なぜグッドデザイン賞を受賞した一級建築士が中小企業診断士の道を選んだか?
◯今までやってきたこと
私は大学卒業後、建築デザイン会社に就職し、店舗やクリニック等の空間デザインを主に手掛けてきました。
日本橋のイルマン堂という店舗を手掛けさせていただいた際にはグッドデザイン賞や、
日本空間デザイン賞で銀賞を受賞させていただいたり、
商店建築やGAjapanという著名建築雑誌に掲載させていただいたりしました。
「会話NGの静寂な空間を楽しむ喫茶店」というコンセプトが受け、休日には外までお客さんが並んでいたり、また櫻井翔さんの番組等テレビでも紹介していただけるような人気店になりました。
こういった内容をご紹介すると、「なぜわざわざ中小企業診断士の道を選んだの?」「そのまま建築を続けていれば良いじゃん」と言われる事も多いですが、
この道を選んだのは色々と悩みながら、やりたい事を選択してきた結果なんです。
今日はそれついて書いていこうと思います。
◯「物事を変えるには良くも悪くも、『金』である」と気がついた
前職で、半世紀以上地域の人に愛されてきた老舗のお店の改装をデザインさせていただいたことがあります。
その歴史も背負うことになるため、当時非常に力を入れてデザイン検討をしました。
大部分は昔ながらの趣きを残しながら少しだけ新しい要素を加えるという、古き良き既存の内装にリスペクトを置いたデザインにしました。
完成後にSNSで反応を見てみると、そのお店を長く愛していたお客さんにも受け入れられていたようで、充足感を感じました。
しかし、ある事をきっかけにそのお店は半年くらいで呆気なく閉店してしまいました。
どうやら土地とお金の部分で色々とあったようでした。
「良くも悪くも、『金』である」
「お金の流れをデザインしなければ、物事を変えること、歴史を守ることはできない。」
そう感じた瞬間でした。
◯建築だけでは問題を解決できない。
それ以降、経営面からアドバイスできるようにならなくては、と感じていました。
クライアントである店舗のオーナーさんとお話する機会も多くあったので、
それとなく経営面のことについてアドバイスを試みたことがあったのですが、全くうまくいきませんでした。
当然です。
クライアントさんは自分に空間のデザインを求めているのであって、
経営のことだったら自分の方が考えてるよ。イチ設計者であるあなたが何をいってるの?という感じだったと思います。
それにこのときの自分は経営のことを何も知りませんでした。
今思えば何も有効なアドバイスはできていなかったと感じます。
しかし、そういった経験をする中で、
「自分は建築の設計をやりたいのではなくて、経営者の事業の成功を支援することをしたいのだ」
「その経営戦略を支援したいのだ」
という自分の感情に気づき始めました。
経営者にとって、建築は事業の成功のための「手段」の1つでしかありません。
自分は建築という手段を超えて、その本質。もっと上流から支援したい、と思うようになっていったのです。
◯経営戦略を支援するには、経営戦略の知識が必要
そして当たり前とも言える事に気が付きました。
建物は建築士の知識やノウハウがなければ設計することはできません。
病気の治療や手術も医者でなければできません。
経営戦略も同様で、専門の知識やノウハウがなければ効果的な支援はできない、ということです。
じゃあ、その専門の知識やノウハウを身につけるには?
と考えていきついたのが中小企業診断士でした。
中小企業診断士は経産省が認定する経営コンサルタントの国家資格で、総合合格率4%という難関資格の一つです。
経営理論、財務会計、運営管理、経済学、情報システム、法務、中小企業政策
といった、経営に必要な知識を一通り網羅的にインプットできます。
また、企業の事例を元に戦略提案を行う実践的な2次試験があったり、
実際の企業にチームで伺って話を聞きコンサルティングを行う研修(実務補修)を15日間行ったりします。
まさに僕にピッタリな資格でした。
元々の専門とまったく畑違いな僕にとっては、一級建築士を取得する以上にとても苦労しましたが、
なんとか必死に勉強し合格することができました。
このときに、『事業者に寄り添う』という経営コンサルタントとしてあるべき心構えを当時通っていた学校から学んだのもとても良かったと思います。
(「自分のやりたいこと」を押し付けようなコンサルタントも中々多いなと感じるので。。)
◯お金の流れをデザインし、大切なものを守りたい。
そんなこんなで中小企業診断士を取得してからは色々なご縁に恵まれて、
100年の歴史がある企業の新規事業開発を支援したり、
500年続くお寺のロゴをブランディングの観点からデザインさせてもらったりしております。
そんな中で
「あ、自分は歴史・文化といった大切なものを背負っている事業者さんを、その本質(経営の目線)から力になることがしたいんだな」
と感じつつあります。
世の中は急速に変化していて、100年以上続いている会社も
1000年以上日本人が伝えてきた文化も
実に呆気なく消えてしまう世の中だなと感じます。
それに抵抗したい。
企業にとって「お金の流れ」とは、人間でいう「血の巡り」のようなもので、止まれば死を意味します。
血の巡りを活性化させて、日本の中小企業を健康な状態にしていきたい。
そしてそれに付随する価値ある歴史や文化も、自分の次の世代に繋いでいきたい。
デザインをやってきた自分ならではの知見も活かして、
事業をデザインし、お金の流れをデザインする。
そういう「経営のデザイン」を事業者に寄り添いながら、これからもやっていきたいと思っています。
◯執筆者について
もともとグッドデザイン賞等を受賞した一級建築士・デザイナーだったのですが、ゼロから経営学を勉強し、中小企業診断士(経営コンサルタントの国家資格)を取得。
グラフィックデザイナーである妻と共にデザインに強い経営支援事務所「ふくろう経営デザイン室」を主宰しており、中小企業へ【戦略策定|新規事業開発|ブランディング|デザイン経営|販促ツールのデザイン制作】をサポートしております。
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