卵を落としても、怒られない。
「あっ」と言える間もなく、卵は割れた。
夕ご飯の準備中、冷蔵庫から取り出してすぐに、卵を落としてしまった。
頭の中をよぎったのは、「怒られる」。
だけど、怒られなかった。
そこは、自分の家じゃなくて、おばちゃんちだった。
お母さんだったら怒るのに。
「なんで怒らないの?」っておばちゃんに聞いたら
「だって手伝おうとしてくれたんでしょう。ありがとう。」と言ってくれた。
そんな風に考えてくれるなんて驚きだった。
いま思い出してもちょっと目がうるむ。
当時は、もしかして、泣いたかもしれない。
うん、怒られてないけど、泣いた気がする。
母親は仕事で忙しいのに加えて、定職につかない父への鬱憤がたまっていたのだろう。
口調はいつもカリカリしていて、ちょっとのことでも怒っていた。
だから、卵を割ったら絶対怒られると思った。
なのに、そうじゃなかった。
そうじゃないことを教えてくれた。
もし結果がともなわないものでも、自分の思い通りにいかないものでも、
相手がしてくれようとしたこと、自分へ想いをはせてくれたこと、に感謝したい。
卵じゃなくて、私のことを見てくれてありがとう。
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