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東京駅のあちら側とこちら側で


 三菱一号館ビルが建てられた1894年、長い鎖国の後の開国から40年経った日本と、同じ頃パリではちょうどエッフェル塔が登場した。新しい時代を予見する日本とフランス、ヨーロッパに渡り洋画を学んだ日本の画家と、日本の美術や工芸に大きく影響を受けた印象派の画家と、それぞれの時代、それぞれ新しい表現が生まれていた。

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 時代の寵児のようなロートレックは、三菱一号館も多くのコレクションを持ち、ここではおなじみのシンボルのような存在といえる。今回の「1894 Visions ルドン、ロートレック展」では、岐阜県美術館の持つオディロン・ルドンの作品を合わせ、多角的な側面から同時代のパリを見せている。
 オディロン・ルドンといえば、私としては、ひとつ目の大きな顔が満月か太陽のように山あいからのぞいている「キュクロプス」で、イタリアの美術史の教科書で、よく見慣れた印象派の作品たちに続いてこの目玉が出てきて、以来、忘れようにも忘れがたい作品のひとつとなった。岐阜県美術館がルドンの作品をこれだけ所蔵していたのも実は知らなかったのだが、初期の頃の、木炭や石炭によるモノクロの不安と神秘に満ちた作品から、徐々に色彩が入り込み、やがて「大きな花束」が開花する、印象派と異なるアプローチを試みたルドンの道のりが明確に示されている。

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(画像は、所蔵のクレラー・ミュラー美術館のサイトから拝借しました。https://krollermuller.nl/ )

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 東京駅を挟んで東側、アーティゾン美術館では、同時代という軸ではなく、日本の江戸時代の美術を大きく彩った「琳派」と、「印象派」とを、都市で花開いた文化として紐解いている。
 序章はズバリ、都市の比較。今となっては最古となる、だが当時は最新だった橋を渡る人々をやや鳥瞰した角度から描いたカミーユ・ピサロの「ポン・ヌフ」と、浅草橋、日本橋、京橋・・・とたくさんの橋が描かれた大きな俯瞰図「江戸図屏風」。視点も目的も技法も何もかもが違う2点ながら、ただ、あちらとこちらを結ぶだけではない、人の賑わいをもたらす場としての橋の姿があるのがおもしろい。

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 お目当ての俵屋宗達「風神雷神図屏風」は、そしてやはり見応え十分だった。マンガの原点を思わせるデフォルメ、2曲1双の両端に対照的に収められた意匠性、何よりもその迫力、・・・対峙する2神の間にたつと、両側からぐうっと引っ張られるような、そしてその直後に訪れる嵐の予感がするような、心地よい緊迫感に包まれる。・・・もっとも、この作品の前には常に人だかりがして、なかなか全体図を見渡すことはできないが・・・。

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 なお、東西の比較という点では、宮下規久朗先生の「そのとき、西洋では」がおすすめ。日本の美術についてまずしっかりとおさらいをしたあと、「その時西洋では」とスパッと切り替わり、並行する別の物語が展開するのは、まるでコンパクトで気の利いたオムニバスの映画のよう。白黒だが図版も豊富でわかりやすい。長いこと、直接触れ合うことのなかった日本の美術と西洋の美術は、全く独立しているようでいて、不思議と、同じような変遷を経ていたりするのがおもしろい。

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 気がついたら、この2020年の初めに、原田マハさんの「風神雷神」を読んでいた。そして今年の展覧会の締めがその「風神雷神図屏風」。いろいろな意味で大変な1年だったけれど、それが予感された1年だったような、パワーをもらえた1年だったような。風神さま、雷神さまのお姿にがっつりと挟まれた1年だった。

そのとき、西洋では 時代で比べる日本美術と西洋美術
宮下規久朗
小学館
https://www.shogakukan.co.jp/books/09682274

1894 Visions
ルドン、ロートレック展
三菱一号館美術館
2020年10月24日〜2021年1月17日
https://mimt.jp/visions/

琳派と印象派
東西都市文化が生んだ美術
アーティゾン美術館
2020年11月14日〜2021年1月24日
https://www.artizon.museum/exhibition_sp/rimpa/

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Fumie M. 12.28.2020

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