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【短編小説】魔女の弟子になりたくて第三話


面接当日になった。

結局、昨夜はなかなか寝付けなかった。
それでもやっぱりやめようと思わなかったのは、もしかすると本物かもしれないという期待を捨てられなかったからだ。

(おかしいと思ったらすぐに逃げればいい)

そう、自分に言い聞かした。

面接は学校が終わってからだ。
授業が終わって、急いで帰りの支度をした。
そのとき、同じクラスの男子が声をかけてきた。

「花菜さん、これからカラオケ行くんですけど一緒にどうですか?」

(カラオケ苦手なんだし、その敬語そろそろやめてほしい)

そう、思いつつも、ついつい敬語で話しかけたくなる「高嶺の花菜さん」を先に作りだしたのは自分だ。
それでも、誘ってくれたのは素直にうれしい。
サービスのつもりで、花菜は「高嶺の花菜さん」を思いっきり演じた。
少し首を傾げ、困った表情を作る。そのあと、下品にならない程度に上目づかいでその男子を見つめた。

「ごめんなさい。誘ってくれて、とっても嬉しいんだけど、今日は他の予定が入っていて。また誘ってくれたらうれしいな」

そして、鏡の前で何度も練習した「自然に見えるとびっきいり笑顔」をご披露した。

(ちょっとやり過ぎたかな?女の子に見られたら嫌な女って思われるかな?)

そんなことを考えてるうちに話しかけた男の子は、

「はい!」

と、断られたのにすごい笑顔で、一緒にカラオケに行くのであろうグループの中に戻って行った。
遠くのほうで「すげーいい香りがした」という声が聞こえてきたが、花菜は聞こえないふりをした。

(あぁ、疲れる)

なんでこんなことをしているのか自分でもわからなくなっていたが、自分の素を出す勇気はなかった。
これ以上体力を削ったら、これからの戦いに勝てなくなる。花菜は足早に教室を後にした。


魔法薬店の駅に着いた。
まだ、約束の時間より余裕があったが、急いで店まで向かった。スマートフォン片手にナビアプリが示すところまできた。

「たぶん、この店かな」

店は駅から少し離れ、駅前のお店が立ち並ぶにぎやかのところと住宅街の中間くらい、お店と住宅が混在して建っているようなところにあった。白と茶色を基調とした家で、ドアは木でできているようだ。
店の前には小さな窓があったが、その前にプランターが所狭しと並んでいて、中の様子はよく分からなかった。
それでもそこが目的地だとわかったのは、ドアの上に「魔法薬店 Lily」の看板があったからだ。

いきなり入る勇気もなく、花菜は何度か店の前を行ったり来たりした。
店の前を通るとき、中の様子が見えるか窓の横を通るとき横目で確認したがやはりよく見えなかった。
店の周りの人も観察したが、特にこの店に興味を示したり注意を払う人はいなかった。

そんなことをしているうちに約束の時間になったので、花菜は思い切って店のドアを開けることにした。
ドアについているベルがカランカランと音を立てる。

「こんにちは」

ノックをしたほうがよかったかな?でも、「店」なのにノックもおかしいか、なんて思いながら花菜は店に入った。
中は薄暗く、とても狭かった。四歩くらい進むとカウンターにぶつかる。小さな薬局と同じような作りだった。

しかし、普通の薬局の待合室にあたるところは普通ではなかった。そこには棚がおいてあり、色や形が個性的な瓶達であふれかえっていた。
中の液体も満杯に入っているもの、瓶のそこに少ししか入っていないもの。ワインのような透き通った赤、南国の海のようなさわや青、夕日のような橙色に新緑のような薄い緑、透明なもので泡を含み粘度が高そうなものから水のようにさらさらしていそうなもの。それぞれが魅惑的に輝いていた。
天井からは何かの草や花が釣り下げられ、すっかり乾燥しているように見えた。

店を入って左側に木でできた丸いドアがあった。
上のところには金属の棒が何本かぶら下がってドアが開くとこの棒がお互いぶつかって音がなるのだろう。

(こっちも入口?隣は家だと思うけど)

中には誰もいない。もう一度声をかけようか迷っているとき、店の奥から一匹の猫が現れた。黒猫だ。

(魔法にはやっぱり黒猫なんだ)

まだ、本当に魔法を扱う店か確信を持っていなかったが、そうでなくとも店主も相当ファンタジー好きと見た。魔女に黒猫なんて定番パターンだ。
黒猫はカウンターに飛び乗り、ちょこんと座り花菜のほうを見た。

「猫さんこんにちは」

花菜は黒猫に話かけた。

「やめろよ、猫さんなんて」

花菜は心臓が飛び出るかと思った。挨拶したものの返事が返ってくることを当然期待していたわけではない。なのに、この猫はちゃんと口を動かして喋ったのだ。

黒猫は歯をむき出しにしてニヤッと笑った。

「話す猫は初めてか?」

花菜は言葉も出ず、ただただ何度もうなずいた。
猫は愉快そうだった。

「あんたはアルバイト希望の花菜だろ?ついておいで」

猫は軽々とカンターを飛び降り店の奥へと入っていった。
花菜はまだバクバク言っている心臓を感じながら、黒猫について店の奥に入っていった。

(つづく)

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