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『美味しいご飯が炊けました~366日140字の物語~』

1日1つ、140字の物語。
366日分、ぎゅっと詰め込みました。

誕生日、記念日、いつも通りの日。
今日の物語はなんだろう。

ほっこり。
ニッコリ。
ときどきドッキリ。

ほっこり、ニッコリ、ドッキリ、それからわくわくを一言にするなら

「美味しいご飯が炊けました」

どうぞ召し上がれ。
※1日1話、目次から飛ぶことをオススメしています。


1月1日:バツイチ→マルイチ


「最近婚約者と別れたんだよね。25歳で結婚、30歳で離婚。バツイチデビュー」

「そっか。過去は変えられないから未来に向けてあえてポジティブなエールを送るね。おめでとう!バツイチはバツなんかじゃない。マルだよ!マルイチ!なかなか経験出来ない!」

「こんなの初めて。マルイチ……頑張れそう!」


1月2日:小さな幸せ、大きな幸せ


「小さな幸せの積み重ねが大きな幸せになるのです」

道端で1円を拾って思い出す担任の先生の言葉。

1円も100枚拾えば100円。

1億枚拾えば1億円だ。

違うか。

拾ったら警察に届けなければ。

届けよう。

「お?俊平くん?」

「真奈ちゃん?」

交番前で幼馴染と数年ぶりに再会。

1円から始まる大きな幸せへの物語。


1月3日:理想の人


「年上と年下ならどっちがいい?」

「年下かな」

「しっかりしている人とちょっと抜けてる人なら?」

「ちょっと抜けてる人かな」

「朝強い人と朝弱い人だと?」

「朝弱くても気にしないよ」

「なるほど。年下でどこか抜けてる寝坊して出勤する上司が好きなのか」

「恋人じゃなく理想の上司像聞かれてたんか」


1月4日:チンチロ


「レモンサワーのご注文でしたらチンチロゲームがオススメです!」

「サイコロを2つ振る」

「はい!1のゾロ目が出たら無料。足して偶数なら量も値段も2倍、奇数なら半額です」

「無料と半額は魅力的だ」

「ちなみにゾロ目ですが2はコース料理を自動注文。3はお尻バットです」

「店側のやりたい放題だな!」


1月5日:良いとこ探しは300円の得


「良いとこ探しは300円の得って知ってる?」

「早起きは三文の得のパクリ?」

「別!」

「別か」

「人の良いとこを探すと幸運ってことわざで」

「最近生まれたことわざ?」

「上司の気配り力を褒めたら300円相当のコーヒーとパンを奢ってもらった」

「上司ならもっと出しても」

「それ、悪いとこ探しだよ」


1月6日:褒め言葉


「かわいいと言われても心から喜べないことあるよね?」

「あるある。気持ちのない言葉だと思っちゃう」

「やっぱり?お世辞かバカにしてるかと」

「とりあえずかわいいって言っておけばいいみたいな人、男女どっちもいるかも」

「わかるぅ」

「賢いとか面白いって言われたらガチっぽい」

「素直に嬉しい」


1月7日:趣味は何ですか


「趣味は何ですか?」

「特に」

社会人は趣味のない人が多いらしい。私調べ。

趣味のある人は珍しい。私調べ。

テンプレ的に聞く。

「趣味は何ですか?」

「小説を書くことです」

珍しい人。

「あとはボルダリングと」

え。

「それからお酒」

お?

「服や雑貨も作ったりします」

趣味ある人とない人の差が0か100。


1月8日:簡単調理


「自宅で料理を作ったほうが安く済むけど、時間や手間がかかるのは嫌で」

「物価は上がるのに、給料は上がらないから食費は抑えたいよね」

「お金なくなっちゃう」

「ほったらかし調理が楽だよ」

「具材を鍋に入れ込んで待つ的な?」

「料理好きの旦那をほったらかしたら料理が出てくるやつ!」

「最高だね」


1月9日:好きな子と初対面


「この間の話してもいい?」

「どうぞ」

「初体験したことがあって」

「ほうほう」

「好きな子とようやく会えて」

「おぉ!」

「待ち合わせ場所に行ったら入浴してて」

「どんな状況!?」

「全然目を合わせてくれないんだけど、気持ち良さそうなのが可愛くて」

「大丈夫?」

「カピバラがさ」

「カピバラかい!」


1月10日:ペンを1000円で売ってください


「この100円のペンを1000円で僕に売ってください」

「1000円で良いですか?」

「?」

「もっと高く売れたらどうですか?」

「お好きにどうぞ」

「実は私フォロワー10万人のインフルエンサーなので、私が使ったりあんなことやこんなことすれば1万円以上だって余裕です」

「僕には価値がないですね」

「え……」


1月11日:怒られたい


「何やってんだよ!」

ミスをした新卒が怒られている。

遠くから見守る私。辛そうだが羨ましいと思ってしまった。

「今度は気をつけてください」

私くらいの年齢になるとミスをしても怒られるのではなく呆れられる。

本音は隠され、感情は表に出ない。

裏で何か言われているのだろうか。

いっそ、怒られたい。


1月12日:人生、何回目


「よく出来たやつだよな。人生3回目かと思うくらい気配り上手で」

「生まれ変わりなんて夢のまた夢ですよ。ありがたいお言葉ですね」

人生は一回でいい。

ましてや生まれ変わりなんてあり得ない。

そう思っていたときもあった。

記憶が正しければ生まれ変わり16回目を迎えた。

「俺は人生18回目だよ」

「え」


1月13日:ありそうでない


「う……ゔう……は……ぐっ、うは!!あ、おはよ」

「大丈夫?すごくうなされてたみたいだけど」

「なんか、すごい夢を見ていた気がするんだ」

「どんな夢?」

「日常では起こり得ないことだったはず」

「思い出せる?」

「ここまで出そうで」

「待つわ」

「出た!」

「お?」

「牛丼屋で牛丼食べ放題の夢」


1月14日:落ちる


「落ちてたまるか」

大学受験に失敗。浪人して次こそは。

「一緒に頑張ろう!」

家庭教師の先生は23歳の女性。僕の5つ上。

「解けるようになったね!」

先生のおかげで成績は伸びていった。

迎えた2度目の大学受験。

結果は合格。

「やったー!嬉しい!」

先生の眩しい笑顔。

別れが切ない。僕は落ちていた。


1月15日:はちみつ好き


「はちみつ食べたいなぁ」

「いつもはちみつばっかり食べて。ちゃんと運動もするんだよ?」

はちみつが好きな友達の熊田。

「わかったよぉ」

「これあげるね」

「ありがとう。国産かなぁ?」

「いや、違うけど」

「じゃあマヌカハニーかなぁ?」

「でもないね」

「100%ピュアハニーかなぁ?」

「もう返して!」


1月16日:タダみたいなもの


「悩ましい」

「何悩んでるの?」

「好きなアイドルのファンクラブに入るか」

「入ればいいじゃん」

「年会費5000円が壁で」

「月だと400円ちょっとでしょ?」

「そうだけど」

「1日だと13円くらい」

「たしかに」

「タダみたいなものじゃない?」

「むむ」

「1日1000円だと考えちゃうけど」

「タダなら入るか」


1月17日:初めての転職


初めての転職活動。

給与が上がらず、上司から「使えない奴!」とパワハラを受け、同僚も冷たい目で見るのが辛くて。

転職サイトに登録。

無数に届くスカウトメールにうんざりしてメールを開かなくなった。

電話やSMSも多すぎ。

転職サイトからも転職パワハラ。

同じ悩みを抱える人を救うビジネスを始めた。


1月18日:ご当地アイドル☆如月芽依


「好きな言葉は『類は友を呼ぶ』!埼玉生まれの17歳!悪夢のような退屈な人生に輝きを!食べに行けるアイドル!如月芽依!よろしくね!」

推しの子がいるからと友人に勧められたアイドル『Swipe』。

自己紹介キャッチコピーにどこからツッコもうか。

「今日は深谷ネギを丸かじりだ〜!」

ツッコミきれん。


1月19日:絶対にのぞいてはいけません


絶対にのぞいてはいけません。

ダメと言われたらやりたくなる。

リスクよりも怖いもの見たさが先行。

「のぞいちゃう?」

「どうなっても知らないよ?」

親友と吟味。

「やってみよう」

「わかった」

「ヤサイ、アブラ、ニンニク、チャーシュー抜きで」

全部除いた。

麺とスープだけのラーメン、いかがなものか。


1月20日:リアル上司ガチャ


「いっそガチャガチャで決めよう」

振り切ったものだ。

リアル『上司ガチャ』。

新年度からの組織を部下がガチャガチャで決めることになった。

「最強の鷲尾先輩はSSR設定で1枠、佐藤先輩はNRで5枠とかにしてる」

ガチか。

「自分の運だから結果に文句は言うなよ」

結果、無所属。

上司のいる組織が羨ましい。


1月21日:作戦A


ミスった。

夕方からデートだと言うのにお昼にラーメンを食べてしまった。

ニンニクをたっぷり入れたラーメンを。

ひとまずマスク着用。

あとは例の作戦でいくしかない。

「今日はイタリアンで大丈夫かな?」

「うん!大丈夫だよ!」

「アヒージョ頼もっか!」

「ニンニクはちょっと……」

詰んだ。作戦失敗。


1月22日:何食べたい


「何食べたい?」

「何でもいいよ」

このやり取りにも飽きてきた。

何でもいいと言う割に提案を否定されることも少なくない。

「中華でいい?」

「うーん……」

「イタリアンが良いってこと?」

「いや何でもいいんだけど」

疲れてしまう。しびれを切らした私の最終手段。

「今日が最後の晩餐。何食べたい?」


1月23日:浮気の根拠


「浮気してるでしょ?」

同棲生活1年目。

絶対にしない……はずだった。

気の弛み。

彼女が出張で不在にしていた間、別の女性を家に連れ込んだのは事実。

でも、絶対にバレないよう髪の毛1つ残さないようにしていたのに何故。

「え、なんで?」

「ドライヤーのコードの巻き方がいつもと違ったから」

そこか。


1月24日:好きな人


「好きなタイプはどんな人?」

「閉店まであと1時間ほどのスーパーで、目の前でお弁当やお惣菜に半額シールを貼り始めてくれる人かな」

「わかる。激しくわかる。好き」

「あとは、カラオケで曲と曲の間で頼んだフードをタイミングよく運んでくれる人」

「好き」

「元気に挨拶してくれる人も」

「好きぃ」


1月25日:イケおじ


イケおじ。

イケてるおじさん。ダンディーなおじさん。

年上好きな私はイケおじへの関心が高い。

でも、恋人の"こ"の字とも接する機会がない私には無縁か。

「はぁ。イケおじ降ってこないかな」

近所の公園を意味もなく巡る。

「見て!イケおじ!」

え。他人の声に振り向く。

池で溺れるおじさん、池おじ発見。


1月26日:心と創作


「小説、アート、映画、マンガ、アニメ、音楽だって。作品は作者の心を代弁するツールなのです」

中学の美術の先生が言っていた。

「ときに言葉で、絵で、映像で、音で。心を表現する媒体なのです」

私が歌手を目指すきっかけ。

年齢イコール恋人いない歴なのに、妄想だけで作った恋愛ソングがブレイク中。


1月27日:最初に見るところ


「初対面の人と出会ったらどこを最初に見る?」

「やっぱり顔かな」

「髪だね。女性で天使の輪がある人はヘアケアこだわってるのかなって」

「靴を見るね。メイクばっちり、アクセサリーや服装もばっちりでも靴が汚いと気になる。細部までこだわってる人がいい」

「爪だね」

内面は二の次。見た目が9割。


1月28日:成果を出す人


成長したいと言うのに、何かを変えようとしない。

変わりたいと言うのに、昨日までと同じことをしている。

人がやらないことを始めれば人と差がつくのに、始めない。

続ければ力になるのに、続けない。

大きな成果を出す人は1%の努力を積み重ねる。

体重120kg超えの彼は、365日ラーメンを食べていた。


1月29日:ラブソングを作ろう


「ラブソングを作ろう」

「作詞したことは?」

「ない」

「お」

「まずキーワードを出す」

「ふいに始まった」

「愛、君、ずっと、素敵とか入れたら良くない?」

「なんかそれっぽくて悔しい」

「あと、会うとか泣くとか」

「ほう」

「ずっと泣く素敵な君に愛愛会いたい」

「AIでも作らないボツ歌詞生まれたな」


1月30日:幸日


なくしたものが見つかった。

ハッピー。

ケンカしたけれど仲直りできた。

ハッピー。

仕事で褒められた。

ハッピー。

気になる人からLINEが送られてきた。

ハッピー。

SNSで何気ない投稿が突然多くの反響に。

ハッピー?

今日を生きられること。

ハッピー。

日常は、小さなハッピーの積み重ねで出来ている。


1月31日:n回目


76回目。

「痩せる!」と決めてダイエットに挑戦した回数。

ダイエットに失敗した回数でもある。

35回目。

年を越した回数。

そばを食べて年を越す生活は継続中。

5回目。

転職した回数。

成長、刺激、困難、葛藤の連続。

3回目。

付き合った回数。

今が1番長い。

1回目。

人生の回数。

たった1回。挑戦し続ける。


2月1日:お通しのクリームシチュー


「お通しのクリームシチューです」

クリームシチューがお通しで出てくる飲み屋は初めてだ。

「おかわり自由となりますのでお気軽にお声掛けください」

おかわり自由?実家でシチューが出たときですら1杯で十分だったが。

「100円追加でビーフシチューも食べ放題になります」

なんだかもうお腹いっぱいだ。


2月2日:マンガを描く理由


「僕がマンガ家を目指した理由ですか」

デビューからわずか1年で100万部を突破。

日本が舞台のアイドルコメディーもの。

実在する地名やお店、モノが多数描かれ、親近感からファンが増える。

破竹の勢いで突き進む彼の原動力が語られた。

「ド田舎で知名度のない地元を元気に、有名にしたくて」

目指せ世界。


2月3日:Dead or Love


恋愛リアリティーショーとデスゲームのコラボコンテンツ『Dead or Love』。

1人の女性を求めて20人の男性が争うゲーム。

飛び出す槍のボタンを女性が押すなど、女性の覚悟も問われる。

最後の1人となった男性がプロポーズをして見事に結ばれた。

3組に1組が離婚する時代。

真のゲームはこれから始まる。


2月4日:天国と地獄


「じゃあ私は天国で」

「そしたら俺は地獄にしてみようかな」

噂通りの注文スタイルだ。

カップルのやり取りを横目にカレーを吟味し始めた。

さて。

「お待たせしました!」

「わぁ!」

「なんだ?」

注文直前、カップルにカレーが届いた。

「天国にいけそうな激辛カレーと地獄級の激甘チョコレートカレーです」


2月5日:負けない方法、勝つ方法


「絶対に負けない方法を教えてあげよう」

「教えてください!」

「簡単だよ。勝負しなければいい。絶対に負けない。勝つこともないけれど」

「なるほど……」

「勝つ方法もあるけど知りたい?」

「知りたいです!」

「たとえ負けても勝つまで挑むのさ!人の力を借りたりして勝つまで!」

「みんなで勝ちます!」


2月6日:イヌ派?ネコ派?


「イヌ派?ネコ派?」

「うーん、ヒト派」

「ヒト派!?新しすぎん?」

「イヌもネコも好きなんだけどやっぱりヒトがいいかなって」

「分からなくもないんだけど、分かると言ったら負けな気がして」

「イヌはお利口さんだけど話せないし、ネコは自由そうだけど自由には責任が伴うから」

「うん、分かった」


2月7日:働き放題


「求人の給与に書かれている固定残業代って何ですか?」

「あ、これね。月給35万円に月40時間分の固定残業代が7万円含まれていると。スマホ使ってるよね?」

「はい。使ってます」

「データ定額制のプランとか入ってる?」

「入ってます」

「なら話が早い!40時間分は7万円で働き放題ってことだよ」


2月8日:タイムセール


「タイムセール!今なら30分で1時間を買えます!」

これぞまさにタイムセール。

時間で時間を安く買える。

「12時間で24時間買います!」

「何に使いますか?」

「睡眠時間に充てます!」

「売れません」

購入基準があるらしい。

「子どもたちが未来に可能性を見いだせる事業を創ります!」

「売りましょう」


2月9日:注文の多いお店


「ねぎたっぷり玉子牛丼、玉子牛丼抜き、つゆだくで」

「ねぎたっぷり玉子牛丼、玉子牛丼抜き、つゆだく入りました〜」

初めて訪れたチェーン店ではない牛丼屋で、お客さんと店員の異様なやり取りが繰り広げられていた。

こだわりの注文に見えてこれって。

「つゆだくたっぷりねぎお待ち!」

それなのよ。


2月10日:壁の薄い部屋


壁の薄いアパート。

隣の部屋の音が聴こえるほど。

おそらく電話で話している声や笑い声から、僕と同じ20代くらいの女性と推測。

一度も会ったことはないのに、興味が増して壁に耳を当てる日々。

「……た……しょ?」

遠くて聞き取れない。なんだ?

「あなた盗み聞きしてるでしょ?」

近くで鮮明に聴こえた。


2月11日:採用活動


「今日面接した人、めちゃくちゃ採用したいと思ったんですがどうします?」

「念のためいつも通りネットで犯罪歴とか裁判歴とかないか調べて決めよう」

「ですね。あ、記事出てきました!」

「どんな?」

「迷惑系YouTuber」

「お?」

「を摘発」

「いい人」

「他にも不倫」

「ん!?」

「撲滅」

「採用」


2月12日:正義の色


「正義の色を探しなさい」

父が言っていた言葉。

「ピンク!」

小さい頃の私は無邪気に答えた。

亡き父の言葉をふと思い出して悩む。

正義の色。父は何色だったのだろう。

「正義の色は何色だと思いますか?」

SNSで問いかけてみた。

「白かな」「赤だろ」「青」

そうか。

正義は1つじゃないと言いたかったのか。


2月13日:頑張ってるよ


「頑張ってない人なんていないよ。みんな頑張ってる」

「それな。頑張っていることはみんな違うと思うけど、それぞれ頑張ってるよね」

「頑張るって人と比べられるものじゃないと思うんだ」

「わかる。人の数だけあるなって。比べられない」

「ところで痩せると言っててラーメン?」

「が、頑張ってる」


2月14日:初めてのバレンタイン


「ハッピーバレンタイン!」

「え、ぼ、ぼくにくれるの!?」

「うん!あげるよ!」

「あ、ありがとう!開けてもいい?」

「もちろん!」

「まさか女の子からチョコもらえるなんて」

「嬉しい?」

「うん!ん?これは?」

「見ての通りカカオ豆!」

「原料で贈るのが今どき?」

「来月3倍のお返し待ってるね!」


2月15日:とりあえず生


「とりあえず生で」

最近は居酒屋で一杯目に生ビールを飲まなかったり、そもそもお酒を飲まない人も増えていたりとか。

古い人間と思われてしまう恐怖すら描きながら生を頼む。

「生で?」

「生で」

確認されるのも時代か。

「お待たせしました!」

「これは?」

「生牡蠣です!」

食べ物が来る時代。


2月16日:これ言える?


「これ言える?赤巻紙青巻紙黄巻紙」

「早口言葉か。言えるよ。赤巻紙青巻紙黄巻紙」

「じゃあ次これは?バスガス爆発」

「バスガス爆発」

「言えるね!これは?東京特許許可局」

「東京特許許可局」

「おぉ!これは?付き合って5年経つけどプロポーズが遅くなってごめん。好きだよ」

「好きだよ」


2月17日:宣言


「面白い人に会いに行く」

1年前、彼は突然旅に出ていった。

それから一切連絡を取ることはなく、彼の帰りをただ待った。

1年後。

「エントリーNo.4683『満月の喫茶店』」

2m近くありそうな長身、アフロ、サングラス、タンクトップ姿のいかにも面白そうな男性と共に、お笑いの賞レース決勝で彼が現れた。


2月18日:本気を出していないだけ


まだ本気を出していないだけ。

人生で何度唱えたことだろう。

本気を出したら誰にも負けない。

危ないから。甚大な被害が及ぶから。関わる人たちがびっくりしちゃうから、まだ本気を出していないだけ。

「ふええ」

本当は逃げてるだけなんだ。

本気を出したって変わらないことを、心の奥底で本気で思ってる。


2月19日:続編


続編、1年後に公開決定。

昔はアニメや映画の続編決定のお知らせが楽しみで仕方なかった。

今もアニメや映画は好きで時間があればよく見ている。

完結したと思っていたアニメが、放送終了から数年経って続編決定となるのも嬉しい。

でも、どこか寂しい。

歳を取った。重病に罹った。

1年後、観れるだろうか。


2月20日:きっかけ


あのとき、何もなかったから。

事態が動き出すときは何かときっかけがあるもの。

でも今回は違う。

何もなかったから歯車が動いた。

好きだったけど想いを伝えなかった高校時代の同級生。

友だちづてで両想いだと聞いていたのに告白しなかった。

今、知らない人と理想の夫婦YouTuberとして活躍されている。


2月21日:ウマい話


「5分で5万円の副業」

そんなウマい話があるわけ。

仮にあったとしても信じてはいけないはずだ。

だってそれが本当ならみんな稼いでいるはずだから。

SNSなどで大衆向けに発信されているものは特に怖い。

クローズな情報だったら分かる。

「老後に話し相手がいない富豪の私と5分話して5万円」

信じるか否か。


2月22日:猫になりたい


「猫になりたい」

3人に1人は思ったことがあるらしい。

ソースは私。

理由のトップは「自由に生きているから」だとか。

ソースは私。

「人を辞めたい」理由は「人間関係に疲れるから」。

ソースは私。

温かい場所で好きなときに食べたいものを食べている人間のほうが、よほど自由に見えるが。

私は猫である。


2月23日:好きだけど


好きな人が出来た。

爽やかで高身長、清潔感のある服装、ユーモアもあって一緒に過ごす時間は笑いが絶えずいつも楽しい。

おまけに仕事も出来る"シゴでき"マン。

天は二物を与えずなんて嘘。

彼は何物授かったのか。

けど、付き合おうと言えない私。

大きな理由が1つある。

彼の名が私の弟と一緒であること。


2月24日:好奇神


「我が名は好奇神。人々の好奇心を駆り立てる神だ」

好奇心に携わるだけあって掴みバッチリな神様だ。

好奇心の神ってなんだろ?

「めちゃくちゃ面白いですね」

「でしょ?イケてるっしょ?」

神なのに距離感近いな。

「興味深いです」

「嫁に振られたばかりだから何でも聞くよ」

何があったか気になりすぎる。


2月25日:ポジティブ上司


「何事もポジティブに捉えよう!」

「仕事量が多くてキツイです」

「人より多く経験値を積めるぞ!」

「給料が安くて不満です」

「知識やスキルを教えてもらいながら給料も貰えるなんて。お金払って学ぶ学生よりも良いぞ!」

「悩んでストレスが溜まります」

「良い成長痛だ!」

上司がポジティブ過ぎて怖い。


2月26日:開けないでください


「するな」と言われるとしたくなる。

「扉を開けないでください」

うずうず。

「扉を絶対に開けないでください」

うずうず。そわそわ。

開けたくなる。

ダメだ。開けたい気持ちを抑えられない。

「無理だ」

彼女の部屋の扉をそっと開けてしまった。

「あっ」

何故かスズメのコスプレをする彼女が立っていた。


2月27日:地球最後の日


「あと5分で地球が滅亡するってなったら何をする?」

「出た。地球最後の日シリーズ。あと5分か」

「ちなみに私は、好きな人に好きって伝える」

「そういう系いいね!だったらウチは離れてる家族に電話して、好きなお酒飲みながら今までありがとうって伝えようかな」

「良すぎ。地球滅ばないことを願うわ」


2月28日:やりたいことがない


「人生でやりたいことはありますか?」

「特に」

「なるほど。ご両親は?」

「母親がいます。父親は小さい頃に亡くしました」

「そうでしたか。お母さんを愛していますか?」

「大好きです」

「お母さんの喜ぶことを叶えたくないですか?」

「叶えたいです」

「やりたいこと、見つかりましたね」


2月29日:彼女はニンニクの匂いが分からない


「『彼女はニンニクの匂いが分からない』ってアニメ観てる?」

「初めて聞いた。斬新なタイトルだね」

「知らなかったか!ニンニクが大好きなヒロインなのに匂いは分からなくて。周りにニンニク臭を振りまくドタバタニンニクコメディ」

「どこからツッコめばいい?」

「あとドラキュラで」

「まず観るわ」


3月1日:年パス


有名テーマパークの年間パスポートは高すぎて手を伸ばせない代物。

代わりに近くの動物園の年パスを買ってみた。

「1年間行き放題だ」

初めての年パスに興奮する。

それから毎月動物園へ。

「今日は併設の遊園地に行こう」

動物園なのに動物を見ないことも。

毎月通って気づく。

「春の動物たちが一番元気だ」


3月2日:へこたれ姉


へこたれ姉(ねぇ)は、どんなことがあってもへこたれないで有名。

財布をなくした日に携帯もなくしたって。

ついでに家の鍵をなくしたって。

おまけに仕事でクレームが入ったって。

とどめで彼氏にふられたって。

へこたれねぇ。

でも、へこたれ姉が一度だけへこたれたことがある。

親友に裏切られたときだ。


3月3日:ひめさま


彼女は、ひめさま。

ひめさまは、よく不機嫌になる。

「どうしたの?」

「教えない」

理由は教えてくれない。

ひめさまは、よく涙を流す。

「何かあった?」

「そっとしておいて」

また教えてくれない。

ひめさまは、突然いなくなった。

やっぱり理由は分からない。

姫ごと消えた、秘め事。

今どこへ、お秘め様。


3月4日:情報社会


情報ってやつは。

介在する人が増えるほど解釈が増え、当事者が意図しない伝わり方をするものだ。

切り取られ、勝手に繋げられ、作られた情報が真実のように広められてしまう。

間接的ではない一次情報は貴重だ。

「お前、動物園でアルパカと酒飲んで結婚したってほんと?」

さて、どこから正そうか。


3月5日:麺麺麺麺麺


ラーメン、つけ麺、油そば、まぜそば、パスタ、そば、うどん、ちゃんぽん、冷麺、焼きそば、じゃじゃ麺、わんこそば、ソーキそば。

思いつくだけでこれほど麺類があるとは。

そしてラーメン1つとっても、とんこつ、魚介系、二郎系、家系等に派生する。

でも俺、実はどの麺類も苦手なんだ。

ご麺ね。


3月6日:かくれんぼ


楽しいことをしたくて、友人とイベントを企画することにした。

イベント名は『大人のかくれんぼ大会』。

深夜に施設を借りて大人たちが全力でかくれんぼをする。

友人に集客を任せ自分は施設交渉を行い当日を迎えた。

「誰も来ないね。宣伝した?」

「宣伝なしが流行ってるからしてない」

「見つかるかい!」


3月7日:ボクシング


プロボクサーになりたかった。

「強い男は人気者になれるぞ。ボクシングはどうだ?」

プロボクサーで活躍していた父の影響を受けて人気者になるためボクシングを始めた。

でも、一度も勝てず僕は夢を諦めた。

だが、神様は見捨てなかったらしい。

意外な才能が開花した。

歌で人気者になれたのだ。

僕シング。


3月8日:散髪


ばっさり髪を切った。

肩まであった髪が耳元まで。

大きなイメチェン。

「なになに?失恋でもした?」

なわけ。

年齢✕年齢÷年齢+年齢−年齢−年齢の数だけ恋愛をしてきたけれど、違う。

失恋くらいじゃへこたれない。

たぶん。

別に大したきっかけじゃなくて。

今日が3月8日、散髪の日だったから。それだけ。


3月9日:行けたら行く


「行けたら行くみたいなこと大喜利を開催します」

「空けられたら空けとく」

「ほぼ同じだ」

「脱げたら脱ぐ」

「シチュエーションが気になる」

「解けたら解く」

「解いちゃうタイプのやつ」

「話せたら話す」

「絶妙。話しそうだけど話さないかもしれん」

「付き合えたら付き合う」

「付き合おう」

「え、うん」


3月10日:営業スキル


「営業じゃなくても、営業スキルを身に着けたほうがいいよ」

「たまに聞くけどなんで?」

「相手が求めるものを探ったり、必要性を生み出して相手に喜ばれる提案をすることは何にでも活かせるからね。友だちも恋愛だってそうじゃない?」

「たしかに」

「営業スキルも学べる僕と付き合ってくれませんか?」


3月11日:自信家


「世の中、自分を愛せたり自分に自信を持てる人が増えたらと思うんだ」

「どうして?」

「自分を愛せない人は他人を愛せないと思うし、自信がないから人を見下したり傷つけてしまうと思うんだ」

「なるほど」

「平和な世界がいいなって」

「だからってド素人なのに1st写真集出したのはすごい」

「てへっ☆」


3月12日:私には武士がいる


「私は2人の武士と共に人生を歩んでいる」

ほう。何を言い出すのかと思えば、よくわからないことを言い出したものだ。

あれか、ギリギリわかった。

水戸黄門で黄門様が助さん、角さんと共に過ごしていたと聞いたことがある。きっとそう。

「水戸黄門ってこと?」

「残念、ハズレ。くるぶしが正解」

くそう。


3月13日:ムズカシイ


18番なのに1番得意なことだなんて。

十八番と書いてオハコとは初見で読めないだろう。

ニホンゴ、ムズカシイ。

さみダレと聞いて、砂糖とみりんのタレだと思ってた。

五月雨とは。

ニホンゴ、ムズカシイ。

何年か前に「結婚しました」と言ってた親友が「実は離婚してました」なんて。

ニンゲン、ムズカシイ。


3月14日:自信のつけ方


「自分に自信がなくなったとき、あなたを知る人たちに自分のことを聞いてみると良い」

大学の先生の言葉を思い出し、私をよく知る人に、私の強みを訊ねた。

「レミの優しさのおかげで今の私がいるんだよっ」

親友のマイ。

「諦めない気持ちが強すぎて俺は諦めた」

元彼のコウキ。

自信がついた。


3月15日:恋せよ


真面目な人もいいけれど、何個かネジを落としてきちゃったような人もいい。

母性というやつなのか助けたくなる。

私が何とかしなきゃって、謎の使命感に駆られる。

「家の鍵なくした日に、携帯と財布もなくしちゃって」

そんなことある?と思いながら彼に心が揺らぐ。

おかしな人に恋する、すっとこどっ恋。


3月16日:もしも魔法が使えたなら


もしも魔法が使えたなら。

嫌な上司を黙らせるかもしれない。

苦手な人を世の中からなくしてしまうかも。

おっと。

ネガティブなことばかりになってしまった。

ポジティブなこと。

「大きくなったらおよめさんになりたい!」

すれ違ったちびっこの声。

お嫁さんか。

魔法で従わせたくないけれど、恋は魔法かな。


3月17日:マネー・ジメント


マネジメントはビジネスで良く使われる言葉。

「財布の中に入れる小銭は最小限にしとけよ」

私の上司は小銭一つまでお金を管理する"マネー"ジメントを行う"マネー"ジャー。

「財布を見せてみろ。10円玉と1円玉が多すぎる。もっと減らさないと金運が逃げてくぞ」

電子決済が当たり前になった今、懐かしい。


3月18日:台本屋


「人生の台本、創ります」

ニーズがあればビジネスになる。

台本のない人生に、台本を求める人がいるから"台本屋"は成り立っていた。

理想の人生を聞き、台本を作る。

いつ、どこで、何を、どんな風に。

登場人物やセリフまで事細かい。

台本屋の妙は想像を現実にする人の力を信じ、実現させてしまうことだ。


3月19日:じゃないほう


「あー、イケメンじゃないほうね」

お笑い芸人のコンビについて語る。

「そうそう。普通の見た目のほう」

「それにお金持ちじゃないほうだよね」

「節約してるらしいよ」

「清潔じゃないほうとも言えるよね」

「たしかにあまり綺麗な感じはしない」

じゃないほうと言われる彼について話す私は男じゃないほう。


3月20日:夢はあるか


「夢はあるか?」

夢なんてない。

面倒と思いながら会社に行き、帰ってきたら仕事の疲れを取るためにお酒を飲んで寝る。

そしてまた朝を迎えて同じ日々の繰り返し。

休みの日は目一杯寝てぐだぐだしてたら1日が終わる。

「やりたくないことをやらされ続ける人生でいいのか?」

嫌だ。

夢を持とう。叶えよう。


3月21日:かしこいひと


やめられないとまらない。

お腹が空いたら間食に走る習慣が直らない。

「今日はチートデイだから。明日からやめる!」

何度口にしたことか。

チョコレート、ポテトチップス、アイス、ビスケット。甘いものなら何でも。

習慣を変えられる賢い人になれたなら。

賢い人にはなれない、お菓子に恋する菓子恋人。


3月22日:私の居場所


アイドル。

学校のクラスメイトだったらトップクラスのような子が、グループとして集まった瞬間「可愛くない」と言われることだってある。

クラスメイトであればピカイチなのに、なんと皮肉なものか。

上には上がいると直面する。

弱肉強食。

反面教師にして、私がトップになれる女友達しか、私にはいない。


3月23日:リバウンド


バスケットボールでリバウンドを取るのが得意だった。

ゴールに入らないボールは俺が必ず入れてやる。

想いと成果が伴って仲間から「取って入れてくれるから安心」と絶大な信頼を築いた。

時は巡り中年太りのおじさんに。

痩せては太るを繰り返す。

リバウンドの肉は取れず、贅肉がズボンに入らない。


3月24日:1+1


「1+1は2だが人には当てはまらないから気をつけろよ」

あの頃、先生の言葉がさっぱり分からなかった。

「先生!2人で1個ずつアメを持ってきたら2個になるよ!」

「大人になったら分かる」

大人になってやっと分かった。

人なら1+1が2にならないことを。

2人いれば2個も3個もそれ以上だって出来るのだから。


3月25日:小説の書き方


「小説の書き方を知りたいって?」

「はい!ぜひ教えてください!」

「教えられるが近道はないぞ」

「頑張ります!」

「まず人を見るんだ」

「なるほど」

「次は人に尋ねる」

「ふむ」

「最後は人を知るんだ」

「プロットの仕方などは?」

「人を知れば自然と分かってくる。人の心を動かす方法は人から学ぶのだ」


3月26日:私事ながら


「私事ながら27歳の誕生日を迎えました。いつも応援頂きありがとうございます」

時を経て、めでたい話は続く。

「私事ながらかねてからお付き合いしていた方と、この度結婚することになりました」

続く。

「私事ながら第一子を授かりました」

そして。

「私事ながらお別れすることとなりました」

ああ人生。


3月27日:あの場所へ


「ここにいるよ」

連絡がもし取れなくなってもそこに行けば必ず会える場所。

二人で約束したのは何年も前の話。


連絡手段を失ったある日。

そんな日がくるわけないと軽い気持ちで誓いあった場所へ本気で向かうことになるとは。

見えた。

「おそいよ」

丘の上にある廃校で、太陽が可憐に微笑んだ。


3月28日:数字が見える


「リアルタイムでフォロワー数が見えるツールです」

数字はビジネスでもプライベートでも役に立つ。

街行く人々のSNSのフォロワー数が見えるメガネとは面白い。

友達の少なそうな人がTwitterで10万フォロワー。

意外な人がnoteで1万フォロワー。

サブアカ、裏アカまでカウントされる仕組みが怖い。


3月29日:インフルエンサー


インフルエンサーになる夢は諦めた。

その代わりインフルエンサーの人とたくさん繋がるようにした。

ただ繋がるだけじゃない。

インフルエンサーの人たちが喜んでくれることを与え続けると決めて徹底した。

ギブアンドギブでひたすらに。

そしたら「すっごくいい人」ってみんなが広めてくれて有名になった。


3月30日:にゃんだふるライフ


「にゃー」

いつもの猫。

家の近所に住んでいる野良猫。

何年も顔なじみ。

でも近づくとすぐ逃げられる。

少しくらいモフモフさせてくれたって。

「にゃーにゃー」

おや。

見慣れない顔。

会社では新入社員と出会う春。

猫の世界も新人が入るらしい。

「またね」

最高級の猫おやつを置土産に、私は新天地へ旅立つ。


エイプリルフールにつく嘘を考えていた。

何か嘘をついてやろうじゃないか。

人を悲しませる嘘はやめよう。

どうせなら人を喜ばせるものにしよう。

悩ましい。

新入社員が新年度一発目に人を喜ばせる嘘。何を。

夜な夜な考えを巡らす。


3月31日:エイプリルフールの準備


「はっ!」

寝落ち。

時計は11時を指す。2時間の遅刻。

嘘だと言ってくれ。


4月1日:嘘つきは嫌い


嘘。

「彼氏?いるよ!めっちゃイケメン!」

いない。イケメンの彼氏なんていない。

「家賃10万の家に住んでるよ〜広くて落ち着くんだ〜」

そんなわけ。ユニットバスだ。バストイレ別ですらない。

「年収はもうすぐ4桁いくけどね〜」

いくか。もやし料理のプロ。

だった。

嘘つきは嫌いだから全て現実にした。



4月2日:テンプレート


「年齢いくつ?」

「いくつに見えます?」

また始まった。年齢当てクイズ。

「兄弟いるの?」

「上と下どっちがいそうに見えますか?」

次は兄弟当てクイズ。

この流れを最初にテンプレ化した人は誰だ。

自然と会話のラリーが増える。やるじゃないか。

「男性、女性どっちに見えます?」

このテンプレは初だ。


4月3日:ピースサイン


「2名で!」

びっくりした。

自分がピュア過ぎる人だと言い聞かせることに。

"2人"を示すピースサインがポーズしているように見えたなんて人には言えない。

ほっぺの近くでピースするものだからアピールしてきたものかと。

好みの人。

「また2回目も来ますね!」

帰り際もピースは脈アリでいいですか。


4月4日:企画会議


「あれやりましょうよ」

「なになに」

「パン食い競走」

「疲れそうだからパス」

「じゃあどっちが長くスクワット出来るかゲーム」

「もっと疲れそうだな。パス」

「それなら分かりました。疲れないやつにしましょう。スプーン曲げ勝負」

「手品!?ってか、どれもラジオ番組でやる企画じゃないよね!?」


4月5日:作者の気持ちを答えなさい


このときの作者の気持ちを15字以内で記しなさい。

国語は苦手だ。身近な人の気持ちですら読めないのに。

10年付き合った恋人に突然別れ話をされたときの作者の気持ちなんて知るか。

『相手から振ってくれてスッキリ。』

15字ピッタリだ。

正答発表の日。

『振った事を後悔させる人になる。』

作者の癖つよ。


4月6日:盗まれ屋


盗まれ屋。

強盗や怪盗に盗まれるように仕向けるプロ。

そして盗まれた品々は必ず戻ってくる。

プロ集団のトップに顔見せなしで取材を行えた。

「盗まれ屋を始めたきっかけは何だったんですか?」

「お金がなかったからです」

あまりにも意外な動機だった。

「盗ませて捕まえて、慰謝料で稼げると思って」


4月7日:輝かせ人


今日も私は、誰かを輝かせている。

自分に言い聞かせるルーティン。

スポットライトを当てるような照明の仕事をしているわけではない。

元気づけるようなことをしているわけでもない。

自分が暗くなればなるほど、身を潜めれば潜めるほど、相対的に誰かが輝くことになるだろうって。

影あるところに光あり。


4月8日:あの曲


「あれ知ってる?『おいなりいなり2023』」

「知らないな」

「じゃあ『おいなりいなり2020』は?」

「知らないね」

「『おいなりいなり2017』も?」

「知らない。曲名?」

「そう。『おいなりいなり』が一番最初」

「2023とか付けて3年おきに出すほどのヒット曲!?」

「SNSで」

知る人ぞ知る。


4月9日:元カノたちの創作物


「今だから分かる」

「何が?」

「元元々カノは俺に映画の良さを教えてくれた」

「ほう」

「元々カノは小説の面白さを」

「へぇ」

「元カノはアイドルの良さを教えてくれた」

「はぁ」

「彼女たちに出会ったことで絶対に触れない趣味に足を踏み入れることが出来た」

「ふむ」

彼は、彼女たちに手掛けられた作品だ。


4月10日:ラブソングづくり


ラブソングを作る。

恋愛なんてしたことがないけれど。

知らないから、知るために曲を作ってみようと。

歌うのは好きだから。

「浮かばん」

経験がないものを生み出すのはこんなにも難しいのか。

半ば諦めて生成AIに訊ねる。

【ラブソング 作詞】

秒で良い感じの歌詞が作られた。

AIのくせに愛を知るとは。


4月11日:ら部まさ科


「ようこそ!ら部まさ科へ」

「ラブまさか?」

「ひらがなの"ら"に部活の"部"で"ら部"。"まさ"もひらがなで理科の"科"と合わせて"まさ科"ね」

「サークルですか?」

「新入生を大募集中のサークルだよ!新歓コンパも1日3回やってる!」

「1日3回!?」

「4月で新入生カップルも多数輩出中!」

「まさか」


4月12日:世界三大美人


「楊貴妃、クレオパトラ、あと一人は?」

「わたし」

「うるせぇ」

幼馴染との何気ない会話を思い出した。

間髪入れずに世界三大美人に並ぼうとした姿勢は認めてやろう。

小野小町が美人ではなかった説も考えると、実在する幼馴染のほうが……。


なんてことを思ったっけ。

世界三大美人と結ばれ、5年目の春。


4月13日:鳴かぬなら


「鳴かぬなら焦らしてしまえ時鳥」

誰だよ。

3人の戦国武将の性格を表した句は知っている。

これは4人目。

聞いたことがない。

鳴くまで待とうっぽいのにどこかSっ気がある。

「焦らして」に「しまえ」が付いているからだろうか。

性格というより性癖では。

そして知った。

3武将の1人の別の顔だったと。


4月14日:絵描き歌


「おやまが1つありまして〜♪」

絵描き歌か、懐かしい。小さい頃やってたなぁ。

「おひさまピカピカかがやいて〜♪」

何が出来るんだろう。

「ぴっかぴか、ぴっかぴか、るんるんるん〜♪」

あったあった。謎の擬音語使ってノリで描いてくとこ。

「くるっと回して、ちちうえ〜♪」

どこからツッコめばいい?


4月15日:限界の色


「限界の色は何色だろう」

限界に達した時どんな色を思い浮かべるだろう。

「赤かな」

燃えるような熱い想いでも持っているのだろうか。

「青だね」

限りなく広がる海でも思い浮かべるのだろうか。

それともどこまでも澄み渡る青空か。

「黄色」

限界の先にまばゆい光が差すのだろうか。

私は燃え尽きた白かな。


4月16日:俺の辞書には


「俺は何回も挑戦する!」

これまで5回。

彼の辞書には"諦め"の2文字はないらしい。

「俺の辞書は"挑戦"の2文字しかないから!」

心の声が聞こえてしまったのか。

初めて彼に心を読まれた気がした。

私の気持ちを読まないから5回も断ったのに。

「好きだ!」

6回目のプロポーズ。

「い、いいよ」


4月17日:あと5分


あと5分。

「あと5分寝かせて」

5分で済まないことが多いけど。

「あと5分でゲームセット」

接戦だったら特に緊迫する状況。

「あと5分で退勤」

高まる。残りわずかな時間ですでに仕事が手につかない。

「あと5分でお別れ」

家族、友達、恋人、どれも寂しい。嫌いな人は別。

予定では、娘が生まれる、あと5分。


4月18日:タラとレバー


「タラ」も「レバー」も好きだけど。

「たられば」は好きになれない。

「頑張っ"たら"良かった」なら、最初から頑張れ。

「先に告白して"れば"付き合えたかもしれない」なら、好きだと思ったときに告白しろ。

私の心が歪んでいるのか。

日常の「たられば」に一喝。

そう、思っ"たら"言って"れば"良かった。


4月19日:感情


「結婚しました」

おめでたいこと。

おめでたいことなのに素直に喜べない自分と出会うことがある。

感情を整理して出てきた言葉は羨望と劣等。あと葛藤。

羨ましい、悔しい、悩ましい。

祝福の鐘を盛大に鳴らせる余裕があったなら"良い人"になれただろう。

世界初、人間の心を持ったAIロボットの私、戸惑う。


4月20日:きみひとひら


「好き。嫌い。好き。嫌い……」

タンポポの花びらを1枚ずつ摘んでいく。

最後の1枚が相手の気持ちを示しているとか。

コスモスの花びらなら8枚。

「好き」から始めると最後は「嫌い」になってしまう。

タンポポは決まっていない。

あ。

最後の1枚。

「嫌い」

俯く私。

「花びら落ちたよ」

突然現れた彼。

好き。


4月21日:爆発注意


「注意。爆発します」

触れると爆発するタイプなら触れなければ安全。

……だったらまだ良かった。触れなくても爆発するタイプ。

時限式でもない。いつでも爆発する。

「回避する方法は見ないこと」

なんだよそれ。神の仕業か。

時すでに遅し。見てしまった。

ニコリと笑顔を振りまく少女。

かわいさ、爆発。


4月22日:前の前方


「おい!ふざけんなよ!」

「いや、あの、ですから」

なんだ。若者と駅員が駅改札でモメている。

「こっちは急いでんだ!」

「十分理解しております。しかしお伝えした通りでして」

何かに急ぐ若者と受け止め対応する駅員。

「腹痛が痛くて南口のトイレはどこだよ!」

「南です。右に右折です」

前の前方にて。


4月23日:春と恋


お相撲さんの恋はどす恋。

マヌケ者の恋はすっとこどっ恋。

誰がうまいことを言えと。

出会いと別れの春がやって来て、過去の恋愛をふと思い出す傍ら、しようもない恋の形が浮かんだ。

想いを寄せた人に「好きです」と言う前に機会を逃し続ける人生。

春風のように一瞬で通り過ぎる恋は、すばしっ恋。


4月24日:角女バイト


角女のアルバイト募集中。1アクション5000円。

女子学生さん限定。

「つのおんな?」

初めて見るアルバイト。

気になって面接へ。

「あの、つのおんなって何ですか?」

「あ、かどじょね」

「かどじょ……ですか」

「曲がり角でトーストをかじった女子学生とぶつかりたい人にぶつかるバイトね」

「やります」




4月25日:ことば遊び


ドリブルは得意だけど、アドリブは苦手。

シリアルは好きだけど、シリアスは嫌い。

一所懸命は出来そうだけど、一生懸命は出来なさそう。

暇なのか?私。

言葉遊びするほど余裕なのか?

否。

くだらないことを考えるくらいが人生楽しくて。

「佐々木はどう?」

突然意見を求められた。

アドリブは苦手だってば。


4月26日:まずいチョコ


「まずい」

甘いものが好きな私が苦手なもの。

「なんでこんなことも出来ないんだ!」

「またミスをして!」

ミスを繰り返して先輩に怒られると嫌いが加速する。

私だって好きでやってるわけじゃないのに。

なんで。

「このままじゃまずい」

チョコは好きだけど、へなちょこは好きくない。

へなチョコはまずい。


4月27日:最強の花粉


「先輩!ヤバいっす!守りが堅く攻め込めません!」

「ほう。数々の仲間たちが敗れた最強の守りとはこいつか。花粉99%カット」

「はい!データ班に確認して突破の可能性は1%と算出されました!」

「下がっていろ。最強の力を見よ。閃一門!」

「越えた……!」

花粉先輩が最強の守りを突破した瞬間。


4月28日:未来


「未来はどんな色だと思う?」

生まれて初めての質問だった。

未来の色なんて考えたこともない。今の色だって意識したこともない。

困った表情を察した彼は続けた。

「考えたことないって顔してるね!考えてみて!ついでに未来の香りとか味とか音も!」

彼の答えを聞けぬまま、彼のいない未来を生きている。


4月29日:体育館裏に


「放課後、体育館裏に来て」

下駄箱にあった手紙に記された一言。

釣り部の僕には無縁だと思っていたがアレでは?

丸文字で書かれた一言にドキドキする。

不良なら「体育館裏に来い」だろう。

今回は違う。

放課後、体育館裏へ。

「お魚好きに渡したくて!」

水槽を抱えるミキちゃん。

中には鯉。

体育館裏に鯉。


4月30日:GWの過ごし方


「GWは何する予定?」

「うーん。特別なことはしないかな」

「同じだ。3日休んで、3日仕事して、4日休みだとなんか特別なことをしにくいなと」

「会社員はそうだよね」

「どこ行っても混むしね」

「雇われはね。オーナーやってるから、うまく回せればいつでもGWに出来て良いよ」

「だから特別じゃないのか」


5月1日:親孝行


両親は60歳。

実家に帰るのはGWとお盆休みと年末年始の年3回。

3日ずつ滞在したら両親との時間は年9日。

両親が100歳まであと40年。

40年で360日しか会えないなんて。

1年に満たない。

大学までの18年間は毎日会えたのに。


「親孝行しよう」

決意が遅かった。

61歳を迎えていたはずの両親の墓前に手を合わせる。


5月2日:悪いやつはいねぇ


「5月生まれとラーメン好きは悪いやつはいねぇ!」

高らかに叫ぶ青年の名は青木。

5月生まれとラーメン好きには悪いやつはいないらしい。

どっちかでも両方でも。

「青木、いきなり叫ぶのはやめろよ」

「いいじゃん!悪いこと言ってないし!」

「7月生まれの蕎麦好きが、いきなりどうしたのかと思って」


5月3日:知らんけど


魔法の言葉「知らんけど」。

最後に一言添えるだけで「ふふっ」とニヤける。

一見キツめな言葉なのに一瞬で和やかな雰囲気にしてしまう。

「これ絶対うまい!知らんけど」

「あの子、絶対アンタのこと好きやで!知らんけど」

許せてしまう不思議。

ほんとに好きか、知らんけど。

魔法の言葉か、知らんけど。


5月4日:痩せる


「痩せる!」と決めて早1ヶ月。

週5で食べていたラーメンを週4に減らした。

1日4食を3食に減らした。

外食も減らした。

おかげで出費も減った。

と、言いたかった。

素材にこだわり調味料にもこだわって自炊することで出費は増えた。

外食のほうが時間的にもコスパが良いと気づいてしまった。

という夢を見た。


5月5日:GWとかけまして


「GWと掛けまして絶叫マシンと解きます」

「その心は?」

「どちらもきせいが盛んです」

「おぉ。里帰りの帰省と絶叫する奇声を掛けたのね」

「続きまして」

「続けるんだ」

「GWと掛けまして」

「また!?」

「黒歴史の詰まったタイムカプセルと解きます」

「その心は?」

「どちらもあけたら辛いです」

「つら」


5月6日:恋愛のプロ


「自分から積極的に写真を撮らせてもらうんだ」

恋愛のプロは言った。

気になる人と連絡先を交換したいなら、自分の携帯で写真を撮れと。

写真を送る口実で自然に連絡先を交換出来るらしい。

「交換前に次の予定も話して決めておけ」

予め連絡する必要性を作ればブロックされないらしい。

奇跡の既読スルー。


5月7日:朝カラ


朝カラが趣味。

休みの日なのに気合いを入れて早起き。

習慣化は偉大。

今では自然と起きられる。

「あえいうえおあお。あー!あー!」

よし。調子が良さそうだ。

夕飯を抑えたことで程よくお腹も空いている。

ちょうど良い。

「お一人様ですか?」

「はい」

「お決まりですか?」

「から揚げ定食、松で」

朝カラ。


5月8日:ニンニクマシマシ


在宅勤務が主となって出社が減り、ニンニク料理を食べる機会が増えた。

「ニンニクマシマシで」

ど平日でも平気で頼める喜び。

対面で誰とも会わない利点を存分に活かす。

出社する前日に食べないようにすればいい。

そのはずだった。

「先輩、昨日ニンニク食べました?」

オンライン会議なのに何故バレた。


5月9日:祝日が欲しい


GWが明けて次の祝日を待ちわびている。

調べによると次は7月15日の海の日らしい。

「なん……だと?」

あと2ヶ月も祝日がないだって。

三連休があっても別にやることはないけれど週休2日だけは辛すぎる。

「2ヶ月後に飛べるタイムマシン、使う?」

未来からやってきた男の誘惑に頭を悩ませた。


5月10日:GW明け


「俺さ、誰よりもGWを楽しんだのよ」

「私もです!」

「寝る間も惜しんで映画、名所巡り、ツーリング、飲み会とか楽しみまくったわけ。1日に3、4件の予定を毎日」

「ハードですね……」

「そう。その分誰よりも仕事復帰が辛いわけ。俺より先にバテるなよ?」

GW明けの退職防止にしては新手なパワハラだ。


5月11日:言いたいセリフ


「諦めることを諦めろ」

一度は言ってみたい台詞。

中二病っぽいけれどなんかかっこいいし。

いつかは……と滾らせる想いと裏腹に、気づけば大人になっていた。

ところが、その時は突然訪れた。

長年勤めた会社に辞意を表明したところ、見向きもしなかった上司からの引き止め。

今だ。

「諦めることを諦めろ」


5月12日:強さの秘密


人について調べていた。

ナゼ、危機に直面しても乗り越えられるのか。

ナゼ、成長し続けられるのか。

ナゼ、なのか。

文献データ、ネット上にある情報では分からず、人と触れ合ってみた。

「コレか」

時にぶつかりながらも仲間として人を大事にし互いに成長すること。

ワタシたちロボットにはないことだった。


5月13日:ストレスフリー


「イライラしないコツを教えよう!」

仕事とプライベートでストレスを抱えがち。胃が痛くなる。

そんな私にいつもニコニコしている彼がアドバイスをくれた。

「期待しない、何とかなると楽観する、そんな人もいると思う、気兼ねなく話せる人と話すことかな」

「なるほど」


あれから3年。私たちは結婚した。


5月14日:本屋に行く理由


リアルの本屋が好き。

思いがけない出会いがあるから。

お店によって異なる書店員さんのオススメやネットだったら調べないであろう本にも出会える。

児童書コーナーに足を運ぶ。

大人だけど。

大人も考えさせられる児童書が意外と面白い。

「あ!」

「三玖!?」

子どもを連れた元カノ。

思いがけない出会い。


5月15日:お母さんとお弁当


「お母さんがいつもお弁当を作ってくれるの」

なんだか羨ましかった。

お弁当を毎日作ってもらえることも、母親がいることも。

早起きして作るのは大変そうだ。

私はお弁当を作ってもらったことがない。

母親はいない。

父親?はいるけれど。

父が作ったのは私。

「いってらっしゃい」

父は機械の私を送り出す。


5月16日:最善の選択


選択の日々。

今起きるか、まだ寝ているか。

食事を摂るか、抜くか。

人に頼るか、頼らないか。

提案するか、しないか。

お酒を飲むか、飲まないか。

やるか、やらないか。

常に100%最善の選択をしているはず。

「人生の充実度は何%?」

聞かれて戸惑う。

100%を積み重ねたはずなのに、100%と言えない。


5月17日:早押しクイズ


「早押しクイズしよう!」

「二人なのに早押し。得意だしいいよ」

「春先で目がかゆくなったり」

「ピンポン。花粉」

「正解!次いくね」

「うん」

「くしゃみが」

「ピンポン。花粉」

「正解!次」

「おけ」

「えっと」

「花粉」

「正解!出す前からよく分かったね!」

「花粉症の辛さが顔からにじみ出てたから」


5月18日:お昼休みの過ごし方


1時間の昼休み。

ご飯を食べるも良し。

動画を観るも良し。

音楽を聴くも良し。

散歩するも良し。

お昼寝するも良し。

「さて、今日は」

お腹は空いてない。

目が疲れたから動画は微妙。

音楽も別に。

散歩はめんどい。

昼寝は夜眠れなくなるからこれも微妙だ。

「うーむ」

結局、何もしないことをすることにした。


5月19日:撮影会


「いいねぇ!かわいいよぉ!こっち向いて!」

カメラ目線を求められても彼女は従わない。

気ままに、自由に。

言葉にはしないけれど彼女なりのポリシーがある。

それがまたいい。

セミヌードどころかフルヌード姿なのに大きな口を開けてあくびまで。

自由だ。

曲がった尻尾。ぷにぷにの肉球。彼女は猫である。


5月20日:オレだよ、オレ


「オレだよ、オレ」

犯罪の見極めは不要らしい。これは分かる。ザ・王道。

それに幸か不幸か私にはもう男の親戚はいない。彼氏もいない。そもそも男友達すら出来たことがない。会社の同僚も全て女性。

残念だな。かける相手を間違えている。

「カフェラテじゃなくて、カフェオレだよ」

かける相手、誰だよ!


5月21日:幸せのバランス


「人生は49の不幸と51の幸せで成り立っているでしょう。不幸なことが起きたときこそ幸せが舞い込んでくるチャンスです」

哲学の先生の言葉が人生の指針になっている。

最近は逆に思うことがある。

宝くじが当たり、勢いで買ってみた競馬も3連複が当選。彼氏もできた。

49の不幸がやってこないか心配だ。


5月22日:道すがら


散歩の途中。

ふらっと訪れたお店は個性的な柄の洋服や小物を売っていた。

「オススメは何ですか?」

「滝の勢いを感じられる"ナイア柄"。自信に満ちた"われな柄"。控えめなのに主張する"僭越な柄"ですかね」

「なるほど」

「あ、偶然訪れた方にはこちらもオススメです」

薦められた"道す柄"な小物を買った。


5月23日:罪悪缶


罪悪缶。

開けた瞬間、申し訳ない気持ちになる缶らしい。そして反省する。

購入者はカップルや夫婦が意外に多く、学生もネタとして買っていくようだ。

包装を剥がすとサバ缶のパッケージが表れる。

「開かない。開けて」

「しょうがないな」

パカッ。

「ご、ごめん。今まで本当にごめん」

謝るなら、裁かん。


5月24日:浴びる


「昨日は浴びすぎた」

お酒が趣味の友人が言葉をこぼした。

「お酒好きだもんね。昨日も飲みすぎたの?」

「いや珍しくお酒を飲んでいないんだ」

「じゃあお風呂でシャワーとか?」

「惜しいな。言葉のシャワーを浴びたのさ」

ドヤ顔で語り始めた。

「笑顔は人は元気にさせる。他者が喜ぶことをしろってね」


5月25日:友だち100人できるかな


「友達100人作ることを目標にしてるんだ」

「小学一年生の夢みたいだね!一年生になったら〜♪ってあの曲みたい」

「そう。大学生の頃うまくいかなかったから社会人でリベンジしたくて」

「いいと思う!でも社会人で新たに100人作るのはなかなかだね」

「うん。毎月100人作るのは楽じゃない」

「毎月!?」


5月26日:勿忘傘


「忘れられた傘たちが、動き出す」

会社、お店、家、駅、それから。

忘れられた傘たちに生命が宿る。

忘れていった持ち主に逆襲したり。

愛する持ち主との再会を願って持ち主探しを始めたり。

様々な想いが交差する先に待ち受けるものとは。

傘の置き忘れにご用心。

『勿忘傘(ワスレナガサ)』アニメ化決定。


5月27日:食事の教え


「残しちゃダメだからね」

いつも笑顔で優しい母親は、ご飯のときだけ厳しかった。

「ごはん粒は1つも残さないの」

「交互に食べなさい」

「ちゃんと箸を持って」

幼い頃の記憶を今でも鮮明に覚えている。

今は「綺麗に食べるね」と周りからよく褒められる。

誰かとの食事が一層楽しいのは亡き母のおかげだ。


5月28日:心はアート


「心とはアートなのです」

中学生の頃、美術の先生がこんなことを言っていた。

あのときは芸術に興味なんかなくて。

先生が言ってる意味もさっぱり。

ところが大人になって偶然同じセリフに出会った。

「心はアートなんだよ。だって心は英語でheartだから。ほらartがあるでしょ?」

たしかに、心はアートだ。


5月29日:レコメンド


レコメンド。

「やめたほうがいいよ」

"薦めない"ことを薦めることもレコメンドと言えようか。

「やったほうがいい」

「きっと好きなはず」

薦められると一歩引いちゃう私は、薦められないほうが気になる。

「あの人とは関わらないほうがいい」

あのときの親友の一言で、彼と結ばれ2児の母になるとは。


5月30日:付き合った人


「これまで何人と付き合ってたんだっけ?」

「今の子で4人目だね」

「そこそこいるな。俺が知ってる人は穂波ちゃんだけだったけど。他にいるのか」

「穂波は3人目だね。1人目が夏美で2人目が美穂。それから4人目が波瑠夏」

「色んな子と付き合ってんだね」

「1人目から4人目まで名前が巡る面白さもあるよ」


5月31日:会話のデッドボール


「これってどう思いますか?」

出た。疑問を直球ストレートで投げかけるやつ。

「どう思いますか?に回答する前に聞きたいんだけど、どう思う?どうしたらいいかな?」

直球を来た方向へ真っ直ぐ打ち返す。

投げられた球より多く、重く。

「僕は……思いつきません」

会話のキャッチボールがデッドボールに。


6月1日:スカウトメール


「当社を選んだ理由は何ですか?」

「スカウトメールが届いたからです」

「他にはありますか?」

「いえ。逆にお伺いしたいのですが、スカウトを送って頂いた理由は何ですか?」

「えっと……」

「業者が送ってるんですか?」

「その……」

「私の何に魅力を感じたんですか?」

「二次面接で聞いてください」


6月2日:人生が物語


面白い物語を書いてやる。

どれだけ考えてもいいアイデアが浮かばない。

月日が経てども浮かばない。

自分が面白いと思えなきゃ読み手が面白いと思えるわけもない。

「ダメだ」

現実から目を背き前職の同僚と雑談。

「同棲までしてた元彼が実は既婚者で、奥さんが私の実家に押しかけて」

実体験、面白すぎ。


6月3日:シェア


シェア。

家、車、本、通信量、食べ物、飲み物、シェア出来るものは数知れず。

喜びが倍になることもあるからシェアはいい。

最近気になっているのは恋人のシェア。

意外にもマンネリ気味になっているカップルたちが利用するらしい。

「今の彼のほうがいいかも」

シェアして当たり前の良さに気づくようだ。


6月4日:チェキ


チェキ。

撮った写真が目の前で現物になる。

レンズ越しの風景や人物がすぐカタチに出来る不思議な機械。

何枚も生み出せなくて、切り取った一瞬をたった一枚の限定アイテムにしてしまうのも一興。

文字やイラストを描いて想いや思い出を詰め込んで宝物にも。

「パシャ」

ピースポーズの一枚を撮影。

チョキ。


6月5日:残さず食べる


「ごちそうさま」

ごはん粒をいくつか残して食べ終えたと宣言する人、苦手だ。

2、3粒だけ残す人はさらに。

農家に感謝して、最後の一粒までキレイに食べるんだよと教わらなかったのか。

作り手と食材に感謝して食べきるべきだ。

「また太った」

ラーメンも汁まで飲みきる私は、感謝に比例し肥えていく。


6月6日:音楽はタイムカプセル


音楽はタイムカプセル。

甘酸っぱい初恋も。

楽しかったドライブデートも。

初めて行ったあの場所も。

「そっちが悪い」

ケンカしたあの日も。

「ごめんね」

涙を流したあんな日も。

笑い転げたあのときも。

歌詞が、楽器が、メロディーが、そして歌声が。

一瞬で思い出させてくれる。

今日も、また1つ。


6月7日:ホンネとタテマエ


ホンネとタテマエ。

「年齢より若く見えました」

「他社で内定をもらったので辞退します」

「家族を看病しなければならず休みます」

「仕事が終わらないので飲み会行けません」

何がホントでウソか分からない。

ただ信じるのみ。

「好き」

幼なじみから突然の告白。

「ずっと前から好きで」

ホンネ100%、到来。


6月8日:転職理由


「転職理由は何ですか?」

どんな不満があったのか。

正当な理由か。

同じ理由で辞められないか。

不満を解消してあげられるのか。

私が人事だとしても気になるだろう。

「給与です」

考えすぎてミスった。

採用されるわけがない。

「いくらあれば絶対にやめないですか?」

お金だけじゃないことを気付かされた。


6月9日:だいじょば?


「大丈夫?」と聞かれたら「大丈夫」と答えたくなる。

「大丈夫じゃない」と言ったら負けな気がして。

本当は大丈夫じゃないのだけれど。

「無理してない?」と聞かれたら「無理してない」と答えちゃう。

同じ。

会社の先輩は変な聞き方をする。

「だいじょば?」

「ないです」

「聞かせて」

「先輩が苦手です」


6月10日:断捨離しても残すべきもの


断捨離。

いる、いらない。

ときめく、ときめかない。

刺激がある、刺激がない。

安心する、安心できない。

気を遣う、気を遣わない。

残すか、手放すかの判断基準は人それぞれ。

「おはよう!この間は元気なさそうだったね。大丈夫?」

1つだけ。

どんな時も気にかけてくれる人は、大事にすべき。


6月11日:ヒーロー


ヒーローになりたい。

子どもの頃、夢に見ていた。

正義を掲げ地球を守る。

かっこいい。

大人になり現実を知った。

上司に詰められ取引先に無理を言われ、社内調整とプレゼン資料を作成する日々。

ヒーローなんて。

「人々に喜んでもらうことが私の正義です」

取引先社長の一言が響いた。

正義を掲げよう。


6月12日:一生の選択


「一生ラーメンは食べられるけれど、パスタは食べられなくなるのと、逆ならどっちが良い?」

「ラーメン……かな」

「じゃあ、小説が読めるのと音楽が聴けるのなら?」

「音楽……かな」

「友情だけと恋愛だけなら?」

「友……いや、恋愛で」

「じゃあ幼馴染の私たちだけど。今日から恋人になろう」


6月13日:承認欲求を満たすアプリ


「承認欲求を満たすアプリ『HOMETE』新登場!褒めて欲しい、認めて欲しい気持ちがあっても、なかなか言いづらいですよね?でもやっぱり褒めてもらいたいじゃないですか!そんな願望『HOMETE』なら叶えられます!」

褒めコメントの内容をAIが分析してホメポを付与。

換金可。

双方が満たされる。

面白い。

6月14日:かしつき


「お前は誰も潤さない加湿器だな」

うまいことでも言ったつもりだろうか。

「うまいっすね!先輩!」

なんて、とても言えない。

そんなことを言える身分でも、立場でも、関係性でもない。

新卒で入社した会社は半年で辞め、第二新卒ではあるが中途として期待されて入社。

なのにミスばかり。

私は、過失器。


6月15日:3K


高身長、高学歴、高収入の頭文字を取って「3K」と呼び、女性から支持を受けた男性を総称する時代があった。

職業の「3K」と言えば、きつい、きたない、きけん。

更に、帰れない、厳しい、給料が安いを加えて「6K」とも呼ばれている。

住宅では3部屋とキッチン。

そんなことを思いながら3K払って酒を嗜む。


6月16日:空


「わたあめだー!」

「あっちはきょうりゅうだ!」

公園を通り過ぎる頃、雲を見て無邪気に叫ぶ子どもたちの声が聴こえてきた。

つられて空を見上げる。

「雲だ」

無邪気な想像力が皆無だと気づく。

余裕がないのだろう。

空っぽだ。

まぶしい。

子どもたちも太陽も。

空は、今日も青かった。


6月17日:夢占い


「夢を見たんだ」

「どんな?」

「パチンコで勝つ夢」

「夢占いかじってるんだけど、パチンコで勝つ夢は金運低下の暗示だね」

「まじかよ。めっちゃ勝ってたんだけど」

「あ!大勝ちしてたら運気上昇の暗示だよ!」

「やった!ちなみに前は競馬で、馬になって走ってたのは?」

「前世が馬かもね」


6月18日:リッチゲーム


「いくら使っても減らないお金を持て余しているのではありませんか?」

黒服の男に声をかけられた。

興した事業で得た莫大な資金は、一生遊んで暮らしても使い切れないほどあった。

「何か?」

「超富裕層のみが参加出来るゲームに参加しませんか?」

「?」

「勝者は国を1つ手に入れられます」

「面白い」


6月19日:余白


余白。

イラストや文字がぎっしり詰まった一枚の資料より、これでもかと言わんばかりに余白のある資料のほうが美しく見える。

さて、人間関係はどうだろう。

ありとあらゆる人と関わるか否か。

予定が埋まっているか否か。

「あなたくらいしか会ってない」

特定の人とゆっくり過ごす。

余白は美しい。


6月20日:かも運転


「あっぶねぇだろ!ちゃんと周りを見ろ!」

”かも”運転が大事だと教えてもらったのに、あぶなかった。

飛び出してくるかも。

目が見えないかも。

耳が聞こえないかも。

ぶつかるかも。

ぼくは悪くないもん。

おじさんがいきなり飛び出して来たんだ。

自転車でぶつかるとこだった。

「365度みてました!」


6月21日:ボーナス


「そろそろ夏のボーナスですよね」

「ボーナスは期待しないほうがいいよ」

「少ないんですか?」

「レギュラーボーナスって感じ」

「レギュラーボーナス?」

「スロットとかやらない?バケとか言うやつ」

「分からないですね」

「ビッグボーナスの5分の1くらいしか出ないね」

「スロット分からないですって」


6月22日:貯まるマイル


「また出張?」

「お父さん、また遊べなくなるの?」

「うん。ごめん」

リモートワークやオンライン会議が広がりを見せる中、時代と逆行する働き方が続いていた。

自社もそう。

顧客もそう。

足で。

対面で。

顧客の信頼を得るために出張するほど、家族との仲が悪くなる。

貯まるマイル。失うスマイル。


6月23日:交通系ICカード


「さて、聞かせてもらおうか。ミスが起きたのは何故か」

「交通系ICカードですか?」

「ん?」

「ナゼカ」

「んなもんあるか!」

「アルカ」

「ないわ!」

「ナイカ」


6月24日:ログインボーナス


やっぱりウチにもあったほうがいいよね」

「何がですか?」

「ログインボーナス」

「?」

「みんな毎日頑張って出社してくれてると思うわけよ。ITベンチャー企業の社長として福利厚生にログインボーナス制度作ろっかなって」

「例えば月曜日は何ですか?」

「公園の石10個かな」

「いりません」


6月25日:時短


音楽を聴く。

サビだけ聴いて次の曲に飛べるようになった。

動画を観る。

倍速で観られるようになった。

気になるシーンに飛ぶことだって出来る。

料理を食べる。

デリバリーを待つだけで食べられるようになった。

1日24時間で出来ることが増えている。

「そんなに急いで空いた時間に何をするんだい?」


6月26日:アブノーマル


「私に興味がある人は変態か、ド変態だと思う」

彼女は言った。

何でも興味があり、何にも染まらない彼女。

女らしいことを言ったかと思えば、おじさんらしいことを言ってみたり。

ドポジティブなことの次はドネガティブなことも。

掴みどころがない。

でも、それがいい。

たぶん、僕は、ド変態。


6月27日:なんでもいい注意報


「なんでもいい」

信用出来ない言葉の1つ。

「じゃあ、中華にしよっか」

「うーん」

なんでもいいと言ったのに悩むな。

「なんでもいいって言ったじゃん」

「言った」

「中華でいい?」

「あー、うん」

モヤモヤする。

「本当は何が食べたいの?」

「アイス」

「え?」

「モナカ」

なんでもいいは信用出来ない。


6月28日:美容室


「カットとカラーですね。トークはどのコースにしますか?」

初めて来た美容室は店員さんとの会話がコース制になっていた。

「どんなコースですか?」

「たくさん話す、ほどほどに話す、全く話さないの3つです」

「じゃあ全く話さないコースで」

「了解です!カット、カラー、トーク抜き入りまーす!」


6月29日:ユニークなカフェ


面白いカフェがある。

ユニークな商品名が特徴的だ。

「みんなと同じ気持ちを味わいたいのなら【マジョリティー】がオススメです!」

「あなただけの一杯を味わいたいなら【マイノリティー】はいかがでしょう?」

ほどよいくだらなさが丁度いい。

新たな命を授かった私は【マタニティー】を頂いた。


6月30日:秒給制


「うちは時給じゃ雇ってねぇ。秒給制よ」

「1秒でいくらってことですか?」

「おうよ」

「僕だったらいくらで雇ってもらえますか?」

「1秒、1円でどうだ」

「やす!」

「くないわ!破格だぞ?」

「えっと……1分で60円。1時間で……3600円!すみません!」

「世の中、1秒の価値を知ってるほうが少ないもんよ」


7月1日:カーナビ


「先ほどの信号、左でした」

うちのカーナビは時々おっちょこちょいをかます。

AI機能で私の傾向を学習した結果、おっちょこちょいは愛されると知り、順応したようだ。

少しイラッとするけど、憎めない。

昔よく走った道だから分かるし、許そう。

「あ!」

偶然、別れた元彼に遭遇。

「先ほどの信号、右でした」


7月2日:指名手配


「この顔にピンときたらこちらまで連絡を」

ピンときたらどころではない。

ピンピン、いや、ピンピンピンくらいピンときている。

「罪状:笑顔じゃないこと。犯人へ:口角を上げてニコリと笑ったら見逃してやる」と続いていた。

なんて手配書だ。

笑えば見逃されるのか。

鏡で出来た手配書にニッコリした。


7月3日:言葉と魔力


「140文字で世界を救えるか」

勇者は叫んだ。

使える文字数=体力の世界。

「ハハハ!あと121文字だな。何が出来る!」

魔王の体力は2000。

言葉には文字数以上の力がある。

体力が0になる前に2000以上の言葉を。

「魔王。世界がお前だけになったらどうなると思う?」

思わぬ言葉に、魔王は言葉を失った。


7月4日:ちゃっかり


「ラーメン並ですね。スープの濃さはどうしますか?あっさり、こってり、うっかり、ちゃっかりございます」

「うっかり、ちゃっかり!?」

「おススメはちゃっかりです」

「ちゃっかりってどんな感じですか!?」

「底に濃いめのタレがちゃっかり入ってます!」

「うっかりは?」

「意外なもの入ってます」


7月5日:1000円カット


「本当に切って大丈夫ですね?その人との関係」

1人につき1000円で縁を切ってくれる『1000円カット』の店に来ていた。

「は、はい。切ったらどうなりますか?」

「2度とあなたの目の前に現れることはありません」

「……死んじゃうのですか?」

「企業秘密です」

1000円を手に、店を後にした。


7月6日:ストレス買取店


「ざっと、30万円ですね」

「30万!?安くないですか!?」

納得がいかなかった。

最低でも100万円にはなると思っていた。

期待し過ぎ、期待外れも甚だしい。

「これまでの方と比べると……このくらいですね」

どうやら私はまだまだらしい。

溜まったストレスを換金してくれるお店。

また換金しにこよう。


7月7日:遠距離恋愛


どきどきする。

彼と会うのは1年ぶり。

去年は私が彼に会いに行ったから、今年は彼が川を渡ってくる番。

気持ちが高ぶり予定より30分早く川に着いてしまった。

「あれ」

川の向かい側に彼の姿。

彼も早く来ていたみたい。

「ん?」

隣に見知らぬ女性。誰。

「お、織姫!?」

私に気づいた彼。今夜は帰さない。


7月8日:嫌い、わたし


「たぶん、本当に嫌いなのは私自身」

彼女の言葉が忘れられない。

「嫌い」と発した彼女が最後に残した言葉だった。

あれから3年が経ち、やっと意味が分かった気がする。

誰かを受け入れられないのは、自分の嫌いなところがその人に映っているから。

誰かを好きになる前に、まずは自分からなのだろう。


7月9日:働くなら


何歳まで仕事をしていたいか訊ねてみた。

「定年前までには」といった回答が返ってくるかと思いきや。

「働ける限り働きたい」「身体がダメになるまでは」意外な回答。

「やることがないのは飽きそう」

「人との繋がりが減るとダメになりそう」

「達成感や生きがいを得たいから」

なるほど。何歳まで働こう。


7月10日:キャッシュレス


昔に比べてお金を稼ぎにくくなった。

学生や社会人が金曜の夜に飲み明かした後、土曜の朝は稼ぎ時だったのだが。

テクノロジーの発展が環境を変えてしまったのだ。

キャッシュレス決済で現金を持たなくなったことが不都合過ぎる。

「ない。ここもない」

自販機の下や路上でお金を拾いづらくなった。


7月11日:客引き


「生ビール安いですよ〜!いかがですか?」

「あ、別探してるんで大丈夫です」

「ハッピーアワーやってます!いかがですか?」

「大丈夫です」

繁華街は飲み屋の客引きが次から次へと現れる。

テンプレートな誘い文句じゃ惹かれない。

「オイ!ソコノメガネ!ウチデノマネカ?」

思わず振り向いてしまった。


7月12日:駆らす


カラスの亡き骸を見かけた。

毎日行き来する道中のゴミ捨て場の横で。

一つの尊い命が旅立ったようだ。

帰り道、まだ残っていた。

他のゴミはない。

翌日も。

翌々日も。

場所をちょっと移動しているが残っていた。

友だちに知らせる。

「これが例のやつで」

「なんだよ。覚悟して来たのに何もないじゃん」


7月13日:占い、信じる?


「占いって信じる?」

「んー。俺は信じないかな」

「そっか。誕生日占いで2人を占ってもらったら、2人の相性はバツグンです!って言われたんだよね」

「え、そうなんだ」

「彼はなくし物をしやすいタイプで、彼女はしっかり者でしょ?とも」

「この間財布なくしたし当たってる。信じてみよっかな、占い」


7月14日:お客様は神様


「お客様は神様だと思って対応しました」

お客様からご要望(クレーム)をいただき、担当スタッフに事情聴取。

「見下された気分になったとお客様が話されていたのはなんでだ?」

「分かりません。実家では神棚に水、塩などを置いていたので、神様として水と塩を渡しただけです」

「神様の概念整理しよう」


7月15日:共通認識


「リンゴの絵を描いてください」

数人でリンゴの絵を描いた。

「見せてください」

「あっ」

「えっ」

リンゴの断面を描いた人がいれば、真横から描いた人も。

「誰もが知っているリンゴですらイメージが人によって異なるのです。日常のズレは計り知れません」

それよりバナナの絵を描いた人が気になりすぎる。


7月16日:よっぱらっぱ


「よっぱらっぱ」

酔っ払ったときに必ず連絡をしてくる異性がいる。

「また飲んでたの?誤字してるよ」

「わかつてり。ぜわざんのをでなやあ」

どんどん誤字だらけになるメッセージ。

「気をつけてね。おやすみ」

返信が途絶えた。

翌朝。

「謎メッセージごめんね!ほんと気をつける!」

同夜。

「よっぱらっぱ」


7月17日:雨の日が嫌い


雨の日が嫌いだ。

学校の先生に叱られたのが雨の日。

会社で大きなミスをしたのも雨の日。

大好きだった彼に振られたのも雨の日。

よくないことは大抵雨の日に起こる。

「雨の日なんてなくなればいいのに」

「じゃあずっと晴れの日にしよう」

晴れ男が雨を奪った。

よくないことは雨の日に起こる。


7月18日:小説家の苦悩


小説で有名になりたかった。

「ダメだ」

何万文字も書いて仕上げた作品は全く評判にもならず。

「じゃあ次は」

文字数を減らして挑戦した40文字小説。

100作品を手掛けてもヒットは生まれず。

人の心を動かせない無力さに失望した。

「これで最後」

140文字小説。

同じ悩みを抱える人へ捧ぐ物語、始動。


7月19日:メンヘラスイッチ


「わたし、キレイ?」

口裂け女のような問いかけをしてくるのはメンヘラ気質の強い会社の同僚。

「今日もキレイ」

「ありがとう!嬉しい!」

いつも通りテンプレ回答で事なきを得る。

「っていつもと同じ回答!」

はずだった。

「ほんとは?」

メンヘラスイッチを押してしまったらしい。

誰か切ってくれないか。


7月20日:お弁当の歌


「これっくらっいの♪」

「うい」

「お弁当箱に♪」

「へい」

「どれっくらっいの♪」

「ん?」

「ご飯が入るか♪」

「んん?」

「試してみたら♪」

「なに?」

「おーにぎりおーにぎりちょんてしたら♪」

「戻りかけた」

「きざーみしょうがを切らしてたので♪」

「ないならいいよ」

「隣人さん♪」

「隣人さん!!」


7月21日:恋バナ


「次に出会う時が3回目になるんだけど、白黒つけたほうがいいよね?」

「データでは3回目のデートで告白している人が一定数いますが、必ずしもそうではないです」

「どちらでも良いと」

「やりとりの内容の濃淡や単純接触効果次第ですね」

「俺はどうかな?」

「普段の連絡が少なすぎます」

AIとのやりとり。


7月22日:トースト女子


「急がなきゃ!」

全速力で走る。

曲がり角に差し掛かった瞬間。ドンッ。

「うわぁ!」

「いてっ!」

女の子とぶつかった。

「ご、ごめんなさい!」

尻もちをついた僕を横目に颯爽と去っていった。

拾った食べかけのトーストを片手に自宅へ。

門限を過ぎ嫁に怒られながら彼女を想う。

深夜0時になぜトーストを。


7月23日:なんか


「ムズい。ムズすぎる」

ライター歴10年。

量をやりまくって質を高め、経験値もそれなりに積んできた。

はずだった。

納品したクリエイティブ作品がクライアントから全訂を喰らった。

「嘘だろ」

納得がいかない。

訂正の意図が読めない。目的は。どう直せば。

「なんか違う。全部直して」

なんかとは、なんだ。


7月24日:茶色いものが好き


「茶色いものが好きで」

「あんまり意識したことなかったな。茶色いもの。たとえば?」

「焼きそば」

「たしかに好きだ。他にもある?」

「たこ焼き」

「分かる」

「お好み焼き」

「焼き物強い」

「からあげ」

「好き」

「チュロス」

「最高」

「納豆」

「好き」

「カレー」

「大好き」

「健康に怪しいけど」

「罪の色」


7月25日:香る


懐かしい。

ふわっと漂うシャンプーの香り。

通り過ぎた人を思わず振り返る。

「違った」

フリルブラウスをそよ風に揺らめかせながら歩く女性。

あの人じゃない。

同じ香りに心が惑わされる。

香りの力が記憶に働きかける。

蘇る思い出。

「今どこに」

3年付き合った初恋の彼女に思いを馳せる。


7月26日:理想の休日


休みの日に何をしているか聞かれ。

1日中家でダラダラしているか。

ゲーム実況動画やSNSを観ているか。

会員ではあるがほとんど通えていないジムに行っていると答えるか。

どれかである。

「会社外の人と繋がって趣味がいっぱいです」

「国内外、旅行好きと出かけてます」

言ってみたい人生だった。


7月27日:隣人ホラー


「隣の部屋が覗けちゃう穴がある家の怖い話知ってる?」

「隣の部屋の様子が見えたのに、ある日突然赤いもので穴を塞がれたってやつでしょ?」

「そう。穴を塞いだ赤いものは、隣人が充血した目でこっちを見ていたってオチ」

「怖いね」

「隣人の騒音だと思ってたのに隣には誰も住んでなかったやつも怖い」


7月28日:嘘を描く


「何描いているの?」

「ん?あぁこれね。嘘、描いてるんだ」

「嘘?」

「うん、嘘」

私には彼の言っていることが理解出来なかった。

描いているものは嘘だというのだ。

嘘を描くとはどういうことなのだろう。

「嘘を描くってどういうこと?」

「それはね」

彼はニヤリと微笑んで、私に白紙を手渡した。


7月29日:重い人


重い人が苦手。

「重い人が苦手と言うならさ、軽い人は得意なわけ?」

「えっと……」

言葉に詰まる。

自分のキャパを超えるほどの想いを伝えられたり行動を取られたりすると距離を置きたくなる。

でも逆に「自分への関心が希薄な軽い人が得意か」と言われたら、どうだろう。

重くても、想いが大事なのかな。


7月30日:ふっとばす


「ふっとばす」

怒らせてしまったか。

優柔不断。彼女にほとんどすべての判断を任せる。直したくても直らない性格。

「お盆休みはどこかに出かけたい」と嘆く彼女に「どこ行こっか」と何1つ案を出さずに返した僕。

ついに逆鱗に触れたか。

「足が疲れてるからフットバスに行きたい」

ホッ。

夏休み、始まる。


7月31日:涙


いつからだろう。

涙脆くなったのは。

昔は「涙なんて自分には存在しない」と思っちゃうくらい涙を流すことはなかったのに。

オトナになったから?

涙を流せるようになったらオトナ?

泣いちゃう。

自然と涙が出てくる。

「頑張れ!」

って。

「頑張る!」

って。

「ありがとう!」

って。

そんなとき、視界が滲む。


8月1日:おつかい


「ちぃちゃん、一人でおつかい行ける?」

「うん!」

「じゃあタケシおじさんのお店で卵買ってきてくれるかな?」

「はーい!」

「ただいまー!」

「おかえり!大丈夫だった?」

「なんかね、ずっと誰かに見られてる気がしたの」

時が流れ。

今度は私が初めてのおつかいをこっそりカメラで追いかけていた。


8月2日:わすれもの


「あのぉ」

「はい?」

「忘れ物です」

汗だくで帰路についていた僕に、少女が話しかけてきた。

大きな段ボール箱を手渡される。

こんな大きなものを忘れるはずは。

箱を開ける。

中には線香花火、かき氷機、うちわ、浴衣など、この夏触れられなかった品々。

「君は」

振り向くと、少女は姿を消していた。


8月3日:こんな日が続くと


このまま続くと思っていた。

いつもと同じ時間に起きて、いつもと同じパンを食べて、いつもと同じ電車で、いつもと同じ席に座る彼女。

ツヤツヤした長い髪は光が当たると天使の輪が浮かぶ。

美しさに目を奪われていた。

それだけで良かった。

こんな日がこのまま続くと思っていた。

思うだけではダメだった。


8月4日:テス、テス


「あー、あー。テス、テス。聞こえますかー?テス、テス」

馴れない手付きで彼は機材をいじっていた。

「テス、テスって、テストってこと?聞こえてるよー」

「そう。聞こえたか。良かった。じゃあ始めるぞ」

「うん」

彼の目付きが変わった。

「いらっしゃいませー!ブーランジュリー立花、オープンです!」


8月5日:デジタルが死んだ


突然、デジタルが死んだ。

どのSNSも繋がらない。

ネットで検索も出来ない。

あらゆるデジタル機器が機能しなくなった。

消えたのではない。

死んだのだ。

風の噂では、日本だけではなく世界中で起きているのだとか。

調べる手段がない。

同僚、友人、恋人、家族、連絡手段が途絶えた。

こうなったら……

二度寝だ。


8月6日:This is a pen


「うわっ何だ」

文房具屋で人差し指を売っているとは。

よく見ると指先がペンになっていた。

「シールで大丈夫です」思わず購入。

ポケットに人差し指を忍ばせ帰路へ。

「ドン」走ってきた外国人とぶつかった。

人差し指が落ち、外国人が怪しげに僕を見た。

まさかここで使うことになるとは「This is a pen」


8月7日:アラーム


「なんで起こしてくれなかったんだよ!7時に起こしてって言ったじゃん!」

「だって、あまりにも気持ちよさそうに寝てたから。起こすのがもったいないなと思って」

「会社に遅れちゃうじゃないか!何とか間に合いそうだから良かったけど!」

「次は気を付けます」

感情を持ったアラーム、やっかいだ。


8月8日:ボトルキープ


「私は、どれかな?」

お客さんの名前が記されたタグのついたウイスキーがズラリと並ぶ棚を指さして、彼女が僕に尋ねた。

行きつけのBARに彼女を連れてくるのは初めて。

もちろん、彼女のボトルがあるはずがない。

「頼みたいものがあるのかい?」

「ううん、違うの。私は何番目のキープなのかなって」


8月9日:なつまつり


かき氷、いちご飴、からあげ、串焼き、いか焼き、たこ焼き、お好み焼き、大判焼き……。

夏祭りの屋台は目移りしまくる。

それにしても焼き物にばかり目がいってしまった。

「あの!」

振り向くと浴衣姿の綺麗な女性が2人並んでいた。

「お財布落としましたよ?」

水色かピンクか。

また目移りしている。


8月10日:あの夏


あの夏。

屋台から漏れる香りにお腹がグゥと音を立てた。

「鳴ってるよ!」

君はニコリと笑って耳元で囁く。

行き交う人々の歓声。

屋台店主の客引き。

真夏に漂う雑音を君はノイズキャンセルしたらしい。

「行こっか!」

指先が触れクロスする。

グイと君に引き寄せられて、赤い夏から青い春へと駆け出した。


8月11日:照れワーク


「なんて呼んだらいいですかね?」

「名前でも、ちゃん付けでもいいですよ!」

「えぇ……悩みます……」

「ちなみに京子さんは、なっちゃんって呼んでくれてます!」

「なっちゃん。恥ずかしくて結局夏海さんって呼んじゃいそうです」

「リモートだとチャットやWeb会議になるんで尚更照れますね!」


8月12日:素直な人


「当社を志望した理由はなんですか?」

転職を何度もしたがいつも悩む。

スカウトメールが届いたからと答えて撃沈した会社は数知れず。だが、事実。

素直に答えて何が悪いのか。

「スカウトメールですかね?」

言葉に詰まっていると先を越された。

「はい」

「合格です。素直なあなたは次に進んで頂きます」


8月13日:夏が終わる


夏が終わる。

「夏、終わっちゃうね」

「そうだね」

「やり残したことある?」

「たくさん」

「たとえば?」

「キャンプとか花火とか他にも。来年の楽しみかな」

「じゃ、今年やろう!」

「今年の夏は今年しかない的な?」

「違う。来年の夏が必ずくるとは限らないから!」

去年のこと。

今年の夏、彼はいない。


8月14日:ときには敵になろう


「ときには敵になろう」

僕一人が敵になればいい。

共通の敵を見つけた時、人々は結束力が増す。

共通の敵がいれば、昨日の敵は今日の友。

これまでのいざこざなんて、なーんにもなかったかのように、共通の敵を仲良く討ち取ろうとするんだ。

だから。

ときには敵になろう。

僕だけ敵なら、みんな仲良くなるから。


8月15日:えいっ


ノートの1ページ目に色を乗せるとき、緊張する。何色でも。文字でも。絵でも。

けれど、1枚の紙を渡されて色を乗せるとき、それほど緊張しない。

緊張どころか「えいっ」と書き出せる。

文字でも。

絵でも。

違いはこれから始まるものと、これで終わるものだからだろうか。

人生は?

私は「えいっ」と進む。


8月16日:猛暑日


「明日は猛暑日になる予定です」

明日は暑くなるのか。

体調管理に気をつけなきゃ。

今日はエアコンをかけずに暮らしているけれど明日は必要かな。

アイスは一瞬で溶けるが今日は涼しい。

手元の温度計は35℃を示していた。

明日は45℃予報。

環境に適した進化を遂げながら、人類は地球に負荷をかけ続ける。


8月17日:暑かったら脱げばいい


「今日は夏日なので上着はいらず半袖で過ごせそうですよ」

昔の天気予報はこんな感じだったらしい。

暑かったら脱げばいい。

今も変わらないといえば変わらないが、昔の人はきっと考えられないだろう。

「今日は夏日なので全裸で過ごせそうですよ」

地球温暖化が進み半袖すら着ない。

暑かったら脱げばいい。


8月18日:薄い壁


「壁薄いですが大丈夫ですか?」

「大丈夫です」

家賃の安さに越したことはない。

騒がしくても爆睡出来る私なら大丈夫。

……のはずだった。

想像以上に隣人のいびきがうるさくて眠れない。

「大家さんすみません。お隣さんのいびきが毎日うるさくて引っ越そうかと」

「え!?隣は空き部屋なんですが」

「え」


8月19日:ピザって10回言ってみて


「ピザって10回言ってみて」

「ピザ、ピザ、ピザ……ピザ」

「じゃあここは?」

「ピサ」

「正解!じゃあ次はベルトって10回」

「ベルト、ベルト、ベルト……ベルト」

「じゃあここは?」

「ベルリン」

「正解!」

高度な10回言うゲーム。

地図を見て当てるのすごい。

引っ掛けるより難易度高い。


8月20日:ひとなつこい


人懐こい笑顔。

目尻にクシャっとシワができ、口角がクイッと上がって、奥歯まで見えるくらい口を開けて笑う彼。

心をギュッと包まれるような気持ちになった。

もう一度彼に会ってみたい。

夏祭りで見かけた1回だけ。

一瞬で心を奪われた。

声をかけられなかった私、ばか。

彼は今どこに。

ひと夏、恋。


8月21日:森の久野さん


「ある日♪」

「ある日♪」

「森の中♪」

「森の中♪」

「久野さんに♪」

「久野さんに♪」

「出会った♪」

「出会った♪」

「ここから♪」

「ここから♪」

「出ていけ♪」

「出ていけ♪」

「久野さんは♪」

「久野さんは♪」

「言い去った♪」

森には自然を守る久野さんがいると言い伝えられる。

見たものはいない。


8月22日:かき氷が、アツい


「かき氷が、熱い」

のぼりの言葉に興味を引かれる。

氷は冷たいもの。なのに熱い。

コピーライターは誰だろう。

「いらっしゃいまっせー!マッチョー!」

筋肉ムキムキ、ボディービルダーのようなお兄さんが上裸で暑苦しく接客していた。

「シロップはハバネロソースで?」

話題必死のかき氷、たしかに熱い。


8月23日:ギャンブル嫌い


「ギャンブルやる人は好きになれない」

嫌悪感を剥き出しにしながら彼女が僕に告げる。

パチンコ、競馬、競輪、競艇、ポーカー、バカラ、ギャンブルの類は大概やってきた。

彼女は知らない。

競馬の回収率が70%に対して、先日彼女が買った宝くじは回収率40%台のギャンブルであることを。


8月24日:自信庵


「自信をつけたいです!」

「自信をつけてくれると伺いました!」

自信がない人たちを救うと言われる『自信庵』には迷える人々が老若男女問わず訪れる。

「どこに付けたいですか?」

「どこにですか?」

普通"どんな"ではないのか。

「考えて、気づくのです。心だと。自分を信じることから始めましょう」


8月25日:本当にあったら怖い話


ホラー映画よりも怖いのは、恋人の浮気を知ったときの女性だと誰かが言っていた。

日本のホラー映画は背筋の凍る怖さがあり、海外のホラー映画は残虐さへの恐怖が強い。

それよりも恋人の浮気を知った女性が怖いとは。

「で、この女は誰なの?」

涙する女性の髪を掴み、2人の女性が僕をじっと睨んでいる。


8月26日:バイアス


バイアス。

思い込みや偏見のこと。

心当たりなく「あいつは出来ないやつだ」とでも思われたら最悪。

出来る人だと思われる道のりは険しい。

「出来るやつだ」と思われたらラッキー。

小さなミスも「調子が悪いのかな?」と心配される。

「あ……」

険しい道の途中。

仕事の締切を思い出した。

やばい明日。


8月27日:笑いのツボ


ある調査で笑いのツボが浅い人の寿命が長くなることが分かった。

「何が面白い?」

これはダメ。何でもゲラゲラ笑う人のほうが約1.3倍長生きするとか。

多様な価値観を受け入れ笑うことでストレスが軽減されるからだそうだ。

お笑いライブで一人だけ爆笑して恥ずかしくなったのはここだけの話。


8月28日:何もナイト


今日も何もなかった。

良かったことも何も。

寝る前に振り返って悲しくなるだけ。

「呼びました?」

「え?」

現れたのは仮面を付けた騎士。

「ワタシは"何もナイト"。何もない1日を過ごした方の夜に突如現れる騎士です」

「へ、へー。何かしてくれる?」

「いえ、何も」

手のひらサイズの騎士は姿を消した。


8月29日:でいい、がいい


"で"いい。"が"いい。

たった一言で相手を良い気持ちにも嫌な気持ちにもさせる。

「和食と洋食どっちがいい?」

「そうだな。洋食でいいよ」

「洋食でいいって言った?」

やってしまった。無意識に"で"いいと言ってしまう失態。

「言った」

「私は洋食が良かったから同じだね!」

あれ?

人生は、予想外でいい。


8月30日:恋のプロセス


「人は、お金や時間をかけて手に入れたヒト、モノ、コトを手放したくない生き物だ」

「ふむふむ」

「女性は尚更」

「なるほど?偏見だと言われない?」

「じゃあ1意見として」

「うん」

「すぐ付き合った男は振られやすくない?付き合うまでの過程が長い男のほうが続いてる」

「実体験だから妙に説得力ある」


8月31日:丸つけ


夏休み最終日。

子どもは宿題に追われ、私は宿題の丸つけに追われていた。

1人分丸つけするのも手間なのに、何人ものテストに丸つけする先生の大変さを身にしみて感じる。

「お母さん!早く!お父さんも丸つけしてるの?」

最終日に急かす子ども、悠々と競馬新聞に丸つけする父親にバツをつけてやりたい。


9月1日:矛と盾ラーメン


「絶対に飲み干したくなるスープを作るラーメン職人」と「カロリーを気にしてスープは絶対に飲み干さないと決めている消費者」の戦いが始まった。

職人は透き通った特製スープに麺とチャーシューや味付け玉子を入れる。

喉を鳴らす消費者。

麺を一口。

「うまい」

あとは一瞬だった。

「ゴクリ」

勝者、職人。


9月2日:バナナはおもちゃですか?


「先生!バナナはおもちゃですか?」

子どもの発想力は大人を超えるとも言われるが、なぜ遠足の準備でこんな質問が。

バナナはおやつですか?がテンプレートでは。

これが現代の子たちの思考とでも。

そういう発想になる大人も……いや、私は何を。

「食らえ!バナナブーメラン!」

その発想はなかった。


9月3日:迷惑行為の果て


飲食店での迷惑行為。

かつて、タバコの吸い殻がガリに入っていたり、テーブル上のものが舐められるなどの行為が多発していた。

対策をするも絶えず、幸せを提供する空間が脅かされ続けた。

今では食べ物との間に仕切りが設けられ、くり抜かれた穴から手と顔を出して食べるようになった。

まるで、動物園。


9月4日:さがしもの


ピピッ。ピピッ。

「あった!ここにあったのか!」

便利な時代になった。

携帯でも鍵でも財布でも専用ツールに登録しておけば万が一なくしてもGPS機能で見つけることが出来る。

ピピッ。ピピッ。

首の後ろあたりから音が聞こえる。

「いた!いた!探したよ〜」

知らないうちに、首にチップを埋められていた。


9月5日:コツ


コツ。

上手くいく方法。失敗しない方法。

「先輩!受注に繋げるコツを教えてください!」

営業成績がなかなか上がらず、先輩に聞いて回った頃が懐かしい。

色々聞いて試してみたものの、結局、我流に進み、思うような成果を出すことは出来なかった。

そんな私でも人に教えられるコツがある。

ポンコツなら。


9月6日:こんな○○は嫌だ


「こんな○○は嫌だ。どうぞ」

大喜利はムズい。

「はい!15秒ごとにCMが入る一発撮り動画」

隣の奴やるやん。一発撮りの邪魔しすぎ。

「はい!暗くならない映画館」

上映中明るいまんまは確かに。

最後になってしまった。えっと。

「はい。時間になっても全く終わらない会議」

スベった。

今が一番嫌やわ。


9月7日:四季の人


「春の人、集まれ」

集まった人たちの大半は25歳までの20代。他、高校生や大学生が占めていた。

「冬の人、集まれ」

打って変わって、今度は80代が多く集まった。

私は夏の人。

恋人も夏の人。

好きな芸能人は50代の秋の人。

何年か前まで私は春の人だったけど。あと幾年で秋の人。

人生100年、四季に分けて。


9月8日:モンブ・ラン


カゴを背負い専用コースで栗を拾いながらゴールを目指して走る秋のイベント『モンブ・ラン』が10回目の今年も開催される。

20kmのコースで参加費は2000円。

拾った栗の数とゴールまでの時間を競う。

優勝者は特製モンブランパフェ、参加者は拾った栗を獲得。

公募初日で打ち切りにびっくり。

栗だけに。


9月9日:最期までにやりたいこと


「死ぬまでにやりたいことリストを作ってみたんだ」

「意識高いねー。どんなことやりたいの?」

「両親のやりたいことを叶える親孝行とか」

「めちゃくちゃいいね!」

「未来を担う子どもたちが夢を叶えられる仕組みづくりとか」

「めちゃくちゃいい!」

「きみと結婚することとか」

「めちゃく……ん?え!?」


9月10日:課長、それ


「水着の女の子しかいない」

「何がですか?」

「あるアプリ使ってる人」

課長、それは。

言えない。口が裂けても言えない。

「水着でダンス踊ってるのとかありますよね!」

「そうそう!そういうのばっかり。別のアプリもそうなのかな?検索しようとすると水着の子ばっかで!」

課長、それ、検索レコメンド機能。


9月11日:夢に見るほど


夢を見た。

君と一緒に過ごす夢を。

「またね」

あれから何年経っただろう。

今でも夢に見るなんて。

よほど未練が残っているのだろうか。

「さよなら」と素直に言えたら思い出すことはなかっただろうか。

ぽっかり空いた穴を埋めるのは簡単ではない。

忘れようと。変わろうと。

自分に言い聞かせる禁煙の日々。


9月12日:生まれ変わったら


「生まれ変わったら塩になりたい」

生まれ変わりは一応信じることにしているが、調味料になりたい人がいるのは想定外。

「塩?」

これまた"一応"ツッコミを入れてみる。

「そう。塩」

「なんで?」

「女性の美しさには期限があるけど、塩には賞味期限がないから」

なら砂糖でもいいな。


9月13日:上司を呼んでくれないか


「上司を呼んでくれないか」

神妙な面持ちでお客様が私に声をかけた。

さっきの接客に対するクレームか。

「すみません。私が上司です。何かありましたか?」

「じゃあ社長を呼んでくれないか」

激おこ案件か。

「社長も私で」

「え?そうなの?偉い人に良い接客だったと褒めたくて!」

ややこしい!のは私か。


9月14日:空を見上げて


「今、この手紙を読んでいるということは、広大なキャンパスに輝く過去の光たちを観ていないことになるだろう。

あんなに輝いているのに。

こんなにいつも見守っているのに。

君は下ばかり見ている。

ほら、見上げてごらん。

あの星たちのように。

過去は輝くものにきっとなるから。

さぁ、未来へ進もう」


9月15日:夢を持っちゃダメですか?


「夢を持っちゃダメですか?」

頭を抱えた。

夢を聞かれて「特に」と答えてきた私の前に瞳を潤ませる子。

何日もかけてやってきたこの国の子どもたちは夢を持たない。

いや、持てない。

叶える間もなく短い生涯を終えるからだ。

夢を持てる環境の私が夢を持たないなんて贅沢が過ぎる。

彼らが夢を。

私の夢。


9月16日:ビジネス用語


ビジネス用語は難しい。

「MTG登録しておいて」

チャットで届くなぞなぞ。

TKGなら分かる。たまごかけご飯だ。

MTGってなんだよ。

明太たまごご飯かよ。新メニュー登録か?

ミーティングをMTGと略すなんて学校では教わらなかった。

「リスケ頼んだ」

ペットに飼ってるリスのリスケ君の面倒を頼まれたのかな。


9月17日:だいたい食べ物


「だいたい食べ物です」

食べるか食べないかはご自身のご判断にお任せします。

だいたい、ほぼ食べ物なんで。

ではないらしい。

代わりの食べ物という意味だそう。

お肉の代わりに大豆を使ってみたり。

他にもだいたい食べ物が増えてきた。

大豆の代わりの食べ物を使った大豆ミートも出てくるとは。


9月18日:きっかけは1つの物語


きっかけは1つの物語だった。

あれよあれよと書籍、マンガ、アニメ、映画、グッズ、楽曲、アパレル、食品、コンセプトカフェ、コンセプトホテル、テーマパーク、ゲームなどに広がっていった。

クリエイターの誰もが夢見るサクセスストーリー。

作者の音無創(おとなしはじめ)がAIだと知るのは3年後の話。


9月19日:学歴


学歴社会は終わった。

はずだった。

昔とは異なる学歴社会に突入していた。

どこで、何を学んだか。

昔はこうだった。

今は違う。

誰と、何を学んだか。

学校歴の学歴から、どんな人と一緒に学んできたかが問われるようになった。

結局、社会は人で成り立っているからだろう。

人との関わり至上主義。

私は一人。


9月20日:気になること


「ラジオネーム汁あり担々麺さんからのフツオタです。キャップのつばにシールを付けている人が気になります。剥がしたら怒られますか」

「怒られますね。銀色で大きめのシールですよね」

「あれですね。分かります。それより気になることが」

「何ですか?」

「汁あり担々麺って、普通の担々麺ですよね」


9月21日:ボス戦


「我が名はジョバンニ。お前たちが倒すべき最後のボスだ」

「終盤にジョバンニはなんか腑に落ちないんだよな」

「貴様、我輩を愚弄する気か」

「よく考えたら最初の敵は始まりなのにシュウだったし。シュウとか終わりじゃん」

「シュウまで愚弄するとは」

「順番逆がいいよ絶対」

「き、貴様。相談してくる」


9月22日:強み


「あなたの強みは何ですか?」

弱みならいくらでも。優柔不断。意志が弱い。ネガティブ思考。短気。疑り深い。私の強みはいったい。

「強みはありません。ないことが強みです」

悩んだ末とんでもないことを勢いよく言ってしまった。

「はっきり言い切れるのも、女性であることも強みですね」

強み、色々。


9月23日:かきたくない


「我が名は、かゆみの神、蕁麻神」

「帰ってください。大丈夫です」

「神に対して無礼だな」

「ストレス抱えたときに現れるのやめてください。もっとストレスになるんで」

「ほう。どうなっても知らんぞ?」

「そもそも神じゃないでしょう??」

「正しい漢字でかけるか?」

「かゆみも漢字もかきたくない」


9月24日:ピエロ


ピエロは踊る。

大草原の真ん中で。

降り注ぐ陽の光が照らす。

さらさらと草花を揺らして風が通り過ぎてゆく。

ピエロは踊る。

大都会の真ん中で。

人々が見て見ぬふりをして通り過ぎてゆく。

ピエロは踊る。

大舞台の真ん中で。

鳴り止まない拍手に心も踊る。

高ぶる時が過ぎてゆく。

彼女は踊る。

ピエロの面で。


9月25日:クラス分け


「1年2組は嫌だ。1年2組は嫌だ。1年2組は嫌だ……」

「1年3組!」

「やった!1年3組だ!優しい人たちが集まると言われている組で良かった!」

「次は。ふむふむ。なるほど。1年3組は嫌か。野心に満ちあふれているな。君は……1年2組!」

「よっしゃ!1年2組だ!」

「……性格で分けるのかい!」


9月26日:挑戦


乗れるか分からないのに。

怪我することだってあるのに。

小さい頃は自転車に乗るという未知の世界に恐れず挑戦した。

乗れたときの姿をただ思い浮かべながら乗れる気がするという気持ちだけで。

大人になったらどうだ?

経験や知恵ばかりついて何かと挑戦しなくなる。

6度目の転職。挑戦だ。


9月27日:新・桃太郎


おじいさんは24時間365日通える会員制のジムに。

おばあさんはハーブティーも楽しめるホットヨガに。

おばあさんがヨガを終え家路につくと「近くに赤ちゃんがいる」とAIが警告。

周囲を見回すと桃を手にした赤ん坊を発見。

桃太郎と名付けられ立派に育ち、IT企業のトップとなったとさ。

めでたしめでたし。



9月28日:テレビショッピング


「今ならなんと!同じ値段でもう一つ付きます!」

いらんなぁ。一個で大丈夫なんだよなぁ。

「オプションで動画配信サービス見放題も付いちゃうんです!」

いらんなぁ。最近よくある売り方だけども動画配信サービスも利用してるからなぁ。

「1ヶ月以内なら返金可!」

そんなに電子レンジ売りたい?


9月29日:等価交換の法則


「等価交換の法則があるじゃん?」

「ある」

「日常で成り立つから意識しなきゃいけないと思ってて」

「たとえば?」

「恋愛」

「詳しく」

「年収1000万の高収入男性と付き合いたい女性がいたとして」

「うん」

「女性は求めるものに見合う何かを提供しなきゃ成立しないわけ」

「おお」

「見合う努力、大事」


9月30日:夢屋


「今日見る夢を現実にしてあげましょう」

SNSで『夢屋』が話題になっている。

寝ている間にどんな夢を見るかなんて分からない。

良い夢が現実になるなら最高。

悪い夢なら最悪。

ハイリスクハイリターンな賭けに30万円。

SNSでは良い結果報告しか見ない。

「……よし。やろう」

二度と目覚めることはなかった。


10月1日:なぞなぞ


「夜でも昼な場所はどーこだ?」

「丘」

「はやっ!正解!」

「簡単さ。丘は英語でhillだからね」

「じゃあ昼でも夜な人ってどんな人?」

「騎士」

「正解!」

「騎士は英語でナイトだからね。昼でも夜な人って出題の仕方は気になったけど」

「おぉ。私の気持ちは?」

「月が綺麗ですね」

「手が届くでしょう」


10月2日:平和な国


日本は平和な国だ。

飲み会で酔っ払って財布を落としても交番に届くことも。

中身も全て無事。

携帯電話だって。

駅に届いてたり持ち主に戻る。

海外じゃとても考えられない。

「またなくしたの?」

「戻ってこないと思う」

なくした記憶は戻らない。

記憶をなくすほど安心してお酒を飲める日本、平和な国だ。


10月3日:あの人とイヤホン


気になるあの人はイヤホンを日によって使い分けている。

「今日はすっごく元気なんだ」

友だちとの会話を盗み聞き。黄色のイヤホン。

「気になることがあって」

青。

「イライラしてて」

赤。

他には緑、橙、水色、紫を見たことがある。

「あ」

真っ黒なイヤホン姿を街で発見。

それから、その人を見なくなった。


10月4日:好きなタイプ


「好きなタイプは?」

全私に聞いた、ふいに尋ねられて困る質問ランキング一位。

うまく言葉に出来ないわけで。

本能的に好きと思った人が好きなタイプなわけで。

場の空気を壊さないように「イケメンで性格がいい人」は普通過ぎ。

「ありがとう、ごめんねを素直に言える人」

「へぇ」

素直、誠実、大事。 


10月5日:もしも社長なら


「自分が社長だとしたらどんな人を採用したい?」

考えたことがなかった。

社長になる気も、なれる気もしないから。

悩みつつ投げかけに答える。

「そうですね。コミュニケーションが通じる、素直、何でもいいので願望がある人ですかね」

「いいじゃないか。で、自分はどう?」

「んー」

私の人生、私が社長。


10月6日:つかむ


「ビジネスってのはなぁ!女心を掴めばこっちのもんよ!」

19時で出来上がったおじさん。

金夜の居酒屋は陽気な怪物が無数に生み出される。

「女に釣られて男がひょいひょいくるからな!」

離れた席なのに余裕で聞こえる大声。酔ってるクセに正論だ。

「下着屋やるぞ!」

表に出てきた下心、まず掴まえて。


10月7日:学割


「ラーメン2つ!」

部活後、親友のユウキと最近出来たラーメン屋へ。

「ショウが気になってたラーメン屋に来れて良かったよ!」

「俺も!ラーメン好きのユウキと来れて嬉しい!」

「1杯800円です」

あれ?学割500円のはず。

「500円では?」

「マナブさんなど名前に”学”がある人割で、学割です」


10月8日:無人島に持っていくもの


「無人島に行くとしたら何を持ってく?」

「自分を愛してくれるパートナー。2人で無人島を有人島にするのが夢」

「お、おう。過去、何千何万と繰り広げられた問いかけに対して、圧倒的少数っぽい回答してくるね」

「そしてゆくゆくは島を統治する王となり」

「話続けるんだね。現在相手は?」

「いない」


10月9日:手つなぎ


「手、つないで?」

「ごめんね」

子どもの小さなお願いごとを叶えられず、心苦しい。

「いつ、だいじょうぶ?」

「そうね」

言葉に詰まる。

もう触れられないとお医者さまに宣言されていた。

病院で面会できるのがやっと。

不治の感染症。

「もうすぐよ!」

「やった!」

ぎゅっと口を閉じて、笑顔で見送った。


10月10日:食べられる生き物


「食べられるために生まれる生き物がいる中で、人間はいいよね」

「食用の動物とかか」

「そう」

「でも人間も食べられるために生まれてる人がほとんどだよ」

「え?」

「日本もそう。資本主義社会って富裕層が貧困層を食べ物にしてるようなもんだし。労働力の再生産コストだって……」

「この話やめよう」


10月11日:有限


未来はずっと続いていくと思ってた。

だから、ありのまま今を生きていた。

あの日まで。

「シーズン15まである海外ドラマ面白いよ!」

「へぇ!観てみる!」

薦められたら何でも受け入れていた。

「あれ?」

アニメ、ドラマ、マンガ、ライブ映像、映画。

全部見るには寿命が単純計算で130年は必要。

どうしよ。


10月12日:たいしゅう居酒屋


「20代女性がオススメですね。華やかな感じで」

たしかに。

「10代男性を好む女性もいますね。部活を連想して青春を感じるとか」

なるほど。

「30代男性は刺激が強めです。ごくたまに落ち着くと言う人もいますね」

人の香りを楽しめる『体臭居酒屋』。

機械臭がするAIロボットの私は、人の体臭に憧れる。


10月13日:能力者


「気づいたんだ」

「何に?」

「能力者だってことに」

「どんな能力を持ってるの?」

「人に幸運をもたらす能力」

「へー!すごいじゃん!たとえば?」

「友だちと一緒にダーツをすると友だちが必ず勝つとか」

「ふむ。他には?」

「将棋をしたときも友だちが勝った」

「自分の弱さをポジティブに捉えすぎ」


10月14日:着メロ


「着メロが熱いよね」

「2日に一回は着メロだね」

着メロなんて言葉はなくなったと思っていた。

女子高生が着メロで盛り上がっているとは。

スマホで着メロが再燃しているのか。

いや待てよ。2日に一回。

「メロンパン屋に寄って学校着いたら即食べちゃう」

「着いてすぐの朝メロンパンいいよね!」

着メロか。


10月15日:偶然と必然


「サイコロを振って出た目の数に応じてボーナスを支給します!入社してすぐの成果は運みたいなものだから」

入社1年目の夏季ボーナスは運頼みに。

ベンチャー企業らしい制度だ。

いざ。

10個のサイコロを手渡された。

「すげぇ!全部6のゾロ目!600万円!」

偶然の奇跡。まじか。

翌年、必然の倒産となった。


10月16日:ポジポジくん


『ポジポジくん』は何でもポジティブに変換してしまう。

「自分に自信がないんだ」

「伸び代がたくさんで将来が楽しみだね!」

「季節外れの服で浮いちゃってる」

「見つけやすい服だね!」

「私重たい女だから。悩むとどこまでも悩む」

「どんな悩みでも悩んでいる人の力になれるね!」

いつも元気になる。


10月17日:多様を受容


多様性を受け入れる。

時代は多様化しているのに受け入れる側の準備不足を感じる。

同質を好み異質を拒む。

どうしたものか。

進化、革新、成長には異質の存在が鍵だと言うのに。

同質依存は衰退。

異質と争うのではなく異質と共存して進化しないか。

「めんたいクリームのタピオカドリンク」

さて、どうする。


10月18日:価値が下がらないもの


「価値が下がらないものは通貨とコミュ力です」

面白いことを言う経営者が、今日も興味深いことを言っている。

どんなにしわくちゃな一万円札も「今日は9980円ね」とはならない。

コミュ力の高い人が「コミュ力、下がったよね」ともなかなか言われない。

私の価値は見た目が下がっても、中身は上げたい。


10月19日:29200


「できた」

時間がかかった。

人生の方向性とやるべきことを決めろとアドバイスをもらって考えた。

100歳までの残り80年間。

29200日。

長いようであっという間だ。

1日1つ小さなことでもやり遂げると決め、29200のタスクを洗い出して計画を立てた。

今日は好きな人に告白した。

残り29199。


10月20日:くしゃまる


ウチの猫の名は『くしゃまる』。

嬉しそうにしているとき、顔がくしゃっとなるから。

機嫌が悪いときは体を目一杯丸めるから『くしゃまる』。

変わった趣味がある。

リードを首に巻いて散歩に出かけること。

猫なのに散歩が好きなのだ。

変わっていることがもう一つ。

他の野良猫たちがよくご飯を運んでくる。


10月21日:断り文句


「お誘いをやんわり断るコメント教えてください」

「先に予定が入ってて」

「よく使うね」

「その日は風邪引きそうなんで」

「ヤバいだろ」

「◯日はダメですが▲日なら行けました」

「デキる人感がすごい」

「どんな良いことがありますか?」

「やんわりどこ行った」

「現在使われておりません」

「断れる?」


10月22日:居酒屋クリエイト


恋愛の出会いを求めて男女が相席居酒屋に集まることは珍しくない。

元コピーライターで現経営コンサルタントの道枝義実は相席居酒屋に目をつけた。

「コピーライターやクリエイターが人とアイデアを求めて集まる酒場を作ろう」

こうして『居酒屋クリエイト』が生まれ、日々、人とアイデアが交わっている。


10月23日:最後はかつ


最後は必ずかつ。

たとえ大変なことがあっても諦めなければいい。

最後はかつと強い意志を持って臨めばいい。

覚悟を決めた人は強い。

「いやいや。やめたほうがいいって」

こんなことを言われたって決して諦めない。

私のプライドだから。

ラーメン、炒飯を食べ、締めにかつ丼を食す。最後は必ずかつ。


10月24日:ボロカスとポジティブ


自分の作品にボロカス言ってくる人もいれば、大絶賛してくれる人もいる。

「イケてないね」

不思議と落ち込まない。

注目されているとポジティブに捉える。

批判を浴びるほど"つかみ"を創れた。

逆に大絶賛されたら嬉しいけれど心配になる。

次の作品へのプレッシャーが増す。

ボロカスのほうが気楽だ。


10月25日:格安の理由


「へー!こんなのも100円なんだ!」

日用品から意外なものまで100円で買えてしまう100円ショップにはいつも驚かされる。

「ここのお店は秘密があるんだよ」

よくある100円ショップとは違うらしい。

「見て!」

目線の先には訳あり品50円コーナー。

安い。

「実は100円で売ってる他の商品も全部訳ありなんだ」


10月26日:むかしむかし


昔むかしあるところに20代の夫婦がいました。

旦那はSESで夜遅くまで働き、奥さんは育休を取得して生まれたばかりの娘をワンオペ育児。

昼間の旦那不在に奥さんがヤキモキしていたところ、どんぶらこどんぶらこと男性育休取得促進の義務化のニュースが流れてきました。

それでも旦那は働き続けました。


10月27日:否定はチャンス


「やめなよ」

否定されると燃える。

見るなと言われたら見たくなり、ダメと言われたらやりたくなる。

肯定されるとやめたくなる。

否定はチャンスで、肯定はピンチだと思っているからだろう。

天邪鬼。

「フリーランスなんてやめなって」

同僚の言葉が最後のひと押しになった。

今では自分も周りも笑顔だ。


10月28日:走る、同僚


「ごめん。人質になってくれ」

正義感の強い彼が僕に言った。

親友の頼みなら。

社員を信じられず解雇し続ける社長の人質になった。

走っていく彼を僕は見守る。

3日後、ボロボロになったスーツ姿で彼は帰ってきた。

「約束通り妹を結婚させ、日没までに帰ってきたぞ!」

彼の前世、国語の教科書に出てた人?


10月29日:時間の増やし方


好きなことをしているとき、時間が経つのを早く感じる。

嫌いなことをしているとき、時間が経つのを遅く感じる。

時間は平等に与えられていると言われるが、僕には人より多く時間を与えられている気がする。

時間が足りない人たちへ。

「僕の時間を買わないか?」

嫌で退屈なことしか、僕にはないから。


10月30日:出馬


「私たちの公約は、老若男女関わらず人びとが褒めて欲しいと思ったときに全力で褒めます。褒めるためにも活躍の場を作り、国民一人ひとりが生きがいを持って安心して暮らせるようにします」

具体的に何をするのか分からないが何としても必ず実現するつもりなら、一票入れてもいい。

新政党『おめで党』。


10月31日:パーの実


「パーの実も出ねぇな」

「それを言うなら」

ここまで出かけて口を閉じた。

ぐうの音ではないのか。いや待てよ。

自分が常識を間違えているのかもしれない。

パーの実も出ないと言うのでは?

そもそもぐうの音ってなんだ?

ぐうって何?ぐう来たからパー?じゃんけんなの?

実?

結局、ぐうの音も出なかった。


11月1日:タイムリープ


「お前、タイムリープしてね?」

気づかれちゃったか。私はタイムリープしている。

何度も、何度も。

理由は。

「あなたを助けたくて!」

「オレを?」

「公園デート中にあなたの頭に鳥のフンが落ちるのを避けたくて!でも避けられなくて」

「そんなことで!?」

時の道を抜け、何も知らない彼の隣に私はいる。


11月2日:やり直し


やり直しが出来たなら。

これまで何度思ったことだろう。

あのときあんなことを言わなきゃ良かった。

ああしていれば良かった。

アイスコーヒーの氷をストローでくるくるさせる。

「やり直しは出来ない。塗り直しなら出来る」

向かいの席で塗り絵に没頭する子どもを諭す父親。

最低も、最高に、塗り直そう。


11月3日:理想と現実


コンクリート打ちっぱなしの家に住むのが夢だった。

現実はゴルフの打ちっぱなしに行く夫と鉄筋コンクリートのマンションに住んでいる。

毎月家族で旅行に行くのが夢だった。

現実は毎月家族で美味しいものを近所へ食べに行く。

「ごめんね」

「いいよ」

「いつもありがとう」

「こちらこそ」

今が一番幸せだ。


11月4日:差別


「何かと差別用語だって騒がれる時代になったよね」

「差別だと騒ぐ人が差別だみたいな流れもあってセンシティブだね」

「鶏もも肉のソテーすら差別用語」

「はい?」

「むね肉に対する差別」

「差別化や」

「パリパリ生ピーマン肉味噌添え」

「ん?」

「ピーマンの肉詰めとの差別」

「正当な差別化だ」


11月5日:コミュ障


一方的に話すコミュニケーションになりがち。

と言っても、自分のことを話すのではなく相手に質問しまくるやつ。

人への興味があり過ぎて色々と。

「出身は?」「好きなものは?」「恋愛経験は?」「どんなときが楽しい?」「将来何したい?」

聞かれないから、相手は私を1ミリも知らずに終わる日々。


11月6日:簡単なこと


朝起きて布団から出る。

ときどき難しいと思うこともあるけれど、よほどのことがなければ無意識に出来る簡単なこと。

ご飯を食べるときに箸を使う。

もはや考えるまでもない。手が勝手に動く。

人に良いことをしてもらったときに「ありがとう」と言う。

私はすぐ言える。

簡単なこと。

何故なら、習慣だから。


11月7日:恋愛指南


「出会いがなくて」

「出会おうとしているの?」

「え」

「出会いの場に行ってるの?」

「いやそこまでは」

「マッチングアプリ?」

「そう」

「やり取りを面倒くさくなってない?」

「なってる」

「自分磨きをして理想の相手に見合う自分になれているの?」

「なれてない」

「出会う数増やすか自分を磨きなさい」


11月8日:投げ方


「高校時代はピッチャーやってたのか!俺もそうだった!高校生なんて何十年も前だが」

「先輩もピッチャーやってたんですね?左投げですか?」

「左利きだが野球は右投げだったな。左投げだったのか?」

「左投げでした」

「おぉ!その頃から優秀だったのかな?」

そう言って僕に仕事を丸投げしていった。


11月9日:転職エージェント


俺は転職エージェント。

数々の転職者と関わってきた。

転職理由の多くは人間関係。

人間関係と一言でまとめられてしまうが中身は複雑で多様だ。

「上司に質問をすると全くこっちを見ないで答えるのが嫌で」

「絶対に言ったのに、上司が後から言ってないの一点張りが多くて」

そろそろ俺も転職を考えようか。


11月10日:断シャリ


「断シャリ、はじめました」

ミニマリストだとか、断捨離だとか、流行ったのは前だと思うけれど。

"今さら"企業PRで活用されネットニュースで話題になる。

広報?ブランド企画?何にせよユーモアのあるPR担当がアイデアを生み出したのだろう。

回転寿司でネタだけ出すとは。

本マグロの刺し身がうまい。


11月11日:噛まれた


「咬まれた」

突如現れた謎のウイルス。

世界中でパンデミックに。

感染者に咬まれるとウイルスに感染。

身体が突然変異する。

「お、俺に近づくなよ!」

「あぁ。走って遠くへ行け。お前には感染させたくない。ゔ…」

「じゃ、じゃあな!今までありがとう!」

「ゔ、ゔおお!」

そして俺はカピバラになった。


11月12日:就職代行


「最近、就職代行を使ってて」

「退職代行じゃなくて?」

「退職代行じゃなく就職代行だね」

「へー、そんなのあるんだ。代わりに面接受けるとか」

「それもある」

「履歴書とか本人じゃないからやばくない?」

「いや。そのまま就職してもらって毎月その人の給与からちょっともらう」

「それ、ほぼ派遣業」


11月13日:自動運転の使い方


「自動運転機能が付いてるのでペーパードライバーでも安心の車です」

「前の車に勝手に付いていくとかですかね?」

「あります!自動で駐車もしてくれます」

「ってことはミステリーツアーごっこができますね」

「と言いますと?」

「見知らぬ車を自動追跡でどこかへ」

「ずっと付いてこられるのは怖いです」


11月14日:同期バンド


「天城たちのバンドは今年武道館ライブやるらしいよ」

「聞いた。Monorisすごいよな」

「平沢たちは東京ドームが決まりそうだとか」

「まじか。リトルボーイシンドロームも有名に」

「同期バンドが活躍してるね」

「対して俺たちは」

「全国の小学校を巡る全国ツアー中」

「こっちも最高だ」


11月15日:ツイてる


ツイてる。

家を出るのが遅くなったけど、電車も遅れてたから間に合った。

ツイてる。

ライブの抽選に落ちたけど、同じ日にデートのお誘いがきた。

ツイてる。

「久しぶり」

上司に仕事のミスで怒られたけど、元恋人と帰り道で偶然出会った。

ツイてる。

私には幸運の神様がツイてる。

きっと。

ツイてる。


11月16日:認識されなくなる


「吉田、知ってる?ハッシュタグの代わりに%を付けると該当ワードが認識されなくなるんだって」

「認識されなくなるってどういうこと?中山は色々知ってるね」

「検索されなくなるらしい」

「こんな感じ?入力してみたけど」

「何も書いてないよ?」

「あれ?何書いたっけ?」

「吉田、俺の名前なんだっけ」


11月17日:飲みニケーション


「無理だよ」

会社の同僚と話しても面白くない。

「起業しようと思ってるんだ」

「うまくいかないからやめたほうがいい」

「大変だと思うよ」

1のポジティブが10のネガティブになって返ってくる。

愚痴、否定、過去の振り返り。

会社の飲み会は生産性がない。

「起業?いいじゃん!」

社外での飲み。希望あり。


11月18日:変わらないね


変わってほしくないもの。

友情、愛情、外見、ポジティブな信念。

変わってほしいもの。

憎悪、人を傷つけること、外見、ネガティブな感情。

「昔と変わらないね」

どっちだ。

ポジティブにもネガティブにも捉えられる。

そのままで良いのか。

変わって欲しいのか。

外見は激変したのだが、果たして。

どっちだ。


11月19日:まだお昼


「揚げ出し豆腐が食べたくなって」

「まだお昼だよ?」

「何か不適切なこと言ったっけ!?食べたい欲が出てる話なんだけど」

「それも。まだお昼だよ?」

「いやいや、だから不適切なこと言ってないって」

「まだお昼なのにそんなことを」

「どれ!?」

「あー」

「何でも下ネタ言ったようにさせられる」


11月20日:立ち入り禁師


「線路内に人が立ち入ったため運転を見合わせます」

誤って入ったのか、意図して入ったのか。

たかが電車一本、されど一本。

多くの人が関わるエリアなら尚更。

たくさんの人たちの時間を奪い人生を狂わせる。

大事な人との約束。

一分一秒を争う事柄。

大事な人を失った実体験からホームドア設置員になった。


11月21日:年収UP


「会社で年収が全然上がらないよね」

「1年で1%上がるかどうか」

「税金が上がるから実質給与は下がってると思う」

「年功序列の会社はさらにキツイね。頑張っても上がらない」

「ウチの会社はまだ恵まれてるか。資格取得で給与が上がる」

「おお」

「飲み会幹事資格取得で月3000円」

「古い体質の会社だ」


11月22日:指輪


「あ、あの!落としましたよ!」

時計が0時を指す頃。

僕の声かけに振り向きもせず彼女は急いで去って行く。

落とした指輪を握りしめる。


それから僕は指輪の落とし主を探した。

「私には小さすぎますわ」

見つからない。

「あの、いいですか?」

ボロ服の彼女。

右手の薬指にフィットした。

「やっと会えた」


11月23日:しらせ


「武士ともに健康です」

いつの間にか戦国時代に世界線が変わったのかと一瞬。

届いた文はSNSを経由したものだから、これまでと同じ世界線だとすぐに分かった。

とある一国の主はあまりの嬉しさで打ち間違えたらしい。

新たな生命が生まれ、守るものが増えた戦友よ。

めでたい。

母子ともに健康、何より。


11月24日:言い訳


「ごめん!ほんとにそんなつもりはなかったんだ!」

「そんなつもりがなかったらそんな台詞言わないでしょ!」

「お店の名前が英語で書かれてたから気づかなくて……」

「なるほど。仮にMassageをMessageと読み間違えたとして。何のお店だと思ったのかしら?」

「郵便局的な」

「もっとマシな嘘つきなさい」


11月25日:天才の思考


『天才のルーティン』

全国の書店員さんが揃いも揃ってコメントをするのにベストセラーには選ばれないことで有名な一冊。

「凡人には理解出来なさすぎる」

「レベルが高すぎて逆に何も学べない」

書店員さんのリアル書評。

一部の書店に一冊ずつしか置かないと決めたのもまた、理解し難い天才の思考。


11月26日:なりたいもの


「大きくなったら何になりたい?」

「消防車!」

今思えば懐かしく、クスっと笑える。

人じゃないじゃん、消防車。

赤くて、大きくて、強そうな見た目に惹かれたんだっけ。

ヒーローのリーダーも赤で強いのに、何故かヒーローじゃなかった。


あれから。

「無事で良かった」

人命を救助し、消防車で帰路につく。


11月27日:当たり前を疑う


「土曜日の次は日曜日なんだって」

「まじか!初めて知った。土曜日の前は金曜日だよね?」

「え?金曜日?」

「え?違った?」

「ごめん。金曜日だった。日曜日の次は何か知ってる?」

「日曜日の次でしょ?えっと」

「月曜日って言うらしい!」

「げ、月曜日!?何それ?」

「このやり取り、いつまでやる?」


11月28日:ジェネレーションギャップ


「面白い企画思いつきました!地図に向かってダーツを投げて、刺さったところに行くのはどうですか?」

テレビを観ない世代とのギャップか。

その企画、知ってる。

意気揚々と彼は続ける。

「第一街人発見!みたいな!」

だからそれ。

「えいっ!冥王星!行ってきてちょーだい!みたいな!」

まさかの宇宙規模。


11月29日:ポジティブ変換


「ポジティブ変換しよう」

「ネガティブ表現をポジティブに?」

「そっ!早速。短気」

「感情豊か」

「盛ってる気もするけどいいか。うるさい」

「元気」

「やるな!頑固」

「自分の軸がある」

「どんどん出るね!自己中」

「主体性がある」

「すご。そう思って生きてるわけか」

「歩くポジティブだと思ってる」


11月30日:コミュ力とスポーツ


「コミュニケーションってスポーツに似てるよね」

「聞こうか」

「バスケットで相手が取りやすいようにボールを投げるとか」

「うん」

「相手が理解しやすい言葉を投げかけるのと同じじゃん?」

「たしかに」

「逆にさ。個人プレーでサッカーする人とかいるじゃん?」

「いるかもね」

「会話しづらい」

「おい」


12月1日:またした


「おそーい!」

「いやー!間に合った間に合った!」

「聞いてた?遅いって今言ったんだけど?」

「滑り込みセーフ!セーフ!」

「すごっ!逆にメンタル強っ!ごり押しで遅刻を正当化してくる!」

「走ってきたからズボンの股下破けたりしてないかな!?」

「股下より、また待たしたことを気にせい!」


12月2日:痛いの痛いの飛んでけ


「痛いの痛いの飛んでけ」

魔法の言葉で痛いのが飛んでいきません。薬を塗ったり飲んだりして安静にしています。まして心の痛みは簡単には癒えないです。

「ラジオネームおろぽんさんよりふつおた。私が言ってもダメかな?」

憧れのアイドルにラジオで紹介された。

「痛いの痛いの飛んでけー!」

飛んだ。


12月3日:建前禁止


「本心ではない「かわいい」「かっこいい」等の褒め言葉を禁止する」

AIの発達で本音と建前の判別が容易になり、人間関係がこじれていることへの危機感から発された政策。

本音と建前の文化が根強い日本ならでは。

世界初の取り組み。

「相手のことを本当に思うのなら、成長と改善のために本音を」


12月4日:算数の問題


「Aさんはある仕事を6日で終わらせます。Bさんは4日。2人で協力すると3日で終わります」

「はい」

「3日で終わらせられるCさんとBさんが協力すると何日でしょう?」

「2日?」

「残念。BさんとCさんは仲が悪いので7日でした。AさんとCさんは?」

「次は2日?」

「2人は恋人でデートのため1日で終わらせました」


12月5日:お金と仕組み


「毎日5万円ずつ私に渡してください。毎日が難しい場合、月に100万円でも良いです。これが出来たら100万円のうち20万円はあなたに差し上げます」

こんな条件を誰が飲むと言うのだ。

「だったら自分で100万円を手にしたほうが良いと思いましたか?月100万円の売上目標を提示され月給20万円と同じですよ」


12月6日:ソースはどこから


「雪だ!」

目覚めてパジャマ姿ではしゃぐ子どもたち。

見慣れぬ光景に心を踊らせている。

「寒いから気をつけるんだよ?」

「うん!着替えてくる!」

雪国育ちの私は雪かきが面倒で雪が嫌い。

子どもたちは純粋だ。

「雪だるま作ろうよ!」

「雪合戦やりたい!」

「ソースかけて食べたい!」

ソースはどこから?


12月7日:つみたて


「明日から頑張ろう。そうしよう。今日は甘いものを食べて元気出すぞ!」

「いつも言ってない?」

「ぐさっ」

「ダイエットのはずが脂肪が増え」

「うっ」

「罪悪感も溜まっていく」

「ううっ」

「コツコツと罪を重ねて、脂肪としてリターンが返ってくる」

「ううう」

「罪を重ねる、つみたて投資のプロだね」


12月8日:チャリで来た


「チャリで来た!」

学生時代、お金がなくてどこへ行くにも自転車で駆け付けていた彼。

モットーは根性、友情、愛情。

彼が正しい、やりたいと思ったことは実現するまでやり切る根性。

大切な人には並外れた想いと行動を起こす友情、愛情。

大人になり、人に貢献する姿勢でビジネスが大成功。

「ヘリで来た!」


12月9日:不満と現状


「現状に不満があると言ってるやつほど変えようとしない」

「友だちにいます。転職したいと言うクセに転職サイトに登録しない。登録して応募したクセにドタキャンや辞退、企業からの選考連絡を無視する人」

「変える気も明確な意志もなく楽な道を選ぶよな」

「先輩は家庭に不満なのに離婚しないですよね」


12月10日:身バレ覚悟


「SNSで身元がバレないと思って喧嘩売ってんのか?こっちは身バレ覚悟で写真投稿してんだ!表出ろ!」

「◯屋××店だな」

「なに!?これだけで何故」

「絶対にバレないと思ったか?見切れてる玄米茶がヒントさ」

「なんだと!?」

「なんてな!お前に料理を提供した張本人が俺だ」

「身バレしまくってた」


12月11日:有名人に会いたくて


「有名人に会いたくてフードデリバリーサービスのバイトを始めた」

「志望動機の安直さよ。そんな簡単に会えないでしょ?」

「それがさ」

「会える?」

「クチコミで有名人とよく会えるエリアで応募したから意外と会えて」

「すげぇ!誰と会えた?」

「書道家の筆平平筆(ふでひらひらふで)!」

「だれ!」


12月12日:余裕


お金に余裕があると選択に迷う時間を減らせるメリットも生まれる。

「フォアグラと牡蠣のブリュレがオススメです」

「そちらで」

値段を見ることなくオススメを選べる余裕。

お店で一番良いものを気にせず食べられる余裕。

「全部乗せがオススメです」

「それで」

炒飯も餃子も麺に乗ったラーメンには驚いた。


12月13日:ボジョレー


結婚生活1年目。

妻との出会いはワイン会。

友人のお誘いで訪れたイベントで初めて出会い、お互いに好きなワインについて熱く語り合ったことがきっかけ。

トントン拍子でコトが進み、今に至る。

「今日はこれ飲もっか!」

仕事後2人でワインを嗜む日常。

新婚1年目。

フレッシュな妻はボジョレーニョーボー。


12月14日:またね


「またね」

また会えることを願って。

「さよなら」じゃなく「またね」。

必ずまた。

確かな未来がなくたって願えば叶うんだ。

言葉にしたら現実になるんだって。

願いを言葉に。

片思いの彼女と最後に会ったのは10年前。

引っ越しと転勤でお互い行方知れず。

地元での初詣。

お賽銭を投げ神頼み。

「翔太!?」


12月15日:きせい


「キャー!気づいたら今年も最終日になってた!」

「実家に帰ろうと思ったけど、交通制限されていて道路が混雑しているっぽい!」

「いくつになってもずっと実家で暮らしているお兄ちゃんが逆に羨ましいね」

「早く実家に帰っておせち作るつもりが……今年はお店で出来たもの買うか」

ぜんぶ、きせい。


12月16日:今年やり残したこと


「今年やり残したことがある」

「私も」

「君もか。何をやり残したんだい?」

「私は掃除。やらなきゃと思ってたのに全然手をつけられなくて。今年が終わるまでには大掃除しようかな」

「僕と似ているな」

「大掃除ってこと?」

「悪政で民衆を苦しめる王の排除をせねばと。そうだな。王掃除とでも言おうか」


12月17日:願いごと


「今年はいい男になりたいです」

5円のお賽銭でいい男になれるとでも。

願いを叶える私の身にもなってくれ。

年末年始は繁忙期。

神様は私一人。

優先順位を付けねばならぬ。

「いい女になりたいです」

またか。

「世界を平和に」

難しい。

「おもちゃが欲しい」

サンタに頼んだ。

「神様になりたい」

採用。


12月18日:でっかいイベント


「ハロウィン、クリスマス級に盛り上がる恒例イベントを作りたいんだ」

夢はでっかく。

声高らかに願望を語る彼女。語るのは自由。

性別も年齢も関係ない。

口に出すと夢が現実に近づく。

「どんなイベントをやろうと思ってるの?」

超ど級の恒例イベント、一体何を。

「世界中の人が同じ曲を歌う日を作る」


12月19日:恋人づくり


「クリスマスに向けて恋人欲しいけど出会いがなくて。マッチングアプリかな?」

「マッチングアプリ使わず彼女出来たよ」

「アプリなしすごい。どうやって?」

「居酒屋で隣の席の女性に声かけて」

「すご」

「チキン南蛮ランチのライス爆盛無料、よく頼まれるんですか?って」

「居酒屋ランチでナンパかよ」


12月20日:夢ノート


「これ何?」

「あっ」

年末大掃除で出てきたのは夢ノート。

夢を書き記し、叶ったら消していた。

叶えた夢は100を超える。

ピーマンを食べられるようになりたい。

クロールを泳げるようになりたい。

お母さんとケンカしないようになりたい。

どれも懐かしい。

数十年ぶりに開いて、夢を1つ消した。

結婚したよ。


12月21日:記念日


記念日は商機であり勝機。

”母の日”にはカーネーションが売れる。

”父の日”にはお酒が売れる。

”クリスマス”はアクセサリーやおもちゃが売れて”バレンタインデー”はチョコが売れる。

「今日は1年記念日だね!」

よくある会話。

「今日は付き合って1週間と1日記念日だね!明日は……」

正気か。


12月22日:寝言な彼女


「ダニエルとムニエルが似ている」

お昼寝中の彼女が謎の寝言を唱えている。

寝ながら3つも韻を踏むなんて天才か。ラッパーになろう。

「むにゃ……ん?何か言った?」

自分の寝言で目覚める彼女。可愛いかよ。

「いや、僕は何も」

「そっか」

「夢見てた?」

「バナナに追っかけられてた」

そんなバナナ。


12月23日:達成感を得るために


「学生時代に達成感を得たことある?」

「テニス部で優勝したことかな」

「すごい!楽勝だった?」

「いや。3年間頑張って3年目で結果が出た」

「壁を乗り越えたんだね。社会人なってからは?」

「いや、特に」

「転職してるんだっけ?」

「1、2年くらいで転々と」

「それだね。壁超えるほど続けてないからだ」


12月24日:クリスマスプレゼント


「クリスマスプレゼントは何が欲しい?」

「うーん。そうだなぁ。コーチのバッグ!」

営業としてバリバリの彼女。

仕事終わりは社会人のバスケサークルに。

元プロバスケ選手が指導してくれるそう。

何事も頑張る彼女の願いなら探すしか。

当日。

「はい!」

「何これ?」

「バスケのコーチが使ってたバッグ!」


12月25日:SNSアンケート


「私はやめるべきか。皆さんに問いたい」

SNSのアンケート機能で進退を調査。

瞬く間に票が集まっていく。

「やめるべきだ。良い結果にならないだろう」

「やるべきだ。頑張ってほしい」

「自分で決めればいい」

コメントも多数。

結果は反対多数でやることに。

クリスマス当日。

想いを寄せる人に告白した。


12月26日:モテる人


「顔めっちゃ可愛いね!」

聞き飽きた。

私より可愛い人は沢山いる。

とりあえず言えばいいと思ってそうでダメ。次。

「笑顔が素敵だよね!」

嫌な気はしない。

でも惜しい。次。

「爪がキレイで、言葉遣いも丁寧で、細かいところまで気を使える人かなって」

この人、いい。

初見で性格を褒めてくれる。合格。


12月27日:おなじ香りのするひとよ


どこか私と似ている。

生まれも育ちも違うのに”私と一緒だ”と思う人がときどき現れる。

心の動くタイミングが同じだったり。

共感のポイントが一致していたり。

好きな音楽や本、趣味が一緒だったり。

どこか私と同じ香りがする。

嗅ぎつけて引き寄せる。

これは運命なのか。

同じ香りのする人と過ごす一夜。


12月28日:よく当たる占い


「僕の来世はどうですか?」

よく当たると言われる占い師に占ってもらった。

「視えました」

「どうでしょう?」

「スポンジです」

「へ?」

「来世はスポンジです」

「スポンジ?」

「はい。スポンジです。一応、ハードスポンジになります」

「ソフトかハードかどっちでも良いです!」

どうか当たらないでくれ。


12月29日:想定外


「好きな芋けんぴは何ですか?」

想定外過ぎる。

あれ?何の会社の面接だったっけ?

そうだ。経営コンサルの会社だ。

履歴書に芋けんぴ好きと書いた覚えはない。

そもそも芋けんぴは好きではない。

え。何て答えたら正解?

ええい言っちゃえ

「青色のコンビニにあるやつです」

「合格」

通るとは思"いも"しなかった。


12月30日:未来の視えるゴーグル


「これすごいよ。一歩先の未来が見えるゴーグル」

「面白そう!」

「人生で選択した一歩先がどうなるかが分かっちゃう」

「すごい」

「この人と連絡先を交換したら次はカフェデートに誘われて、交換しなかったらしばらく会えないとかが分かる」

「貸して欲しい」

「ダメだ。貸したら足の小指怪我するらしい」


12月31日:年越し


「年越しそばは食べる?」

「ウチは毎年ギョーザだね」

「年越しギョーザ!?」

「うん。ハイボールとギョーザで年を越し続けてるね」

「初めて聞いた」

「ハイボールとギョーザの組み合わせ?」

「いやそっちじゃなくて」

「ちなみに大晦日の日中に家族で皮から1000個作る」

「大掃除どころか大散らかし」



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