会社員

日本でのOL時代:女だから仕方ない、は本当か。

イギリス大学院の授業の一環でGender Lab(ジェンダーラボ)が開催された。「ペアになって、今まで自分が経験した社会でのジェンダーの違いについて話し合ってみて!」と言われて、私はアメリカ人の男性に、自分が会社員だった頃の経験を少し語った。

彼からの言葉は、''Oh... I'm really sorry to hear that. ''。日本社会ではあるあるネタを話しただけだったが、本当に気の毒がられてしまったのは想定外だった。続けて、「実はアメリカでもそういうこと、過去にはあったよ。でも女性が声を上げた。それで社会が変わったんだ。」 

私がここで会社や日本の悪口を言いたいわけではない。ただ、大学時代までは感じたことのなかった、社会人になって押し付けられる社会的な「女性」という役割・不平等について改めて書いてみようと思う。

私は全国、海外に支店がある、いわゆる大企業で総合職として4年間働いた。業界的に男性が多く、女性の総合職は全社員の8%。完全に男社会だった。ほとんどの女性が一般職として採用され、総合職の補佐的な業務にあたる。入社後、名古屋に配属された11人の中で女性は私だけだった。

配属されてすぐ「齊藤さん、ちょっと」と先輩女性社員に給湯室に呼ばれた。「ポットのお湯の補充と給湯室の掃除は女性の当番制になっているから、よろしくね。」それを言ったのが、総務部でセクハラ相談窓口を担当している女性だった。ショックだった。

来客のお茶出しは基本的には一般職女性の仕事だったが、たまたま人が出払っているときには「誰か女の子ー!お茶出してくれる人いるー?」と営業部部長が叫ぶ。女性の名前を覚えられないおじさん社員が、女性のことをくくって「女の子」と呼ぶのも好きではなかった。

新入社員の時の直属の上司は、定年まじかのかなり癖の強い人だった。「齊藤、電話はお前が取れ。かけてきた相手も女性が出た方が嬉しいんだよ。」そして、私の同期の男性にはこう言った。「野郎の声なんて聞きたくないから、お前は出なくていい。」
終業後、納得いかなかった私は同期と「これって絶対セクハラだよね!?」という話をしていたが、周りで聞いていた他の職員もやっかいな上司とやり合いたくないのか、誰も声をかけてくれる人はいなかった。

男社会の中の「女性への配慮」という建前で、男女の差に何度もぶち当たった。同期の中でも女性は転勤のタイミングが他の同期よりも遅かった。海外志望の女性は国内に残され、国内希望の男性を海外に出している現実も許せなかった。何度となく「若い女の子を海外に行かせられない。」と言われ、能力なんて関係ないんだと知った。

東京に転勤した際、私の面倒を見てくれたのは、私より2年先輩の一般職の女性だった。本当に頭の回転が速くて仕事をどんどんこなして、確実に総合職の私よりも担当業務が多かったのは間違いなかった。それでも、一般職という契約上、総合職の80%程度の給与しかもらっていなかった。2年後輩の私の方が給与が良いにもかかわらず、「先輩だから」とご飯を一緒に食べに行っても奢ってくれることさえあった。すごく自分が情けなかった。私が男性だったら、彼女は一般職なんだと思えば、それ以上深く考えなかったかもしれない。同じ年頃の女性。私たちを隔てるものは、雇用形態だけなんだろうか。

後輩で入ってきた総合職の女の子で、化粧や服装が少し派手な子がいた(会社規定は守っている。)。「あの子、キャバクラで働いてたんじゃないの!?」、「スカート短くない!?」飲み会の席で、よっぱらったおじさん社員がすぐに女の子の容姿をいじる。私もその子も、何度となくお酌に付き合わされた。休日の上司の飲み会に呼ばれることもあった。

飲み会では、決まって恋愛話を振られた。「この中にいる奴で誰が一番タイプ?」、「彼氏いるの?」、「お前らお似合いだよー!付き合えよー!」、「彼氏はどこで働いてんの?」、「結婚しないの?」。もちろん、嫌ならば行かなければいいのだけど、私は「面白くないやつ」だと思われることを極度に恐れていた。自分のやりたい仕事をするためには、おじさんに好かれてなんぼだと思っていた。実際、ニコニコと「〇〇さん、かっこいいですよねー!」、「いや~来週デートなんですよ~」と何を聞かれてもすべて(嘘か本当かは置いておいて)答えて、自分の売り込むのに必死だった。

実際、そうやって(こんなしょうもない飲み会ばかりではないが)たくさんの管理職と仲良くなって仕事がしやすくなったことも多々ある。会社を辞めた時は東京で働いていたが、名古屋でお世話になった上司や先輩方がわざわざ(名古屋でw)送別会を開いてくれた。出会った人たちは、みんな本当に良い方たちが大半だった。

私がいた会社は、創業100年を超える昭和の名残を感じさせる会社だったのもあって、一昔前(だと私は思っている)の習慣が強く残っていた。日本の会社すべてがこんな風だとは思わない。私がここで何が言いたいのか。私の同僚や上司は良い方たちだった。何がこうも息苦しくさせるのかと考えたとき、それは日本の社会構造なんじゃないかと思う。会社にいたときは、こういうことは女性なら起こって仕方がないことだと思っていた。他の会社で働く同性の友人も多かれ少なかれ似たような体験をしていたからだ。「おかしいと思ったことに声を上げる」ということが、できなかった。誰に言えばいいのかもわからなかった。そもそもおかしいことが常態化して意識から出て行ってしまっていた。

そもそも、一職、総合職の考えは日本独特のもので、私の知る限り海外では一般的ではない。これが男女間の大きな経済格差を生み出していることは一目瞭然なのだけれど、あまりこの制度自体に疑問を唱えている日本人を見たことがない。なぜだろう。こういうフェミニスト的な発言をすると社会で白い目で見られるのかな?日本でフェミニストが流行らないのも関係ある?もしかして需要と供給のバランスが取れているのかな?

#Metoo が一時期日本でも話題になったのは、明らかなセクハラや性暴力を受けるまで、今まで声を上げるチャンスがなかったからじゃないか。日本の男女格差のやばさは、様々な調査でも明らかだ。でも、声を上げている日本人ってそんなにいなくない?

HUFF POST ジェンダーギャップ指数2018、日本は110位でG7最下位
「日本は男女平等が進んでいない」
   (それにしても110位って…)


セクハラや性暴力にまで至らなくても、何か日常の「むむ、おかしいぞ?」という声が共有できる社会。その声がアメリカのように社会を動かす大きな声になるかもしれない。そんな社会、だったらいいな。

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