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ニセモノという芸術がついた嘘

「オープン、ザ、プライス!」。人気テレビ番組「開運なんでも鑑定団」の山場は、専門家による鑑定額が発表される瞬間だが、ここに含まれているのは真贋の判定である。本物であれば桁が大きくなるが、偽物であれば0は少ない。当事者でなくても鑑定結果に一喜一憂するほど、真贋は私たちの関心の的なのだ。

本展は、本物を展示するべき博物館で、あえて偽物を展示した画期的な展覧会(現在は終了)。雪舟や酒井抱一の贋作から、徳川家康の偽文書、鬼のミイラまで、ありとあらゆる偽物の資料160点あまりを一挙に展示した。偽物とはいえ、ほとんどの資料は、その嘘を見破ることができないほど精巧である。筆の運びや賛、印章などを手がかりに判定する解説文がなければ、素人目で真贋を区別することは極めて難しい。本物と偽物の、じつに細やかで奥深い境界線を実感できるのだ。

だが本展の醍醐味は、偽物ならではの価値が、場合によっては本物以上に私たちの眼を奪う点にある。人魚は、『アンデルセン物語』にも『日本書紀』にも登場する「魚でも人でもない生き物」で、明らかに人類による想像の産物である。現存する人魚のミイラにしても、その上半身は猿、下半身は鮭を切り合わせたものであることが、すでに実証済みだ。ところが、これは幕末の見世物で大いに人気を集めていたという。しかも、江戸の人びとは、人魚の骨を解毒剤として、人魚を描いた刷り物を無病息災のお守りとして、日々の生活に役立てていた。科学的には偽物なのかもしれないが、民俗的には本物として機能していたのである。

ピカソは、かつてこういった。「芸術が真実でないことをわれわれは知っている。それは真実を実現させる嘘であり、少なくともわれわれが理解する真実を会得させる嘘である」。芸術は、嘘を真として信じさせる技術ではない。むしろピカソが強調したのは、芸術は真実そのものではないにせよ、その嘘こそが真実を体現する道筋であるということだ。偽物には、私たちの真実が宿っているのである。

初出:「Forbes Japan」(2015年5月号)

大ニセモノ博覧会 贋造と模倣の文化史

会期:2015年3月10日〜5月6日

会場:国立歴史民俗博物館

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