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やっぱり展覧会が好き〜古賀太『美術展の不都合な真実』

 えっ古賀さん、そこまで書いちゃっていいの???
 単なる暴露本みたいなのは好きじゃない。でも、お仕事の現場や、舞台裏を覗くのは嫌いじゃない。美術展、となると、ふむ、かなり気になる。

 イタリアから日本に帰ってきて驚くのは、展覧会の多さ、豪華さだ。特に東京の展覧会事情は、そう、東京の1シーズン分だけでざっと合わせると、イタリア全国の数年分になるのではないか。美術の本場、ってこともないけれど、少なくとも西洋美術史において極めて重要な一角を占めるイタリアでは、行列をなす、大評判を呼ぶような展覧会は、全国で見ても年に数回しかない。
 なぜ日本では、これだけ豪華な展覧会が目白押しといった具合に開催できるのだろうか?経済力?そうとも言えるが、ただ、ポーン!とお金を出して作品を集めて来るような、単純な話ではない。むしろその裏には、ここに関わる全ての人の、知恵と努力と工夫と、信念と意地と無理と・・・がギッシリと詰まっている。(ほとんどが遠いヨーロッパやアメリカにある)作品をこれだけたくさん、日本にいながらにして実物を目にすることができる、その裏の尽力にはただただ感謝しかない。
 著者はそのカラクリを、惜しみなくさらしてくれる。数々の伝説の展覧会から、ここ数年世間を賑わせた「あの」展覧会まで。見たもの、見てないもの、見たかったけど見逃したもの・・・。古賀さんのズバリ解説に、うんうんと大きく頷いたり、なるほど〜と感心したり。「不都合」な「真実」を知ったら、展覧会なんて行きたくなくなる?・・・いやいやむしろ、いろいろなモヤモヤがポンとふに落ちて、これはますます、展覧会に出かけて、ぐるりと見渡して見たくなる。

 話題の、(話題作りが盛大に行われている)展覧会に行くのもいいと思う。有名な作品にはやはりそれなりの理由がある。ただ、一度深呼吸をして、新聞の展覧会リストを見たり、ネット上の展覧会情報をチェックしたりして、ほんとうに自分が興味があるもの、あ、これおもしろそう!を自分でみつけて行ってみると、それはきっと、ずっとたくさんの満足になると思う。
トレンド?そう。それを押さえるのもいい。そこで、1つでも、あ、いいな、と思える作品に出会えれば幸せなこと。お気に入りの美術館を見つけるのもいい。1つ展覧会に行って気に入ったら、その美術館の次の展覧会にも行ってみる。

 ウィルス問題の拡大で、展覧会や美術館も大きな変更や中止を余儀無くされた今年、ここからの新しい展覧会の企画、実行は当面、ますます複雑で困難になっていくだろう。それでもなお「次」を模索しチャレンジを続ける関係各位に、心からエールを送りたい。この本は、展覧会のあり方を見直し、考え直す必要に迫られた美術館や学芸員のみなさま、オーガナイザーのみなさまへの大きなオマージュと言える。

 さあ、この週末は何を見に行こうか?

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美術展の不都合な真実
古賀太・著
新潮新書
https://www.shinchosha.co.jp/book/610861/

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Fumie M. 09.12.2020

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