どうして栄養学はわかりにくいのか
noteを書き始めて気づいたんだけど、ちゃんとしたことを書こうとすればするほど言葉のチョイスだったりその根拠とか論理みたいなのが気になりすぎてなかなか記事が書き上げられない。
なので今日はできるだけさくっと書いてみるね。
今日は、どうして栄養学が難しい(わかりにくい)と思われているのか、についての私なりの解釈を書きます。ちなみに、今回食事の"コントロール"という部分には触れない。
ここがわかりにくいよ!栄養学
1.「栄養」という言葉の意味がよくわからない
栄養=栄養素と思っている方も多いのではないだろうか。
間違いではないが、栄養というのは生物が体外(外界)から物質を摂取し、それを体を構成したり(維持したり)生活活動を行ったりするのに役立たせる現象のことを指す。
つまりは代謝の概念が含まれている言葉であり、なおかつその現象に使われる物質(栄養素)のことをも同じ言葉で指している。そして時にはその物質(栄養素)を含む食品のことも「栄養」と呼んだりする。
ややこしや〜だよね。
2. 「栄養」は食品のことも指すが、食品は栄養素ではない
食品を何か一つの栄養素で評価することはあんまりいいと思えない。健康食品とかで、レタス●個分の食物繊維が入っていますなんて表示があるけど、食品には複数の栄養素が含まれている。それを頭に入れておかないと「卵は1日に何個でも食べていい」という困った誤解が生まれる。
2015年に日本動脈硬化学会がこのような声明を発表した。「食事で体内のコレステロール値は変わらない」と大きく報道された。
でもこれは、食事中のコレステロール値が血液中のコレステロール値に影響を与えていないことがわかっただけ。脂質の摂取量が多いと血液中コレステロール値が上昇することは否定されていない。それなのに「卵は1日に何個でもOK」と解釈するのはちょっと困ったことになる。コレステロールはよくても他の栄養素はどうだろう?
同じことは他の栄養素にも言える。カルシウムを取ろう!と思って乳製品を積極的にとる方もいると思うが、乳製品に含まれている栄養素がカルシウムだけではないことに気をつけてほしい。
3. 割合と重量の両方で考える必要がある
栄養学で特にわかりにくいのはここじゃないかと思っている。
例えば、たくさん食べる人と少なく食べる人がとった栄養素の摂取量を単純に重量比較していいのだろうか。
説明が少し難しいのだけど、答えはNo。栄養素は密度で考える必要があるので、食べる量が違うと単純に比較することができない。
とは言っても、各学会が出しているガイドラインや食事摂取基準では基準量や目標量等が示されている。これはどういうことか。
ガイドラインについてはちょっと勉強不足で説明ができないので、食事摂取基準で説明するね。食事摂取基準には参照体位というものがある。つまりはこの基準を考える時に想定している日本人はこんな人だよってこと。だから食事摂取基準の値というのは「これくらいの身長・体重の人だったら●gが目標だね」っていうことを言っているに近い。ちなみに参照体位は国民健康・栄養調査の結果を元に算出している。
でも個人的にまだうまく咀嚼できていないことがあって、参照体位を設定する際の対象者と、基準値を設定する際の根拠となっている研究の対象者って別だよなぁ、ということ。母集団とかそういう話になってくるからこの話はまた今後。
4. 自分が何をどれくらい食べているのか知るのは結構大変
突然ですが、あなたは何をどれだけ食べているか正確に答えることができますか?
私は栄養士なので、できればYesと答えたいところだけど、自炊以外の物を食べた時はよくわかっていない。
自炊の有無以外にも、人は自分に都合の悪い食べ物は食べたことを忘れてしまう性質があるとか。そして食事調査を行なった際にはかならず申告誤差があることもわかっています。
例えば、減量指導の現場で対象者に食事記録をお願いしたとする。対象者の持ってきた記録では減量の妨げになっている食事内容が見当たらない。隠して何かを食べているわけでもなさそうだし、がんばって取り組んでいる様子もうかがえる。うーん、どうしたものか…。栄養指導や保健指導をしたことのある方で、そんな経験はありませんか。
現場でよく使われるのは、費用のかかりにくい食事記録法や24時間食事思い出し法という方法かな。でもこれって実は、対象者の理解度に影響されたり、調査員の熟練熟練具合に影響される方法なんです。ベテランのみなさんであれば「●●は聞いた?」「××が抜けているじゃない!」なんていうご指摘もできるかもしれません。でもそれって聞く人によって結果が変わってしまうということだから、調査としてどうなのかなぁ、と研究する立場の私は考えてしまうのです。
食事調査法については、食事摂取基準のP23(総論のページ)にまとめられてるよ。
5. 実はわかっていないことが多い
私が学生になる以前は、植物性食品のほうが身体にいいというざっくりした知識が一般に広まっていた時期があるらしいです。「健康のためにバターよりもマーガリンを使いましょう」と言っていた時代もあるそうだ(AよりもBを使おうというメッセージには別の意図も感じちゃうけどね)。
栄養に関する研究が進むにつれ、過去の常識が覆ることは実はよくある。実のところ、日本での栄養の研究は諸外国と比較するとまだまだ余地がある。研究者も十分にいるとは言えない。
ちなみに、栄養に関する最新の知見をまとめたのが食事摂取基準というもの。近々新しいバージョンが発表されるよ。
栄養士のみなさんはきっと国家試験対策としてこの基準を一生懸命覚えようとしていると思う。私も受験前にある程度は覚えた。でもこれって、5年に1度改定されるんだよね。だから基準値を覚えるよりも、なぜその基準を設定したかという背景を知っている方が大事だったりする。学校ではなかなか教えてくれないことだと思うけど。
ここまでざっと書いてみたけど、なんかスッキリしないや。また整理してみるね。実験研究の結果の解釈についても書こうかと思ったけど、ちょっと内容が重たくなるので今回はこれくらいにしとく。サクッと書くつもりがなかなか時間かかってしまった。
Photo by Steve Johnson on Unsplash
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