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065 おにぎり道を私も

なんにも予定のないお昼前。
外は雲がところどころ出ていますが、からりと晴れています。
エアコンのいらない気持ちのよい日曜日。
実家の畳の上で猫ところがってなまけていると、母がやってきました。
「お昼はおにぎりランチにしない?」

おにぎりランチ!
素晴らしい提案です。
私はふとももに乗っかっていた猫をぽとっと畳の上に落として(猫は目をまるくしたあと迷惑そうな表情をしました)、台所に母と立ちます。

私が手を洗っている間に、母は戸棚や冷蔵庫からあれこれ出してカウンターに並べます。
梅、鮭フレーク、ねぎ、かつおぶし、明太子、塩こんぶ、のり

見るだけでわくわくするラインナップです。
母は土鍋にお米をセットして、火にかけます。
お米が炊けるまでの間に、私はたまご焼きとお味噌汁を作ります。
台所に二人立つとぶつかってしまうので、母は器と漬物を選んでいます。

「あなたが小さなころ、よくおにぎりランチをしたわね」
母はうれしそうに話しています。

おにぎりランチ!
お休みの日がおにぎりランチに決まると、私と姉はたいへんはりきりました。
おにぎりを作るのは母でしたが、お茶やレジャーシートを出して、庭で食べる支度をしていました。

母の作るおにぎりは、丸みのあるさんかくで、しっかりと塩の味がするふっくらとしたおにぎりでした。姉とお手伝いでラップを使って作ったおにぎりとも、コンビニのかっちりしたおにぎりとも違う、やさしいおにぎりでした。

当時はおばあちゃんがいたので、具に自家製の梅を使っていたのですが、これがもう口が*になるくらいすっぱくて、正直なところ私は少し苦手でした。でも、おばあちゃんの前でそれを言うことはできなくて、がんばって食べていました。
すると、ある時から母がかつおぶしやこんぶと混ぜてまろやかな梅ペーストにしておにぎりに入れてくれるようになり、それからは梅も大好きになりました。

ご飯が炊けたようです。
母と私とで一緒にせっせとにぎりました。
にぎり始めると楽しくて、ランチ以上の量ができました。
明太子、こんぶ、梅おかか、鮭とねぎ。

食べてみると、でもやっぱり母のおにぎりと私のおにぎりでは味が違います。
まったく同じ材料なのにどうしてでしょう。

母に聞いてみました。すると
「たくさんにぎってきたからねぇ。お兄ちゃんもお姉ちゃんもあなたも、おにぎりを作ると喜ぶでしょう。こんなに喜ぶなら、うんとおいしいのにぎっちゃうよ、と思って作ってきたからね。」
と言いました。
私は思い切って
「もしかして、私がおばあちゃんの梅を無理して食べているの気づいてた?」
と訊いてみました。母は笑って
「そりゃあね。だって、ほんとうにすっぱかったじゃないの」
と言いました。

言葉にしなくても伝わっていて、伝わったことに対しても言葉にせず工夫をしてくれたこと。私と祖母に対する思いやり。愛情は言葉を超えて味を変えます。

それがおにぎりのおいしさなのでしょう。
私もいつかおいしいおにぎりを作れるようになるかしら。

「100個はにぎらないとね」
母に言われました。

おにぎり道はなかなか奥深いようです。


今回も最後まで読んでくださって、ありがとうございました。

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きょうのイラスト

なんと新幹線で色つけをしたので、独特のブレがあります。。

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