べられる! きつねうどんやたまごうどんは定番で。 天ぷらやお肉はお腹がすいたときに。 とろろやおもちを入れたらやさし

069 いもいもさつまいも

秋になると、食べたいものがたくさんあって、口と胃袋がいそがしくなります。 noteも食べものネタが多くなりそうです。 みなさんは秋になると食べたくなるものはありますか。 私はたくさんあります。 お米にさんま、きのこの炊き込みごはん。 無花果にぶどう、アップルパイ、みたらしだんご…。 それから…さつまいも! 私はさつまいもが大好きなんです。 ふかしたり焼いたり、煮物にしたり。シチューに入れても素敵です。 薄い皮の赤紫色と中のあたたかな山吹色が秋にぴったり。 さつまいもと

065 おにぎり道を私も

なんにも予定のないお昼前。 外は雲がところどころ出ていますが、からりと晴れています。 エアコンのいらない気持ちのよい日曜日。 実家の畳の上で猫ところがってなまけていると、母がやってきました。 「お昼はおにぎりランチにしない?」 おにぎりランチ! 素晴らしい提案です。 私はふとももに乗っかっていた猫をぽとっと畳の上に落として(猫は目をまるくしたあと迷惑そうな表情をしました)、台所に母と立ちます。 私が手を洗っている間に、母は戸棚や冷蔵庫からあれこれ出してカウンターに並べます

056 秋ごはんのにおい

ゆるゆると歩く帰り道。 夕焼けでオレンジ色の光がなんだかあたたかです。 風はないけれど、近くの家からおいしいにおいがしました。 焼き魚のこうばしい匂いです。 朝ごはんのにおいはあまりしないのに、夜ごはんがしっかりと道いっぱいににおうのはなんとも不思議でうれしいものです。 どの家からかはわからないけれど、いいにおい。 きっと今、誰かのために誰かが台所に立って料理をされているんでしょうね。 おいしく焼けますように、とか、昨日はお肉だったからきょうはお魚で、とか考えているのかな

044 おだんごだんご

小腹が空いて冷蔵庫を開けたら、お茶と水と調味料しかありませんでした。 そんなばかな、トマトくらいあるでしょ、と思い一度冷蔵庫を閉めて再び開けたら、やっぱり麦茶と水とマヨネーズ一族(私が持っている調味料たちの総称)しかありませんでした。 とぼとぼと粉物を閉まっているボックスを開けてみると、なんと白玉粉がありました。満場一致で白玉だんごを作ることにしました。 さらさらで繊細な粉に少しずつ水を入れてこねていきます。 最初はぽろぽろだった生地たちも、まとまるともちもちに。これは良

038 じんわりだし巻きたまご □ イラスト通信

秋になると食べたくなるのがだし巻きたまご。 私の大好物です。 初めて火を使って作った料理がたまご焼きでした。 母に教えてもらって、たまごの割り方から練習しました。 ひとまきひとまき、やさしく巻くのよ、と母に言われて全集中力を菜ばしに込めて作りました。 できあがったたまごは、思った以上にきれいだったので兄にもほめてもらいました。 すっかりたまご焼きを作るのが好きになってしまい、おやつに作ることもありました。 (朝はなぜかあまり作りませんでした) 高校生になると自分でお弁当

035 ホット・チョコレート □イラスト通信

秋はしれっとやってきました。 朝起きて窓(なのかドアなのか?ベランダに出るためのガラスがはめ込んである大きな引き戸です)を開けたら、涼しい風が吹いてきました。アイスティーもそろそろ飲みおさめです。 ためしに、朝ごはんのときホットティーを入れてみました。 紅茶の色がいつもよりもきりりと鮮やかに見えます。きれいな茶色を含んだ赤色。 秋はやっぱりすぐ近くまで来てくれているようです。 こんな色の冴えた紅茶を見たら、チョコレートを食べたくなってしまいました。 -----------