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山口つばさ「ブルーピリオド」最新8巻と、会田誠「げいさい」


 人生なんとなく、うま〜くこなしてきたはずの高校生・矢口八虎がある日突然、「美術」に目覚め東京藝術大学を目指して、もがき苦しむ姿を描いた『ブルーピリオド』、7巻から八虎は、上野に通い始める。・・・だが、憧れて入ったはずの大学は初日から驚きと衝撃、挫折と憂鬱でいっぱいだ。人付きあいもソツなくこなす、愛されキャラだったはずの八虎も、二度三度と簡単に崖から突き落とされる。なんなんだ、この藝術大学というところは・・・。

 2020年マンガ大賞に続き、第44回講談社漫画賞総合部門を受賞し、勢いが止まらない「ブルーピリオド」の最新第8巻では、苦難の1学期をようやく終えて夏休み〜・・・かと思いきや、9月の文化祭の準備に突入する。学部対抗の神輿に、法被、チームを分けて夏休み中かけて制作し、当日な神輿の練り歩きと法被をきてのダンスを披露する。・・・あれ、どこかで聞いたような?
 ・・・そうそう、実は、私の通っていた高校がまさにこれだった。9月末の日曜日の体育祭。3学年縦割りのクラス対抗で、生徒たちが座る後ろに設置する「バックボード」という巨大な絵画に、「仮装」という名の大規模グループダンスは、構成や振り付けはもちろん、大道具から小道具、衣装も全て手作りで準備する。それぞれ一般観客(ほとんどが父兄とOBだと思うが)により審査・投票されて順位が発表され、メインの(そもそも体育祭だから!)スポーツ競技の得点と合わせて総合優勝を競う。・・・いやーともかく熱く忙しい夏休みだった。遠い昔のことだけれど。
 高校時代、部活と全ての学校行事に全力を注いでいた者として、文化祭準備にのめり込む学生たちの、この世界はまさにデジャブ。そして歳を重ね、そういろいろなことに熱くなってばかりでもいられないいい大人になった今は、他人事として引き気味の、他の大半の学生たちの気持ちもまた身にしみる。ちょっとした一言や態度が周囲の気持ちを、よくも悪くも揺さぶる。たまたま藝術大学という場で同じクラスになった者たちの間で。
 ハラハラドキドキが、止まらない。
 手にした途端にむさぶるように最後まで一気に読んで、7巻に立ち戻って7、8と続けて読んで、もう一度最新巻を、今度はすみからすみまで、じっくり味わって読んだ。ああ〜・・・次が待ち通しいっ!!!

 そんな最新刊を心待ちにしていたちょうど1カ月ほど前、作者の山口つばささんと、美術家・会田誠さんの対談を読んだ。


 さまざまなアート表現で知られる会田さんは、「ブルーピリオド」の存在を知らずに、自らのかつての経験を元に、藝大をめざす予備校生を小説にした、という。今も昔も変わらず、狭きポストを巡って争われる熾烈な争い、極限状態の中で悩み苦しむティーンエイジャーたちの機微を描いた。
 こちらはしかし、「げいさい」、つまり美術大学の学祭の一夜が舞台となる。時は1980年代。・・・えっ???・・・おっと、ぎょっとするほど、美大じゃないけれど、ニアミスと言えるかもしれない、この小説と当たらずとも遠からずの場所に、確かに私はいた。近すぎるためなのか、この本は読みながら、何か「におい」をずっと感じていた。匂いと、11月初旬の夜の湿気と、ひんやりとした空気と。その霧というかもやの向こうで、学祭の露店で、夜も更け、酔っ払いたちがグダグダと溶けていく・・・。
 
 状況は極めて近いけれど、大きな違いは高校時代、学生時代、ぜ〜んぜん何も考えずに過ごしてしまったこと、いや、当時はそれなりにいろいろ悩んだり考えたりしていたはずだが、東京藝術大学をめざし、そこに通う彼らがこれほどまでに、絵について、芸術について、社会や世界について考えていたとは・・・ハタチくらいの時に、私もこのくらい考えていたら、何か少しは変わっていたのだろうか・・・。

 よくもわるくも、学校行事にどっぷりとハマった10代を生きていた者として、学校行事が全てなくなってしまった今年、学生さんや中学、高校生たちの残念無念は想像するに余りある。いや、想像することすら難しい。みんなそのエネルギーを一体どこへどうしてしまったのだろう。あらためてこのウィルスの収束を、心より願う。

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げいさい
会田誠
文藝春秋

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ブルーピリオド 第8巻
山口つばさ
講談社

#ブルーピリオド #山口つばさ #げいさい #会田誠 #エッセイ #東京  
Fumie M. 10.01.2020


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