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それでも人生は美しいー韓国ドラマ「まぶしくて」④ <感想>

この記事には総合的な感想を書きたいと思います。

これから心を寄せ合っていくというタイミングで姿が変わり果て、身体は傍にいるのにすれ違う二人となったヘジャとジュナの恋物語を見守っていたつもりが、10話最後でいきなり世界が大反転し、とたんに見えてきたのは、キムヘジャという一人の女性の、愛の物語でした。

愛するがゆえに誤解が生じていた母と息子のわだかまりも最後にとけて、本当によかったです。
息子もその妻も、心の地下室からやっと脱出できたようです。
ヘジャの夫ジュナに対する愛情に関しては、ドラマを何回も見返しているうちに、ヘジャに、私の愛を見なさいと言われているような気持ちになるほど、胸うたれました。
人は人のことをこんなにも愛することができるのだと。

そしてこのドラマは、陽も射さない場所で傷だらけでいる不幸なジュナという架空の存在を通して、終始、視聴者に、自分を大切にしてほしいと訴えかけてきます。
人生の価値は、幸か不幸か、有用か無用かなどでは決まらないのだと。
ヘジャの兄でやはり架空の存在ヨンスは、無職のスネカジリで誰の役にもたってはいないけれど、とても楽しそうに生きていました。そういった人間の象徴として明るく登場していました。
事故に遭う前、タクシードライバーをしていた妙に明るいテサンにも、現実にもそうだったヘジャの兄ヨンスが投影されています。テサンのタクシーネームプレートに、キムヨンスと書いてありました。明るく無能でそれでも楽しく生きていた素敵なキムヨンス!とても重要な登場人物だったと思います。ヘジャは息子テサンに、ヨンスのように生きさせてあげたかったのかも。

ヨンスが明。ジュナが暗。
ヨンスが地上。ジュナが地下。
ヨンスが真昼。ジュナが深夜。
ヨンスが太陽。ジュナが月。
対照的に意図されたように配置された2人。
同じ画面に映ることはほぼありませんでした。
そういうことなのだと思います。

しかし、痛々しく無気力で深夜に生きることを宿命づけられていたジュナも、老人に囲まれた中にいると、やはりまぶしく、とても美しかった。
ヘジャと共にいる幼馴染み女性2人も、その若さが明るく輝いて見えました。
通り過ぎたあとでやっと気づきがちな若さというものの素晴らしさを、人としての機能と家族との関係を徐々に失っていく老人たちを描くことで、逆説的に映し出していたと思います。
夜の暗さがあるから光はまぶしいとも言えます。
老人を描きながら若さの素晴らしさをあぶり出すやはりこちらも二重構造になっていましたね。
70年代のヘジャとジュナの若々しくまぶしい姿に、現在は老人である人たちもかつては若者だった事実を教えてくれます。

誰もが必ずもっていて、誰もが必ず失うことになる真っ青の時間。それを通過しなければ、誰ひとり夕陽にはたどり着けません。それは万人に平等な道筋なはずです。
そしてその平等が破られ一気に老人化したヘジャという架空の存在を描くことで、若さとの比較が描きやすく、老人とは何であるかをも描けていたと思います。ドラマを見る若者に、それを見せるという制作者サイドの視座も感じました。
老人とは死に一番近い存在です。
彼らが疎まれやすいのは、もしかしてその為なのかもしれません。大抵の人にとって、死とは目を背けたいものですから。
孤独で無能にみえる老人にもまだできることがあるとするヘジャの妄想が、時に可笑く、時に物悲しかったです。

それでもやはり、このドラマは、老人の美しさをも同時に描いていたように私は思えます。
ここにも二重構造を見ます。
さながら夕陽は老人の暗喩でしょうか。
示唆するように美しい夕陽がよく出てきますね。
一日の終わり、落ちて見えなくなっていく太陽。
瞬きするほどに輝いてはいなくとも、やはりその姿は美しくまぶしい。
そのまぶしさに、過ごした1日を思います。
過ごした人生を思うときもいつか来るのでしょう。幸せであり、不幸せであり、様々なことがあった自分の人生を。
ありふれていて特別でない、しかし特別だった自分の人生。
役目を終え消えゆくものの儚さに、命の尊さと儚さを重ねてしまう。
だから、人は夕陽を美しく思うのでしょうか。

人生の価値に、幸不幸、有用無用は関係がなく。
何かの役割を与えられて苦しくても、
何も与えられずに苦しくても、
自分には生きてる資格がないように思えても、
生まれたからには誰もが生きてよいのだと。
生きる資格があると。
そして楽しんでよいのだと。
不幸や不安に目を奪われて、
今を見過ごさないでほしいと、
自分自身を大切にしてほしいと、
ドラマ「まぶしくて」はそう伝えてきます。

時間をおいて再びみたら、今感じた感想とはまた違ったものが出てくるのでしょう。
とても多面的で示唆するものが点在している素晴らしいドラマだと思います。


最後に、ドラマラストにヘジャが語りかけてくるメッセージの全文を載せておきます。


私の人生はときに不幸で ときに幸せでした
人生は夢のように過ぎゆくものだといいますが
それでも生きてきてよかったと思います

夜明け前の冷たい空気
花が咲く前に吹く甘い風
黄昏時に流れ出る夕焼けの香り
どんな日もまばゆくない日はありませんでした

今、生きていることが苦しいあなた
この世に生まれた以上 
あなたには全てを楽しむ資格があります
平凡な一日が過ぎて 
また平凡な一日が訪れても
人生には価値があります

後悔ばかりの過去や
不安だらけの未来のせいで
今を台無しにしないでください
今日を生きて下さい
まばゆいほどに
あなたにはその資格があります

誰かの母であり 
姉妹であり
娘であり 
そして
私だった あなたへ


ドラマ「まぶしくて」あらすじ
ドラマ「まぶしくて」私的考察1
ドラマ「まぶしくて」私的考察2

まだまだ「まぶしくて」感想追記


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