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花組全国ツアー『激情』ゆるゆる感想②

①はこちらから。

正直、綺城ひか理さんのエスカミリオが最高にかっこよすぎるのと、咲乃深音さんのミカエラがあまりにも健気でもういっぱいいっぱいで。
あんなにNOW ON STAGEなどでホセとの対比のお話をされていたにもかかわらず、ようやくホセとエスカミリオの対比などについて考える余裕ができてきました。


ホセとカルメン

あたいは、あんたに惚れた。

『激情-ホセとカルメン-』第4場より

出会ってしまった。もう、これに尽きますね。
ホセの中に元来存在する人より強い執着心や真っ直ぐさを、カルメンが刺激して突き進んだ結果が2人の最期なのではないかなと。
ホセの言う「俺のためなのか、カルメンのためなのか」に関しては完全にホセが自分自身のために全てやっているし、カルメンも己の運命を受けいれていますし、理屈じゃないんだな……
全く共感はできないのですが、理屈じゃなく愛し合っていたことだけは理解できますし、2人の理屈じゃない愛が根底にあることが何より作品に説得力を与える気がします。

ホセの身近な女性というと、母とミカエラくらいのはず。
心の中では安定した生活や穏やかな暮らしを求めるにも関わらず、カルメンの放つ輝きや薔薇の香りに強烈な印象を植え付けられ、自分でも信じられない行動に出た直後の営倉でのやり取り。
一瞬だけ婚約者のことを思い出しても、カルメンのことが本当に脳裏に焼き付いて離れなかった。
彼女の存在は確かに営倉でのホセの支えになっていた。
理解は、理解だけはできる……!

カルメンは最初薔薇を投げた時はあら、すてきな男くらいの気持ちで、本気で惚れたのは営倉でのセの「気をつけるんだぞ」という一言だったのでは、というのは観劇していてわかりやすくて。
ただ、彼女自身がホセと己のことを犬と狼に例えていますし、たとえ愛し合っていたとしても、根本的な価値観の相違はいずれ亀裂を生むことになったのではないかな、と。
実際、まず2人の夜を迎えた直後に価値観の相違が出ていますし。
一夜だけで「私と一緒に来てくれるな!?」ってほぼ断定して聞いてくる男、ちょっとかなり執着が強いと思う。
カルメンに穏やかな暮らしを求めるのは、彼女のことを愛してはいても、決して理解はしていないなと正直何度観劇しても思いますね。
「君は本当に彼女のことを理解しているのか」ってメリメさんにまでツッコミ入れられて……

エスカミリオとカルメン

そして彼は死んだ。恋は終わったのよ。

『激情-ホセとカルメン-』第14場より

ホセとカルメンの関係が愛なのだとしたら、エスカミリオとカルメンの関係はやはり恋なのだと思います。
一時想いを通わせ、情熱的で甘やかな時間を過ごしたとしても、男の死と同時にあっさりと終わりを迎える関係。
では、カルメンの側ではそうだったとして、エスカミリオの側から見た場合どうなのか。
恋は恋でも一時の恋では無く、あの闘牛の試合の時点ではかなり本気が混じったものだったのでは……と思います。
①の感想でも書いたのですが、自分の命を賭ける仕事に就いている男が、己の勝利を捧げてもいいと考えている。
このことがなによりの証左なのではないか、と。

二人の初めての出会いは、リーリャス・パスティア。
カルメンの情熱な瞳の輝きに惹かれ、カードの勝負と同時に自分の元へ来るかどうかという恋愛ゲームのテーブルにも、その立ち居振る舞いのごとく強引にカルメンを着かせたエスカミリオ。
カルメンという女に太陽を見る男。
エスカミリオは本気で運命の女神は俺を裏切らないと信じている男なので、自分に酔っているとかではなく、本気でカルメンの焼け付くような情熱に太陽を見ているのだと思います。
作中で一番といっていいカラリとした風情の男が、カルメンという情熱的で自由な女の深みに嵌まるきっかけが気になるところです。
個人的には、あの濃厚な逢瀬はあくまでもカードから始まった恋愛ゲームの結末であり、あの時点でエスカミリオのカルメンに対する感情はそこまで本気ではないと思うんですよね。
「やはり俺の言った通り、彼女との時が来た」くらいにしか考えていないのではないかな……と。
そこから、どのタイミングで自分の勝利を捧げたくなるくらいの想いの強さになったのか、もうスピンオフ欲しいですね。やってくれ。

ホセとエスカミリオ

エスカミリオって、そんなに良い男か。

『激情-ホセとカルメン-』第12より(台詞うろ覚え)

良い男だよ!!!!!
ナバーラ出身のイダルゴでありながら、現在は故郷から遠く離れたアンダルシアで兵士として働く男と、「マタドールのエスカミリオよ!」と初めて行く酒場で支配人に挨拶される程に顔が売れている、華やかな男。
彼らの共通点は、カルメンに出会い、彼女に恋をしたあるいは愛したということ。
エスカミリオはホセのことを全く知らないですし、彼の人生にほぼホセは関わっていないのですが、もしかしたらホセはカルメンと出会う以前、闘牛士のエスカミリオの名前だけは聞いたことがあるのではないかな〜と想像をしたりします。
カルメンという1人の女を通して、決して交わりそうにない2人の男の人生が一瞬だけ交差するのがアツい!!
安定と刺激、人生に求めるものも異なる上、あんなに女の趣味が違いそうなのに、2人を繋ぐものがカルメンただ1人なのがアツい!!

カルメンから薔薇を投げられたことが、ホセの中ではおそらく彼女を意識するきっかけになっていて。
逆にエスカミリオは、自分からカルメンとの関係を切り拓いていて、彼女との出会いも対象的。
カルメンとの一夜の描き方も同じく対象的だな〜と思ったりします。
営倉から出たてほやほやで自分から走って彼女のもとへ行き、もういっぱいいっぱいになりながら現実からも目を逸して彼女といることを選んだホセ。
一方で、彼女が自分の元へ来る時を待ち、その機会が来たら強引さがありながらも情熱的に丁寧に彼女を愛するエスカミリオ。
あのショールを肩にかけて去っていく様子が大好きすぎるんですが、あの後は日常生活にしっかりと戻っていく感もあり。
ホセはカルメンに溺れ、この女がいれば……と突き進んで行きますが、エスカミリオは決してカルメンに溺れてはいなくて。
対女性の経験値の差がかなり出ていますね。

また、ホセはカルメンと愛し合うようになってから、彼女の自由を奪い束縛するような言動が増えていきますが、エスカミリオはそのカルメンの自由をこそ愛しているような印象。
原作で、ホセのことをカルメンが”カナリアのような男”と言っていたことを思い出しました。
ホセは鳥籠に囚われているような雁字搦めの男で、相手も一緒に鳥籠に入れようとしてくるタイプ。
エスカミリオは自分も自由に羽ばたいていくし、相手も同様に自由にさせているような印象です。

おわり

原作のプロスペル・メリメ『カルメン』を読んだ上で観劇すると、より作品の世界が味わえるようで楽しい公演期間でした。
原作のドン・ホセの、どこまで落ちぶれてもバスク地方出身の男であること、イダルゴであること等、己の出自への誇りが言動に滲み出ている様子がたまらなく好きです。

『激情』にはミカエラがいるので、どうしてもホセの胸ぐらをつかんで揺さぶりたくなるのですが、原作を読むと本当にカルメンとの出会い、彼女へ嵌まっていく様子が理屈では無かったのだなと。
どうしても劇場ではオペラグラスで観たいところに注目してしまうので、Blu-rayで全体も観たいですね!
発売は年明けですかね。待ってます!


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