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193 シンプルな魔法

私は、週に1〜2回ワーキングスペースで仕事をする。
その場所は公園を過ぎたところの川沿いにあり、季節ごとに変わる景色も楽しめる。

家よりも断然仕事に集中でき、気がつくと5時間一度も休まずにキーボードを打ち続けていたということもあるくらいだ。

先日、仕事が一区切りついたタイミングで、ワーキングスペースのお姉さんにコーヒーをお願いした。
お姉さんがコーヒー豆をひいている間、目を閉じて待っていた。

じんわりと全身に広がる疲労感が心地よい。
視界からの情報をシャットダウンすると、さまざまなものを感じられる。

会議室で打ち合わせをしている気配や印刷機で資料を作っている音、コーヒーのにおい、そのほかパソコンに向かう人や新聞を読んでいる人の気配…。
誰も声を出していなくて、やっていることもバラバラなのに、なんだか落ち着く。

ふと、これでいいんだな、と思った。
一人で書き物の仕事をしていると、ときどきわからなくなることがある。
正解が曖昧な世界だから、ベストを尽くしても不安になるのだ。

もっと他の表現の方がよかったかな、データを使い過ぎて反対にわかりにくくなってしまったかな、補足が必要だったかな…。

提出前に自分で「これでよし!」となっても、クライアントからOKをいただいても、不意に心配になる。
書いている時よりも、書いた後の方が安心できないのだ。

考えても仕方ないとわかっていても、「読んだ人がどう思うかな…」と、つい思ってしまうこともある。

しかし、ワーキングスペースで目を閉じて気づいた。
同じ時間、同じ場所に仕事をするために集まった人たちですら、まったく違うことを考えて違うことをしている。
一人ひとりが置かれている状況も、持っている心も、これまで歩んだ時間も異なるのだから、きっと安心できる正解なんてないのだろう。

人によっては、「このデータはいらないな」「補足がほしかった」と思うかもしれない。
でも他のだれかには、「このデータがあるからわかりやすい」「スッキリしていて読みやすい」と思ってもらえるかもしれない。

満場一致の正解は難しいかもしれないけれど、それでも、一人でも多くの人に「読んでよかった」と思えるものになるように、私は私のベストを出すしかないんだな。

悩むと複雑に感じることも、気づくと単純。
そして、単純な気づきは心を少し軽くする。

気づきの瞬間は、ちょっとした魔法のようだと思う。

***

淹れたてのコーヒーは、香り高く深みがあっておいしかった。
ふだん飲むものよりも濃い味で、疲れた身体に沁みた。

仕事や人生や人付き合い…と悩み出すと、難しく感じてやや息苦しくなることもあるが、「おいしい」はなんてシンプルなのだろう。

人に淹れてもらったコーヒーでほっとしたり、好きなものを食べてうれしくなる気持ちも、毎日をワントーン明るくしてくれる身近な魔法かもしれない。

***

帰りにスーパーへ寄ると、キウイフルーツが山盛りになっていた。
なんとも心おどる光景である。
私の大好物、キウイフルーツの季節がやってきたのだ。

もちろん、ここでもおいしい魔法を入手することにした。
これで今晩と明日の朝もちょっとしたしあわせを感じるだろう。

パソコンと資料とキウイを入れたリュックを背負って、また緑色豊かな道を歩いて帰った。

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ということで、今回はキウイフルーツイラストです。

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昨年までゴールデンキウイ一択だったけれど、最近グリーンのキウイも悪くないなと思っています。

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