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映画 「街の上で」 下北沢という街と、あの頃の記憶

かつて下北沢という街で、それほど多くの時間を過ごしてきたわけではない。

そんな私でも、大学生の頃には古着を探しに行ったり、ヴィレッジヴァンガードをあてもなくブラブラとしたり、友人の出演する芝居を観に小劇場に行ったり、無名のアーティストの小さなライブに行ったりした記憶がある。

気がつけば、その街は「自分よりもずっと若い人のための街」となり、「もう全て変わってしまった街」であり、もう足を踏み入れることはないだろうとも、思ってもいた。

そんな下北沢という街で撮られているというこの映画、少しドキドキしながら観に行った。

STORY
下北沢の古着屋で働いている荒川青(あお)。青は基本的にひとりで行動している。たまにライブを見たり、行きつけの古本屋や飲み屋に行ったり。口数が多くもなく、少なくもなく。ただ生活圏は異常に狭いし、行動範囲も下北沢を出ない。事足りてしまうから。そんな青の日常生活に、ふと訪れる「自主映画への出演依頼」という非日常、また、いざ出演することにするまでの流れと、出てみたものの、それで何か変わったのかわからない数日間、またその過程で青が出会う女性たちを描いた物語。

公式サイトより引用 https://machinouede.com

映画の中で久しぶりに見た下北沢は、私が20代前半だった2000年代初め頃の、記憶の中の街となんら変わらないようにみえた。

狭くて細くて突然急な坂道がある路地。古着屋にしても本屋にしてもバーにしてもカフェにしても、店内の人の話し声が全部聞こえてくるほど狭くて小さい密な空間。

知り合いの知り合いをたどれば、きっと必ずつながってしまう狭いコミュニテイ。店や街や人との距離が近く、その街から出なくとも、昼も夜も友人も恋人も全てその街の中で完結してしまう住民の暮らしぶり。

街の外へ出たら、ちょっと浮いてしまうような服装や髪型をしている人が街に溢れていて、夢を追う映画学生や小劇場の役者、ミュージシャン達と肩を寄せ合ってお酒を飲んだりしたこと。

あの頃の記憶が、この物語の主人公、荒川青の淡々とした暮らしぶりの中に垣間見えたような気がして、強烈な懐かしさと、少しの寂しさと、日常への愛おしさとが入り混じる感覚を覚えたと同時に、心にじんわりとあたたかさがこみ上げてきていた。

街も人もお店の気配も全然変わらない、同じような魅力があった。

映画の世界なのに、不思議とそう思えた。

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この映画の中で、青が出会っていく4人の女性達がまたとても魅力的だ。

きっと「文化系女子」とカテゴライズされるであろう彼女達を、さらに明確に細分化したかのような全然違う個性の4人。

自分がこの彼女達の中だったら絶対に「雪」にはなれないな、と思っていたり、最後の方のシーンで「イハ」が青の働く古着屋に立ち寄ったときの気持ちを自分と重ねてしまったり、若き映画監督「町子」が映画仲間と議論に熱くなっている姿を愛おしく思ったり、本屋で働く冬子の佇まいに見惚れてしまったり。女性達のキャラクターそれぞれに寄り添っている描かれ方がとてもよかった。

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青と、映画の撮影クルーの一人である「イハ」が、初めて出会った日に、打ち上げの二次会を抜け出して、深夜に二人になったシーンが、とても心に残っている。出会ったばかりの男女の、当たり障りもないような、でも時間をかけて少しずつ踏み込で行くような打ち明け方や、距離感がすごくリアルで観ているこちらまでドキドキした。
夜中までお酒を飲んで過ごしたときの、深夜2時ごろのテンション。何を言っても笑えてしまうような、眠いような気怠いようなあの感覚。

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映画全編に言えることだけれど、なんでもない普通にありそうな会話の中にクスリと笑える言葉があったり、逆にすごく納得するような文脈があったりと、全ての会話が日常の中でありそうなものばかりで、一語一句を脳内にメモしたくなった。
「文化ってすごいよ。映画とか音楽とか小説とか。ずっと後まで残るじゃない(不明確)」の言葉だったり。

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最後の最後に私が思ったことは、随分と突拍子もないとても個人的なものだ。

昔、すごく美人な友人がいた。「雪」のような女の子。彼氏がいて男友達もいっぱいて、どんなにわがままでも自由に振る舞ってもずっと周りの男子が追いかけてしまうような女の子。

今も昔も男性が惹かれる女性像は同じなのだよなあと、最後に思ったしまった私は随分ひねくれているのかな。

あの子にも、下北沢の居酒屋でバイトをしていた大学4年生の彼氏がいたはずだったな。


可愛くて話しやすくて恋愛経験が豊富なわけでもなくて、青と限りなく近そうで、ちょっと特別な夜を過ごしたけれど、青とはなんにもなかった「イハ」に私はついつい感情移入をしてしまった。

きっと、どこかにあった自分の脳内の記憶に重ねたからなのだろう。

自分の20代の頃の苦い思い出までもがひっぱり出されて、なんだか全部がとても愛おしい作品になった。

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