ハーバード見聞録(73)

「ハーバード見聞録」のいわれ
「ハーバード見聞録」は、自衛隊退官直後の2005年から07年までの間のハーバード大学アジアセンター上級客員研究員時代に書いたものである。
「中国の核ドミノ戦略――日・米・韓の離間策」を以下、二回に分けて、紹介する。


中国の核ドミノ戦略――日・米・韓の離間策(6月4日の稿)

●北朝鮮核実験の衝撃波
2006年10月9日に初の核実験を強行した金正日の心境は、坂口安吾(今年生誕百年、権力に対する反骨で有名)の「堕落論」のようなものかもしれない――と、実験当時は思ったものだった。

「北朝鮮の安吾」は超大国アメリカと中国から「万力」のような力で圧力をかけられる中、遂に核実験を強行した。安吾の反骨は高々自身と友人・近親者くらいにしか迷惑は及ばぬが、「北朝鮮の安吾」の場合はそうはいかない。北朝鮮国民と日本を始め周辺国にも塁が及ぶ可能性が高い。

核実験の爆発は地下で行われたが、その衝撃波は遠く日本を始め、関係各国に広がった。ブッシュ政権は発足以来金総書記を「無視」し続けている。北にとって、「無視」は「無・死」に繋がる。「俺を振り向いてくれ!」と必死に叫び、瀬戸際外交を繰り返す。すると、国連決議に基づく制裁などで「万力」は更にグイグイ締まる。核実験は「北の安吾」が救済を求めて切った最後のカードかもしれない――というのが一般的な見方だった。ミサイル実験をしてもダメ、核実験をしてもダメ。次はいよいよ戦争か?

北朝鮮は遂に中国にまでも不信を顕にし、恫喝を始めたように見えた。「北京五輪も経済成長もオレには止められるぞ!」と。「『血の同盟』等とほざきながら、92年、冷戦崩壊のドサクサに韓国を承認したことは忘れていないぞ!」――と、叫んでいるようにも思われた。

日米同盟体制にとっても大衝撃波だった。日米安保体制を揺さぶった。米国はイラクに拘束され、北朝鮮の核開発を抑止できない事をあからさまにした。半世紀以上もアメリカに頼りきって、「アメリカが何とかしてくれる」と高を括っていた日本の世論は、ショックを受け、「平和憲法」の空念仏の功徳を信じ「アメリカは何でもできる、寄らばアメリカの陰」という思いが裏切られたフラストレーションを感じる日本人が増えた。狼狽した自民党政府の一部からは、核武装論が飛び出すしまつだ。驚いたライス国務長官が宥めに駆けつけた。このショックが昂じると、米国による戦後の日本占領体制延長の二本の柱である「日本国憲法と日米安保」体制のうちの「日米安保」体制に対する、日本国民の信頼が低下し、引いては憲法改正の動きが加速する。

そして、遂には日本を封じ込める「瓶のふた」が外れ、日本はアメリカの影響下から離脱する可能性も出てくる。

これは中国にとっても困る――と思うのが一般である。しかし私はそうは思わない。陸上自衛隊も含め軍隊が作戦計画を立案する時は、あるパターンの手順に従い計画を詰めていく。その手順の中には、重要な項目として「敵の可能行動」を見積もる作業がある。つまり、相対する敵が、如何なる作戦行動を取りうるか、ありとあらゆる角度から「敵の取りうる作戦行動に関するシナリオ」を描いてみる。そして、我が方の「作戦計画」では、これらの「敵の可能行動」のいずれにも最小限対応できるようにすることが必須の要件である。作戦計画立案段階で、見落とした敵の行動シナリオがあれば、その作戦計画は「失敗作」である。

私は本稿で陸上自衛隊の作戦計画立案の手法を用い、北朝鮮の核兵器開発に関し戦略的な見地から検討した、「中国の可能行動(シナリオ)」を描いて見た。

そのシナリオの一つとして、「中国の核ドミノ戦略」と命名するシナリオが私の思索の中に浮かんできた。そのシナリオを最も簡潔に要約すれば、こうだ。

〈北朝鮮の核開発は中国の暗黙の了解の下に実施されている。中国の狙いは、北朝鮮に核開発を行わせることにより韓国と日本の核武装を誘導し、日・米・韓の離間を図り、北東アジアからアメリカを追い出して、アメリカの中国包囲網を打破することである。
日本の核武装の動きを誘導するために、北朝鮮に続いて韓国の核武装を暗黙のうちに促し、次いで日本に核武装を迫り、日本国内世論を混乱に陥れ、引いては日米の離間を図る〉

以下このシナリオについての実現性を検証してみることとする。

●中国の国家目標と戦略
伊藤貫氏はその著「中国の核が世界を制す」(PHP研究所)で、中国の国家目標と戦略について次のように述べている。

中国の国家目標は、2020年代以降、「アジアの最強覇権国となり、漢民族が19世紀初頭に支配していた中華勢力圏を回復する」というものである。(中略)

中国の軍事戦略は、「アジアで最強の覇権国となり、アメリカの勢力をアジアから駆逐して、中華勢力圏を確立する」という野心的な国家目標と達成するために作られている。(中略)

中国の国家戦略は「十六文字政策」と呼ばれるもので、「軍民結合・平戦結合・以民養軍・軍品優先」の十六文字で、その意味は「中国の民間経済と軍事力強化は結合したものであり、平和な時代に次の戦争の準備を進め、民間経済の成長によって軍備拡大を養い、民間の需要よりも軍需を優先させる」というものである。(中略)

中国政府がアジアにおいて米国に優越する軍事力を獲得できるだろうと予測している時期は、2025から2030年頃である。(中略)

中国軍は、今すぐ米軍と戦争しようと考えているわけではない。「2020年までは、できるかぎり米中衝突を避ける」というのが、中国政府の「平和的台頭」戦略の基本である。中国政府指導者にとっての優先順位は、2020代に、①まず中国経済の実質的規模を世界一にする、そして、その後、②巨大な中国軍を誇示してアジア諸国に政治的・心理的な圧力をかけ、これら諸国と米国との軍事協力関係を解消させる――というものである。

中国の国家目標と戦略から判断し、中国がアジア最強の覇権国として、アメリカの勢力をアジアから駆逐するための最終的・究極の目標が日米同盟を断ち切り(日米安保条約の破棄)在日米軍を撤退させることであると思われる。

●「核ドミノ戦略」の概要(福山の仮説)
中国は、表面的にはアメリカとともに、北朝鮮の核開発を阻止することに積極的に取り組んでいるように振舞っている。しかし、中国は、水面下では確信犯的に北朝鮮の核・ミサイル開発に協力している。中国の狙いは、北朝鮮の核開発をトリガーとして、韓国、次いで日本の核武装を誘導することにより、核兵器開発をめぐるアメリカとの軋轢を作為し、日・米・韓の離間を図り、2020代を目標にアメリカを北東アジアから追い出して、アメリカの中国包囲網を打破することである。

特に、日米関係分断策としては、北朝鮮に続いて韓国の核武装を暗黙のうちに促し、日本に核武装を迫る条件・環境を造成し、日米政府間に楔を打ち込むとともに、日本国内世論の分裂と反米運動の高揚を工作し、日米関係の分断を図る。日本から米国・米軍を駆逐すれば、在日米軍基地を持たない米国は台湾有事にコミットすることが極めて困難で、中国は軍事力によらず、台湾を平和裏に統一できる。

●中国にとって北朝鮮、韓国、日本の核武装の脅威
人口13億人を抱え、広大な国土を有する中国と、北朝鮮、韓国及び日本のような国土狭隘で人口が少なく、人口密度の高い国とが核ミサイルを応酬すれば、核ミサイルの質・量をカウントしなくても、相対的に被害が甚大なのは後者の3カ国であろう。従って、中国の安全保障にとって、これら3カ国の核武装は、ヴァイタルなものではないと評価している可能性がある。

特に、日本については、①国土狭隘で人口密度が高く、核ミサイル攻撃に脆弱、②民主主義国で、中国の核の脅迫に世論が敏感かつ脆弱、③世界唯一の被爆国であり、核武装には国民的アレルギーが極めて強い――などの特徴があり、核武装の可否については国論を二分する混乱が予想される他、核武装をしても、中国とのチキンゲームには耐えられない可能性が高い。

北朝鮮の今次の核実験により、中国は、北朝鮮により「経済の安定的発展や北京オリンピックの開催」を恫喝されかねない――という懸念が生じたのではないかとの見方も有るが、現実には、今回の騒動で中国には何の影響も無かった。むしろ、北朝鮮との直接対話を拒み、手詰まり状態のアメリカにとっては、「中国頼み」に更に拍車を掛ける効果の方が顕著だった。従って、北朝鮮の核による中国に対する恫喝は、取るに足らないもののように思える。

●台湾問題との関係
中国による日・米・韓の離間策——核ドミノ戦略——が成功すれば、アメリカは北東アジアの戦略基盤を失い、台湾有事に対する軍事的介入は極めて困難になるだろう。中国による「台湾開放」は、謂わば「熟柿状態」になり、殆ど直接軍事介入しなくても、台湾は中国のものとなるだろう。

北東アジア(日本と韓国)に米国が軍事基盤を有する中で、中国が台湾に直接軍事作戦を行えば、台湾との交戦で相当な損害も覚悟しなければならず、米国の介入を招く可能性が高い。中国は、戦争による経済損失、国際社会に対する信用の失墜なども覚悟しなければならない。このように、台湾侵攻は中国にとって高いコストとリスクを伴うのは必至である。このことを考えれば、中国にとって「核ドミノ戦略」の有益性が理解できるだろう。

●韓国の核武装の可能性と米韓関係
北朝鮮の核開発などを踏まえ、韓国は核開発に踏み切るだろうか。この問題について考えてみたい。

・韓国による核兵器開発の前歴
私が、在韓国防衛駐在官時代(1990~93年)、在韓米軍のある情報将校が私に「We are watching Korea every minute.(アメリカは、韓国を分刻みで見張っているよ) 」と打ち明けてくれた。

この言葉を聴いた瞬間、私は米韓軍事関係の本質が分かったような気がした。当然と言えば当然だ。韓国がやろうとすること全てがアメリカの考え方と一致するはずが無い。アメリカは北朝鮮のみならず韓国についても注意深く監視しているのだ。さらに言えば、東京にいるCIA関係者は「We are watching Korea every minute.」と言うに違いない。

実は、1970年代、韓国は朴政権下で核兵器の開発を実施したことがある。その事実をアメリカの情報機関が探知した。アメリカ側は、「核兵器開発を中止しなければ、在韓米軍を撤退する」と脅迫し、韓国に核兵器開発を断念させたと言う。

朴大統領としては、万が一アメリカに見放されても国防を全うできる核兵器の開発に食指を動かした訳である。当時は、南北の軍事力は、圧倒的に北が優位で、それを支援する中ソのうち、ソ連の力はアメリカに拮抗するほどであった。そのような朝鮮半島情勢であるからこそ、韓国・朴政権にとって在韓米軍の撤退は致命的であり、米国による「核兵器開発中止」の要求を断れなかったのであろう。何れにせよ、韓国には、核兵器開発に着手した〝前歴〟がある。韓国は既に、核開発のノウハウを手に入れていることは疑いなかろう。

・韓国が核武装する狙い
朴大統領が核兵器開発を進めようとした1970年代に比べ、南北朝鮮間の相対的な戦力は韓国に有利になりつつある。また、中国は、中韓国交正常化(1992年)以降両国間の交流が進むとともに、中国は経済発展のため当面の周辺地域(特に朝鮮半島)の安定を指向しており、北朝鮮の南侵を許容しないと見られる。このように、韓国にとっては、北朝鮮の南侵を阻止するために、核武装する必要性は従来よりも低下したと見るべきである。

韓国の核武装の狙いは、①北朝鮮との核バランスの確保――将来統一時の主導権確保、②統一時の中国・米国・日本・ロシアからの一定の独立体制の確保、などが考えられる。

現在、中韓間は蜜月のようにも見えるが、最近の古代国家・高句麗をめぐる歴史論争などを見れば、韓国が中国に対して根深い不信感を持っていることは疑いない。

因みに、中国は1964年に最初の原爆実験に成功したが、当時中国政府の外交部長の陳毅は「例え100年かかっても、ズボンをはかなくても核兵器を作って見せる」と断言したと言う。

伊藤貫氏はその著『中国の核が世界を制す』(PHP研究所)で、中国が核開発した理由を次のように述べている。

中国の軍人と政治学者は、中国がソ連政府の反対を押し切って自主的な核兵器を開発した理由として以下の四つを挙げてきた。

①自主核抑止力なくして、中国の自主独立はありえない。現在の国際社会で自主的な核抑止力を持たない国は、真の独立国として機能しない。

②中国に提供されている「ソ連の『核の傘』」というコンセプトは実際には機能しないものである。

③中国が、限られた予算を使って米ソの軍事力に対抗する国防力を得るためには、通常兵器に投資するよりも核兵器に投資したほうが、遥かに高い投資効果が得られる。

①    現在の国際社会で真の発言力を持っているのは、核武装国だけである。

飛躍的に経済発展しつつある韓国も、中国が核開発に踏み切った当時に抱いた動機と似たような野望を潜在的に持っているのは確かだろう。

・韓国の核武装を促進する新たな情勢
冷戦構造崩壊後の新たな情勢に対応するため、米国は世界規模のトランスフォーメーションを進めている。その一環として、在韓米軍については、03年6月の「未来の米韓同盟政策構想(Future of the Alliance Policy Initiative)第2回会議において、漢江以南への再配置を2段階で進めることが合意された他、第10回会議(05年7月)では、08年までに在韓米軍司令部・米韓連合軍司令部のあるソウル中心部の龍山基地をソウル南方の平澤(ピョンテク)に下げることで合意した。更に、05年10月の米韓安保協議においては、08年末までに3段階に分けて、在韓米軍1万2500人の削減も合意された。

このような米軍の退潮傾向の中、06年10月の米韓安保協議においては、韓国軍に対する戦時の作戦等政権を09年10月15日から12年3月15日の間に米国から韓国に移管することで合意した。

このような、在韓米軍の退潮傾向は、必然的に韓国軍の独立を促すことになる。日米安保条約に基づき駐留する在日米軍が日本の再軍備を阻止する「瓶のふた」になっているのと同様に、在韓米軍の存在が韓国の軍事的ドクトリン・編成・装備などに一定の「歯止め」の効果をもたらしてきた。特に、戦略的に周辺諸国に影響の大きい「核兵器とミサイル」の開発は、事実上米国の統制が実効性を持っていた。

しかし、上記のような米韓安保関係の退潮により、今後米国による統制機能は実効性を失っていくと見るのが妥当であろう。朴政権時代には有効であった「在韓米軍の撤退」という恫喝は最早韓国には通用しなくなるだろう。

核兵器の運搬手段となるミサイル開発の分野では、既に韓国は著しい進歩を遂げつつある。10月24日付の朝日新聞によれば、韓国軍は射程約1千キロの国産巡航ミサイルの開発を進め、このほど試射に成功したと報じた。これが事実なら、韓国軍は東京が射程圏に入る巡航ミサイルを手に入れたことになる。同記事によれば、韓国軍は射程500キロの巡航ミサイル「天竜」の開発を進めており、近く配備される見通しとされる。更に、射程1500キロの巡航ミサイルも研究中という。

米国による韓国のミサイル開発の抑制はこれまで行われており、1979年の「誘導弾技術の移転に関わる対米保証書間」で、「『アメリカは、韓国にミサイル技術の移転・協力を行う』代わりに『韓国は、射程180キロ以上のロケット及びミサイルの開発・保有をしない』」ことが合意されていた。

これら巡航ミサイルの開発は、「アメリカとの書簡・取り決めで開発・保有が禁止されたのは弾道ミサイルであり、巡航ミサイルについてはこれに該当しない」という韓国側の主張に基づくものである。

このような最近の韓国の動向を見れば、米国による韓国に対する「核兵器とミサイル」の開発抑制能力は次第に実効性を失いつつあるように見える。

・韓国の核武装の兆候
韓国の核武装の兆候は、今のところは明らかなものはない。間接的な兆候として、核の運搬手段として上記の巡航ミサイルの積極的な開発が注目される。

更にもう一つ注目されるのは、韓国のPSI(大量破壊兵器の拡散防止構想)不参加である。不参加の公式の理由は、「北朝鮮を刺激したくない」と言うものだが、深読みすれば、「自らの核武装準備のために、PSIは阻害要因になる」――と考えているのではないだろうか。

・韓国の核武装と米韓関係
韓国の核武装は米国としては絶対許容できないことであろう。それは、日本の核武装を誘発する「核ドミノ」を確実にする可能性が高いからである。
韓国の核武装は、アメリカの世界に対する威信・統制力を失墜した事を明示することにも繋がる。

これにより、米韓関係は一挙に悪化するだろう。その代わり、中韓関係の強化がこれに代わることになろう。こうして、朝鮮半島から米国・米軍が排除され、半島は中国の影響下に入ることになる。

米国は、国連決議などで、制裁を発動するだろうが、中国の協力が得られない限り制裁に効き目が無いのはこれまでの北朝鮮に対する制裁の有り様で既に実証済みだ。中国の西の正面に広がるインド・パキスタンに対する米国のダブルスタンダードに基づく対応を見る時、韓国に対する制裁は国際社会から白々しく受け止められる可能性がある。

また米国が、韓国に対する制裁を声高に叫べば叫ぶ程、米韓間の亀裂はいよいよ決定的となり、中国の「核ドミノ戦略」が意図する米韓両国の分断策が成功することになる。

●日本の核武装の可能性と日米関係
韓国が核武装に踏み切れば、日本は北朝鮮の核開発以上の脅威を感じることなり、文字通り「核ドミノ」を引き起こす可能性が高まる。即ち、日本国政府は南北朝鮮の核攻撃から我が国の安全を保障する為に、深刻な対応を余儀なくされるであろう。従来の「アメリカの核の傘」に依存するという方策もあるが、南北両朝鮮の核武装を阻止できなかったアメリカに対する信頼は低下し、自らの核武装という選択肢に傾く可能性が高くなると思われる。

一方、半世紀以上続いた対米依存、平和憲法という虚構の安全観の蔓延及び世界唯一の被爆体験による核アレルギーなどにより育まれた、現実世界から逃避し続ける国民的性も世論の一半を占めている。従って、世論は「核兵器開発反対VS賛成」に二分し、特に中国の工作による反対派(左翼勢力)による激しい反核運動を呼び起こし、果ては、左翼本来の反米運動にも点火し、日本の戦後体制を揺さぶる程までに不安定化する可能性が高い。

また、丁度この時期は、我が国の憲法改正の時期に重なる可能性もある。「核兵器開発」と「憲法改正」の二点セットによる相乗効果は、国内体制を最も不安定化させる可能性が高い。これら左翼勢力を中心とした運動は、第一・二次安保闘争以上のものになる可能性がある。最悪の場合は、選挙などを通じ、反核・反米派(左翼勢力)が勝利し、日米安保条約が破棄される事態も考えられる。

アメリカの極東戦略にとって、選挙(=中国の工作)で日本を失うことの痛手は計り知れず、中国包囲網の最も重要な一角が崩れることになる。

●結び
このような仮説とその分析を、アラーミングだという向きもいるだろうが、戦略を考える際は、最悪のシナリオを想定しこれに対処する方策を考えておくのが常道である。そのような戦略的な思考が出来なかった歴史が改めて思い出される。

日本は満州国問題で国際連盟から脱退し、日独防共協定を結んだところ、その後独ソは不可侵条約を締結した。「想定外」の成り行きに、平沼内閣は「欧州は複雑怪奇」との声明で辞職した訳である。

最近、中国の動向を見ていると、4000年の歴史に裏打ちされた中国の「深謀遠慮」は、アメリカの高々300年足らずの歴史で育まれた「COSPIRACY」では到底想像も及ばない程の戦略を駆使しているのではないかという思いを強くしつつある。

勿論、この仮説が当たらない事を願うものである。ドミノの始まりは北朝鮮の核武装である。北東アジアに於ける「核ドミノ」を引き起こさないためには、米国がイラク・アフガン問題に早急に決着を付け、極東に重点をシフトし、強いイニシアティブで、中国をも動かし、北朝鮮の核武装を絶対に阻止することが不可欠の要件である。

【後記】「中国の核ドミノ戦略」は、その後も弛むことなく着々と進展しつつある。筆者の描くようなシナリオは寡聞である。

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