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ふむもくエッセイ

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ふむふむと思ったことと、もくもくと感じたうれしいことを集めました。
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2019年8月の記事一覧

031 夢の話、あるいは安心するということ

もう数えきれないくらい、毎晩夢を見ているのに、夢のことは「はてな」だらけです。 もう一度行きたいな、と思っても行けないですし、もう二度見たくない!と思う夢でも忘れたころに再び見ることがあります。自分の意思で眠っているのに、見る夢を選べないことがガチャガチャみたいでおもしろいと思います。 今回はそんな夢の話。 -------------------- 私の母は話を聞きません。 それはもう見事に聞かなくて、露ほどの悪意もなく意識をあちらこちらへ向けてしまいます。常に視線が他

029 夏のおわり

扇風機を止めたはずなのに風が吹いていました。 電源が切れていなかったんだ、と思って扇風機の足もとを見たら、きちんと電源オフになっていました。顔をあげると窓が開いていて、カーテンがひらひらと舞っていました。 涼しい。 ひと粒ひと粒が大きな雫だった雨が通りすぎて、そろそろと暑さがひいているようでした。 外の空気を思いっきり吸い込みたくなったので、外に出ました。 ベランダから見えていたはずの景色は、少し変わっていました。 斜め向かいのビルがひとつ工事中になっていて、白っぽい布が

028 名前が白詰草のようにきれいだったらいいのに

白詰草で花かんむりを作るのがすきでした。 きっちりではなく、ふんわりと編むと、白詰草同士が手を繋いでいるようでした。 -------------------- 私が自分の名前について考えるようになったのは、いつのころでしょう。 もう思い出せないくらい、うんと昔のことです。 私は、おそらく少し変わった名前をつけられた一人でした。 ものすごくめずらしくて、その名前は私以外にはまずいない、とまでは言いませんが、めったにいない名前でした。 読めない漢字を使っている訳でもなく、キ

027 ティーカップ・ストーリー

もくもくと広がる雲の下で、火曜日が始まりました。 今日は予定のないお休みです。うれしくて早起きをしました。 こういう日はいつものマグカップではなくて、ティーカップに紅茶をいれましょ。 「007 お茶の時間」という記事でも書きましたが、私は紅茶をはじめとするあたたかい飲みものが好きです。そのため、ティーカップもいくつか持っていて、そのどれにも思い入れがあります。今回はそのうちの二客をご紹介します。 -------------------- ⑴ Afternoon Tea の

026 もけもけのこと

昨年の五月、実家にくるみがやってきました。 母が近所のクリーニング屋さんからもらってきたようです。 くるみは、白い毛に黒や茶の模様が入っていて、鼻と肉球はピンク色の雌猫です。 なんてことない日に母から写真付きのメールが届き、 「猫を飼うことになったの。名前はなにがいいかしら」 と尋ねられました。 私はその時くるみを食べていて、その猫の額に入っている茶色い模様がくるみのようにしか見えなかったので、「くるみ」と返信しました。 その猫は、晴れて「くるみ」になりました。 場合に

024 夜の花を持つ少女と私 *ふむもくエッセイ*

昨夜。 来週の仕事のために、職場に残って調べものや考えごとをしていました。 職場の人たちには「ほどほどにね」と言われましたが、残業とは少しちがうように思っていたので、「ありがとうございます」とだけ言いました。 残業とは少しちがう。 確かにそうなのです。しなくても済むことなのだから。 だけど、今、きちんと仕事と向き合っておく必要があるように思えたのです。 仕事と気持ちの区切りがついたところで外に出たら、人がほとんどいませんでした。 人がいないと、夜をとても濃く感じられます。

022 花畑の思い出*ふむもくエッセイ*

古い椅子を見ていると、すこしかなしくなります。 なぜだろう、と考えてみました。 考えてもわからなかったので、次の日も考えました。 それでもわからなかったので、考えるのをやめてしまいました。 -------------------- 実家の近くには、小さな花畑があります。 広さは、うまく言えませんが(なぜなら入ったことはありません)、庭にしてはずいぶん広く、花畑にしては小さいくらいで、形は長方形。周囲はぐるりと背の低い格子状の柵が巡らせてあり、簡単な扉が付いています。扉は鍵

021 風鈴のおと*ふむもくエッセイ*

じわじわと暑い夏。 雨が降ればその後は少し涼しいのですが、しばらく経つと、またもわりと暑くなります。 実家に帰ると、することがなくてうれしくなります。 ただ畳の上に転がって天井を見つめたり(それをしていると、猫が畳に投げ出している私の足と足の間に入ってきます)、母が育てている植物や金魚をながめたり、枝豆をさばくのを手伝ったり。 実家では猫がエアコン嫌いなので、よっぽど暑いとき以外はエアコンをかけません。 そのため、防犯上は良くないのですが、実家は窓やらドアやらを基本開け

016 アイロンすいすい*ふむもくエッセイ*

目が覚めたら、6時8分でした。 昨日はくたびれすぎて予期せずねむってしまったようです。 目覚まし時計がなくても、早い時間に起きられるものなんですね。 ベランダに出たらすでに明るくて、台風はやわらかな風を残して去っていました。 そして、街はきちんと夏に包まれているようでした。 午前中はわりとゆったり過ごせるので、こういうご機嫌な日はアイロンがけをします。 朝からエアコンをつけるのはあまり好きではないのですが、アイロンがけの日は別。 部屋が涼しくなるのと、アイロンが温まるのを待

015 「星降る夜」がくれたもの*ふむもくエッセイ*

けっこう前の話です。 -------------------- 風があまりない夜に、川沿いを歩きながらなんとなく歩いていると、小さな星がたくさん見えてきて、自分のこころにそっくりだと気がつきました。地味で、ありふれていて、意味がなくて、ただぽつんと存在している。 こんな風に落ち込むのは良くないことです。仕事をしていれば失敗はつきものだし、人と話せば余計なことを言ってしまうし、あわてると大切なこともすこんと忘れてしまうものです。暮らしていればこういうことは不可避で、信号の

013 ゆるりとよりみち*ふむもくエッセイ*

仕事が終わったとき、外が明るいとつい微笑んでしまいます。 暑いとか、日焼けしちゃうとか、そんなことは忘れて、ただうれしい気持ちになります。 私の仕事はいつも早く終わるわけではなく、むしろお店が閉まった後の時間に終業することが多いのです。 そのため、17時や17時半にその日の仕事が終わったときは、とてもうれしく思います。 まだ外が明るいと、うきうきします。 体力に余裕がある時は寄り道をします。 たとえば、本屋さんに。 新刊や文庫本のコーナーをチェックして、おもしろそうな本

011 丸いせっけん*ふむもくエッセイ*

もくもく夏の雲が浮かんでいます。 今日はいつもほど暑くないみたい。 床にぺたんと座ってベランダから空を見てると、夏のぱきっとした青と雲のやさしい白で視界がいっぱいになって、夏も悪くないね、と思います。 きっと、過ごしやすさは気温だけじゃないよね。 ふわふわの雲を見ていたら、なんだかせっけんを思い出しました。 ボディソープは便利で良い香りだけれど、私はせっけん派。 毎日の清潔はせっけんにおまかせしています。 初めてせっけんを開けるときは、わくわくするけれど少しよそよそしい感

009 手紙のあたたかさ*ふむもくエッセイ*

私の家の洋服をしまっているところに、ひっそりと箱を置いています。 箱は二つあって、ひとつはワイングラスが入っていた薄黄色の箱、もうひとつは何が入っていたのかわからないのですが、昔母にもらったダークグリーンの箱。 この箱の中には、ひみつの宝物を入れているのです。 これまでもらった手紙たち。友人や先生からの大切な言葉たちです。 私がよく開けるのは、薄黄色の箱の方です。 薄黄色の箱は、大学のころから現在までにもらった手紙が入っています。 例えばこんな手紙。 高校生のころ特に仲

007 お茶の時間*ふむもくエッセイ*

朝、起きたら紅茶をいれます。 あかるい陽ざしの中で、また、鳥の声が聞こえる中でお茶の用意をするのは、なんだかうれしいものです。ポットからほとほと、と音を立ててカップに注いだら、しばらく香りを楽しんでゆっくりと飲みます。体がぽかぽかして目が覚めて、今日もがんばろう、と思える時間です。 私はあたたかい飲みものが好きです。季節関係なく好きです。 熱いではなく、あたたかいというところがポイントです。(猫舌だから) そして「お茶」という言葉も好きです。やさしい雰囲気でゆとりのある言葉