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『ミッドナイトスワン』ネタバレ考察&多様性感想 草彅氏には主演女優賞を贈りたい

2020年に上映前から話題になっており、その年の日本アカデミー賞では最優秀主演男優賞、最優秀作品賞を受賞した『ミッドナイトスワン』。
5月からNetflixでとうとう観れるようになりました。

公開当時は気にはなっていたものの、コロナ禍というのもあってなかなかいくきっかけがありませんでした。
今回の視聴までにいろんなところでレビューは見ていたので、内容はあらかじめわかっていたのですが、想像以上に素晴らしかった!
今回は、物語の感想と、物語が教えてくれた、多様性社会に向けて私たちが心に持つべきものを記します。(ネタバレあるよ)


■賛否両論を呼んだラスト

2020年の公開当時、映画を観た方々のレビューは見ていました。どれも大絶賛の内容なのですが、一つ賛否両論あるところが、ラストに向けてのシーンの、凪沙が病気になり命を落とすところ。
性適合手術を受けたものの、一果と暮らせないとわかり自暴自棄になり、術後のケアを怠り、失明、下腹部の出血、最終的には命を落とします。
この「術後のケアを怠った結果命を落とす」というのが、現在の医療ではありえないようで、トランスジェンダーを悲劇の道具にしてるんじゃないかという意見があるようです。

確かに、私も違和感を感じました。物語として命を落とす必要があったのか疑問に感じ、無理矢理感動につなげているように見えなくもないなとも思いました。
しかし、これについては、私なりの納得できる答えを見つけました。

■この物語は現代日本版『白鳥の湖』

「3大バレエ」の一つであり、あまりに有名な『白鳥の湖』。
『白鳥の湖』のかんたんなあらすじはこちらです。

ジークフリート王子は城の舞踏会で結婚相手を選ばなければならない。
憂鬱な気持ちで湖に行くと、悪魔の呪いで昼間は白鳥に、夜には人間の姿に戻るオデット姫と出会う。
「真実の愛を誓う男性がこの呪いをとくことができる」と言われ、王子は自分がその男だと誓う。
しかし、翌日の舞踏会に、悪魔の娘でオデットそっくりのオディールに誘惑され花嫁に選んでしまう。
(中略)
結局呪いのとけなかったオデットとジークフリート王子は、湖に身を投げ、来世で結ばれる。

『白鳥の湖』のあらすじにこの映画をあてはめると、しっくりきませんか?
おそらく、凪沙と一果ががオデットであり、王子なのです。
一果が、凪沙のトランス女性として生きる呪いを、凪沙が、一果の実母からのネグレクトという呪いをとくために、翻弄する物語でもあるのです。

しかし、一果は途中オディールである実母のもとに帰ってしまい、凪沙は命を落としてしまうことになります。
一方で、一果は、もう一人の王子である、バレエの片平先生の力添えもあり、呪いがとかれ、世界へ羽ばたくのです。

こう考えると、あのラストはしっくりきます。
現代日本では、マイノリティと言われる方々の『呪い』はまだまだ解かれていません。
映画に出てくる、差別的な描写は大げさではないと内田英治監督もおっしゃっているようです。術後ケアだけを抜き取るとありえない話ではありますが、凪沙のラストは、マイノリティを題材にお涙ちょうだいの悲劇を作っているのではないのです。

■草彅さんが演じたのは“女性”

物語の中で、トランス女性の人たちの
「なんで私(たち)だけこんな目に合わなければならないの?」
というセリフが何度か出てきます。
『こんな目』とはどういったことでしょうか?

これは、おそらく「男性の体を持って生まれてきたこと」ではないでしょうか?

わたしたちは、普段、相手の『見た目』を事実として受け止めてしまいます。
例えば、ふくよかなら「おおらか」
大きい人は「頼りがいがある」
その延長線上で、見た目が男性なら『男性』であり、心が女性なら「女性になりたい男性」と思ってしまいがちです。

しかし、当事者としては、自身の中身が真実なのです。
トランス女性は「女性になりたい男性」ではなく、「男性の体を持って生まれた女性」なのです。
本人はれっきとした女性なのに、周りからは男性扱いされ、自分の見られたい見た目になると奇異な目で見られる。

なんで、女性なのに、男性の体を持っているからって生きづらい人生を歩まなければならないんだろう。
その叫びを、わたしたちは心の中で受け止めなければなりません。

そう考えると、今回草彅さんはトランスジェンダーというより女性を演じたというほうがしっくりきます。
私が映画賞の関係者なら、彼に『主演女優賞』を贈りしたいです。

■おまけ

今回のキャスティングについて、
「トランスジェンダー役にはトランスジェンダーを」
という声もあったようです。
あくまで個人の意見ですが、私はこれには反対です。

俳優/役者という職業は、なんにでもなれるというのが面白さであり、一番の特長だと思っています。極端な話、宇宙人役も怪物の役もできるのです。性別を当事者に限定させてしまうのは、俳優/役者の面白みを阻害しているように思います。
もちろん、役者個人が自身のこだわりで限定させるのは良いと思いますが、マス的に決めるのは少し違います。

しかし、トランスジェンダーの俳優さんが活躍されるのは大賛成です、今回、ショーパブのアキナ役で出られていた真田怜臣さんは、トランス女性当事者とのことですが、それまでも性別を超えていろんな役をされているそうです。これからのご活躍も期待しています。

参考

Wikipedia『ミッドナイトスワン』

『白鳥の湖』あらすじ


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