バーチャルマーケット3の思い出─空間構成について
バーチャル空間上展示即売会「バーチャルマーケット3」が9/30で終わりましたね。
普段、VRChatはひとりでワールド黙々と巡っている僕は今回も自分のインスタンスに閉じこもって黙々と回っていましたが、非常に楽しかったです。黙々と回っていると、より一層ワールドの空間構成などに目がいきます。
そのあたりはいろいろ議論があったようですが、ロジカルに組み立てられていることが明かされたりと、ちゃんと思想が持ってつくられたことが表明されています。
こういうワールドがつくられるのはとても素晴らしいことなので、どんどん見たい。会期中に見て感じたことをTwitterに放り投げていたので、一旦まとめてみる。
「ネオ渋谷」─まさに渋谷のアナザーワールド
バーチャル建築家の番匠カンナさんがメインモデラー務めた「ネオ渋谷」はさすがにスケール感とか空間構成で興味深いことが多かった。
「渋谷」はまさにその地名通り、すり鉢状の「谷」の地形にある街なのだけど、普段グラウンドレベルで街を見ていると、そんなことはあまり感じませんよね。駅のプラットフォームからスクランブル交差点が見えるわけでもないし、意外と街の構造は隠されている。
「ネオ渋谷」に入ると、最初に出るのは2階?レベルの高さ。巨大なハチ公像を中心に円形状の広場が現れる。つまり地上を見下ろすことになる。結果として、ここでは渋谷の「深さ」を垣間見ることができる。
まさに渓谷を歩くような体験が味わえることができる。
このあたり、渋谷の歴史に思いを馳せるなら『アースダイバー』などを合わせて読んでみると良いかもしれない。
ある種、原理的な構造が取り出されたからこそ渋谷の性質が強調されることになったかもしれない。そこにシェーダーなどで彩られた近未来的な風景はまさにアナザーワールドと呼べると思う。
「ネオ渋谷」─アンビルトを(バーチャル)ビルトする
さて、「ネオ渋谷」において「谷」らしさを強調する要因のひとつとなった立体的なペデストリアンデッキ的空間。
2003年に渋谷区が出した「渋谷駅周辺ガイドプラン21」には似たような構想が描かれている。
この計画では「Q-FRONT」あたりまでデッキを巡らせて空中のネットワークを構成することが意図されている。これはハチ公広場の景観を崩さないために考案されたものらしい。
この計画はみなさんがよく知るように実現されていない。しかし、2007年「渋谷駅中心地区まちづくりガイドライン2007」、2010年「渋谷駅中心地区まちづくりガイドライン2010」、「渋谷駅中心地区基盤整備方針」といった現在の渋谷ストリームなどの開発に繋がり、ここに描かれた構想の一部は現在の渋谷の変貌に繋がっている。
つまり、この空中ネットワークの空間はある時点で分岐した「実現されなかったもうひとつの渋谷」。「ネオ渋谷」は結果として、渋谷のアンビルトをビルトしてしまっていると言えるのかもしれない。
現実とバーチャル空間が混在している感じが面白いね。
もうひとつ。
「ネオ渋谷」にはかつて東急の上から出発し、渋谷の上空を行き来していたケーブルカー「ひばり号」が再現されている。
当然のことながら「ひばり号」はもうないわけだけど、かつてそこから見えたものを想像すると面白い。
つまりネオ渋谷にはワールドそれ自身と「あったかもしれない渋谷」と「かつてあった渋谷」が重ね合わされている。
さらにもうひとつ。
最初に出る広場にはデカいハチ公が置かれている。つまり「ハチ公広場」がメインの場所として選択されているのも面白いなと思った。
建築家の内藤廣氏によれば日本ではいわゆる「広場」と呼ばれるものはほとんど存在しておらず、例外的に「広場」として成立しているのが渋谷のハチ公広場と新橋のSL広場だけらしい。
そうした数少ない「広場」が選択されるのは場所の力なのか。
また、『新建築』2019年7月号の論考ではハチ公の持つ「どこにもない特異点」としての力に触れている。バーチャル空間の表現のひとつとしてハチ公が選択されたのは興味深い(位置関係的にハチ公広場になるのは必然なのかもしれませんが…)。
バーチャル空間─ショッピングモール?
主催者の動く城のフィオ氏のnoteにはバーチャルマーケットのワールドが円周状になっているものが多いのは、オクルージョンカリング、つまり負荷低減のためと書かれている。
一方で、参加者のツイートで数あるワールドの中でドーナツ型積層プランが一番回りやすかったという発言も見た。
自分が覚えている中でいえば、仮想工廠、ネオ渋谷、欠番街がそれに該当するのだろう。この空間を体験して思ったのは、これってショッピングモールの基本的なプランニング、1核、2核型の空間構成に近いよなということ。
ショッピングモールはメインの施設を「核」とした構成で成り立っていることが多く、それらは「1核1モール型」、「2核1モール型」なんて呼ばれ方をしている。
たとえば、イオンは「2核1モール型」を掲げている。なぜこういう呼び方をするのかというと、それはおそらく空間構成の認識のしやすさからだろう。そして核自体やその近くは吹き抜け状の空間など分かりやすい空間構成となっていることが多い。多くの店舗が入るショッピングモールでは客が今どこにいるかを把握するために重要な操作だろう。このあたりは多く研究されている(なんか読んであとで追記しよう)。
ここでショッピングモールを挙げているのは別にマイナスな意味ではない。こうしたショッピングモールの「複雑なプログラムを持ちながら客へのホスピタリティが高い」という空間構成は評価され、ほかのプログラムの建築でも取り入れられようとしている。たとえば、2018年に完成した「長崎県庁舎」において設計者は『新建築』の解説でショッピングモールに触れている。
バーチャル空間がこうした空間構成と類似するのは興味深い。
これもまた良い悪いという話ではなく、なんでもできると思われてる(実際にはそうではないのだけれど)バーチャル空間において回遊性(負荷などの他の要因もあるが)を求めると帰結として現実空間に類似したようなプランになっていく。それはまだ人間が現実空間の磁場に引っ張られているということで、現実と違って移動の前提すら変えうるバーチャル空間ではどのような空間構成の文法が出てくるのかこれから楽しみだと感じた。
狭い空間から広い空間へ─ゲーム的空間構成
あと細かい点だが、エントランスの地下鉄から入るにせよ、欠番街のエレベーター(?)から入るにせよ、あらゆるワールドで「狭い空間→広い空間」で期待度が盛り上げられてるのは極めてお手本的な空間表現だと感じた。
こうしたシークエンス構成はたとえば「ゼルダの伝説」のような作品では頻出するもので、建築を専攻し、ゲームの世界で活動するクリストファー・トッテンの『ゲームデザイナーのための空間設計』でも登場する手法だ。
また、この本ではこうした手法は実際の建築でも試みられているとし、建築家チャールズムーアとリンドン・ドンリンの書籍『記憶に残る場所』を紹介している。
おそらくまたバーチャル空間の設計はゲーム世界の設計とは異なる部分も多く存在するだろう。そうなると、また新しい知見が生まれてくるだろう。
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