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026 もけもけのこと


昨年の五月、実家にくるみがやってきました。
母が近所のクリーニング屋さんからもらってきたようです。

くるみは、白い毛に黒や茶の模様が入っていて、鼻と肉球はピンク色の雌猫です。

なんてことない日に母から写真付きのメールが届き、
「猫を飼うことになったの。名前はなにがいいかしら」
と尋ねられました。
私はその時くるみを食べていて、その猫の額に入っている茶色い模様がくるみのようにしか見えなかったので、「くるみ」と返信しました。

その猫は、晴れて「くるみ」になりました。
場合によっては、「だいず」だったかもしれないし「シナモン」だったかもしれません。
しかし、その猫は見れば見るほど「くるみ」だったのです。

私が実家に帰った時、くるみはみかんを入れていたかごに隠れていました。
かごの中をのぞいたら、少し怯えたような表情をしました。まさに、隠れていたのに見つかった、という表現がぴったりな表情でした。

その時のくるみは、手ニつぶんくらいしかない体の大きさでした。
小さくてもけもけで、あたたかい生きものでした。

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くるみは怖がりでした。
すぐどこかに隠れたがり、私のスカートの中を隠れ家にしようとしました。
女の子だからいいか、と思ってスカートの中にくるみが入ったままにしていたら、その中でねむってしまいました。スカートの中で私の足にもたれかかり、明らかに全身の力をぬいています。

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とても微笑ましく、愛らしいのですが、お手洗いに行きたくなってしまいました。仕方がないのでスカートの裾を少し上げて、くるみの隠れ家に光を差し込ませてみました。くるみの顔が動きました。異変に気付いたようです。
「起きる時間です」
と言ってみました。(くるみとは出会って日が浅いので、きちんと丁寧語で話していました)
すると、くるみは立ち上がりました。なんて素直な猫でしょう、と感激していたら、くるみは体をくるくるくると方向転換して、またぺたっと私の足にもたれかかってしまいました。どうやら、まぶしくない方向に体を向けたかっただけのようです。

私は今度はそーっと足を広げてみました。
くるみは全力で私の足によりかかっていたので、ぺしょっと転げました。
その間に足を曲げて出入り口を作ったら、しぶしぶ出てきました。
まぶしかったようで、なんとも渋い表情でした。

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私は、くるみに会いに時々実家にかえりました。
くるみと遊んだり、会話をしたり(一方的に私が話すだけです)するうちにわかったこと。

・くるみは音に敏感。うっかりモノを落とすと、非常にびっくりするので要注意。
・くるみの友人は灰色のぬいぐるみのわんこ。家族みんなで買いものに出て、帰ってきたら玄関にわんこをぽとりと落としています。代わりばんこで番犬(番猫?)をしてくれていたようです。
・新しいものに興味しんしん。買いものぶくろを置いていると、必ず中身をチェックしに来ます。
・花がすき。床の間に飾っている花をしょっちゅう嗅ぎにいっています。嗅いだり頭をすりよせたり。
・人の足の間に入るのが好き。正座をしているとやってきて、小さなまるい手で膝小僧を押して広げようとします。母曰く、歯磨きをしていても入ってくるそうで、両足のくるぶしに気がついたらもけもけが当たっているそう。

そして、くるみは極度のさみしがりやでした。
私が自分の家に帰るときは「帰っちゃうの?」という表情で玄関まで来ますし、母がお風呂に入っている間はおとなしくお風呂の前で待っています。
猫らしくないといえば、そうかもしれません。

しかし、くるみの立場で考えると、毛玉のような頃に親兄弟と引き離されているのです。それはそれは、さみしいかもしれません。

母曰く、くるみはよく寝言を言っているようです。
とても小さな声だから、耳をすませないと聞こえないそうですが、目を瞑ったまま、なにかもにゃもにゃと言っているそうです。

くるみはなにを思っているのでしょう。
スカートの中に隠れるのも、お風呂の前で待っているのも、わんこと番犬をするのも、彼女なりの「もう誰とも離れたくない」という意思のあらわれなのかもしれません。

大切に暮らしていきたいですね。

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おまけ

ちなみに、くるみはカメラが嫌いで、ほとんど写真を撮らせてくれません。
眠っているときにそっと撮ろうとしたら、さっと目を覚ましてしまうので、もう寝ている時にカメラを向けるのはやめることにしました。かと言って、起きているときはちょこちょこ動き回るかどこかに隠れるので、撮れてもぶれぶれのまだら模様の毛玉の写真です。

なので、私の写真データにはもけもけだらけです。
奇跡的に撮れたものだけ。今はもっとずっと成長していますが。

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