サンタ、選書に悩む【#クリスマスの過ごし方】
先日、ブックサンタ企画に参加するため、どんな本を選ぶか、悩んでいるというnoteを書いた。
いろいろ考えたけれど、小学校高学年以上向けの書籍にしよう、と決めた。
小さなお子さんが好みそうな絵本は、イマイチわからないし。
役に立つお勉強本じゃなくて、小説がいい。
文豪の名作もいいけど、日常のことなんて忘れられる娯楽性の高いものがいいな、と思った。
子どもの頃は、学校の図書室の主だった。
『赤毛のアン』や『若草物語』といった世界の名作、『キュリー夫人』や『アンネ・フランク』の伝記など、いろいろ読みふけった。
背伸びして『罪と罰』や『椿姫』なんか借りたこともあったけど、今となってはあまり覚えていない。
やっぱり一番夢中になって読んだのがミステリーだった。
シャーロック・ホームズの子ども向けのシリーズや辻真先・迷犬ルパンシリーズなど、私はいつもミステリーと一緒に育ってきた。
そうだ!ミステリーにしよう。
と、決めたものの、なんだか自分が好んで読んだ作品は、もう若い読者に受け入れられないのでは?と不安になってきた。
そういえば知り合いの息子さんに、宮部みゆき・著『火車』をめっちゃ推したのだが「ネットもスマホも出てこなくて、古くさい」って言われたっけ。
マジか!
名作なんだが。むー。と衝撃を受けた。
いろいろ検索してたら、1冊の書籍がヒットした。
今年秋に出たばかりの新刊。
小学6年の男の子が主人公のミステリーで、ちょうどよさそう。
口コミを見たら、めっちゃ評判イイ。
好きな作家さんだし、何なら私が読みたいよ。
これだ、これにしよう!と心に決めた。
お目当ての本は決めたけれど、いざ書店に入ると一応児童書のコーナーも見ておくか、という気になった。
クリスマスシーズンだし、関連絵本が多い。
美しい装丁で目移りするけど、ミステリーにするんだと首を振る。
お父さんに連れられて、一生懸命本をめくる3歳くらいの男の子。
好きなシリーズを探す小学校低学年くらいの女の子。
子どもたちが、いっぱいいた。
小説のコーナーに、小学校高学年ぐらいだろうか、同級生と思われる女の子ふたりが、一心不乱に立ち読みしている。
本1冊、読み終えるつもりじゃなかろうか。
何の本だろ。よっぽど面白いんだろうなー。
それに、仲、いいんだろうな。
私もかつてお友達と、好きな本を貸し借りしあった楽しい時間を思い出した。
もうずっと会ってないけど、あの子元気かな。
懐かしく思いながら、改めて本を探しに行くことに…。
ちなみに一部の書店では、ブックサンタの企画を大々的にポスターなどで掲示してないのだという。
「サンタさんって、いないの!?」
お子さんがショックを受けないように、という配慮だそう。
ようやく平積みされているお目当ての書籍を見つけて、おおっとなる。手に取ってパラパラとめくった。
う、うーん。
いざ手に取ると、なんだか違う気がした。今の自分にピンとこないというか。ただの気まぐれである。
さぁ、困ったぞ、と思う。
せっかく決めてきたんだけどなー。
ふらふらと見て回る。
気になる本は、いろいろあるけれど。
ミステリーのコーナーで、棚にさしてある1冊の本が気になった。
本が並ぶ中で、濃紺の背表紙がひときわ目をひく。
大好きな作家さんの本だった。
ここしばらくご無沙汰で、ずいぶんと手に取っていない。
加納朋子・著『空をこえて七星のかなた』
手に取ると、表紙の深い濃い青と白のコントラストが美しい。
パラパラめくると、相変わらず読みやすい文体。
学生の頃から大好きで、これまでいろんな著作を読んできた。
デビュー作の『ななつのこ』とか、ドラマ化もされた『七人の敵がいる』とか。
柔らかくて、ふわっとしているけれど、どこか芯がある。最後には、ビックリさせられる作風が大好きだった。
この書籍は連作小説で、一番目のお話は、もうすぐ中学校に上がる間際の"わたし"が、パパに「南の島に行こう」と誘われるところから、物語は始まる。
ちょっとスネた、それでいて可愛らしい女の子の横顔が頭をよぎった。
7篇の物語を読み終えると、意外な真相が明らかになるのだという。
これだ。この本にしよう!
ようやく決まった。
本を抱えて、レジに行く。
対応してくれたのは、眼鏡をかけてマスクをした若い男の店員さん。
ちょっとお疲れ気味なのか、どこか目が死んでいる。
機械的に「袋はご入り用ですか?」と聞いてきた。
「あの、えっと、ブックサンタで…」
あわあわと、お伝えする。
「あぁ」てな無表情なカンジで、店員さんが奥に向かった。噂に聞いてる、ブックサンタに参加した記念のステッカーを用意してくださるんだろう。
それにしても、こんなもんか、と思う。
他の方のnoteを読むと、店員さんがめっちゃ笑顔で対応してくれて嬉しかったなんて、投稿を見かけたけれど。
そんな心あたたまる交流は感じられない。
店員さんは慌てて戻ってくると、ブックサンタのチラシとステッカーを丁寧に渡してくれた。
お会計を済ませる。
「あの、確かにお預かりしました」
はじめ、レジの前に立っていた時とは違う、ハッキリとした声が聞こえた。
「ん?」と思って、思わず顔を上げる。
店員さんがカウンターの向こうで、私が買った本を握りしめて、表紙を見せてくれている。
「あっ」
と思った。
マスクで隠れてわかりづらいけれど、お兄さん、確かに笑ってくれている。
思わず嬉しくなって、私も笑い返した。
「お願いします!」
ちょっぴり失望していた分、店員さんと通じあえて、心の中がふんわりとあたたかくなった。
選んだ本が、どこかの誰かに届いて喜んでもらえるといいな。祈るような気持ちで、書店を後にした。
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